逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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3話 奥義は1日1回まで

 赤城さんは、俺の前の空いている椅子を引くと、とすんと座った。

 

 俺は、動揺のあまり見たことのない長さになっている単語を消しゴムで消してから、ようやく口を開いた。

 

 

 

「なにか俺に用かな、赤城さん」

 

「やー、べつに? ひまだなーと思って。いいんちょくん、かーまちょ♡」

 

「あれでもやればいいんじゃないか。ソーシャルゲーム」

 

「あー、アプリ系ね? あたし、ああいうんはやらないんだよねー。画面がちっさいとそれだけで萎えるってゆーか。スタミナ管理とかもだるくってさー」

 

「そうなのか。みんなやっているから、赤城さんもやっているんだと思っていたよ」

 

 

 

 というより、ぜひやっていてほしかった。

 

 自分の席で黙々と、俺などにかまわず。

 

 

 

「ね。べんきょー、たのしい? てかもう期末終わったのに、必要?」

 

「勉強するのに試験の有無は関係ないよ。たのしいかどうかというと……うーん、少なくとも、わからないことがわかるようになっていくのはおもしろいかな」

 

 

 

 これはあらかじめ用意してある模範解答だ。

 

 われながら、じつに委員長的だといえる。

 

 

 

「うわ、すっご。さすがいいんちょくんだわー、あたしにはムーリー」

 

 

 

 赤城さんは降参するかのように手を振った。

 

 若干の沈黙の到来。

 

 そのあいだにも、俺はなんとか問題の続きをこなそうとしていた。すまし顔をしているのはいいものの、普通に解けなかった。勉強不足だ。

 

 

 

「そういえばさぁ、わからないことっていえば、聞いていーい?」

 

「ああ」

 

「うちらの学校ガッコーってさ、基本ゲーマー枠ばっかじゃん? いいんちょくんみたいな一般入試組って、なんでこの学校を選んだん? あいや、ぜんぜんいいんだよ? 単純に疑問ってゆーか。だってほら、がんばって大学めざすぞーみたいな層、そんなにいないじゃん?」

 

 

 

 たしかに、真っ当な疑問のようだった。答えづらいという点を除けば。

 

 

 

「俺の場合は、単純に家が近かったからだな」

 

「あ、そーだったん? どのへん?」

 

「西郷山公園を降りていったほう。あまり学校帰りに寄るような方向じゃないよ」

 

 

 

 俺は奇妙な感覚だった。なんであれ、俺に対して興味を持つのはやめてほしい。

 

 できれば路傍の石のように扱ってくれ。

 

 

 

「それに、新設校なだけあって設備がよさそうだったし。とくに知り合いが多い高校に行こうというつもりもなかったから、この学校は都合がよかったんだ」

 

「ふーん……。まわりがゲーム好きばっかで話あわなそーとか思わなかったん?」

 

「べつにそうでもないさ。俺だってゲームをしないわけでもないし」

 

 

 

 焦りのせいで、俺はついそう返してしまった。

 

 赤城さんは「えっ⁉」と露骨に驚くと、ガタリと席を立った。

 

 

 

「なになに? なにやんの、いいんちょくんは!」

 

「あ、いや」

 

「もしかしてルシオン⁉」

 

 

 

 当たりだ。

 

 

 

「違う」

 

 

 

 しかしそう答える。

 

 

 

「ゲーマーのひとたちに比べたらべつに、ぜんぜん。モンクエとかポケモノとか、そこらへんをちょっとやるくらいだよ」

 

「あー、コンシューマ系ね。んー、そっかぁ」

 

 

 

 なぜ残念そうなのか。

 

 俺は話題を変えたくなった。もしくは奥義のひとつ「ちょっとトイレ」を使い、朝礼前まで消える作戦を取ってもよかったが、ここは質問することにした。

 

 

 

「そういえば、赤城さんはどうしてもう学校に? 早朝登校なんてめずらしいじゃないか」

 

「……あー、ね?」

 

 

 

 赤城さんは少し困った様子だった。

 

 まさか聞いてはならない質問だったのか? いや、委員長として普通の質問のはずだ。嫌味っぽく聞こえたということもないと思う。

 

 

 

 赤城さんは「ゔーーー」と唸りながら、ジト目で俺をにらんだ。

 

 あきらかに様子がおかしい。なんだ、なんなんだ?

 

 赤城さんは頭をわしゃわしゃとすると、

 

 

 

「あーーー。やっぱあたし、遠回しに聞くとか無理だぁ。だって頭よくないとだめじゃんね、そういうのって」

 

「なんの話だ?」

 

「いいんちょくん、ちょっと右手みして」

 

 

 

 思わず、は? と言ってしまった。

 

 

 

「どうして」

 

「いいから。減るもんじゃないでしょー?」

 

 

 

 おそるおそる、俺は右手を差し出した。

 

 赤城さんの手が触れた。磁器のように白いのに、体温が高い。そのつるつるの肌が、まるで証拠品でも探るかのように俺の右手を――そう、調べた。

 

 入念に、検分している。

 

 まったく意味がわからない。手相でも見ているのかと思いきや、赤城さんが熱心に視線を落としているのは、手のひらではなく手の甲だ。赤城さんは、俺の右手薬指の付け根あたりにある、ほとんど治っている切り傷の痕に注目していた。

 

 いったい、なにを……。

 

 

 

「いいんちょくんさ。この傷って、いつできた?」

 

「……えっと、いつだったかな」

 

「先々週はなかったでしょ。先週の金曜とかで、そのときは赤い絆創膏を貼ってた。ちがう?」

 

 

 

 俺は驚いた。彼女の言うとおりだったからだ。

 

 先週、めずらしくイヨちゃん先生に頼まれて、いっしょに倉庫までオーディオ機材の入った段ボールを運んだのだ。

 

 イヨちゃん先生は「ここまでで大丈夫だよ~」と言っていたが、そのまま機材の整理をはじめるようだったので、俺のほうから手伝いを申し出た。その最中に手を滑らせて、カッターで指の付け根を切ってしまったのだった。

 

 イヨちゃん先生が、まるで動脈でも切れたかのようなパニック具合になって保健室に連れていったが、べつに、本当になんでもないような傷だった。軟膏を塗って傷バンを貼って、それで終わった。

 

 

 

 絆創膏を貼っていたのは、結局三日くらいだったか。俺自身すぐに忘れてしまったような出来事だが、赤城さんは知っていたらしい。

 

 しかし、なぜ? かりに赤城さんが俺のけがに気づいていたとして、だからなんだというんだ?

 

 

 

「いいんちょくん。ルシオンって言ってみて」

 

「これ、なにかのどっきり?」

 

 

 

 俺は周囲を見渡した。じつは隠し撮りされていてSNSにUPされるとか? いや、数少ない校則に『学校内の撮影禁止』というのはあるが……。

 

 

 

「いいから、言ってみてよ」

 

「……ル、ルシオン」

 

「もっかい。はっきり」

 

「ルシオン」

 

 

 

 赤城さんは、うーんと考えこんだ。なんだか真剣そうな表情だった。

 

 俺はというと、だいぶ限界が近かった。どうしてソーシャル・バッテリーの電力が足りないときにかぎって、こういうレアイベントが起きる?

 

 そろそろ奥義の使いどきだろう。

 

 

 

「すまない、ちょっとトイレに……」

 

「ま、待って!」

 

 

 

 席を立つ俺を、赤城さんが引き留めた。俺は、さすがに眉がつり上がってしまった。まさかギャルには奥義も通じないというのか?

 

 

 

「あ、いや……」

 

 

 

 赤城さんが困ったそぶりをみせたとき、扉が開いた。

 

 ふたりのクラスメイトがしゃべりながら入ってきた。それに続いて、さらにもうひとりが登校してくる。おそらく同じ電車に乗って来たのだろう。

 

 電子黒板に表記された時計に目をやると、徐々にみなが集まる頃合いだった。

 

 

 

 彼らは、俺と赤城さんがやけに近い距離で話していたのが意外だったらしく、露骨な視線をくれた。俺は困った。俺は、あらゆる注目が苦手だった。

 

 俺といるところをみられるのが嫌なのは、赤城さんも同じだったらしい。俺は解放されたとみると、さっさとトイレに逃げることにした。

 

 

 

 だが、最後に爆弾が投下された。

 

 

 

「——いいんちょくんさ。放課後、ちょっと時間もらえないかな?」

 

 

 

 話したいことがあるの。スタバ奢るからさ、ガッコ終わったら蔦屋の二階に来て。いちばん奥の棟の、いちばん奥の席ね。

 

 そう耳元に小声で残して、赤城さんは自分の席に帰っていった。

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