逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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87話 プレファイトの咆哮

 俺たちの席は、ステージに向かって最後列、もっとも左端の位置だった。

 

 すでに起動済みのPCは、ルシオンのログイン画面で止まっている。

 

 ……いやな緊張感だ。

 

 

 

 この、かなり特異な空気。今、このホールは二分されていると、そう感じる。選手たちのいるステージと、それ以外の場所で。

 

 つい先ほどまでとは別人が集っているようだ。多くは高校生や大学生、あるいはついこのあいだまでランドセルを背負っていた中学一年生まで混ざっているほどに若い空間であるというのに、その空気は、粘り気を感じるほどに重い。

 

 その正体は、闘争心だ。

 

 全員、ブッ倒す――それくらいの意気と勝ち気が、どのプレイヤーからも感じられてしまう。

 

 

 

 それは、あの日と同じ空気にほかならない。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 果たして気圧されたのだろうか、俺は思わず口元をおさえてしまった。こころの奥底に封印しているものが、腹の奥からせりあがってくるようだ。

 

 

 

「だいじょうぶだよ、いいんちょくん」

 

 

 

 その俺に、すぐとなりに座る赤城さんが声をかけてくる。

 

 

 

「あたしたち、たっっくさん準備してきたじゃん。チーム組んでから、一生分やったかなってくらい、ルシの練習してきたじゃん」

 

「赤城さん……そうだな」

 

「勉強と同じで、積んだ時間は裏切らない。それは事実だと思う。もっとも、正しい方向で努力できていればだけど」

 

 

 

 ヘッドセットを装着しながらの翠の言葉に、赤城さんはうなずいた。

 

 

 

「翠ぴ、いいこと言う! これ自信もって言えるけど、練習の量と質、カンペキなバランスで積んできたの、あたしたちがいちばんだと思うよ。それに、このプレファイトのために読みも回してきたから、ぜったいに刺さるよ」

 

 

 

 ちから強い赤城さんの言葉に、俺はうなずき返した。

 

 

 

『各チームは、マッチング受付を開始してください』

 

 

 

 選手用のアナウンスが耳に届く。

 

 俺たちの戦い――電甲杯における本番戦が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

【4時間前】

 

 

 

『これは、かなり複雑な局面になってきましたね……! 前哨戦B第3試合、ラキュトス・ワンの最終ラウンドは、ビースト・フィールドの西で確定となった様子です』

 

『こうなってくると、圧倒的に優位なのは先入りしている4チーム。とくに、はやめのムーブで丘上の城砦に拠点を作っている、”実業団YUBI7”がほとんど盤石の構えとなりますね』

 

『地元出身の実業団がスポンサーとなっている、埼玉の高校生で結成されているチームです。率いるNakat0-on(ナカトーン)選手の全国予選のキルポイントは、なんと総合4位を記録! 非常に手堅い動きで、ここまで着実に勝ちを重ねてきたチームですね』

 

 

 

「……いやな展開になってきたわね」

 

 

 

 全体マップの教える全貌を眺めながら、シャオは長い脚を組み替えた。

 

 シャオの座るパイプ椅子のとなりでは、前のめりになって、祈るように両手を組んでいる周藤みる――愛称みるっちの姿があった。

 

 

 

「どうしよう、シャオ姉。これ、愛莉ちゃんたち的にはかなり悪いよね? ここまでの試合でも、あんまりポイント取れてなかったのに……!」

 

「ちょっと、肩をゆすらないでよ」

 

 

 

 愛莉たちのチームは、折り返しとなる第3試合の時点で、全体の順位は11位だ。

 

 第5試合が終了した時点で10位以内に入っていないといけないから、今のマッチは勝負どころだといえる。

 

 

 

「ふたりとも、コーヒーをもらってきたわよ」

 

 

 

 部屋に入ってきたのは、マネージャーの宇野だった。

 

 シャオはお礼を言って缶コーヒーを受け取ったが、観戦に夢中になっているみるっちのほうは、生返事をするだけだった。

 

 宇野は、机のうえに置いてある大量の袋のなかから、有名なパティスリーのいる店の包装菓子に手を伸ばすと、いくつか見繕ってふたりの傍の机に置いた。

 

 

 

 この場所は、今回のイベントでQuiet Girlsの面々に与えられた場所だった。袋の数々は、ファンたちから受け取った差し入れである。

 

 ファンミーティングが終わったあと、シャオとみるはここに残って観戦することを決めていた。シャオのほうは衣装を着替えていたが、みるはそのままの格好でモニターに食いついている始末だった。

 

 

 

「……わたしにはわからないけど、あまりよくない状況なの?」

 

 

 

 ゲームには明るくない宇野が、そう質問してくる。

 

 

 

「一般には、そうね。安全地帯の外にいるチームにとってあとから入りづらい場所が最後の舞台になってしまったから。愛莉のチームがいるのは、その外よ」

 

 

 

 自身もルシオンのマスターランクに達しているシャオは、あらためて戦況を確認した。

 

 第3試合のラウンド4現在、残存チーム数は13チーム。愛莉の率いるQuiet BearSは脱落こそしていないが、立ち位置としては、あまりいいとはいえない。

 

 しかし、だからこそシャオには読めない部分があった。

 

 もしも自分が愛莉といっしょにプレイしていたら、この最終安置を危惧して、遅くともラウンド3のうちに行動を起こして移動することを提案していたはずだ。

 

 

 

 だが実際には、愛莉たちのチームは移動を起こさなかったどころか、少々リスキーといえるファイトを仕掛けてまで、リングの外周を取り続けている。

 

 おかげでキルポイントが稼げてはいるが、そのかわりに順位ポイントが見込める状況にはなっていない。

 

 

 

「……たぶん、なにか意図があるわね」

 

 

 

 唇の傍のホクロに触れながら、シャオはつぶやいた。

 

 

 

「わざとやってるってこと? でも、それってどうして? この前哨戦のルールって、上位10チームが最後の本戦に進めるんでしょ。だったら、安定してリングのなかに入れるように動かないと……!」

 

「普通はそうね。基本的には、どのチームも中ムーブを徹底しているようだし」

 

 

 

 そのとき、モニターから実況者の大きな声が響いた。

 

 

 

『さあ、ラウンド3の縮小がはじまります……! 各チーム、ここでどう動くか……と、もっとも動きがあるのは、やはりというべきか東の混雑地帯ッ! 合計4チームがひしめきあう状況、さながら爆弾が破裂する寸前ですッッ!』

 

『はじめに動いたのは、第1試合チャンピオンの"DariaMids"! 勢いそのままに、ここのマッチ2でもキルを稼ぐつもりでしょうか。エースのKuroRock(クロロック)選手がスキル〈アドレナリン〉を吐いて……ファイトがはじまりました、立て続けにダウンを取ります!』

 

 

 

「これ、愛莉ちゃんどうなるの? いいから、愛莉ちゃんとこ映してよ、愛莉ちゃんとこ! もう、なんで映さないの、人気投票1位なのに!」

 

「画面に怒ってもどうにもならないわよ。ほら、ちゃんと座りなさいってば」

 

 

 

 熱くなるチームメイトを窘めつつも、シャオもまた画面からは目を離せずにいた。

 

 ここが正念場だ。なにせ、この東側の生き残りを賭けるチームのひとつに、まさしく愛莉たちがいるのだ。

 

 

 

『かなりすばやいキルですね。しかも使用スキルは、なんと〈リズムインヘル〉です』

 

「バースト系のアサルトライフルを使う際、一定のリズムで射撃することで徐々にダメージが高まるという、いっぷう変わったスキルですね。KuroRock選手はかねてよりのリズム党とのことで、年季の入った……っと、これは!?』

 

『おお――――っと、ここでKuroRock選手、突如のダウンッ! キルを取ったのは―—なんと、さきほどまで崖下で耐えていたQB_Airi選手のマレイユですッ!』

 

 

 

「わわ。シャオ姉、やったよ、愛莉ちゃんがキル取ってる! あれ、でもどうしていきなりここにいるんだろ?」

 

「……そっか。愛莉のチーム、サポをゼファーに変えているんだった。でも、ウルトを拠点取りじゃなくて、奇襲に使っている? それ自体はいいけど、これだとチームがばらばらにならない?」

 

 

 

 あまりみたことのない作戦に、シャオは困惑を覚えた。

 

 愛莉のチームのキャラ構成は、攻撃役(アタッカー)のマレイユ、支援役(サポーター)のゼファー、探索役(サーチャー)のチェリーパイだ。

 

 この構成だと、札を貼った場所に移動できる、暗殺者のゼファーの能力を用いて、基本的には安全地帯の拠点を取っていくことになる。

 

 そうでなければ、いざというときに野ざらしでの徒歩移動を強要されるからだ。

 

 

 

 だが実際には、ゼファーの貼った札を使っているのは、愛莉のマレイユのみ。いちど移動に使えば札は効力をうしなうから、単身の行動となってしまっている。

 

 すでに安全地帯にあるチームが、ひとりで浮いている愛莉を倒してキルポイントを稼ぎに来てもおかしくはない。

 

 そのはずなのだが――。

 

 

 

「……どうして? なんで、ほかのチームは動かないの?」

 

 

 

 不自然に思えるほどに、愛莉は敵に狙われていなかった。

 

 ほかのチームが乱戦になっているところに、好きにちょっかいを出しにいってキルを取っているにもかかわらず、愛莉自身が狙われることがない。

 

 からくりがあるとにらんで、シャオはいまいちどマップを注視してみた。

 

 

 

『さあ、ラウンドの縮小にともなって乱戦が続いておりますッ! おっとQB_Airi選手、すばらしいエイム、ほぼワンマガでさらにもうワンキルを重ねました……が、深追いされませんッ! 自由に外郭を泳ぎ、一方的にキルを稼いでいます。これは、ほかのチームメイトはいったいなにを?』

 

『あ、カメラ切り替わりましたね。おお、ほんとうにチームがバラけています。えー、Aguma選手は、さきほどからビースト・フィールド東の丘上でスナイパーを握って……っとぉ、惜しい! 家中から味方を狙う敵にクリーンヒットしましたが、ダウンは取れず! ただ、うまい具合におさえています』

 

『QB_Sui選手のチェリーパイのほうは、ひたすらにサーチスキルを回していますね。これは……ほお、めずらしい、〈アナライズ〉を採用しております。ほかのチームのキャラクター構成が取得できるスキルですね。競技シーンはもちろん、通常の試合でもあまり採用されないスキルですが……』

 

 

 

 ずっと考えていたシャオは、ようやくその仕掛けを察した。

 

 

 

「……これ、もしかしてそういうこと?」

 

「なになに!? なにかわかったの、シャオ姉!」

 

「今の順位をキープしたいチームは、たとえキルが取れそうな場面でも積極的には動かないのよ。愛莉は、周囲のチームの現在順位を把握しているんだわ。自分たちが狙われないってわかったうえで、キルポイントを拾いにいっているのよ」

 

 

 

 これは、ある意味では盲点だ。

 

 この前哨戦の勝利条件は、最終的に10位以内に入っていることだ。

 

 現時点で上位にいるチームからすれば、よそで潰し合いが発生して自分たちの順位があがるのであれば、わざわざ危ない橋を渡る必要がないのだ。

 

 やるとすれば、せいぜい安全な場所から撃って倒そうとすることくらいだ。

 

 

 

 この作戦をやるうえでだいじなのは、周囲のチームが何位であるのかを正確に把握することだ。

 

 だからこそ、スキル〈アナライズ〉をチェリーパイに持たせているのだろう。

 

 アナライズは、探索キャラの王道スキルであるハイビジョンとは違い、敵がどこにいるのか把握することができない。あくまでキャラ構成を割り出すためのもので、通常のルシオンのプレイではほとんど使うことがない。

 

 貴重なスキル枠をひとつ潰してまで、周囲にいるチームを同定しているわけだ。

 

 

 

 前哨戦における敵チームのキャラ構成をすべて覚えておいて、実際の第1,第2試合の結果と照らし合わせたうえで、ゲーム中に流れるキルログを確認しておけば、どのチームがどこに構えているのかは、たしかにアナライズによって、ほとんど誤差なく把握できる。

 

 

 

「愛莉がそのへんのところをクレバーにやれるとは思えないから……頭を使っているとしたら、あのチェリーパイの女の子かしら」

 

「でも、そうはいってもどうなるかってわかんなくない? ほら、やっぱり愛莉ちゃん、狙われてる! あぶない、愛莉ちゃん逃げてええええ!!」

 

 

 

 画面に向かってみるっちが叫ぶと同時に、アサルトライフルのウッドトーカーで愛莉を狙撃しようとしていたフィラリアが、その頭を撃ち抜かれた。

 

 

 

『っとぉぉ―――! ここで"PLG_Fighters"のあおい選手のフィラリアがダウン! 撃ち抜いたのは――――LC学園、"Quiet BearS"のAguma選手!』

 

『これ、かなりうまいですよ………。採用スキルはスナイパーの特化構成で、とくに〈ミラーミラー〉の使い方が非常にトリッキーです。ひとりで疑似的に射線を広げて、遠方からエースであるマレイユを徹底的にサポートしています』

 

『驚きの戦況支配力ですねーー……! 実直そうな外見に似合わず……といったら問題になりそうですがw、さすがはLC学園といったところでしょうか、一般枠の生徒さんもまた相応につわものであるようです』

 

 

 

 実況のコメントに合わせて、配信画面のスワイプには、眉間にちからを込めた様子でモニターと向き合っている、愛莉のチームメイトの姿が映し出された。

 

 

 

 そうだ――とシャオは思う。この作戦は、前線で自由に動く愛莉にちょっかいを出そうとする敵を止める役割の人間がいなければ、成り立たない。いくら緊急時はゼファーの札を貼り直せようとも、しっかり狙われてしまえば終わりだからだ。

 

 だから作戦の中核にあるのは、愛莉を守るために狙撃し続けている、あの黒縁めがねの男子高校生である。

 

 

 

 いかにもまじめそうな風貌で、実際に委員長を務めているとコメントしていた彼は、愛莉と組むことになった同級生男子としてインターネットでは少々顰蹙を買っていたが、当人がそのことを知っているのかどうかは、シャオにはわからなかった。

 

 シャオにわかるのは、さきほどのファンミーティングが終わった際の、愛莉の言葉だけだ。

 

 

 

「え、優勝の自信があるかって? んー……わかんない!w」

 

「わかんないって、愛莉……どうしても勝たなきゃなんでしょ?」

 

「そうなんだけど……や、そうだし、ぜったい勝ちたいとも思ってるんだけど。でも、ここまですっごいがんばってきたし、それに最高のチームメイトと組めてるから、よけーな雑念が消えているっていうか……もう、なるようになれーって気分なんだよねw」

 

 

 

 そう答える愛莉の顔からは、少し前までは窺えた、微妙な翳かげりがうしなわれていた。

 

 よほど充実していたのだろう――愛莉が練習に集中するようになってから、あまり話す機会が持てなかったシャオにもそう確信させるほどの、晴れやかな笑顔だった。

 

 

 

「すごい、すごいっ。シャオ姉、愛莉ちゃんのところ、ラスト3部隊に残ってる! しかもキルポイント、すごいよっ。これ、いっきに順位あがるよねっ?」

 

「もう。だから、肩をゆすらないでってば」

 

 

 

 シャオは苦笑すると、みるっちには黙って、少し引いた角度から応援している様子をスマホで撮り、自分たちで運用しているアカウントにUPした。

 

 つけるハッシュタグは、いつもの #QGwin ではなく、 #QBwin にしておく。

 

 

 

(勝ちなさいよ、愛莉――)

 

 

 

 第3試合が終わったとき、離れた場所にあるはずの観戦席から、大きな歓声が聞こえたような気がした。

 

 

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