正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~   作:うちっち

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「ぐわあああああああああ!!!!!」

 マシロさんの予想によると、この隠し部屋に素体を用意した首領は、ここに自分の意識を飛ばした。そして、しばらくカプセルに身を潜めた後、隙を見て出ていった可能性が高いらしい。

 

「記録を見ると、素体でなく誰かに同化して意識を乗っ取る研究もしていたらしいのですが……ニシャプール様は、何か覚えはないです?」

「なんでそんなこと聞くの?」

 

 ニシャプール様は首をかしげ、曇りのない瞳でマシロさんを見つめた。この流れだとニシャプール様の名前も記録に出てきてるんだろうなぁと思うのだが、それは伝わらなかったらしい。

 

 

 

 

「そういえば、首領が亡くなった後、しばらく私の夢枕に首領が立ったわ。『ワシの魂を受け継いでくれ』とか言って」

 

 一瞬、マシロさんはぴくりと肩を動かした。そして、気のない様子で続きを促す。

 

「それで、どうしたんです?」

「新しく作る組織の名前は『ニシャプール団』にしようと思うんだけど首領はどう思いますか、って聞いたんだけど……なんか反応悪かったわ。『おまっ……お前! そうじゃない! 聞け! いいから!』って言ってた」

「それで?」

「首領がそこまで言ってくれるならニシャプール団にするわねありがとう、って言ったらなんか黙っちゃった」

 

 すると、マシロさんはほっとしたように小さくため息をついた。

 

「たぶんこいつと同化は無理だと思われたのです。……もう少し、記録を確認してみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、マシロさんが記録を確認している間、俺とニシャプール様は「気が散るのでちょっとあっちに行ってください」というオブラートに包まれた言葉により、その場を追い払われてしまった。

 

 しばらくマシロさんの方を気にしていたニシャプール様だったが、気を取り直したように俺の方に向き直る。

 

「莉名も、自分の身くらい守れるようになってた方がいいかもね。私たちは訓練行くわよ!」

「はいっ!」

 

 

 

 

 そして、なんとその日の訓練で……俺は「変身」できるようになった。頭の上に、「茶色の蛾が羽をたたんでとまっている」みたいな形の小さな帽子が、ちょこんと乗るようになったのだ。うーん、地味。さすが俺。

 

 

 

 でも、帽子が乗るという形になったのは、以前に見たシマエナガ怪人のマシロさんの可愛さが残っていたからだと思う。俺が変身を見せに戻ると、マシロさんはニシャプール様を何度も振り返りながら、ふふん、と誇らしげな笑みを浮かべた。

 

「莉名さん、あたしとお揃いですね。ニシャプール様でなく、あたしと」

 

「……ずるい。ずるいわ! 私だってお揃いになりたかった!」

 

 

 

 

 ニシャプール様は泣き叫びながら何度も地団太を踏んだけれど、どうにもならなかった。何度変身してもこうなってしまう。どうやら、最初に変身した姿で固定されるみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ニシャプール様は特に姿が変わらないよなぁと思っていたら、変身後は、背中に透明の翅が飛び出していた。スタイリッシュである。

 

 

 

 

「そういえば、ニシャプール様。もし、首領が出てきたら。ニシャプール様は、悪の組織に戻っちゃうんですか……?」

「今も悪の組織なんだけど……まあ、そうねえ。あっちの出方次第かしら」

 

 

 ニシャプール様は、そこで視線を動かし、俺の方をどこか優しい目で眺めた。

 

「調子に乗ってる正義の味方をぎゃふんと言わせる、とかだったら、共闘もありね」

「共闘?」

「前の組織はもうなくなっちゃったもの。だから、今の私が所属してるのは、ニシャプール団だけ」

 

 ニシャプール様はそこで話を切り上げ、ニッコリと笑った。

 

「そんなことより莉名、変身できるようになったなら次のステージを目指すわよ!」

 

 

 

 ニシャプール様から言われ、俺はやる気を示すために、両手を、おー、と上に突き上げた。……でも、次のステージってどこだろう……。

 

 すると、ニシャプール様は、びしりと俺に向かって指を向けた。

 

「それは必殺技よ! 私が無機物を操れるように、莉名も何か身に付けないとね!」

「必殺技……!」

 

 なんと心震える響きだろう。そして、俺はしばらく考えた。俺の必殺技っていうか、特技って何だ? ハチノスツヅリガの特徴としては、耳がいいことと、えーっと、ビニールとか廃棄物を食べること? ビニールを食べる必殺技……?

 

「別に、元の生物にそこまでこだわる必要はないの。そりゃ、ある程度は関係するけどね。私だって、決まった虫に卵を産んで操る、っていう蜂だけど、別に操る相手に全員卵を産んでるわけじゃないわ。大事なのはイメージよ。元の生物の力を、どこまで拡張するか」

 

 確かに、ニシャプール様の「無機物全般を操る」って無敵もいいところだよな。そうか、方向性が同じなら、多少アレンジしても、イメージさえうまくいけば、実現できるのか。

 

 

 

 

「ま、ゆっくり慎重に決めなさい。コアラ怪人とか、毒への耐性を得る代わりに毒のあるものしか食べられないって能力にしたせいで、いつもお腹壊してたもの。トイレに毎日18時間くらい籠ってたわ」

 

 

 俺はその悲劇を聞き、慎重に慎重を重ねて能力を作ろうと心に誓った。いつでも先人の知恵は馬鹿にできないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その後も記録を確認していたマシロさんから、ようやく集合が掛かった。さっと駆け寄るニシャプール様と俺。マシロさんは、まだ妬ましそうな視線を送るニシャプール様を呆れたように見つめた後、なぜか視線を俺の方にすーっとスライドしてきた。

 

「ここには、首領が消えた場合の世界への影響も記されていたのです」

「えっはい。でもさすが首領ですね。消えたら世界に影響があるなんて」

「世界があるべき姿を外れると、一番影響を受けるのはその中心にいる人物なのだと」

 

 へー。まあ、そうかもしれんが……。それ俺に関係ある? まさか俺が世界の中心人物とかそういう話じゃないだろうし……。

 

「具体的に言うと、リズンスターの頭がバグる可能性が高いので一石二鳥だと書いてありますです」

「関係あった!! え!? じゃあお父さんが変なのって首領が姿を消したからなんですか!? 首領が亡くなる前からあんまり会話ありませんでしたけど!」

「それは単にリズンスターが無口なだけだと思うのです」

 

 そこで、ニシャプール様も口を挟んできた。

 

「まあ、さすがにおかしかったもんね。じゃあ、首領が生きてるって伝えたらリズンスターもまともに戻るのかしら」

「……まともに戻すんです? 今のままの方が都合よくないですか?」

 

 

 

 

 すると、ニシャプール様は困ったような顔をして、俺をじっと見つめる。

 

「だって……団員の父親があんなままだと困るでしょ? さすがに限度ってものがあると思うし……。それに私、今ならあいつに絶対勝てるから。負ける可能性なんてゼロよゼロ! 何なら片手でも勝てるわ!」

 

 同時に、遠くで何かがガタンと倒れるような音がした、気がした。耳を澄ませてみたが、その後は何も聞こえない。……気のせいか?

 

 

 

 

「あれだけバグってるとそれだけで直るとは思えないのです」

「でもあいつ、ずっとおかしいわけじゃなくない? なんか波があるわよね」

 

 そこで、俺たちは父がどういう時にまだマシになって、どういう時にヤバかったかを振り返ってみることとした。

 

 

 

 

(まだマシ)

「……強いて言えば、莉名が最初に誘拐された時とか?」

「いちおう分析してたですもんね」

 

 

(ヤバい)

「これは莉名さんと買い物に行った時一択なのです」

「わたしもそう思うわ。『画面に映せない』ってこういう時に使うんだと思ったもの」

 

 

 

 

「どういう法則性なんでしょうか……?」

「追い込まれたりピンチになるとまだマシになるとか……? だってあいつもいちおうヒーローでしょ? 逆に、娘と買い物なんてピンチと真逆のシチュエーションじゃない」

「お父さんのリアクション的にめちゃくちゃ追い込まれてそうでしたけどね……」

 

 あいつひょっとしてあれで喜んでたのか……? いや、油断するとバグるってことは、バグった結果があの行動だった可能性もある……?

 

 

「ともかく、試してみましょ!」

「どうやってですか?」

「簡単よ!!!!」

 

 ニシャプール様は満面の笑みを浮かべて胸を張った。

 

「あいつの精神を崖っぷちギリギリまで追い込んで! ちょっとでもまともに戻る気配があったら、さらにもう1歩追い込んだらいいのよ!!」

「それってもう崖から落ちてるんじゃ……」

「崖っぷちギリギリまで追い込んで病んでしまったら元も子もないのですが」

「それもまあ、そうね……。マシロ、精神科に知り合いとかいる?」

 

 困ったように言うニシャプール様に、マシロさんも首を振った。その時、俺の脳裏に、とあるチラシが思い当たった。かつて、父の机の上に積み重なっていたあれ。

 

「……わたし、児童心理の専門家のカウンセラーに心当たりがありますっ!!」

「そんなこと元気いっぱいに言わないで!」

「莉名さんがまた闇深いこと言ってるのです……」

 

 

 

 

 

「でも、どうやって追い込むかですよね」

「この前作った動画を見せたらいいんじゃないです? 椅子に縛り付けてあれを適当に上映したら、きっといい感じに精神が追い込まれると思いますです」

「採用! さすがマシロね!」

 

 

 

 

 ニシャプール様は、しばらく棚の前でどのDVDを持っていくかを悩んでいたが、選ぶのが面倒くさくなったのか、「とりあえず、全部持っていきましょ」と言って、まとめて大きなカバンに放り込んだ。

 

 

 

 一方、マシロさんはパソコンで何やら操作をして、とある動画を再生し始めた。なになに、と覗き込むニシャプール様と俺。

 

「これは持っていきますです? 結構いい感じにできてると思うのですが……」

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 金髪の女性の死体が、ソファーに横たえられていた。

 乱れのない姿勢で目を閉じて、まるで眠っているように見える。

 

 広いホールには、人の気配がない。

 照明だけが落ち着いた明るさを保ち、時間が止まったようだった。

 

 少女は、立ったまま動かなかった。

 小さな影が、ソファーの前に落ちている。

 

 

 

 しばらくして、ホールから足音が遠ざかり、また戻ってくる。

 白衣の女性が戻ってきた時、手には青く泡立つ液体の入った小瓶が二つあった。

 

 

 

 

 女性はそれをテーブルに置き、ソファーの主を一度だけ見下ろす。

 それから、少女の方を向いた。

 

「ニシャプール様がいなくなったら、もうこの組織もおしまいですね。莉名さんは、家に帰ってください。さよならです」

 

 少女は、その場から動かずに問い返す。

 

「マシロさんは、どうされるんですか?」

 

 白衣の女性は、即座に答えた。

 

「あたしは、ニシャプール様についていこうと思います」

 

 少女は一瞬、ソファーを見る。

 それから、女性の方に視線を戻す。

 

「わたしも、お供します。だってわたし、No.3なので」

 

 白衣の女性は困ったように少し微笑んだ。

 そして小瓶の一つを取り上げ、少女の手に重ねる。

 瓶は小さな手には少し大きく見えた。

 

「それでは莉名さん、寂しがり屋なニシャプール様を1人にしないよう、追いかけましょうか」

 

「はい。マシロさんが一緒なら、怖くありません。……わたし、この組織で暮らせて、幸せでした」

 

 二人は、ソファーの前に並ぶ。

 まるで、そこが正しい位置であるみたいに。

 

 同時に瓶が傾き、青い液体が喉へと消える。

 空になった瓶が、床に落ち、軽い音を立てた。

 

 白衣の女性が崩れながらもソファーに手を伸ばし、

 少し遅れて、少女も座り込むように床に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 3人は、重なり合うように死んでいた。

 まるで、これからもずっと一緒だと、誓ったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「……アウトじゃない?」

「あ、これこの前の逆ドッキリのやつですね。切り取るとこんな感じになるんだ……」

 

 ニシャプール様はしばし悩んだ。しかし、やがてそっと首を振る。

 

「すごくいい出来だけど、そもそも私たちって今からリズンスターに動画見せに行くのよね? じゃあ死んでないじゃないってならない?」

「確かに、今目の前にいる3人は何なんだ、ってなりますよね」

「力作なのですが……」

 

 マシロさんは残念そうに動画を閉じた。でもなんだかすごく未練がありそうである。ニシャプール様が、励ますように声を掛けた。

 

「もっと日の目を見る機会がそのうち来るわ! 私が保証してあげる!」

「こんなときくらいしかないと思うのですが……」

「いえいえ! お父さん1人に見せるなんてもったいないですって! だから今回は諦めましょ! ねっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして紆余曲折があったものの、動画作戦を決行すべく、俺たちは3人揃って俺の自宅にやってきた。父には、「プレゼントがあるから早く帰ってきて! リビングで待ってるね!」と罠のメールを送信済みである。嘘は言ってない。

 

 

 作戦の布陣は、

 マシロさんカウンセラーとともに別室で待機。

 ニシャプール様が父を簀巻きにして動きを封じる係。

 俺は動画の再生係。

 

 

 

 挙動不審にきょろきょろしながら、リビングのドアを開けて入ってくる父。中央のソファーに向かって歩いていくのを、ドアの近くに隠れていた俺は見送り、そっと後ろ手で鍵をカチャリと閉める。さて、作戦開始!

 

 

 

 

 

 

 鎖でぐるぐる巻きにされて椅子に縛り付けられた父の前で、俺はDVDを並べて悩んだ。なんかガタガタ揺れてるけど、変身してないからか、鎖を引きちぎるのはさすがにできないらしい。

 

 うーん……どれから見せる? いちおう時系列順の方がいいのか? でも全部つながってるわけでもないし……。まあいいか。最終的には全部見せるんだし!

 

 というわけで、栄えある1作目に選ばれたのは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――私には娘はいませんよ』

 

「ぐわあああああああああ!!!!!」

 

 

 違うんだ。俺も根に持ってるわけじゃ。手が勝手に。しかし、これで父がまともになるかどうかで、ここから先を上映するかどうかが決まるわけだが……。

 

 

 

 俺は、2枚目のDVDを手に悩んだ。

 

 でも、まともかどうかなんて、どう判断すればいいんだ……?

 

 

 

 

 

 

 するとそのとき、父は顔を上げ、じっと俺を見つめた。

 

「莉名、すまなかった。俺がしたことで、きっと取り返しのつかない傷をつけてしまったと思う。だが……」

 

 

 

 

 ピッ。

 

『もう出ていこう。だってわたしはこの家の子じゃないから』

 

 ピッ。

 

『雨が冷たい、寒いよ……帰りたい……』

 

 ピッ。

 

『雨宿りさせてもらってすみません……えっ? 悪の組織?』

 

 ピッ。

 

『リズンスター見てるー? 薄汚れた女の子を見つけたので虐待することにしたわ。まずはお湯攻め! その後は髪に熱風を浴びせて……私が飲みすぎるとお腹を壊しちゃう白い毒物を熱くしたものを飲ませて……ブランケットで簀巻きにして……』

 

 

 

 

「ぐわあああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 かくして、血も涙もないニシャプール団の手によって、計103枚のDVDはすべて再生された。

 

 

 

 

 

 

 

 再生が全て終わった後、ぐったりしている父に、ニシャプール様がおそるおそる声を掛けた。

 

「だ、大丈夫なの……?」

 

 すると、父は椅子に縛り付けられたままでゴロンゴロンと器用に床を転がり、壁まで到達すると、柱にゴンゴンと頭をぶつけ出した。まるで怨霊に取りつかれたみたいなホラーな光景だった。

 

 そして、おでこが赤くなった状態で、父はニシャプールを振り返った。

 

「すまないニシャプール。大丈夫だ」

 

「どこが!?」

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