逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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53話 ジュニア・ハイⅠ

 ――――中三の、春のことだった。

 

 

 

 

 

 そう――俺に転機がおとずれたのは、あのときだった。

 

 まだ十五になる前の、中学三年に進級直前の、春休みの、とある日。

 

 

 

「……よし! 今のはよかったな。GGっと――」

 

 

 

 暗い部屋で、俺はキーボードを叩いて、かんたんにチームメイトにチャットを送った。それから、満足した気持ちでモニターを眺めた。

 

 映し出されているのは、今しがたの対戦のマッチリザルトだった。

 

 そこに載っている俺の戦績は、われながら悪くない結果であると言えた。

 

 ルシファー・オンラインのランクマッチ。マスター帯のさらに上、世界で五百人しか入れない最高峰、爵位持ち(バロン)としての順位が更新される。

 

 

 

 四位。

 

 現在、俺の順位は世界で四位だ。

 

 一位は、イギリスのプロチームLL――日本だとダブエルと呼ばれている――のリーダー、pictogram(ピクトグラム)であるようだ。

 

 そして、二位三位も同じダブエルのチームメンバーだ。

 

 

 

 その牙城を崩すのはむずかしい。ダブエルは、ランクマをチームで回している。それも、かなりのガチ構成だ。

 

 今シーズンも残り数日。香港での大型大会を控えた今、景気よくワンツースリーフィニッシュを決めたいのだろう。

 

 ちなみに、イギリス住まいのダブエルと戦えているのは、彼らが香港に先入りして、アジアのサーバーでランクマを回しているからだ。

 

 普段は戦えない世界最高峰が相手ということで、今は俺にとってもチャンスなのだった。

 

 

 

「ふーむ……」

 

 

 

 俺は腕を組み、策を考えた。

 

 目下、俺の目標は、世界ランク一位になることだ。

 

 理由は――これを翠に言えば、同語反復(トートロジー)であると言われそうだが――単に、目標が欲しかったからだ。

 

 順位を上げるというのは、これ以上なくわかりやすい目標だ。そして目標があると、ゲームとは捗るものなのだ。

 

 

 

 ただし、障壁がある。

 

 まず、俺の決定的な弱点として、ソロプレイであることが挙げられる。

 

 単身でプレイするわけだから、俺が組むことになるのはその時々の人間で異なるのだ。

 

 バロン帯にソロやデュオで潜っている人間は多くないから、だいたいはあまり強くない、適当なマスターと組むことになる。

 

 さらに運が悪いと、バロン帯がほとんどいない対戦――いわゆるリスクマッチに入れられることもある。そういうマッチは大変だ。こちらよりもRPランクポイントが低い対戦相手は、勝ったとしてもあまりポイントをくれない。そして散々な負け方をすると、ポイントがごっそりと取られる。もう、信じられないほどに。

 

 

 

 なにより、俺みたいなソロプレイヤーには、ダブエルがやるようなチームワーク戦は、到底臨めない。

 

 こうした彼我の差を踏まえたうえで、それでも俺はダブエルにポイントで勝ちたかった。

 

 

 

 どれだけ考えても、うまい策はないようだった。

 

 とにかく、鉄則はポイントをうしなわないこと。そしてダブエルと同じマッチに入れたときは、確実に連中を沈めることだ。つまり、俺のポイントを増やすのではなく、向こうを減らすという考えだ。

 

 性格が悪い考え方のようだが、それが対戦ゲームというものだ。

 

 

 

「……もう昼か。向こうも相当まわしているし、そろそろ休むころだろうな」

 

 

 

 遮光カーテンを閉め切っているから感覚がおかしくなってくるが、今はぜんぜん真っ昼間である。あと少ししたらばあちゃんが起きてきてしまうから、そうしたら飯を作るなりなんなりしないといけないが、それまでは俺の自由時間だ。

 

 

 

 春休みは最高の環境だった。学校がないから、俺はもう羽を伸ばしたい放題だ。家でゲーム三昧に過ごし、たまに翠のところに行って様子をみる。

 

 そのループだけでいいなんて、なんてすばらしいのだろうか――。

 

 

 

 ――いや、待て。

 

 落ち着け、亜熊杏介。

 

 俺は、このあいだもらったチラシを引き出しから取り出した。

 

 

 

『高校受験の勝利のコツは早めの準備! 春期講習でライバルに差をつけよう!』

 

 

 

 ばあちゃんが、駅前で配っていたのをもらってきたらしい。

 

「ゲームばっかしてないで、金なら出してやるから行ってきな!」と言われたのが、数日前だった。締め切りは、もうあと数日だけ。

 

 そう――今年は、高校受験の年だ。

 

 俺とていつまでもゲームばかりしていられないということだ。

 

 来年にはどうにか高校に行って、そのあとは、まだ想像もできないが、がんばって大学に進学して、どこかの企業でサラリーマンになって……こういう風にゲームばかりしてはいられなくなるのだ。

 

 

 

 しかし、そうはわかっていても。

 

 

 

「……俺には、どうにも無理そうだよなぁ~~~」

 

 

 

 思わず、おおきめに嘆息をついてしまう。

 

 高校でも委員長としてがんばるとしても、大学に入ったら委員長なんて役職はないし、会社はなおのことだ。

 

 この先、俺は新しく演じるべきキャラクターロールをみつけなければならないのだろうか?

 

 それが委員長よりも大変だとしたら、どうしたらいいのだろう。いや、そもそもこんなに遊んでいて、まともな高校に受かるのだろうか。

 

 ひとよりも要領が悪いのだから、将来のためにとっくに動き出していなければならないというのに、今の俺の頭のなかは、ルシオンでランク一位になることでいっぱいだ。

 

 

 

 ……将来、か。

 

 そう考えたとき、俺の脳裏に、決まっていつも掠める単語がある。

 

 ――プロゲーマー。

 

 ゲームで勝つことを生業にする、一種の勝負師たち。この世のなかには、その道で立派に大成しているひとたちがいる。

 

 

 

 もし、俺もなれたら、どんなにいいだろう――。

 

 そこまで思ってから、これもまた決まって、いつも俺は否定する。

 

 ……いや、俺には過ぎた夢だ。俺のような社会不適合者に、そんなことができるはずがない。

 

 もっと実直な将来図を描くべきだ。安定していて、確実な職業の……。

 

 

 

 いけない。

 

 現実のことを考えていると、急激に気分が萎えてきた。

 

 経験上、こういう没入できない気分のときにゲームを再開すると散々な目に遭う。これまでだいじに貯めたポイントを放流するはめになるのがオチだ。

 

 早朝からもう七時間くらいはぶっ続けでやっているわけだし、そろそろ休憩するべきだろう。

 

 

 

 そう判断して、俺がゲームを落とそうとしたときだった。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 俺は、ロビー画面の左下に文字が書かれていることに気がついた。

 

 チャットが届いている。

 

 さきほどのマッチで組んだひとたちが、まだパーティを抜けていなかったらしい。

 

 

 

 とりあえず、俺は文面に目を通してみた。

 

 そして、驚いた。

 

 

 

:ようやく、あなたとマッチすることができました

 

:私は、ずっとあなたを探していました

 

:あなたに、たいせつなお話があります。聞いていただきたい

 

 

 

 ……なにかのいたずらか?

 

 これまでも、組んだひとからチャットが送られてきたことは何度もある。

 

 場合によっては、VC(ボイスチャット)に興奮した声でプレイヤー名を呼ばれることもある。

 

 が、俺はそうした手合いには、返事をしないでいた。VCにかんしては、話しかけてくるとわかった途端にミュートにしていた。

 

 

 

 だが、このときのチャットは、それまでとは雰囲気が違っていた。

 

 送り主の名は、Rikudo_999とあった。

 

 

 

:私の名前は、六道景虎(りくどうかげとら)といいます。プロゲームチーム『labylinth(ラビリンス)』のオーナーをしています

 

:よければ、私の名前を検索してみてください。Xのメディア欄に、このアカウント名が載ったゲーム画面がみつかるはずです

 

 

 

 ――ラビリンス。

 

 思いきり知っているチーム名だった。たしか、去年のルシオンの世界大会プレイオフにも参加していたはずだ。

 

 半信半疑で調べてみると、たしかに六道景虎という人物のアカウントに、Rikudo_999としてルシオンをプレイしているスクショがあがっている。

 

 多くのゲームと同じで、ルシオンも完全に同じIDは作れない。

 

 どうやら、本物のプロチームオーナーであるようだった。

 

 

 

 だが、どうして俺にわざわざコンタクトを。

 

 そう思った矢先に、新たなチャットが打ちこまれた。

 

 

 

:単刀直入に言います

 

:ぜひ、あなたを私のチームに加えたいと思っています

 

:伝説のソロプレイヤーである、あなたを

 

:そのために、このランク帯で潜り、マッチするのを待っていました

 

 

 

 俺の心臓が、大きく高鳴った。見間違いかと思ったが、なんど目をこすっても、たしかにそう書かれている。

 

 

 

:不躾ですが、ほかのどのチームよりもいい待遇をご用意するつもりです

 

:つきましては、ぜひお話だけでも

 

:このチャットを確認していただけているなら、yesとだけ打ちこんでもらえますか

 

 

 

 向こうからすれば、俺が画面をみているかどうかも定かではないのだろう。

 

 俺は――俺は、ルシオンのプレイ中に必要なこと以外で、だれかと交流をしたことはない。

 

 だが、無視をするのは問題だと思った。

 

 

 

 とりあえず、俺は言われたとおりにyesとだけ打った。

 

 

 

:よかったです。安心しました

 

:さきほどのアカウントのDMを開いておきます

 

:お話を聞いていただけるなら、なにとぞご連絡ください

 

:詳しいことは、そこで相談しましょう

 

 

 

 そこで、相手のチャットは終わったようだった。

 

 椅子から離れると、立ち眩みがした。心臓は、まだ早鐘を打っている。

 

 

 

 ……プロチームだって?

 

 俺が?

 

 いや、しかし、俺という人間には大きな問題が……。

 

 でも……もしも今の話がほんとうなら……。

 

 

 

 ばあちゃんから受け取った塾のチラシが目端に映る。そこに載っている申し込みの電話番号と、ルシオンのロビー画面を交互に見やって、俺は思わず頭を抱えた。

 

 

 

 そこからが、俺の話のはじまりで。

 

 ――そして同時に、俺の話の終わりでもあった。

 

 

 

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