逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~ 作:ロカイクオ
校内予選の午後の部がはじまった。
マップがヘルズウェイクからラキュトス・ワンに変わり、対戦チームもシャッフルされた、仕切り直しの後半戦だ。
現在、俺たちのチームは8位。本戦出場の5位まで浮上するためにも、かならず後半戦のどこかでチャンピオンを取らなければならない。
「ラキュトスかー……正直、あんま好きじゃないなあ。いいんちょくんは?」
「ヘルズウェイクよりも好きなんてプレイヤー、ほとんどいないんじゃないかな」
「そだよねー。まあ苦手なマップっていうのは全員いっしょだし、がんばるしかないかな」
「こっちは人気のないマップ? わたしは、まだあまり違いがわかっていない」
初心者の翠は、マップの性質の違いがあまりわかっていないようだった。
まあ、それも当然といえるだろう。
「ラキュトスはサービス開始当初からあったマップで、粗が目立つんだ。各ランドマークの距離が近くて、銃声が届きやすいから、とにかく漁夫がきやすい」
漁夫というのは、漁夫の利からきているバトロワ系ゲームの用語だ。AとBが戦っているとき、別部隊のCがやってきて、おいしいところを持っていくという意味だ。
「あたしは構造そのものが好きじゃないなー。移動中の弱さがハンパなくて、どうにもならないデスがよく起きるのがあんまりおもしろくないっゆーか」
とはいえ、文句を言ってもはじまらない。
ステージがラキュトスに変わっても、俺たちのキャラ構成はそのままだった。
ただし、戦い方は多少なりとも変える必要がある。
練習では、正直ヘルズウェイクのほうがかなり感触がよかったが、ラキュトスでも赤城さんのIGLのクオリティは落ちていないと俺は思っている。
ここが正念場だ。
第6試合で俺たちに振り分けられたランドマークは、北西のイグジットと呼ばれる場所だった。
正直、あたりの場所とは言えない。物資の量があきらかに少なく、ここに降り立った部隊は、かならず周辺のべつのランドマークで追加のアイテムを拾いに行くしかないからだ。
そして当然、ほかのランドマークにはほかの部隊がいる。
「——速攻しかないと思う」と、赤城さんは言った。
「かなりはやめに漁って、敵の準備ができていないうちに倒す。理想は、もう3on1でぼっこにして、残りを人数有利で取ってく感じかな」
降下の前にあった赤城さんの指示を、俺はよく考えた。
かなりリスキーだが、今はそうした択を取っていくしかないのはたしかだ。やったほうがいいだろう。
イグジットに降り立った俺と赤城さんは、爆速で銃を拾った。
向かうは北のランドマーク、鉄鋼地区だ。スラムのようにバラックが密集している場所で、打って変わって広大なランドマークだから、ここに降り立った部隊は広く漁っているはずだ。
つまり、浮いているやつがいる。そいつを狙う。
「翠ぴ、〈ビジョン〉撃てる?」
「っ、了解」
俺たちのムーブの速さにぎりぎりでついてきた翠が、どうにかスキルを使ってくれた。広い鉄鋼地区の1/3ほどの状況が明かされたことになり、翠が報告をくれた。
「いる。手前側の赤い建物、なかにひとり」
「一枚ね。いいんちょくん、グレおねがい!」
奇襲のかたちだ。翠の〈ハイビジョン〉でサーチを検知した相手ははやくも逃げようとしていたが、俺の投げたグレネードが功を奏した。
スタングレネード〈ボーグル〉。これが直撃した相手は、ほんの数秒ほどだが足が止まる。
スライディングしながら接敵した赤城さんが、SMGで敵をダウンさせた。
そのまま確殺。ルシオンでは、倒れたプレイヤーを味方が蘇生できてしまうので、こういう状況ではダウンを取ったあとにトドメを刺すことが肝心だ。
確殺して石像になった相手からは、物資を奪うことができる。
「これアーマーもらうね。状況どう!?」
「近くにはいなさそうだ。おそらく奥に逃げこんでいる」
「おっけ。翠ぴ、リキャスト終わりしだい使ってもらえる? 鉄鋼地区の奥のほうに向けて」
「了解」
緊張感のある時間だった。あまり、ここで時間を使うことはできない。なぜなら、ラウンド2の安置はマップの対角だからだ。
一枚欠けた敵の部隊がどう出てくるかわからないが、セオリーでいくならべつの場所へと逃走することだろう。物資不足の俺たちとしては、ここでうまく取り切りたい。
まるで空き巣のように、まだ漁られていなかった建物をチェックしながら、俺たちは鉄鋼地区を進んでいった。
契機は、とあるバラックの外に出たときだった。
カチンと音がした。
「〈ジャック・マイン〉……! 離れて!」
先導していた赤城さんが叫んだ。ジャック・マインは、ボンペイという爆弾魔のキャラクターの持つ固有の罠スキルだ。
その地雷を踏んだプレイヤーは、しばらくのあいだ視界が奪われる。足元がぎりぎりみえる程度になるため、赤城さんは建物のなかに戻るのが限界だった。
「いいんちょくん、ごめん、おねがい……!」
敵襲がほぼ確定しているから、赤城さんからのコールはそれだけだった。
次いでグレネードが放り込まれて、俺はひとまず建物の二階まで下がる。それと同時に、後方でも銃声がした。
すぐに、味方のチェリーパイのダウンが知らされた。
「ごめん、撃たれた、うしろ。キャラはわからなかった」
翠の簡素な報告があがってくる。
どうやら挟み撃ちのかたちだったようだ。前方でマインが起動したときに先導キャラを潰し、それを合図にしんがりを撃って落とすというのが、向こうの作戦か。
かなり悪くない。
いやむしろ、この状況で採用するなら百点の戦法だ。
おかげで、いいようにやられてしまっている。
敵が二枚、こちらに迫りくる。
詰められることがわかっていた俺は、階段の出口に定点の射線を置いていた。いわゆる置きエイムで、はじめに姿をあらわしたポンペイに先制攻撃を加えた。
が――俺は思わず舌打ちしそうになった――だめだ、連続のヘッドショットで一枚を先に落とすつもりが、敵の反応がよく、ひっこまれてしまった。
すかさず援軍に来た敵の位置がわからなかったのは、暗殺者のキャラクター〈ゼファー〉のパッシブスキルのせいだった。離れているときは足音が聴こえないのだ。
背後の扉からピークしてきたゼファーと、俺は撃ちあった。
ピストルの近接戦は得意ではない――が、負けられなかった。意地で腰撃ちのヘッドショットを当てると、ミリの体力のまま格闘攻撃をしかけてゼファーを落とす。
残り一枚——。
そのとき、俺は迷ってしまった。
回復するか、即座に詰めるかの二択。
普段の俺ならば、ここは瞬時に取りに行く――にもかかわらず、俺はアーマーの回復剤に手を伸ばしてしまった。
全回復には最低でも五秒かかるというのに、安易で気弱な択を。
ふたたびポンペイが登場して、回復は中断を余儀なくされた。
敵のほうは、すでに最低限の回復を済ませていた。
屋内戦の運否天賦の撃ちあいの結果は――。
「——いいんちょくん、それまじやる! うますぎっ!」
「すごい。二枚ともひとりで落とした」
ぎりぎりで、俺の勝利だった。
だが、俺はすなおに喜ぶことができなかった。勝ったのは、俺の功績ではない。焦りのせいか、敵が銃のリロードを忘れていて、応戦が遅れたからだ。
まともに撃ちあっていたら、勝てる局面ではなかった。
が、なにはともあれ、ここの窮地は抜けた。
あとはふたりを回復させ、はやく部隊を立て直さなければ。
俺がふたりのもとに向かったとき、
——コロン
すぐ近くの床に、丸い物体が転がった。
画面に赤いアラートが光る。
絶妙に起爆するタイミングで投擲されたグレネードは、避ける暇はなかった。
敵から奪ったばかりのアーマーが破壊される。次いだ複数人の足音が、フルメンバーで一斉に漁夫にあらわれたことを教えていた。
俺は、一目散に逃亡した。逃げられるはずがないとわかったうえでの退避は、やはりというべきか、意味のない行為だった。
背中から撃ちぬかれて、俺の操るフィラリアがダウンした。
——部隊全滅。
俺たちは、しばらく言葉を発することができなかった。
「……19位」と、ぽつりと赤城さんがくちにした。
19位、3キル。
ここから巻き返さなければならないという場面で、獲得できたのは、たったの3ポイント。
それが、後半戦の開幕のリザルトだった。
俺を倒した敵のプレイヤー名は、se1enと表示されていた。