逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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83話 健康褐色系JKゲーマー、海谷ララの愛嬌

【8時間前】

 

 

 

 会場の関係者専用スペースは、大変な騒ぎであった。電甲杯の運営スタッフたちが縦横無尽に駆け巡り、機材を運んだり、なにかの連絡を取りあっている。

 

 関係者入り口で、選手として入場パスを手に入れた俺と翠は、そのパスを首から引っ提げた状態で、てこてこと通路を歩いていた。

 

 

 

「とてもいそがしそう」と、周囲をみやってシンプルな感想を述べる翠。

 

 

 

「大会はもう四日目だというのにな。毎日違うゲームを実況配信するし、参加人数も変わるから、当日も調整で忙しいのかもしれないな」

 

「そういえば、これまでの優勝チームはすべてLC学園の枠だと聞いた」

 

「ああ、どうやらそのようだな」

 

 

 

 電甲杯は、五つのゲーム部門の頂点を、五日かけて決めるイベントだ。

 

 初日はアクションゲームのスマテラで、二日目は硬派なFPSのRevenant、そして三日目はMOBA系のBoids of Lastsだったという。

 

 そして俺たちのルシオンが、本日四日目となっている。

 

 

 

「噂によると、学園長先生は、五つの部門すべての優勝者を、うちの学園から出すことが今年の目標らしい。となると、きょうでLCから優勝が出ればリーチか」

 

「それはなんと責任重大」

 

 

 

 まったくそうは思っていなさそうな声色で言う翠に、俺は苦笑してしまう。

 

 まあ、学園長からすれば、se1enあたりにさくっと勝ってもらえばいいわけで、本日の結果を待つのは気がラクなほうかもしれない。

 

 

 

 目的の選手控室Bをみつけて、俺は扉を開けた。

 

 そこは机を取り払った会議室のような場所で、なかにいたのは、ざっと三十名ほどの選手たちだった。

 

 服装はまちまちで、制服を着ている者もいれば、私服の者、どこかのチームユニフォームを着ているひともいた。まだ集合時間にははやいから、この部屋に集合を命じられている六十名のうち、半数程度しかいないようだ。

 

 彼らは、入室した俺と翠の制服に目をやると、なんというべきか――少々、不穏といえる目つきで一瞥をくれた。

 

 

 

「……ちっ、LCかよ」

 

 

 

 そんな声が聞こえた気がしたが、すぐにみな談笑に戻ったので、だれの声かもわからなかった。

 

 ……ふむ。

 

 察するに、これは――。

 

 

 

「どうやら、あまり歓迎されていない様子」

 

「ああ、そのようだな」

 

 

 

 俺と翠は、ごく小声でやりとりした。

 

 

 

 ここで、この本戦出場者たちの背景について軽く説明しよう。

 

 総計で百二十名、全部で四十チームとなるルシファー・オンラインの本戦出場チームの面々は、ここまでの時点で、かなり熾烈な争いを突破してきている。

 

 どんな無名の人間でも、参加要件さえ満たしていればエントリーできる都合上、日本全国の自信のある若手プレイヤーは、かなりの数が予選に参加している。

 

 

 

 半年前からオンラインでおこなわれている各リーグ戦を勝ち抜き、最後の決勝ラウンドに勝利することで、はじめて電甲杯のオフライン本戦に誘致されるわけだ。

 

 倍率でいったら、いったい何倍となる狭き門を突破してきたのかもわからない。

 

 

 

 対して、俺たちの出場枠であるLC学園枠は、学内でのチケット争奪戦こそあれど、基本的には一般枠に比べて出場難易度は大きく下がる。

 

 なにせ予選にかかるのは一日だけで(もっとも、今年は例外が発生したが)、四十チーム中の上位五位に入れば、それだけで本戦に進めるのだ。いわゆるシード枠だといっても過言ではないだろう。

 

 こうした出場難易度の格差が、ときおりインターネットでバッシングの対象になっているというのは、もとより俺も存じているところだった。

 

 

 

 これに対する反論は、LC学園は電甲杯以前に入学の敷居が高いから、そこですでにふるいにかけられているというもので、これもまた一理はある。

 

 あえて邪推するなら、ここに集った高校生たちのなかには、ゲーマー特進枠であえなく不合格となってしまった者もいるのかもしれないが、それは知る由もなかった。

 

 

 

 なんであれ、入室と同時に殴りかかられるということがないのであれば、俺としては甘んじて受け入れるほかない。

 

 

 

「おはようございます。きょうはよろしくお願いします」

 

 

 

 と、委員長らしく近くのひとに声をかけて、空いている席にバッグを置く。微妙な会釈が返ってくるばかりだったが、それも気にはしなかった。

 

 翠のほうは、われかんせずといった態度で、着席と同時にわけのわからん難しそうな本を読み始めた。もちろん、翠はこれでいいだろう。

 

 

 

「おはよー。きょうはよろしくね! 亜熊くんと……それと、C組の相戸さん!」

 

 

 

 そう声をかけられる。みると、そこにはすらっと身長の高い女子生徒がいた。俺たちと同じく制服を着ている、日焼けした肌がスポーティーな印象を与えるひとだ。

 

 

 

「やあ、海谷さん。さきに着いていたんだな」

 

 

 

 彼女は、同級生の海谷ララさんである。

 

 予選でも戦った、Revenantのプロチームアカデミー生。

 

 中学時代、熱心に活動していたバレーボール部で足をけがした際に、暇つぶしではじめたゲームでその才能を発揮し、たったの一年足らずでプロレベルにまで上達したという、変わった経歴の持ち主だ。

 

 

 

 そして彼女は、おととい開催されたRevenant部門の電甲杯で、みごとに優勝を遂げていた。

 

 俺も自分の練習があってあまり追えてはいなかったが、プロを相手にした激戦の末のドラマチックな勝利だったとして、界隈で大きく取り上げられていたのは耳に入れている。

 

 

 

「うち、ふたりとは前から話してみたかったんだけど、予選の日の打ち上げいなかったみたいだから、機会もなくってさ」

 

「俺も、海谷さんには注目していたよ。おとといの優勝、おめでとう。Revenantに続いて、ルシオンでも優勝しておかしくないくらいのうまさだと聞いている」

 

「待って、亜熊くん。その話、ちょっとシーッ、で」

 

 

 

 ひとさし指を口元に当てて、声のトーンを落とす海谷さん。

 

 たしかに、優勝というワードを出したとき、周囲の空気がピリッとしたようだった。

 

 

 

「あはは……。Reve(レヴ)の日はそうでもなかったんだけど、ルシのほうは、けっこう空気がアウェーだよね。うちとしては、バレー時代の遠征試合の雰囲気思い出して嫌いじゃないんだけど、チームメイトが委縮しちゃってて、今は外に避難してるんだ。うちは、もしお知らせとかあったらアレだから残ってるんだけど」

 

 

 

 なるほど。海谷さんがひとりなのは、そういうわけか。

 

 

 

「それより、うち、ずっと亜熊くんに聞きたいことあって」

 

「俺に?」

 

「うん。だって、愛莉ちゃんと組んでいるし。しかも愛莉ちゃん、理由を聞いても教えてくれなくて。だから、けっこう噂だったんだよ。じつは亜熊くん、ああみえてプロレベルなんじゃないかとか、あとじつは、ふたりが付き合っているとか――」

 

「それは根も葉もない噂。この宇宙の誕生を命じたのが一匹のアライグマだったというくらいに荒唐無稽でありえない話」

 

 

 

 突如として口を挟む翠。

 

 

 

「ア、アライグマ……?」と、その早口についていかなかった海谷さんが首をかしげるも、翠はぷいと顔をそむけてしまった。

 

 俺は、急いで言った。

 

 

 

「理由か。べつに、なんてことないことだよ。俺がクラス委員長として仕事してきたことについて、赤城さんがねぎらいの気持ちで誘ってくれただけだ。俺自身の腕前はからっきしなんだが、とにかく赤城さんが強くてね。こうして、なぜだか本戦まで来てしまったというところだよ」

 

 

 

 俺が、頼りにしている設定を説明すると、海谷さんはその日焼けした頬に手をやって、なにかを思い出すように首をかしげた。

 

 

 

「ふうん、そうなんだ……。だったら、やっぱりあれは偶然だったのかなぁ」

 

「あれ?」

 

「うん。あのね、終業式のちょっと前だったかなぁ。ともだちと下校してたら、学校の前で、知らない男のひとに話しかけられたの。『亜熊杏介という生徒について知らないか』って」

 

 

 

 ……なんだって?

 

 

 

「それも、ルシオンのプレイについて知りたいみたいだったんだよね。あ、でも安心してね! うちが、先生呼びますよって言ったら、一目散に逃げていったから。まあ、その前にともだちが、亜熊くんはべつにゲームとかやらないタイプだと思うとかって答えちゃってたんだけど、それ以外のことはなにも言ってないから」

 

 

 

 翠が、微妙な目配せを俺にくれた。

 

 俺もまた、微妙な目配せを返す。

 

 ……なんとなくだが、どういう経緯でそうなったのかはわかる。

 

 大元の犯人はおそらく、あの赤城さんのところの社長だろう。俺を調べさせたとかなんとか言っていたから、その一環か。

 

 まったく、最悪もいいところだ。冗談ではなく、ほんとうにハワイ旅行くらい奢ってもらいたくなる。

 

 いやまあ、委員長の適切なハワイの過ごし方がわからないから、いざ連れていかれても困るのだが。

 

 

 

「そうだったのか。それはきっと俺が赤城さんとチームを組んでいることを知って、記事にしたい人間が現地調査に来たんじゃないのかな」

 

「あー、やっぱりそういうかんじなのかな? たいへんだよね、愛莉ちゃんくらいの有名人と組むと。あ、そうだ。あとひとつ、すごい変なこと聞かれたなぁ」

 

「それは?」

 

「たしか――『エニグマが、この学校に入学しているか知らないか』って」

 

 

 

 俺の顔が、凍りついた。

 

 …………ほんとうに、最悪だ。

 

 俺は海谷さんとにこやかに対面しながら、突如としてブチ壊れそうになった腹を、彼女からみえない角度で押さえつけた。

 

 

 

「はは。なんだそれは」

 

「あはは、笑っちゃうよねー。だってエニグマって、正体不明の伝説のプレイヤーなんでしょ? うちも、ルシオンやる前から名前知ってたくらいだもん。そんなプレイヤーが学校にいたら、おもしろいはおもしろいけどさ」

 

 

 

 元運動部で元気のいい海谷さんの声は、トーンを抑えていてもよく通る。

 

 そのせいか、話を聞いていたすぐ近くの選手の子が、話題につられた。

 

 

 

「エニグマって、実際には存在しないんだろ」

 

「さすがにいるだろ」「おれ、昔いっかいバロン帯で当たったことあるよ」

 

「運営のテスト用のゴーストアカウントって聞いたけど」

 

「てか、対戦動画残っているから。あとクリップ集」「あれチートじゃないの?」

 

「チート説はずっと前に運営が否定してるって」

 

「つか国内大会の出場記録あるって話じゃん」「それ偽物なんでしょ?」

 

「アダムキラーの別垢説とかあるけどね」「引退したってほんとうかなぁ」

 

 

 

 もともと、チーム内だけで話していた選手たちが、共通の話題を得て自然と会話をはじめてしまった。いっきに控室内が盛り上がり、話し声で満ち溢れる。

 

 そのとき、海谷さんのチームメイトが部屋に戻ってきたようだ。ともだちに手を振る海谷さんが、またあとでね! と残して去っていく。

 

 ちょうどいい。今のうちに退散しておこう。

 

 

 

 翠にことわると、俺はそそくさとその場を跡にした。

 

 まったく、たまったものじゃない。

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