正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~   作:うちっち

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「ドッキリ大成功」

 結局、作成された動画は全てニシャプール様のチェックを通過できず、DVDはいったん棚に放置されることとなった。出番が来る日は訪れるのだろうか……?

 

 俺がなんとなく眺めていると、マシロさんがふと思い出したようにこちらを振り向いた。

 

「そういえば、莉名さんって、お兄さんとはどうなんです?」

 

 俺は少し首をかしげた。……なんで急に……?

 

 俺の疑問が顔に出ていたのか、マシロさんはすぐに補足してくれた。

 

「いえ、リズンスターがああじゃないですか」

 

 ああ、というのがどういう状態を指すかは、もはや言葉にしなくてもよくなっていた。それはともかく、兄だっけ。

 

「お兄ちゃんとは、誘拐されてからの方がよく話すようになりました。わたしが悪の組織に出入りしてても、文句も言われませんでしたし」

 

 

 

 意外だった。だって、兄と言えば、俺が現場というか、そういう危ない場所に行くことに一番反対してた人だったから。外でも家でも冷たかったし。

 

 まあ、仲がいい姿を見せると、俺が狙われてしまうと思った……んだろう。でも、俺に前世があって精神的に大人だったからいいものの、普通だったらグレてると思うぞ。

 

 

 しかし、マシロさんからすると、俺大人説には、ちょっぴり異議を唱えたいらしかった。

 

「あたしからしたら、莉名さんって大人って感じもしないです。……いえ、100%子供でもないですよ? でも、大人っぽいところもあるけど基本子供です。体に引っ張られてるんじゃないです? ほら、感情って体の作用な部分もありますですから」

「うう、マシロさんに言われると、そうかもしれないって気がしてきます……」

「まあ、どちらでもいいです。どっちだろうと莉名さんは莉名さんですし、あたし、属性や肩書にあまり興味はないので」

 

 

 そう、あっさりと言えるマシロさんは、やっぱり大人だった。

 

 

 

「ヒーロー名『ハイランドリール』。うちの前の組織との戦いでも終盤に出てきてましたね。当時は怪人にけっこうな敵対心を持ってましたけど、よく許してくれたものです」

「そういえば、この前、兄に聞いてみました。なんであんまり文句言わなくなったのかって」

「どストレートに聞きますですね。やっぱり子供です」

「それで、ですね。マシロさんにも聞いてみたいことがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、俺が兄の部屋で、2人揃って、座ってだらだらと話していた時のことだ。その時は、確かニシャプール様が暇つぶしにとすごくバレバレの死んだふりを披露してくれて、マシロさんにぐりぐりと踏まれた話をしていた気がする。いや、それにしてもバレバレだった。薄目を開けてるし、もぞもぞ動いてるし。あれを見て「見逃してやるか」となった父は、心が広すぎると思う。

 

「本気出したらもっともっとすごいもん……」と言ってホールの隅で泣いていたニシャプール様。ニシャプール様いわくその時の死んだふりはver.1らしく、ver.6まであるらしい。「本気出したら莉名の教育に悪いと思って」とも言っていた。

 

 

 ともかくその時、俺は兄に気になったことを聞いてみた。

 

「そういえばお兄ちゃんって、昔はもっと怪人嫌いじゃなかった? なんで文句言わなくなったの?」

「すげー聞き方するな……まあ、確かに、俺も昔は大嫌いだったさ。ある事件が起こるまではな」

 

 

 

 

 まあ聞け、と言って、兄は少し姿勢を正した。思わず、俺も背筋を伸ばす。

 

「ある現場で、俺は戦いの末、大怪我を負った。捨て身の攻撃で怪人は何とか倒したんだが、怪我が深すぎて、基地まで戻れなかったんだ」

 

 

 

 ……なんと。テレビでは分からなかったけれど、そんな目に遭っていたなんて。……あれ? でも、そうしたら、もっと怪人が嫌いになるんじゃ?

 

「それが、事件?」

「いや、この後だ。俺が物陰で座って休んでいると、足音が近づいてきた。俺は当然、息を殺した。だって、その場にいるのは、敵か味方、そのどちらかしかいない」

 

 

 兄は、その時のことを思い出すように、目を細めた。俺も思わず、ごくりと唾をのむ。だって、その1/2が外れたら、兄はここにはいないんだから。

 

 

「そして、相手の姿が見えたとき、俺は絶望した。だってそいつの姿は、明らかに怪人だったんだ」

「……えっ?」

 

 

 

 1/2外れてる。なのに、なんで生きてるんだろう……? いや、良かったんだけど。

 

「そいつは、隠れてる俺に気づいて、まっすぐスタスタと近寄ってきた。俺はもう、人生終わったと思ったよ。真面目に、『最後に家族に会いたかった』なんて思ったりした」

「……そうなんだ」

「でもそいつは、俺のそばに屈みこんで、てきぱきと手当を始めたんだ。麻酔もして、傷も縫って。手慣れた様子だった。それで、手当が終わった後、俺は聞いた。敵なのに、何で手当てするんだって」

 

「そんなストレートに聞いちゃうんだ」

「うるせー。……すると、そいつは、簡単なことみたいに言うんだ。『別にどっちでもいいのです。あたし、肩書とか属性にあんまり興味ないので』って」

 

 

 

 

 兄は、息を吐き出し。「それがさ、なんか、刺さった」と、天井を見上げて呟いた。誰よりも肩書と属性に振り回されてきた兄だからこそ、だろう。

 

 

 

 

「俺は、その時まで、そいつが男だと思ってた。いや、声は高かったけど、何せ滅茶苦茶に着ぶくれしてたからな。確かにすげー寒い日だったが……」

「あたし、って言ってるから、多分女の人だよね」

「だから、『命の恩人の顔を見たい』って、何度も頼みこんだ」

 

 あれ、いい話だったのに、なんだかだんだん変な方向に……?

 

「そうしたら彼女、被りものを外してくれてさ。かぽっと。敵に顔を見せるなんて、何の得にもならないのにさ。言ってた通り、肩書も何も気にしていないみたいだった」

「かぽっ、ってことは……けっこう大きなの被ってたんだね」

「たぶん俺より年上かな……とても綺麗な丸い瞳をした、細身の人だった。それで、俺に向かって、控えめに笑って、言ったんだ。『これからはもう少し無理せず、自分も大事にしてくださいです。あなたが死んでしまうと、少なくともあたしは悲しいですよ』って」

 

 

 そこまで話して、兄は、ふーっと大きなため息をついた。

 

「……俺は、今でもあの人のことを尊敬してる。だから、怪人だとか正義の味方とかで区別したりしない」

「それで? その後、その女の人は?」

「俺の基地の増援が来るまで、俺と一緒にいてくれたよ。それで、増援の姿が見えて、振り向くと、もうその人の姿はどこにもなかった」

 

 

 

 

 

 兄は寂しそうに首を振り、今でも戦場で彼女の姿を探すことがある、と恥ずかしそうに白状した。彼女の姿は目立つものだったから、いればすぐにわかる、と付け加えて。

 

 

「目立つって、いったいどんな姿だったの」

「彼女、フェイスシールドを被ってたんだ。濃いスモークの入った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、マシロさん。ストレートに聞きます。お兄ちゃんと知り合いですね?」

「知り合い……ではないですね」

 

 マシロさんは、あっさりと首を横に振った。……あれ? 絶対そうだと思ったんだけど。口調もそのまんまだし……。

 

「たまたま戦場ですれ違った人、くらいです」

「ほらやっぱりマシロさんじゃないですかぁ! その節はありがとうございました! でもなんで知り合いじゃないなんて言うんですか!?」

 

 俺が、お礼を言いながらキレるという不安定な情緒を見せたのに、マシロさんは全く動じなかった。

 

「あたしの中では、知り合いってもう少し関係が構築されたものを指しますです」

「あと、なんでフェイスシールド脱いじゃったんですか? マシロさん美人なんだからそんなことしたら好きになっちゃいます! お兄ちゃん、明らかに恋してる瞳でしたよ?」

「ハイランドリールのサンプルがたくさん取れたので、少しくらいはいいか、と思ったです。ギブアンドテイクです」

 

「じゃあ、死んだら悲しいとかいうのも……」

「強いサンプルの持ち主は死んだら悲しいです。生きていてほしいです」

 

 

 

 やばい、マシロさんの言葉の真意が即物的すぎる……。こんなことを聞いたら、兄は人間不信に陥ってしまうような気がした。

 

 ……よし。黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少ししたある日のこと。小学校で、避難訓練が行われた。基地に帰ると、さっそく2人にその話をする。お・か・し、だよな。押さない、しゃべらない、か、か、……うん。なんだっけ。

 

 ニシャプール様の時代にもやっぱり避難訓練はあったらしく、わくわくした様子で何度も頷いている。

 

「そうよ! 訓練は大事よね!」

「意外にそういうところストイックですよね、ニシャプール様」

 

 ……あ。「意外に」とか言ってしまった。俺も最近油断が過ぎるかもしれない。

 

 

 

 

 一方、ニシャプール様は何も気づかず、嬉しそうに何かを考えている様子だった。

 

「じゃあ、うちでも、ちょっとテストしましょ。緊急事態が起こったときの訓練! 2人も、ちゃんと冷静に判断できるようになってもらわなきゃね!」

「だって、わたしの教育に悪いって言って手抜くじゃないですか。本気見せてくださいよ! 見たいです!」

 

 俺が頼み込むと、ニシャプール様はしばし悩んでいたが、最終的には頷いた。

 

「なら、ver.6を見せてあげる。本当に死んでると思ってびっくりしないでよね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな風に宣言したら意味ないと思うんですけど……」

「どうせ、何も考えてないのです。それに、あたしの知る限り、死んだふりはver.5までしかなかったはずです」

 

 ……まあそうだよな。だって5回負けてるんだから。

 

 

 

 

 マシロさんと俺が買い物から帰ると、ホールの方から、不自然なまでに大きいテレビの音が聞こえてきた。俺たちはそっと顔を見合わせる。ニシャプール様は指名手配されているので、買い物は俺たちの役目なのだ。

 

 

 いつものニシャプール様は、俺たちが帰ってきたら、テレビを見ていたとしても中断して、飼い主の帰ってきた犬みたいに、嬉しそうに駆け寄ってきてくれるのに。何か盛り上がる番組でも見ているのだろうか。

 

 ソファーには、こちらに背を向けて、テレビを見ているニシャプール様の後ろ姿が見えている。

 

 しかし「ドッキリ大成功」の札がはみ出しているのも見えてしまい、俺は少し動揺した。

 

「ど、どうしましょう。丸見えですよ」

「また踏んでやるしかないのです」

 

 

 

 ずかずかとマシロさんが進んでいくので、慌てて後を追った。こうなったら、脅迫動画で培った演技力を発揮して、驚いているふりをしてあげるくらいしか……!

 

 

 

 

 

 

 しかし、近づくと、「何かおかしい」と感じた。

 

 

 ニシャプール様は、帰ってきた俺たちをスルーして、テレビを見っ放しになんてしない。ニシャプール様は、今映ってるような、お固いニュース番組を見たりしない。ニシャプール様は、「ドッキリ大成功」の札を持っていたらそわそわするので、ソファーで座ったまま動かないなんてできない。

 

 

 

 出掛ける時は、こんな風にホール内に鉄さびみたいな匂いが立ち込めてはいなかったし。ニシャプール様は凝り性なので、こんな汚れた札なんて、そもそも使わない。

 

 

「ドッキリ大成功」と書かれた札は、飛び散った、赤黒い何かに染まっていた。今も、ぴちゃり、ぴちゃり、と赤い雫が地面に滴り落ちている。

 

 

 

 

 

 

 俺たちは、急いでソファーの正面に回り込む。すごく嫌な予感だけが、あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニシャプール様が、お腹を真っ赤に染めて、死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 ソファーは、その半ばが暗い赤色に変色していた。ニシャプール様の目はびっくりしたように見開かれており、口元からは、つうっと一筋の血が流れ落ちていた。

 

 

「マ、マシロさん! すぐに手当てを!!」

 

 隣で立ち尽くしていたマシロさんが、ハッとした後、ニシャプール様に駆け寄った。すぐに、脈を取り、目を覗き込む。その手は、ぶるぶると震えていた。しかし、マシロさんは、なぜか、救急用具を取りに行こうとしなかった。

 

「マシロさん、手当をお願いします!」

「……」

「マシロさん‼」

「……死んでる。死んでるの」

「えっ?」

 

 

 俺が振り返ると、マシロさんは、茫然としたように、ニシャプール様を見つめている。……えっ? ニシャプール様が、死んでる? 

 

 確かに、こうして耳を澄ませてみても……心臓の音も、内臓の音も、何もかも聞こえない。でも、あんなに元気なニシャプール様が? たぶん嘘だ。だってほら、そこに書いてあるじゃん。ドッキリだって。

 

 

「あ! 死んだふりですか!? そうですよね!?」

 

 しかし、マシロさんは茫然と首を横に振った。

 

「ニシャプール様の死んだふりは、血なんて再現できないの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、俺の脳裏に、この基地で何度も見直した、怪人たちの記録が蘇った。みんな最後には、どうなっていったか。「同僚だから、死体を操るのも気が引けた」と言っていたニシャプール様の困った顔が、頭によぎる。

 

 さっきまで楽しく話していても、みんなこうやって、ある日突然、死んでいったのか。だって、悪の組織の怪人と死は、とても身近なものだから。

 

 

 急激に、世界から色が抜け落ちていくようだった。まるで、俺だけを残して、世界がひとりでに先に進んで行ってしまっている、みたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「莉名さん」

 

 ニシャプール様のそばで俯いていたマシロさんが呼ぶ声が聞こえ、全速力で側に駆け寄った。すると、マシロさんはぎゅっと俺を抱きしめる。そして、耳元で、こそこそと囁いてきた。

 

「黙って聞いてください。これはやっぱり偽物です。たぶん、ニシャプール様がドッキリしようとしているんだと思います」

 

 ……思わずぴくりと身じろぎしてしまった。すると、さらに力を込めて、マシロさんは俺を胸の中に抱き寄せた。……えっ? これドッキリ? マジで? マシロさんが現実を受け止められずに逃避してしまっているんじゃ……と思ったそのときだった。

 

 俺の耳に、ニシャプール様の心音が聞こえてくる。俺は動かずに、心音の位置を探った。どうやら心音は、ホールの端にある段ボールの山の中から聞こえてくる。その心音は、普段と比べて2倍ほどの速さで脈打っていた。……あ、ほんとにドッキリなんだ。

 

「悪趣味すぎるので仕返ししてやろうと思うのですが、協力してもらえますです?」

「もちろんです」

 

 

 

 

 

 ニシャプール様の死体の偽物を、そっとソファーに横たえて見つめていると、ホールからいったん出て行ったマシロさんが戻ってきた。手に、青くコポコポと泡を立てる液体が入った小瓶を2つ、持っている。彼女は、瓶をコトリとテーブルに置いて、寂しそうな笑みを浮かべ、振り返った。

 

「ニシャプール様がいなくなったら、もうこの組織もおしまいですね。莉名さんは、家に帰ってください。さよならです」

「マシロさんは、どうされるんですか?」

「あたしは、ニシャプール様についていこうと思います」

「わたしも、お供します。だって、わたし、No.3なので」

 

 すると、マシロさんは、優しく微笑んで、俺に瓶をそっと手渡した。ひんやりとした瓶からは、まるでサイダーみたいな甘い匂いがした。

 

「それでは莉名さん、寂しがり屋なニシャプール様を1人にしないよう、追いかけましょうか」

 

「はい。マシロさんが一緒なら、怖くありません。……わたし、この組織で暮らせて、幸せでした」

 

 

 

 

 そして、俺たちは、瓶の中身を一気にあおった。その瞬間、ホールの隅にある段ボールの山が吹き飛ぶ音が聞こえたが、もう、体から力が抜けていき、振り向くことはできなかった。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

「仕返しって、どうするんですか?」

「死んだふりには死んだふりです。あたし、部屋から薬を取ってきます。それを飲むと一時的に仮死状態になるので、後追い自殺をしたと思わせて、こんな悪趣味なこと2度とできないようにしてやりましょう」

「仮死状態?」

「感覚は生きてるので、目も見えるし耳も聞こえますです。ただ、外から見たら死体に見えるだけで。じゃ、5分経ったら起きられますので、バラすタイミングは莉名さんの判断に任せますです」

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 さっきマシロさんとした作戦会議を、床に倒れたままで思い返した。うん、力は入らないのに、目は見えるし音も聞こえる。というかなんでこんな薬を……? でもマシロさんはなんかもっといろいろ持ってそう。

 

 

 

 

 横になった視界の中で、マシロさんはニシャプール様の死体(偽)の手をぎゅっと握り、ソファーに身をもたれかからせながら、目を閉じていた。あ、確かにあっちの方が後追いっぽい。

 

 

 

 

 段ボールの山から、ぺたりぺたりと足音が聞こえ、目の前に、足が2本やってくる。そしてニシャプール様の顔が目の前に現れ、震える手を伸ばしてきた。

 

 起きて起きて、と俺の頬をぺたぺたと叩いたり、脈を取ったりし始める。そして、ニシャプール様は力なく、ぺたん、と床に両膝から崩れ落ちた。しかし、次の瞬間、すごい勢いで振り向く。

 

「マシロ! 起きて! 莉名が、莉名が死んでる!」

 

 しかし、マシロさんは、揺らされても、叩かれても、目を開けなかった。俺と同じものを飲んでいるだろうから、開けたくても開けられない、が正解だろうけど。

 

 

 

 ニシャプール様は、死んでいる俺とマシロさんを何度も交互に見つめた後、くしゃくしゃに顔を歪めた。

 

「2人とも、ごめん、ごめんね……!

 

 ニシャプール様は、地面にうずくまって、子供みたいに泣き叫んでいる。ポロポロと、大粒の涙を零して泣いている。

 

「ちょっと、びっくりするかなって思っただけで……! 私が2人を置いて死ぬわけないじゃない……だって、私たちは、3人揃ってこそのニシャプール団なんだから……」

 

 

 

 

 ニシャプール様は、涙を流しながら、マシロさんにそっと抱き着いた。

 

「マシロは、いつも一緒にいてくれたわよね。嬉しかった。誰もいなかったら、たぶん、私、くじけてたと思うわ。駄目なところを見せても、最後には一緒についてきてくれるんだって、勝手に思ってたの。こんなこと言ったら、きっとマシロは笑うわよね。私、マシロの素直に笑わない笑顔、大好きだった」

 

 マシロさんは目を開けない。いや、開けられないのだろう。だってまだ3分しか経過していない。体感だと30分くらい経ってるのに。ニシャプール様、アクティブすぎです。

 

 

 

 ニシャプール様は、続いて俺の前までやってきた。しゃがみ込み、そっと頬に手を当ててくる。そして、優しく、瞼を閉じさせられた。……あ、見えなくなった。

 

「莉名がいてくれたから、私、頑張れた。なんとかちゃんとしたところを見せようと頑張ったのよ? 私、ちゃんと大人だった? 莉名がね、だんだん心を開いてくれてるみたいで、私、もし自分に娘がいたらこんな感じなのね、って思ってた。莉名が来てから、次は何しようって、毎日がこんなに楽しみだったことはなかったわ。……っごめん、ごめんね。駄目な大人だったわよね」

 

 

 

 

 

 ニシャプール様は、嗚咽を上げながら、ホールを出て行った。そして、すぐに戻ってくる。その手には、大きな日本刀が携えられていた。そのまま正座して、細い首に刃を当てる。……こ、これはさすがにまずいんじゃ……! というかさっきから行動が早すぎる……!

 

 

 

「すぐ追いかけたら、会えるかしら……? 駄目か、2人と違って私は地獄行きだもんね。……今、すごく怖いわ。勝手でしょ。死なせておいて、怖いだなんて。……じゃあ、またね」

 

 5分が経過した瞬間、マシロさんはソファーの脇から飛び上がり、俺は床から跳ね起きた。驚きすぎたらしいニシャプール様は、なんと正座のままでぴょんと宙に浮いた。

 

「えっ? ゆ、幽霊!? ゾンビ!?」

 

 

 言葉に詰まった俺と違い、マシロさんは冷静だった。ソファーの脇に置いてあった「ドッキリ大成功」の看板にスタスタと歩み寄り、無造作に掲げる。

 

「逆ドッキリなのです。だから、追いかけても会えませんです」

「へ? ぎ、逆ドッキリ? ……えっ? なにそれ?」

 

「ニシャプール様、わたし、ニシャプール様とマシロさんと会えて本当に良かったと思ってます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態を理解した後、ニシャプール様は、段ボールの山に引きこもったまま、3日間出てこなかった。

 

 さらに、ニシャプール様がようやく顔を出したとき、実はこっそり撮影していたらしいドッキリの動画の編集をマシロさんが行っていたことで、再びニシャプール様は段ボールの山にこもった。その後、ニシャプール様が出てくるには、さらに4日を要した。

 

 

 

 そして、3者の合意の元、ニシャプール団の掟には、「ドッキリをしない」という文言が太字で付け加えられた。もし破れば、ニシャプール団を永久追放であるという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1週間後。

 ようやく段ボールの山から顔を出したニシャプール様のご機嫌を取るべく、俺とマシロさんは、ある提案をした。顔を合わせて、せーの。

 

「久しぶりに街を見に行きません? ほら、支配したら全部あたしたちのものになるわけですし。新しい街をどんなふうにするか、考えましょうよ」

 

 マシロさんと話し合って出した結論。ニシャプール様は最近、基地から出なくなってしまったから、暇すぎてあんな凶行に走ってしまったのではないか。

 

 

 

 

 俺とマシロさんは、互いに目配せをし合った。単純に遊びに行こうと誘ってもいいけれど、今は拗ねて乗ってこない可能性がある。ここは悪の組織としての任務なのだと言った方が、ニシャプール様が乗ってくると思われた。

 

 

 

 

 予想通り、ニシャプール様は提案を聞いて、顔をぱっと輝かせた。嬉しそうである。

 

 

 

 

「そうね! 私、街に行きたいわ!」

 

 

 

 かくして、ニシャプール団は、街へ視察に出かけることとなったのだった。

 




ニシャプール様はリズンスターと5回戦っています。
バレバレの死んだふりをして見逃されていたのは、おそらく初期です。(莉名が「かつてまだ俺が小さい頃」とか言っているので)

その後、莉名が10歳になって、素質がハチノスツヅリガであることが発覚したことで、初めてニシャプール様の危険度は極大に跳ね上がったわけですね。でもニシャプール様は努力で進化するので、その頃にはあり得ないほど強いし死んだはずなのに平気な顔をして現れるし、基地の中も見てくるようなヤバい存在になっていたと思われます。そんな相手が最終決戦後も姿を消してどこにいるか分からなかったんですって。

これは悪い夢以外の何物でもない(リズンスター)
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