逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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52話 ダイヤモンドは壊れない

 赤城さんは、もらったチケットを掲げると、俺のほうに差し出した。

 

 

 

「やたっ。みてこれ、チケット、ゲットしたよー! ……だから、ハイ!」

 

「ハイって……どうして俺に渡してくるんだ」

 

「あたし、なくす自信あるから。その点、いいんちょくんなら安心でしょ?」

 

 

 

 当然、といわんばかりの赤城さんの態度に閉口してしまう。

 

 信用してもらっておいてなんだが、俺もなくし物はしてしまうほうだ。

 

 委員長キャラのために持ち物チェックは欠かしていないが、それはそうとして部屋のなかで物をなくすことはよくある。

 

 もしもこのチケットを紛失してしまった場合、俺の委員長としての地位は失墜して地の底に沈み、地球の反対のブラジルから顔を出すことになるだろう。

 

 そんなリスクは、俺には冒せない。委員長らしい理屈でガードしなければ。

 

 

 

「リーダーの赤城さんが受け取ったものだ。赤城さんが持っておくべきだろう」

 

「え! そんなぁ」

 

「財布にでも入れておけばいいじゃないか。そうしたらめったになくさない」

 

「いいんちょくん、ひどい! あたしがお財布なくしたらいいんちょくんのせいだかんね!?」

 

 

 

 ……いや、それはかなり理屈がおかしくないか?

 

 

 

「翠ぴ、かわりに持ってよぉ」

 

「断る。わたしはすべての借り物をなくす女」

 

「ぜったいうそじゃん~!」

 

 

 

 ふたりの会話を耳にいれながら、俺はそれとなく、その場を離れた。

 

 学園長のいた方向に、足を向ける。

 

 果たしてシンクロニシティか、ちょうどそのとき、彼女も俺に目をやったところだった。

 

 

 

 学園長が近づいてくる。

 

 無駄にでかい俺、無駄のない小ささの学園長が、向き合った。

 

 周囲は打ち上げに向けて大いに盛り上がっている。そんななかで、学園長のほうが静かに口を開いた。

 

 

 

「こうして話すのはひさしぶりだ。元気にしているかね、少年」

 

「ええ。おかげさまで」

 

「うむ、きみの友人も健勝であるようでなによりだ」

 

 

 

 学園長が、翠のほうをちらりと覗いた。

 

 

 

「その節は、大変お世話になりました」

 

「かまわない。わたしとしても、彼女を採る価値があると判断したまでのこと。実際、今年はRTA界におけるめざましい活躍があったそうで、喜ばしいことだ。あの種目も、ゲーム観戦というコンテンツの層を厚くしている大切な競技だからな」

 

 

 

 俺には、聞きたいことはいくつかあった。おもにse1enの件だ。運営にキナ臭い動きをしているひとがいるなら、それはだれなのか。学園長は知っているのか。

 

 だが、学園長のほうこそ、俺に質問があるはずだった。

 

 むしろ彼女のほうが、俺よりもはるかに疑問の度合いは強いはずだ。

 

 にもかかわらず、学園長はなにも言わなかった。そのせいでしびれを切らして――というのも変だが、俺のほうからたずねてしまった。

 

 

 

「俺に、なにも聞かないのですか」

 

「んむ、聞かないよ? きっと複雑な事情でこうなったのだろう」

 

 

 

 そのとおりだ。大変に複雑な事情があった。

 

 

 

「ともあれ、この場合肝心なのは、過程ではなく結果だ。結果として、今のきみはこうなっている。ならば、わたしは素直な気持ちで応援させてもらおう。電甲杯の日は、どのような仕事が入ったとしても、こちらを優先しようじゃないか」

 

「……学園長がわざわざそうするほどの価値が、俺にあるとは思えません」

 

 

 

 ふふ、と学園長は笑った。まるで少女のように。

 

 

 

「きみ、ダイヤモンドは、ダイヤモンドの価値を知っていると思うか。前にも言ったように、光源とは、あくまで観測されるべきものなのだよ。そして私は、きみにかんして、そうした心配はしていない。まったく、これっぽっちも――ほんの粉微塵ほども、だ」

 

 

 

 気楽にがんばりたまえよ、と残して、学園長はくるりと翻した。

 

 そのタイミングで、生徒のみんなも移動を開始したようだった。どの店舗に何時集合という情報と、LCのスタッフと学園の先生が引率につくという話がディスコードに共有される。迅速だ。仕事のできるチームなのだろう。

 

 

 

「いいんちょくん? 今、学園長と話してなかった?」

 

 

 

 ひとりになった俺に、赤城さんが声をかけてきた。

 

 

 

「ん。ああ、まあ、ちょっと今回のお礼をな」

 

「お礼? あ、打ち上げの? そだよねー。てか、さすがに太っ腹すぎん?w うれしいけど、それ以上になんかびびるよね」

 

「大変な資産家だそうだからな。なにかとスケールがちがうのだろう――とにかく、赤城さんは楽しんでくるといい」

 

 

 

 えっ、と赤城さんが虚を突かれたような顔になった。

 

 

 

「いいんちょくんは行かないの? どして、なんで??」

 

「少し疲れていてな。それに、さすがに少し勉強をさぼりすぎた。きょうのところは帰ろうかと思うよ」

 

 

 

 勉強は、委員長にとって便利な言い訳だ。この最強カードを振りかざせば、制服を着ているうちは大体のことを切り抜けられる。

 

 はずだったのだが。

 

 

 

「だ、だめ」

 

「え?」

 

「だめだよ。ベンキョーなんて、べつに夜でいいじゃん。いっしょに行こうよ。じゃないと……なんか、やだ」

 

 

 

 服の裾を引っ張られる。

 

 これはいったい……。

 

 俺の委員長システムが、軽いエラーを吐いた。

 

 

 

 即座に、システムの整合性が確認される。

 

 今のはひょっとして、委員長として不自然な言動だっただろうか。

 

 たしかに、俺はクラスの催し事などには可能なかぎり参加するようにしている。

 

 記憶に新しいところでは、一学期はじめの懇親会にも出席し、みながAdoを大合唱している部屋の隅で、無表情でマラカスを振っていた。

 

 クラス全員の出欠を取るような会合は委員長も参加しがちだというのが、俺の調べだったからだ。

 

 

 

 だが、それはあくまで断る理由がないときのことだ。

 

 勉強や家庭の用事など、相応の理由があるときに出席を断念するというのは、それ自体が俺の委員長性に瑕疵を与えるものではないと俺は判断している。

 

 

 

 システムの整合性確認が終了する。

 

 やはり、問題ないはずだ。

 

 ちょうどいい言い訳が思いついて、俺はそれを足した。

 

 

 

「赤城さん、俺が最初にマスクをつけていたのを覚えているだろうか」

 

「あれ、なんともないって言ってたじゃん」

 

「今になって、ほんの少しばかり発熱してきたような気がするんだ。集団で密室に行くのはよくないだろう」

 

「ぜんぜん熱ないよ?」

 

 

 

 俺が避ける間もなく額に触れてくるギャル。

 

 なに――? なんて速度だ……!

 

 くそ、言い訳を修正せねば。

 

 

 

「実は、俺の平熱は34度なんだ。今が36度くらいだから、2度ほど上昇していることになるわけで」

 

「ねえ、いいから行こうよ」

 

「とにかく、俺はだいじょうぶだから。ほら、みんなもう移動をはじめているから、赤城さんも行ったほうがいい」

 

「……じゃあ、いい。いいんちょくんが行かないなら、あたしも行かない」

 

 

 

 なんだと……?

 

 こうなってくると、単純に理由が気になってしまう。

 

 

 

「赤城さん、どうしてそうまでして……」

 

「わっかんないけど……でも、チームで予選、がんばったじゃん。なのに打ち上げナシって、なんかすっごい変な感じする。もやもやするってゆーか……すごいわがまま言ってる気はするけど、これにかんしては譲りたくない、かも」

 

 

 

 こうも強固な赤城さんは、はじめのスタバ以来であるようだった。

 

 とすれば、かなり強い要望である可能性が高い。

 

 こうなってくると、委員長としては応えたほうがよいという理屈になる。が、実際のところ、俺には参加することはできない。

 

 このまま委員長を続けていれば、いつぶっ倒れてもおかしくないのが現状だ。そしてもちろん、委員長としてぶっ倒れるわけではない。

 

 

 

 ……あれ? これ、けっこうまずい状況か?

 

 いったいどうしたら……。

 

 と、俺が困っていると、

 

 

 

「――後日にしたらいい」

 

 

 

 と、救いの声が聞こえた。翠だった。

 

 

 

「どうしても打ち上げが必要なら、また後日にすればいい。クマの疲労度はかなりの水準に達している。ついでに、わたしもくたくた。ここはおとなしく解散したほうがいい」

 

「翠ぴ。でも、後日っていっても……」

 

「今は夏休み。本戦は三週間後。どこかしら機会はある」

 

 

 

 さすがは翠だ。俺には思いつかなかった解決策をぽんと出してくれる。

 

 が、肝心の赤城さんは、まだ渋っているようだった。

 

 

 

「んー……うーん」

 

「まだなにか不満?」

 

「そーゆーんじゃないケド……でも、ふたりが行かないなら、やっぱあたしも……」

 

「いや、そういうわけにはいかないんじゃないか。だって、主役は必要だろう」

 

 

 

 俺は、赤城さんの背後に目線をやった。

 

 そこには、十数人のLC生たち――おもに2-Aのクラスメイトたち――がいて、赤城さんを待っていた。

 

 

 

「なにしてんだよ! はやく行こーぜ、愛莉」

 

「愛莉ちゃーん、いっしょにSee Mee踊ってTikTokに載せよ!」

 

「組んでくんなかったんだから、せめて踊ってない夜を教えてくれよー!」

 

 

 

 あいかわらず赤城さんに対する願望の強いクラスメイトたちだ。

 

 が、それはこそ彼女の人気の裏打ちだといえる。俺と違って、欠席することが土台許されない側の人望だ。

 

 

 

「う"ーーーーーー」と、赤城さんはこれまでなんどか聞いた唸り声をあげた。

 

 

 

「わかった! じゃ、今回はそーゆーことにしといてあげる。でも、約束だかんね? 打ち上げ、ちゃんとやるからね! それに本戦の作戦会議と、練習のスケジュールと、それと……とにかく、いろいろぜんぶ、だからね!」

 

 

 

 ぷりぷりと怒った様子で、赤城さんはクラスメイトの輪に入っていった。歌うぞー!と大きく拳をあげると、みながそれに続く。

 

 ゲームの中でも外でも、彼女はいいリーダーであるようだ。

 

 

 

 赤城さんたち最後のグループが去ると、パビリオンは突如としてさみしくなった。モニターに向かって作業しているスタッフさんたちが、あのふたりはどうしてまだ残っているのだろう、という目でこちらをみてくる。

 

 潮時だろう。

 

 

 

「帰ろうか、翠」

 

「うん」

 

 

 

 最後に、俺は雛壇に目をやった。

 

 ゲームプレイ会場。この光景をみていると……胸騒ぎがする。

 

 俺の脳裏に、苦い記憶がよみがえる。

 

 膝が折れて、その場に崩れてしまいそうな気分になった。よくここまで耐えたものだ。さすがに、今回ばかりは自分の健闘を讃えてよいだろう。

 

 もっとも、真の本番はこの先だとしても。

 

 

 

「クマ。提案がある」

 

「言ってみてくれ」

 

「帰りに、ぜいたくにアイスを買う。そしてクマかわたしの家で食べる」

 

「それはいいな」

 

「わたしのおすすめは、バニラとチョコレートを選ぶこと。そうしたら、ふたつの味をシェアできる。これは隙のない構え」

 

「名案だ。まったく、翠はかしこいな」

 

 

 

 翠と普段どおりの会話をしながら、パビリオンをあとにする。

 

 そうして、俺たちの校内予選は終了した。

 

 結果は三位、ぶじに本戦への出場権を得るというリザルトとともに。

 

 

 

 

 ――電甲杯本戦まで、残りあと三週間。

 

 

 

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