逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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45話 王子、降臨

 いやに照りつける日だった。

 

 夏らしいといえば夏らしい。この数日は、からっとした天候の日が少なく、どの日もじんめりしている印象だったが、この日の様子は、夏も夏。

 

 シャツの内側がいかに火照っても、俺は第一ボタンははずさない。

 

 ことに、そこが校内で、まわりに学校関係者ばかりであればなおのことだ。

 

 

 

 LC学園の敷地内。

 

 パビリオンの内部は、ぞろぞろと生徒たちで詰め尽くされていた。予選参加総勢四十チーム、のべ百二十人のLC生が、この夏季休暇に登校している。

 

 終業式からたった数日しか経っていないというのに、まるで二学期初日のような賑やかな歓談ぶりだ。うちの生徒たち、基本的に仲がいいんだよな。

 

 

 

 ときに、俺はというと――。

 

 

 

「いいんちょくん、はろはろ~! きのうはよく眠れた?……って」

 

 

 

 声をかけられて俺が振り向くと、赤城さんは首をかしげた。

 

 

 

「なんでマスク??」

 

 

 

 そう、俺はマスクを着用していた。風邪引きさんがつける、あのありがちな不織布マスクである。

 

 

 

「やあ、赤城さん。いや、それが、ほんの少しだけ風邪っぽいというか」

 

「え、ほんと? 出てきてだいじょうぶだったの?」

 

「体調は平気だ。ゲームにも支障ない。ただ、やはり人間とはそのときに問題がなくとも、つねに潜在的に風邪のウイルスを持っている可能性があるわけだから、いつだって油断せず予防していかないとな」

 

「……それって、つまりフツーの状態ってこと?」

 

 

 

 まあ、ようはそういうことだ。動揺して、つい委員長らしからぬわけのわからないことを言ってしまった。

 

 もちろん、俺は健康体である。

 

 が、こういう場所であまり耳目を集めたくなくて、苦肉の策でマスクの着用という手段を取ってしまった。

 

 体調管理に難があるというのはあまり委員長らしくて褒められた行為ではないが、少しでも印象を薄らげるためにはちょうどいい手段だと思ったのだ。

 

 

 

 ……と、そう思っていたのだが。

 

 

 

「なあ、あいつが例の?」

 

「そうそう、あいりんと組んでいるっていう」

 

「なんかさ、どうもあいりんのほうから誘ったらしいぜ」

 

 

 

 周囲から、ぼそぼそとした声が届く。

 

 なんだか逆効果な気がする。となりに赤城さんがいるというのもあいまって、むしろじろじろと顔を眺められているような。

 

 

 

「あーっ! 愛莉、みつけたぞー!」

 

「お。タタじゃん。はろー」

 

 

 

 LC生たちの海のなかから、ひとりの女子生徒があらわれた。

 

 俺のクラスメイトであり、赤城さんのともだち、多々良さんだ。赤城さんとは違ったタイプのハデめな女の子で、ボリューミーな髪をツーサイドアップにしている。

 

 

 

「リストにいるからわかってたけど、まじでタタも出てたんだねーw」

 

「なに笑っているんだよお~! うちも練習がんばるからいっしょに出よって言ったのに、ぜんぜん聞いてくれなかったから、結局音ゲー部で出場することになったんだぞぉー」

 

 

 

 怒っているというほどではないが、多々良さんは少しだけ不機嫌な様子だった。

 

 そういえば、ゾンビ軍団――もといクラスメイトたちに詰問されたとき、多々良さんの姿もあったような気がする。

 

 

 

「あ、やっぱメンツ、音ゲー関係だったんだ。リーダー申請が通るのってFPS関係のひとだけって聞いてたけど、そういうわけもないんだね」

 

「うちもそう思ってたけど、なんか通った!」

 

「で、順位は?」

 

「…………三十九位」

 

 

 

 下から二番目、ほとんどドベである。

 

 あはは、と赤城さんは屈託なく笑った。

 

 

 

「なに余裕ぶって笑ってんだ、このやろ~! 三十九位だってがんばってんだぞ!」

 

「ごめんごめん、そういうのじゃなくて、タタの表情がおもしろかっただけw」

 

「より悪いだろー! もう、てかみんな強すぎだって。うちだって、ランクがんばってダイヤまであげたのに。チームメイトのちーちゃんなんて、フツーにマスターなのに。前の日なんか、愛莉んところに二回も轢きころされたんだけど~!」

 

 

 

 そこでようやく、多々良さんは俺に目をやった。

 

 

 

「あ、てか委員長じゃん」

 

「やあ、こんにちは、多々良さん」

 

「あのフィラリア、委員長か!? お前、よくもやってくれたな~!」

 

「どの試合かわからないが、俺も赤城さんについていくので一生懸命だったんだ。ゆるしてくれないか」

 

「まあいいけど。今回は、ノートに免じて愛莉を貸してあげてるんだからなー? 委員長も、足引っ張らないようにがんばれよー!」

 

 

 

 いちおう、応援してもらっているらしい。

 

 赤城さんと多々良さんが世間話をしているなか、俺は周囲の様子を探った。裏目に出ていたマスクをそれとなくはずして、翠の姿を探す。

 

 もうそろそろ来ていていいはずだが、どこにいるのだろう。

 

 

 

「失礼。ちょっと翠を探してくる」

 

 

 

 そうことわって、俺は会場内を歩いた。

 

 LC-パビリオンは、たしかに未完成であるようだった。今いるメインホールは、完成予想図に近いゲーミング配色をしているが、まだ天井や壁の部分は完成しきっておらず、鉄骨が露出したりしている。

 

 それでも、PCの並んだ階段状の壇上は、すでに機能的には問題ないようにみえた。冷却機能もじゅうぶんに働いており、むしろ寒いくらいだ。

 

 

 

 小柄な翠を人混みのなかで探すのは大変で、向こうがこっちをみつけてくれないかと、気持ち首を伸ばしながら捜索していたときのことだった。

 

 

 

「――やあ、ちょっといいかな。きみ、亜熊杏介くんだよね。A組の委員長の」

 

 

 

 そう声をかけられた。

 

 振り向けば、よく知っている人物がいた。

 

 

 

 知ってはいる――が、意外だった。

 

 話しかけられることがあるとは思わなかった。俺とはまったく接点がなく、向こうからすれば、こちらのことなど眼中にもないはずだからだ。

 

 

 

「きみは……C組の東堂くん」

 

 

 

 東堂聖人。

 

 〈ルシ王子〉こと、プレイヤーネーム〝se1en〟。

 

 その姿は、じつはついさっきも目にしていたところだ。後輩女子と思われる集団に話しかけられていて、輪の中心にいた。

 

 それを抜け出して、わざわざ俺に話しかけにきたということか?

 

 

 

「固いなァ。それに、苗字で呼ばれるのは慣れない。セレンでいいよ」

 

「東堂くん、なにか俺に用でも?」

 

「さ、さらっと流すね……」

 

 

 

 はは、とse1enは白い歯をのぞかせて笑った。

 

 

 

「そのとおり。用事……というより、ちょっと頼みたいことがあるんだ。時間は取らせないから、少し顔を貸してくれないかな」

 

「べつにかまわないよ」

 

 

 

 まだ、予選の開催まで時間がある。問題はないはずだ。

 

 委員長モードをマックスにして、俺は彼の前に立った。

 

 

 

「ここだと少し困るなァ。一瞬、外に出ようか。知っているかな、ここの裏手は密会にちょうどいいんだよ」

 

 

 

 俺の顔に、いぶかしむ表情は浮かばなかっただろうか。

 

 先導するse1enに、俺はおとなしくついていった。

 

 

 

 会場を抜けて、裏の非常口を開ける。パビリオンの裏手は、たしかに落ち着くにはいい場所のようだった。ちょうどいい庇があり、直射日光を防げる。

 

 普通に学校で過ごすぶんには、まず目に入らない場所だ。

 

 

 

「そう緊張しなくていいよ。リラックスして」

 

 

 

 と、se1enはまぶしい笑顔で振り向いた。

 

 

 

「しかし、なにげに初絡みだね。それともどこかで話したことあったっけ」

 

「いや、俺の記憶ではないな」

 

「オレのほうもだ。といってもA組にはよく遊びに行くから、みかけることは多いけどね。亜熊くん、なんか目立っているし」

 

「……俺が?」

 

 

 

 俺は思わず聞き返してしまった。

 

 se1enは、意味ありげな視線を向けて、

 

 

 

「……うん、ほら、きみ身長高いし」

 

「ああ、なるほど」

 

 

 

 俺の図体のでかさは、自分でも困っているところだ。なぜFPSばかりやっているのに身長が伸びていくのだろう。かんたんな筋トレは、たしかに多少してはいるが。

 

 

 

「はは、冗談だよ。それだけじゃない。A組には絵に描いたような立派な委員長がいるっていうのは有名だから、それで知っていたんだよ」

 

 

 

 噓か誠か、se1enはそう言い足した。

 

 俺は内心おだやかではなかった。つねに壁や地面と同化したいと考えている身からすると、注目されていたという話はあまり嬉しいものではない。

 

 

 

「そしてこれも噂で聞いたんだけど、その委員長は、同級生の頼みならなんでも聞いてくれるらしい。それは本当なのかな」

 

「だれに聞いたのかは知らないが、少なくともクラスメイトからの頼みは断った記憶がないのはたしかだよ」

 

 

 

 赤城さんとの一件のあとで自覚したことだが、たしかにそうであるようだった。もっともクラス外の人間からの頼みについては、あまり記憶にないが。

 

 

 

「そうか――それなら、俺の頼みも聞いてくれそうだね。よかったよ」

 

「まあ、俺にできることなら」

 

 

 

 なんとなく、俺は不穏な空気を感じていた。

 

 その予感は正しかったといえるだろう。

 

 なぜなら、次に続いたse1enの言葉は、俺が予想だにしないものだったからだ。

 

 

 

「なら単刀直入に頼もう――委員長くん、この電甲杯から降りてくれないかな?」

 

 

 

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