逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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35話 さらば青春の闇Ⅰ

「うあぁーーーっ! 今の負け方、やっちゃったぁー!」

 

 

 

 赤城さんはマウスを放ると、机にざーっと突っ伏した。

 

 

 

「あたしのアホ! ばか! ヌーブ! なんで肝心なときにリロードできてないんだよ~! 弾さえ出れば最後よゆーで勝ってたじゃん~~~ばか~~~~!!!」

 

 

 

 うがぁぁとひとしきり騒ぐ赤城さんを、俺と翠は黙ってみつめていた。

 

 いつもの放課後の練習中だ。

 

 こうした光景は、あまりめずらしくなかった。

 

 赤城さんは自分のミスで負けたと判断したとき、ひとしきり自分を責める。自分の頭をぽかぽかと叩き、その場で悶えるのだ。

 

 

 

「もぉほんとやだこのバカな頭! ひとつのことに集中するとほかのこと忘れんだもん! ロボトミー手術でもしよっかな⁉」

 

 

 

 どうやらむずかしい言葉を知っているようだ。

 

 

 

「人格が変わるからやめたほうがいい」

 

 

 

 と、冷静につっこむ翠。

 

 

 

「え、そうなの?」

 

「そう。けして頭がよくなる手術ではない」

 

「なら手術はやめる……でも悔しいー! 勝てるやつ落とすのがいっちゃんやだ! あー、自分に腹立つー!」

 

 

 

 今の対戦の結果は、二位だった。

 

 惜しくもチャンピオンは逃したかたちだ。

 

 俺もプレイしていたから、敗北の直接的な原因が赤城さんにはないことがわかっている。赤城さんはリロードミスを悔いているが、それを言うならその前にダウンして加勢できなかった俺が悪いのだ。

 

 

 

「それよりも、今の試合のフィードバックが欲しい」

 

「あー……そね、フィードバックね。んー、そだなぁー」

 

 

 

 翠の成長のため、プレイのよかったところ悪かったところは、忌憚なく伝えるということになっている。

 

 スッと気持ちを切り替えると、赤城さんはリザルト画面をみた。

 

 

 

「べつに、ミスらしいミスはなかったと思うな。相戸サンさ、最終ラウンドで言われたとおり、上空に箒で逃げてくれたでしょ?」

 

「そう。撃ち合いには参加しなかった」

 

「チェリーはそれでいーんだよね。とりま自分が上に逃げて順位稼いでおいて、最後に上からすとーんって落ちてきて、状況わかってない相手の裏から撃つみたいなの、最終局面だとよくあるから。実際できてたし、あれでだいじょぶ!」

 

「最後、結局敵を倒せていなくても?」

 

「そ。いや、てかあれ、あたしのミスだかんね。最後のひとりフルヘルスだったの、あたしがリロード忘れてザコ死したからだから。あーもう、ばかばか!」

 

 

 

 ふたたび容赦なく自分を叩く赤城さんに、俺は一抹の不安を覚えた。

 

 ゲームにまじめなのは大変けっこうだが、これも自傷癖の一種といえるのだろうか。やめさせるためにも、俺も質問しておく。

 

 

 

「俺のほうはどうだったかな、赤城さん」

 

「いいんちょくんはー……んーとねー……」

 

 

 

 俺には、俺の問題がなんとなくわかっていた。が、たしかめる意味でもたずねておくのは大切だ。

 

 

 

「なんだろうなぁ。基本めっちゃうまいんだけど……しいていうなら、ちょっと丁寧すぎ?」

 

 

 

 こちらの反応をさぐるような目つきで、赤城さんは言った。

 

 

 

「や、基本的には丁寧寄りの立ち回りで間違いないとは思うんだけどさ。とくに大会って順位ポイントが大きいから、チャンピオン狙うよりも生存意識したほうがいい局面も多いし。でも組んでいる感じ、ちょっと消極的に感じる部分が多いかも」

 

「ふむふむ」

 

「たとえばさ、4ラウンド目のとき、バダスの建物から出ようってタイミング覚えてる? あたしがスキル吐いて右のパーティ詰めようって提案したとき、いいんちょくんワンテンポ遅れたじゃん? あれ、あたしのコールが突然すぎたのもあったけど、状況的にはありえる選択肢だったから、いつでもフィールドをがめつく取る意識があったら、普通にラグなくやれたとは思うんだよね」

 

 

 

 なるほど。かなり参考になる意見だ。

 

 忘れないようメモ帳に書いていく俺に、赤城さんは「まじめか!」と笑った。

 

 

 

「てか、あたしがいいんちょくんにフィードバックって変だよ。どっちが正解とかじゃなくて、たんにどっちに合わせるかってだけの話だと思うし。もうちょっとアグレッシブめのほうがあたしがラクだから、そういう意識でやってもらえたら助かるかもーってだけ。おけ? じゃ、もう一本!」

 

 

 

 運動部のような言い方で次のマッチに潜る赤城さんに、俺と翠はついていった。

 

 

 

 

 

 猛練習の日々が過ぎ去っていった。

 

 予選が開始するまでの一週間、俺はあらんかぎりの体力を使い、すべてをルシオンに捧げていた。

 

 放課後は、学校の門が閉まるまでチーム練。赤城さんが配信の仕事の都合ではやく帰らなければならないときは、翠にコーチングする。

 

 帰ってからは、赤城さんとデュオでマッチに潜り、意見交換をしながらお互いのプレイの理解を深める。

 

 それが終わったあとは、ソロ練習だ。とくに土日は、がっつりルシオン漬けとなった。

 

 いずれのときも、普段のリラックスした格好ではなく、制服を着用し、めがねをかけて、委員長モードの服装になって、ひとりの時間の練習を重ねた。

 

 

 

 プロゲーマーにかぎらず、スポーツ選手などもおこなう集中法のひとつに、ルーチン化と呼ばれるものがある。

 

 たとえばバスケットボール選手ならフリースローの前はかならず二回ドリブルするとか、野球選手であればスタントに立つ前にバットを伸ばすとか、そういったものだ。

 

 

 

 俺は、実はかなり厳密にルーチン化をおこなう人間だ。

 

 匿名熊として配信するときはもちろん、気軽にソロでルシオンをプレイするときでも、「この状況がいちばん集中できる」という服装や姿勢が存在する。

 

 正直、その条件を満たしていないときの俺は、まったくたいしたプレイができない。

 

 

 

 そしてもちろん、電甲杯は不自由なプレイとなる。

 

 俺は制服をきっちりと着こなして、赤城さんのただの一クラスメイト、モブ委員長の亜熊杏介として参加することになる。

 

 それゆえの、背筋を伸ばした制服練習だった。

 

 

 

 慣れない状態で、自分の実力を伸ばしていく。

 

 チームに必要なスキルを伸ばすために、ひたすら実践で訓練した。

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