逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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57話 バーチャルリアリティヘブン

「じゃじゃん! 目的地はー、ここでーす!」

 

 

 

 十分後。

 

 人ごみをすいすいと避けて進んでいく赤城さんが俺たちを導いたのは、井の頭通りにある、大きな四角形の建物だった。

 

 入り口をみるに、どうやらゲームセンターのようだ。打ち上げというからには、なにかしら飲食店やカラオケのような場所だろうと踏んでいた俺は、思わず首をかしげた。

 

 

 

「なぜゲームセンターに……?」

 

「まあまあ、いいからついてきてよ」

 

 

 

 軽い足取りで入店していく赤城さん。俺が知らないだけで、市井のギャルというものはプリクラで打ち上げでもするのだろうか?

 

 自動ドアを通過するときになんとなく及び腰になってしまったのは、委員長とゲーセンの相性の悪さによるものだった。

 

 委員長は、ゲームセンターになんか来ないものだ。

 

 いやまあ、すでにFPSでチームを組んでしまっている以上、あまりその部分を気にしてもしょうがないのかもしれないが。

 

 だいいち、この場合は不可抗力である。普通に入店するほかないだろう。

 

 

 

 一階には、UFOキャッチャーやガチャガチャの機械が大量に並んでいた。

 

 赤城さんについて、階段をのぼる。二階。プリクラがたくさんあった。まだのぼる。三階。ここはアーケードゲームがあるフロアのようだ。

 

 

 

「もいっこ上だよーん」

 

 

 

 目的地は四階らしい。いったい、なにがあるのか――。

 

 疑問を覚えながら階段をあがりきって、俺は驚いた。

 

 そこにあったのは……

 

 

 

「ここは……なんだ?」

 

 

 

 俺には、よくわからなかった。

 

 なんとも奇怪な空間だ。広いぶち抜きのフロアの各所に、ふしぎなヘッドギアを装着した人間たちが偏在している。

 

 ほうぼうにあるモニターに映っているのは、ゲームのプレイ映像のようだが……。

 

 

 

「到着ー! というわけでー、まずはここで、いっしょにVRゲームをして遊ぼうと思います! どお、おもしろそーじゃない?」

 

 

 

 赤城さんに答えを聞いて、俺は納得した。

 

 VRG――バーチャルリアリティゲーム。

 

 その名のとおり、視界すべてをゲーム映像として映し出し、自分が右に首を振れば右を、左に振れば左を、リアルのからだの動きに沿って画面が描画されるゲームだ。

 

 たしかに、渋谷にVRゲームの施設ができたというニュースを、少し前にみた気がする。何年か前にもあったが、あまり出来がよくなくて早々に撤退したのを、ブラッシュアップしてもういちど開いたのだとか。

 

 その刷新がうまくいったのか、今はなかなか評判であるという。

 

 

 

「俺の記憶では、予約を取るのがむずかしいという話だった気がするが……」

 

「その点は安心して! じつはここ、QGの企画でいっかい来たことがあって、そのときに優待チケットもらったんだよね。これ、予約を無視して入れるみたいなんだ」

 

 

 

 へへんという表情でチケットを颯爽と取り出す赤城さん。

 

 なるほど、仕事のツテというやつか。

 

 さすが、人気ストリーマーは違うな。

 

 

 

「しかし、すでにいちど来ているのなら赤城さんはあまりおもしろくないんじゃ」

 

「そんなことないよ。撮影のときはちょっとお試しでやっただけだし、それにふたりがやってるとこみたいし! こういう機会じゃないとチケットも使えないしねー」

 

 

 

 早速チケットを持って受付に向かう赤城さん。

 

 翠はというと、きょろきょろとフロアを見渡し、「興味深い」とひとこと。

 

 まあ、翠の知的好奇心が満たせるのならそれに越したことはないが……。

 

 もちろん、俺個人としても興味がないわけではない。

 

 ただし、それ以上に緊張感があった。委員長ロールをこなしながらのVRというのは、あまり想像がつかないが、難易度が高そうだ。

 

 

 

 柱のところにプレイ可能なゲームの一覧があったから確認してみた。

 

 巨大ロボットと戦うSFアクションゲーム、複数人プレイの脱出型ホラーゲーム、ジャングルのなかを進むトロッコに載って動物を観察するゲーム……ほかにもいろいろあるようだ。

 

 いちばん人気なのは、どうやら有名漫画とコラボしているらしいアクション物か。

 

 

 

「あきらかにこの動物観察ゲームがもっとも優れている」

 

「そう思うか、翠」

 

「うん。でも、実際に触ってもふもふできるわけではなさそうなのが残念。技術力の向上が望まれる」

 

 

 

 まあ、まだ視覚を制御するので手一杯だろうし、そこはな。

 

 利用システムのほうを読んでみると、どうやら入場後はいちいちお金を払う必要がなく、時間内だったら遊び放題であるようだ。某遊園地と同じようなシステムだな。

 

 入り口のほうで、赤城さんが呼んでくる。

 

 

 

「いいんちょくーん、翠ぴー! 入っていいってー!」

 

「ありがとう、赤城さん。貴重なチケットを使ってもらって」

 

「いいってば。それより、ふたりに楽しんでほしいなー、あたし! 全種類やってほしい!」

 

 

 

 全種類は時間的に厳しそうだが、どうなのだろう。

 

 

 

「さっそくジャングルアニマルツアーに向かう」

 

 

 

 ふんふんと鼻息を荒くして向かう翠を、赤城さんが止めた。

 

 

 

「まー、待ちなってばお嬢さん。そういうチルいのはあとにして、さきにおすすめを案内したげる!」

 

「おすすめ?」

 

「そう――あたしがやってほしいのは、これ!」

 

 

 

 赤城さんが導いたのは、ふしぎなセットのあるブースだった。

 

 広い台座のうえに、体操で使うような平均台が置いてあった。

 

 その左右にはクッションが敷かれて、さらには巨大な扇風機が設置してある。

 

 ……いや、なんだ? これは。みてもぜんぜんわからないぞ。

 

 案内の板に書いてあるのは――

 

 

 

「『恐怖!超高層ビルから脱出しろ! 1・2人用プレイ』……」

 

「そ、そ! この台のうえでVRセットをつけると、なんかいい感じにビルの上にいるみたいなシチュエーションになんだよね。けっこうリアルなんだよ!」

 

「……なんだか、おそろしいゲームのように見受けられるのだが」

 

「んー? そんなことないヨー? ぜんぜんこわくないヨー」

 

 

 

 棒読みの赤城さん。あきらかにうそをついている。

 

 

 

「『注意。心臓の弱い方、高所恐怖症の気がある方はご遠慮ください』……」

 

「だいじょーぶだって! そういうの、書くだけ書いてるだけだから!」

 

 

 

 よくわからないが、赤城さんはどうしてもこれをやってほしいようだ。

 

 俺は冷や汗を隠れてぬぐった。

 

 高所は……比較的、いやかなりこわいほうだ。そして委員長という生き物が高いところが苦手でも、べつに矛盾はしない。

 

 となれば、かなり断りたいところだ。

 

 

 

「これよりもジャングルアニマルツアーのほうがよさそう。そちらへ行く」

 

「だから待ってってば! ちょっと翠ぴ、耳貸して。いい? これ、ふたりプレイだと片方が救出される役になるわけ。だから、いいんちょくんにさ……ボソボソ」

 

「……それで?」

 

「そしたら、……ってなるから、最後に……」

 

 

 

 なにやらゴニョゴニョと相談するふたり。

 

 その結果、

 

 

 

「クマとこれをやってみる」

 

 

 

 あの翠があっさり説得されてしまった。

 

 いったいなんの話をしたんだ?

 

 

 

「よし。じゃ、やってみよっか! ちょうど今、ほかにひといないみたいだしね。あ、すみませーん!」

 

 

 

 俺の意見を聞くまでもなく、スタッフに声をかけてしまう赤城さん。

 

 いや、そんなに断固として拒否したいというわけではないのだが……しょせんVRだとわかっているわけだし、心底からの恐怖などは感じないだろう。

 

 そう理性ではわかってはいるのだが、それでいて乗り気ではないというのもまたたしか。

 

 せめて、ほかのひとがプレイしている様子が先にみられたらいいのだが。

 

 

 

「はーい、二名様ですね、こちらにお願いしまーす。どちらが救出役をしますか?」

 

「こっちのおにーさんで!」

 

「はい、ではこっちにどうぞー!」

 

 

 

 そうこうしているうちに進行してしまい、俺は促されるままに台のうえに載ってしまった。

 

 スタッフのお姉さんの指示に従い、ヘッドギアを装着。荷物を預かってくれた赤城さんが、がんばってねー! と明るく声をかけてくる。

 

 その声が、途中ではたと消えた。

 

 ヘッドホンの部分から、音が流れはじめたからだ。

 

 それは強烈な風の音。次の瞬間、暗かった視界が急に開けた。

 

 

 

「う――うおお!」

 

 

 

 俺が思わず声を出してしまったのも、無理はないといえよう。

 

 俺がいるのは、遥か足元に渋谷が広がっている、ありえないほどに背の高いビルの屋上だった。それも普通の屋上とは違い、落下防止のためのフェンスなどがない野ざらしの屋上だ。

 

 画質は、想像していたよりもずっとリアルだ。

 

 かなり本物に近い。そう錯覚されるのは、視覚のみならず聴覚まで支配されているのと、俺を襲う暴風――つまり、触覚のためだろう。

 

 俺は、あの巨大な扇風機の意味をようやく察した。

 

 あれが稼働して、俺のからだに強風を当てているということか。

 

 

 

「きゃー、こわい、クマたすけてー」

 

 

 

 どこからか声がした。

 

 俺は驚愕に目が開く――なんと、屋上から伸びた板の先、一本立った棒に翠が縛り付けられていた!

 

 それと同時に、足元が揺れはじめた。

 

 なんだ――地震か!?

 

 思わず伏せそうになった俺の視界、右上のほうに文字が表示される。

 

 

 

『ビルの倒壊がはじまりました。

 

 縛られているひとを助けて、奥のヘリコプターの梯子につかまろう!

 

 落ちてしまったらゲームオーバーです! がんばってください!』

 

 

 

 いやいや、いったいどういうシチュエーションなんだ。

 

 だが、事実としてビル全体がゆらゆらと揺れ動いている。

 

 遠くでは爆発音と倒壊音がして、なんとなくこのビルが崩れている最中だということが伝わってくる。

 

 

 

「きゃー揺れてるー死んじゃうー」

 

「翠、だいじょうぶか!」

 

「クマ、はやくたすけてー」

 

 

 

 縛られている翠が、俺に助けを求めていた。

 

 そのとき、画面の上側でカウントダウンがはじまった。残り100秒……くっ、タイムリミットがあるのか、このゲームは!

 

 となると、はやく救い出さねば。

 

 翠の奥に、ヘリコプターが到着してホバリングを開始した。縄になっているはしごがおりてきて、その下にクリアポイントと表示されている。

 

 

 

 なぜあのヘリは俺のほうまで来てくれないんだ? ほんのちょっとの距離だろうに。

 

 まったく理解できないが、そうなってしまっている以上はしかたがない。

 

 

 

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