逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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34話 ルシオンの鬼

 最初の練習日が幕を閉じた。

 

 下校時刻になってPCルームを出たあとで、俺たちは帰宅した。

 

 ほんのりと薄暗くなってきていたからふたりを送ろうと思ったが、赤城さんには断られてしまったので、俺は翠だけ送ってから家に戻った。

 

 

 

 帰ってシャワーを浴びた俺は、そのときになって初めてきちんと疲れを自覚した。

 

 ソーシャル・バッテリーの削れ具合が、なかなかひどい。

 

 あらためて考えてみれば当たり前のことだった。

 

 朝の騒動に続いて、放課後の遅くまで赤城さんと同室でゲームをしたとなると、それはなかなかの疲弊具合のはずだ。

 

 とくにこの先はずっとこのルーチンなのだから、フリーの時間はよく休むべきだろう。

 

 

 

 風呂に浸かりながら、俺はこれからのスケジュールについて考えていた。

 

 電甲杯の校内予選。

 

 本日発表された予選参加チームは、学内だけで40チームを数える。つまり参加人数は120人で、これは学校全体のゲーマー特待枠が200名弱であることを考えると、かなりの人数が参加していることになる。

 

 電甲杯本戦の出場枠は5チームだから、5/40、つまり上位12.5パーセントの成績を残されなければならない。

 

 

 

 一般的には高い壁であるとみなされそうだが、赤城さんはそうは思っていないようだった。

 

 

 

「ひやかしってわけじゃないけどさ、記念参加みたいなノリのひとも多いんだよね。去年もそんな感じだったし」

 

 

 

 解散後、三人で歩きながら赤城さんは言っていた。

 

 事情に明るくない俺と翠は、彼女の論に耳を傾けるほかなかった。

 

 

 

「まあ、電甲杯ってお祭り的な側面も大きい大会だからねー。なかでもルシオンはやっぱ注目度が違うし、みんなちょっとはプレイしたことあるから、とりあえず仲いい同士で出てみて、上振れて本戦に出られたら、メディア露出とかもあって最高~! みたいな。だから、そもそもFPS関係ない他ゲー専門のひとたちだけのチームとかも多いし」

 

 

 

 赤城さんからすれば、そういう外野のような人間たちには絶対に負けたくないのだろう。

 

 その心意気は買いたいが、少々前のめりすぎるようにみえなくもない。

 

 

 

「あたし、昼休みに全チームのメンバーを確認したんだけど、要注意って言えるのはせいぜい五チームくらいかな。〈オートナイツ〉のプロだけで編成してるチームとか、まだ頭角をあらわしてないけど最近ルシオンに移行してきたFPS勢とか。あと、まあほぼまちがいなく予選はクリアするだろうけど、se1enのところとかね」

 

 

 

 se1en——東堂聖人くんのチームは、俺も気になって調べていた。

 

 彼はどうやら同じクラスにいるFPS勢と組むことにしたようだった。軽く調べたらチームメイトの詳細が出てきたが、趣味として遊んでいるルシオンでも相当の実力らしく、全員が最高ランクの〈バロン〉に達成しているようだ。

 

 まちがいなく、強敵となるだろう。

 

 

 

「わたしが足を引っ張らないか心配」

 

 

 

 翠のつぶやきに、赤城さんはそれまでの仏頂面ともいえそうな表情を崩して、笑顔で話しかけた。

 

 

 

「だいじょぶだいじょぶ! てか相戸サン、めっっちゃ飲みこみ早いから、予選までにはかなりいいとこいくなって思ったよ、まじ!」

 

「それは本当にそうだ。わかってはいたつもりだったが、翠のゲーム適応力は相当のものだ。これならもっとはやく誘えばよかったよ」

 

 

 

 実際、それはリップサービスではない。ああいったアクション型の対戦ゲームにおいては、なによりもまず焦らないというのが基本となるが、翠はどのような状況でもけして焦ることがない。

 

 理解力もひと一倍だから、たった一日の練習でも仕様についてはひと通り理解してもらえた。あとは、練習を重ねていくうちに少しでもダメージを取ってもらえるようになれば、俺としては言うことがない。

 

 

 

 言うことがないといえば、赤城さんのIGLにも目をみはるものがあった。さすがQGで長らくリーダーを務めてきただけあって、彼女は戦局の読みも指示出しも、どちらも一流だった。

 

 

 

 そう、だから、残る問題は――俺だろう。

 

 前線を張りながらオーダーも考える、もっとも忙しい役回りの赤城さんをサポートしつつ、戦闘で着実な戦果を挙げるポジション。

 

 勝利のために必要な要素——DダメージPパーSセカンドの役回り——チームの火力は、俺の担当となる。

 

 そして現状の俺には、求められるだけの仕事ができていないように思えた。

 

 

 

 本日のプレイがどうだったかといえば、客観的にはそこまで悪くなかったといえるだろう。赤城さんが奇襲にあって落ちてしまい、翠もなすすべなくやられたあとで、人数差をひっくり返すような逆転をしたマッチもあった。

 

 

 

「……すごい。クマ、三人とも倒した」

 

「いいんちょくん、やるうっ! てか、今のまじすごくない? めっちゃ冷静、ってかシンプルに追いエイムやばかったー!」

 

 

 

 ふたりはそう褒めてくれたが――肝心の俺は、あまり喜べていなかった。

 

 今の敵は、たいしたことがない。電甲杯の相手は、もっとずっと強いはずだ。かりに普通のマスターランク帯に潜ったとしても、比べ物にならないほどに。

 

 あの程度では足りない。

 

 もっと、抜本的に戦い方を見直さなければ。

 

 

 

 だから俺がやるべきは、自主トレーニングだ。

 

 勝つためにはなにが必要か。先を見据えたうえでやるべきことは、明瞭なようだった。

 

 

 

「よし……」

 

 

 

 風呂から出た俺は、気合いを入れると、ルシオンのプレイを開始した。

 

 きょうは、すでに何時間もプレイしている。

 

 それでも、俺には億劫な気持ちはほとんどなかった。むしろ新しいプレイスタイルが試せて、わくわくしているくらいだった。

 

 

 

 俺はルシオンが心の底から好きで、気絶するまでだってプレイできる。

 

 熱意ではだれにも負けていないつもりだ。あの赤城さんにさえも。

 

 

 

「うおおおおっ」

 

 

 

 かくして、俺はルシオンの鬼となった。

 

 来たる校内予選のために、睡眠時間をぎりぎりまで削ってルシオンの練習をすることを誓った。

 

 自主練に熱中する俺は、そもそもバッテリーとか関係なく、人間には体力が必要だということを忘れていた。

 

 

 

 寝る間も惜しんでゲームをした俺が次の日に学校でどれだけ苦労したかは、ことさらに明かす必要もないことだろう。

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