逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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36話 さらば青春の闇Ⅱ

 ネトゲの廃人プレイヤーにまつわる、よく耳にする与太話がある。

 

 

 

 彼らはリアルで生活を送っているときに、今ここで電車に飛び込めば自宅でリスポーンできるなー、などという恐ろしい発想を抱いてしまうらしい。

 

 そんなのは都市伝説のような話だと思っていたが、自分の身に近いことが起きると笑えなくなってきた。

 

 きのうなんかは、スーパーに買い出しに行くときに、前からひとが歩いてくるのをみて、自然と高所を取ろうとしてしまっていた。

 

 もちろん、高所のほうが撃ちあいの際に有利だからだ。

 

 

 

 ……ほんとうに、どうかしている。

 

 が、それでも俺は練習の鬼をやめるつもりはなかった。もう間もなく予選がはじまるのだから、妥協することなどできるはずがない。

 

 

 

 さいわいなのは、あまり見た目は変化していないことだった。

 

 登校日の早朝、いつものようにトイレに寄ったときに、あらためて鏡で確認した顔色は、想像していたよりもずっとまともだった。

 

 疲れてはいるが、委員長ロールにも問題なく入れる。

 

 だからなにも支障はないはずだったのだが――

 

 

 

「クマ。目がぎらぎらしている」

 

 

 

 その日に出会った翠からは、そう言われてしまった。

 

 昼休み、アマチュア無線部でのことだった。本当はどこか人目につかないところで仮眠を取るつもりだったのだが、翠に呼び出されていたのだった。

 

 翠は、俺を椅子に座らせると、周囲をくるくると回って、じーっと俺を観察した。

 

 

 

「顔色がよくない。唇のあたりが荒れている。それになんだか痩せた。クマは無理をしている」

 

「そ、そんなことない」

 

「言い訳は通じない。昼休みに連絡しても、最近のクマは応答がない。つまりどこかで隠れて仮眠を取っている。それは夜にじゅうぶんな睡眠が取れていない証拠」

 

 

 

 さすがは翠だ。いらない推理力で俺を困らせることがある。

 

 

 

「わたしはちゃんと昼休みは毎日部室に来るように言ったのに、クマは来てくれない。おかげできのうはひどい目にあった」

 

「なんだそれ。なにがあったんだ?」

 

「……クマには関係のないこと」

 

 

 

 ?

 

 今の文脈で俺に関係ないなんてことがあるのか?

 

 

 

「とにかく、クマは約束を守っていない、悪いクマ」

 

「い、いやだな、翠。昼休みはこう、いろいろと用事があるんだよ。学期末だからかなぁ? イヨちゃん先生にもいろいろと頼まれるし、ほんと困ったもんだ」

 

 

 

 ハッハッハと笑う俺に、翠は不信そうな目線を送っていた。

 

 ぜんぜん信じてもらえていないな。

 

 

 

「俺が毎晩どうしているかって? もちろん養生しているに決まっているじゃないか」

 

「うそ。どうせひとりでゲームの練習をしている」

 

 

 

 こちらもバレていた。

 

 

 

「ちゃんと寝ているよ。心配には及ばない」

 

「往生際がわるい。ほんとうのことを言うべき」

 

「だから休んでいると言っているじゃないか。どうしてそう疑うんだ」

 

「……(スッ)」

 

 

 

 突然、俺の前にゴトリと音がして物が落ちた。

 

 視線をやると――なんと、大型の銃だった。

 

 それも、形状をみるにアサルトライフルのペインバッカーだ!

 

 お、俺の愛銃!

 

 俺はほとんど反射的に拾うと、周囲を見渡してマガジンを探した。

 

 

 

「おお、一本目からペインが拾えるとはな! こいつはラッキーだ、ハハッ!」

 

「……。」

 

「翠、もしも三倍スコープをみつけたら教えてくれないか! 専用アタッチメントのヘルポンプも必要だ! それと……」

 

 

 

 途中で、俺は固まった。

 

 笑顔が消える俺を、翠がジト目でにらんでいる。

 

 冷や汗が流れる。

 

 

 

「クマ、現実とゲームの見分けがつかなくなっている。非常に危険な状態」

 

「待て。その前に、どうして現実にペインバッカーがある?」

 

「こんどのクマの誕生日にあげようと思って、用意していた。サプライズのつもりだったのに、クマがうそをつくから緊急で使わざるを得なくなった」

 

「え、これ手作り? うそだろ」

 

 

 

 俺はあらためて手元の銃を眺めた。

 

 たしかに、言われてみると細部は荒いが、それでもぱっと見だと本物のようだ。この高級感のある光沢はどうやって出しているんだ?

 

 そういえば、何か月か前に、翠からルシオンで好きな銃の名前を聞かれた覚えがある。まさかこのためだったとは。

 

 

 

「すごいな、翠! やっぱり翠は天才だ!」

 

「それほどでもない」

 

「いいや、それほどでもある! 全国模試ではつねにひと桁番台、RTAでは人気タイトルで世界一の記録保持者、それでいてペインバッカーまで自作できるなんて、あまりにもすごすぎる! このすごさは今すぐみんなに知ってもらうべきだ。ちょっと自慢してこよう!」

 

 

 

 俺は銃を手にしたまま、部屋を出ようとした。

 

 腕を掴まれた。

 

 

 

「逃げないで」

 

 

 

 やはりだめだったか。

 

 

 

「第一、クマが自慢できる相手なんておばあさましかいない」

 

 

 

 泣ける事実まで提示された。

 

 

 

「自慢するにしてもあとにして。とにかく、今は反省」

 

 

 

 俺は正座させられた。

 

 その状態で、翠の説教を聞く。

 

 

 

「たしかに、クマにはほかのひとよりも少しだけフレキシブルさに欠けてしまう部分がある。それでも、きちんと土日に休息を取れば、じゅうぶんに一般的と呼べる学校生活が送れるのは、これまでのデータが示している。家で過ごす時間を回復に努めるのは、クマにとってはなによりも大切なこと。ちがう?」

 

 

 

 翠お得意の理詰め戦法だ。

 

 内容も、そのとおりとしか言いようがなく、ぐうの音も出ない。

 

 

 

「なにもちがわないです……」

 

「それなら、無理をしてはいけないこともよくわかるはず。練習もだいじだけど、放課後にあれだけ時間を割いているのなら、それでよしとするべき」

 

「でも、それだと勝てないんだよ、翠。あれは、翠が考えているよりも大変なゲームなんだ。うちのチームで優勝するには、まだ決定的なものが足りていないんだよ」

 

「……それは、初心者のわたしが足を引っ張っているから?」

 

「ちがう。翠は、初心者であることを考えると、すでにじゅうぶんな働きをしている。問題なのは、むしろ俺のほうだ」

 

 

 

 その言葉は、翠には意外だったようだ。

 

 

 

「クマは、それこそ問題がないようにみえる。実際、きのうもふたりの活躍で、なんども連続でチャンピオンが取れた」

 

「ああいうオンラインマッチと大会の試合では、まったく話が違うんだ。俺たちの動きがよくなっているのはたしかだが、今のままでは問題が残っているんだよ」

 

 

 

 この問題は、俺に話しこそしないが、まちがいなく赤城さんも気づいているだろう。

 

 俺が、はじめに赤城さんが期待してくれていたほどの働きができていないことは、俺自身がよくわかっている。

 

 

 

「もともと長くはない練習期間だが、いよいよ秒読みだ。俺が多少無理をしているのは認めるが、今だけは見逃してほしい。赤城さん……クラスメイトへの協力は全力でないと、俺がダメになるんだ。翠も、そういう事情はわかってくれるだろう?」

 

 

 

 翠は、かなり不満げな様子だった。

 

 が、最後には、しかたがなさそうにうなずいた。

 

 

 

「……ルシファー・オンラインの攻略の話は、わたしにはわからない。だから、そうした部分の判断はクマに任せるほかない。でも、最低でも睡眠時間は確保してほしい。目を悪くしたら元も子もない」

 

「そうだな。からだは資本だもんな。わかった、睡眠だけは取るようにするよ」

 

「ん、わかってくれたならいい。クマは良いクマになった」

 

 

 

 どうやら評価値が正しく戻せたようで、俺は安心した。

 

 そろそろ教室に戻ったほうがいい時間だ。

 

 俺が表情を委員長筋に戻していると、翠が俺の袖を引いた。

 

 

 

「クマ。この銃をあげる」

 

「え。でもさっき、俺の誕生日にって……」

 

「またべつのサプライズを探す。クマが驚いて五メートルくらい跳びあがるものを考案する」

 

「それは、喜ぶ前に心肺が停止してしまいそうだな……」

 

 

 

 ちなみに、協議の結果、ペインバッカーはしばらく部室に置いておくことになった。

 

 このようにして、アマチュア無線部の私物化は進んでいくのだった。

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