正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~   作:うちっち

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(おまけ)「当たり所が悪い」ってつまり急所に当たったみたいなことなんだろうか

「マシロが飛び級したから、帰ってくるのが2年早くなるんだって。楽しみね!」

 

 家に帰ると、パソコンの画面越しに通話が終わった直後らしく、ニシャプール様がくるりと椅子を回転させてこちらを振り向いた。

 画面にはまだ海外の研究室らしき白い壁が映っていて、通話終了の表示が小さく残っている。

 

 おそらくマシロさんと画面越しに話していたものと思われた。俺も話したかった……。時差があるから、こちらの夜は向こうの朝だったりして、なかなかタイミングが合わないのだ。さみしい。

 

 

 

 ニシャプール様の下半身は、はぐれメタルみたいに床の上でにょろにょろと波打っている。液体金属のような光沢がフローリングに反射して、部屋の天井の照明を歪ませていた。こっちの方が動きやすいらしい。さすが素体の扱いが得意なだけある。

 

「いつ帰ってくるんですか?」

「4年ちょっとだって」

「あ、まだ結構先ですね。今の流れだと来年くらいに帰ってくるのかと」

 

 俺がそう言うと、ニシャプール様は机の横に積んであった紙束をひょいと抱え上げた。

 

 それは未開封のまま置いてあった、5年後と6年後の日めくりカレンダーだった。まだ透明なビニールがかかったままのそれを、ぱしん、と軽く叩く。

 

「これ、いらなくなったわね」

 

 そう言って、嬉しそうに本棚の奥へ押し込む。マシロさんがアメリカに行って以降、ニシャプール様は毎日、日めくりカレンダーをめくっている。なぜ日めくりカレンダーなのか。以前返ってきたのは、「進んでる感があるじゃない」という分かるような分からないような返事だった。

 

 

 

 しかし、あと4年か……。4年後っていったら、俺は高校1年生になるな。JKじゃん*1。想像すると、なぜか妙に現実味がなかった。

 

 

 

 

 

「でも、こっちの街も悪くないわねぇ。カップも壊れなくなったし。見て! 壊れたやつ、また一通り揃えちゃった!」

 

 食器棚のガラス越しに、同じ柄のマグカップが整列している。

 以前の街ではなぜか定期的に割れていたカップだ。新品なのに、ひびが入る。取っ手が落ちる。意味が分からなかった。

 

 

 

「あれもフラグだったんでしょうか? なら、ここでも有効なんじゃ……」

「ないない。あんなのあの街だけよ」

「まあ、こっちだと普通の生活しますしね……」

 

 しかし、そのときだった。

 

 

 

 

 ピシッ……!

 

 乾いた、しかし確実に聞き覚えのある音がした。

 

 

 

 俺とニシャプール様は、ゆっくりと視線を食器棚へ向ける。

 

 ニシャプール様が扉を開け、ひとつカップを取り上げる。

 光に透かす。

 細い線が、底から縁に向かって一本、伸びていた。

 

 無言。

 

「ふ、不良品かしら? もういっそチタン製とか買う?」

「素材の問題なんでしょうか……?」

 

 チタン製のカップが真っ二つに割れたらもっと怖いと思う。それってフラグじゃなく呪いとか他の何かです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、小学校生活にも次第に慣れてきた。今のところ、俺は女子小学生として振舞うことに完璧に成功している。こう見えても悪の組織の№3だし俺。演技もマシロさんのOK貰えるくらいだし。

 

 

 

 今日の体育はバレーボール。そういえば俺ってバレーやるの初めてかもしれない。前世だと体育といえばサッカーとバスケとソフトボールばっかりだったから……。

 

「莉名ちゃん!! 期待してるよ!!!」

 

 同じチームになった櫻子ちゃんが燃えている。まかせろー。

 

 しかし、ぺちん、とボールを叩いてみたら、へろへろと飛んだボールはネットを越えず。うーん……。もう少し強く当てた方がいいのか……?

 

 

 

 

「莉名ちゃん行ったよ!」

 

 再び上がったボールに合わせて、俺はちょっと真面目に飛び上がった。えーっと、ここで体を反らして……? すると、ふわりと体操服がめくれ、お腹が盛大に見えてしまった。不覚。同時になんだか四方八方から視線を感じる。

 

「思いっきり、打って!」

 

 そして、指示通り。俺はさっきよりだいぶ力を入れて、腕をボールに向かって振り下ろした。ボッ、という空気を割く音が響く。

 

 

 

 

 パァン、という先ほどとは少し違う音が体育館中に轟いた。同時にひらひらと宙を舞う、かつてボールだったものの欠片。……あ。やりすぎた。

 

 バレーってボールを割ったら何点とかない? たぶん駄目かな? そんな気がする。

 

 

 

 

「破裂した……!?」

「く、腐ってたとか?」

「食べ物以外に腐るとか使うことある?」

「ほら巨神兵とかも腐ってたし」

「あれも生モノじゃん」

 

 級友たちがひそひそと囁き合いながらこっちを見つめている。

 まずい! 何とか誤魔化さねば!

 

 

 

 

「当たり所が悪かっただけ! つ、次がんばるから!」

「当たり所が悪かった……?」

「そのセリフ人が死んだとき以外で使うことあるんだ」

 

 

 

 一方、相手チームは俺の「次がんばる」を聞いた瞬間にタイムを取った。円陣を組んで話し合う最中にも、かつてボールだった白い欠片の散らばったあたりをチラチラ見ている。

 

「あれさ、破裂しなかったらその勢いでこっちに飛んできたってことだよね……?」

「ていうかボールほぼ消えてね? 残りはどこ行ったの?」

「振った腕が見えなかった」

「当たったらどうなるんだろ……」

 

 

 

 

 

 話し合いは10分に及んだ。

 結果、向こうのチームのキャプテンが手を上げて審判に試合放棄を申告した。円陣の中心で誰かが「俺、将来まだやりたいことある」と真顔で言った瞬間、全員が頷いていた。

 

 

 

 

 俺の平穏な女子小学生生活に、暗雲が漂う音(?)が聞こえた気がした。

 ……いや! もうこうなったら勢いで誤魔化す! 不戦勝だろうが勝ちは勝ちだ!!

 

 

 

 俺は精一杯の爽やかな笑顔を浮かべて*2、櫻子ちゃんを振り返る。

 

「やった、勝ったよ!! 櫻子ちゃん、バレーボールって楽しいね!!!」

「莉名ちゃん後でちょっといい?」

 

 ダメだった。

 なお、授業は途中だったがお開きになった。体育倉庫にあるボールの経年劣化を確認するためらしい。

 

 

 

 「破裂するくらいに劣化しているなら分かるはずなんだが……」と体育教師は不思議そうに考え込みながら、時折ちらちらと俺を見ていた。あんなにまっすぐに先生の方を見られないのは生まれて初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室の端。掃除用具入れの横、窓からの光が斜めに差し込む位置。

 机を三つくっつけて、その周囲に椅子を寄せる。自然と女子だけが集まる配置になっていた。男子は廊下側に固まっていて、こちらをちらちら見ているが、会話に入る勇気はない距離。

 

 体育の授業の後らしい、制汗スプレーの匂い。俺は櫻子ちゃんほか、数名の女子に囲まれた。問い詰められる前に、急いで口を開く。

 

「あのね、ボールが巨神兵みたいに腐ってて」

「ボールじゃない。莉名ちゃん、お腹思いっきり出てた。肌白いから余計に目立つんだよ」

 

 みんなの用件は、ボールが殉職した件じゃないらしい。

 

「ふ、太ってるってこと?」

「違うよ。その体型で太ってるって言ったら殴られるよ」

「誰に?」

「主に私に」

「櫻子ちゃんにかぁ」

 

 櫻子ちゃんだって普通じゃん。確かに俺の方が細いけど。

 でも要するに、お腹が出たのが駄目らしい。確かにちょっとアレかもしれないが……。だって体育の時は肌着禁止って言われたし。ちょっと出ちゃうのしょうがないじゃん……。

 

 

 

 俺が自分のお腹をぺちぺちと抗議の意味で叩いていると、その瞬間、向こうの方の男子グループで椅子がガタッと鳴った。「こら。男子が見てるよ」と櫻子ちゃんから手を抑えられる。

 

「にしてもボール破裂するの初めて見た! 莉名ちゃん、けっこう力ある感じ?」

「ちょっと力加減分からない……かも……」

「とりあえず優しく叩いてみたらいいんじゃないかな。ほら、手は上げるけどちゃんと愛情を込める、みたいな感じでさ」

「DVする人がよく言う台詞じゃん」

 

 

 

 

 

「でもすごくいいジャンプだった。完全にネットから上半身出てたし。アニメみたい! ね、莉名ちゃんバレーボールに興味ない?」

 

 櫻子ちゃんの目がキラキラしている。いわく、一推しのアニメがあるんだそうだ。

 

 

 

 

 

 なお放課後、俺のジャンプの高さを聞いたバレーボール部がぞろぞろと勧誘にやってきた。その中には、俺と同じクラスの子も混じっていた。いや破裂したの見てたじゃん。どうやらこの学校のバレーボール部では、常人であることよりジャンプ力の有無の方が大事らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 そして櫻子ちゃんの推しのアニメ見たいって言ったら、全シリーズ見せてくれることになった。今日もみんなで鑑賞会である。

 

 

 

 部屋は薄暗く、カーテンは半分閉められている。

 テレビの光がみんなの顔を青白く照らし、さっきまで元気だった櫻子ちゃんは、推しキャラが出てくるたびに正座になった。

 

 

 

 

 そして終了後。櫻子ちゃんが感極まったようにゴロンと転がっているので、そばでしゃがんで話してたら、真顔の櫻子ちゃんが「莉名ちゃんまたパンツ見えてる」と騒ぎ出した。

 

「この前の体育の時もそうだけど、油断しすぎ。スカートでしゃがんでるとたまに丸見えだから。何か拾う時とかひやひやするもん」

「あ、だからわたしの前で男子が物を落とすんだ」

 

 俺の前でみんなもうやたらに落とす。鉛筆とか。無視するのも悪い気がして拾うけど。

 すると、その場の空気が一瞬固まった。そして、おそるおそるといった感じで、1人が口を開く。

 

「いつも拾ってあげてるの?」

「うん。すっごく見てくるよ」

 

「あいつら……」

 

 言葉に含まれていたのは怒りというより、呆れだった。

 

「わかってるなら隠しなよ。ていうか怒りなよ」

「わたしから言われると傷つきそうだし……あの年代の子ならそういうものかなって」

「たまに莉名ちゃん出してくる謎のお姉さん目線なんなの」

 

「でもね、みんな最近全然落とさなくなった。聞いてみたら、なんかそういうのは駄目なんだって。条約がどうとか言ってた。守護らねば? とかなんとか」

「ガチじゃん」

「あいつら……」

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 平積み台の上に、あのバレーボール漫画の新刊が積まれているのを見つけた瞬間、俺は反射的にタタッと駆け寄った。

 

 俺はどちらかというと、アニメより自分のペースで読み進められるコミック派なのだ。

 この作品は人気らしく、コミックはすぐ売り切れる。全巻揃えようと思ってこの前も三軒回ったのになかったし。

 

「よし……!」

 

 手を伸ばす。

 

 ――同時に、横からも手が伸びた。

 その誰かの指先が、俺の指先にかすかに触れる。

 

「……」

 

 顔を上げると、隣の席の秋月くんだった。

 

「……」

 

 なぜかお互い無言。

 俺が先に手を引いた。早い者勝ちだし。

 

「どうぞ」

 

 すると秋月君が、ぱっと本を掴んだ。

 しかし取るなら取るでいいのに、そこでいったん手を離した。……いらないのかな?

 

 俺はもう一度手を伸ばしかける。

 すると秋月君がぎゅっと本を引き寄せる。どっちやねん。

 

「……戸倉もこれ欲しいんだろ」

「うん。欲しい」

「俺も欲しい」

 

 正直に答えると、秋月君は一瞬目を逸らす。

 

 周りの店には他にも在庫があるはずなのに、なぜかこの一冊を取り合いみたいな構図になっている。たぶんどっちも「先に引いたら負け」みたいな、よく分からない意地だ。

 

「じゃあジャンケンする?」

「嫌だ」

 

 即答だった。くそう。マシロさん直伝の後出しと心理戦の出番かと思ったのに。

 

「まあしょうがないか。秋月君の方が先に触ってたよね」

「いや同時」

「じゃあ半分こ?」

「破くな」

 

 怒られた。*3

 

 

 

 そして、しばらくの沈黙。

 レジのピッという音だけが遠くで鳴る。

 

 秋月君が小さく息を吐いた。

 

「……俺の部屋、コミック全巻ある」

 

 少しだけ照れくさそうに、でもどこか誇らしげに。

 

「本当!? 見たい見たい!」

「…………来るか? 誰にも内緒にするなら特別に見せてやる」

「行きたい!」

 

 すると、秋月君は一瞬だけ固まってから、そっぽを向いた。

 

「……じゃあこれ、今日は俺が買う」

「え?」

「続きはうちで読めばいいだろ」

 

 ……なるほど。一理あるな……。

 

 

 

 

 

 

 

 それ以降、俺は、秋月くんの部屋に、コミックを見せてもらいにたまに行くようになった。男友達ができて嬉しい。俺も見せてもらってばっかりだと悪いので、アイスを持って行ったりした。「誰にも絶対に絶対に内緒」と厳命されていたので、毎回きょろきょろしながら。「これがフリというやつか……?」と、櫻子ちゃんに言おうか悩んだこともあったのだが、今のところ秘密にしている。

 

 

「ねー、そっちのアイスも気になる。ちょっと交換しよ?」

「……」

「あ、やだった? わたしのもあげるから」

「嫌じゃない、けど」

 

 俺がプラスチックのフォークに突き刺したアイスを差し出すと、秋月くんはなぜか大いに動揺した。どうした。まさか、俺の完璧な作戦に気付いたか……?

 

「ほら、等価交換だよ。ピノ1個あげるから雪見大福1個*4ちょうだい」

「……戸倉って算数苦手?」

「数Ⅲは苦手」

「すうさん? さんすう?」

「ごめん間違い。算数? 結構好き。池の周りをなぜか何周も回る兄弟の歩く速さとか計算するの得意だよわたし」

「なんかアホそう」

「なんだと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アニメもきっかけになったと思うのだが、櫻子ちゃんともより仲良くなれた。

 

 今日の放課後は、買い物に付き合ってくれるらしい。

 ヒビの入ったカップの代わりに、なるべく頑丈なものを買ってくるという指令をニシャプール様から託された俺にとって、非常に心強い援軍であった。

 

 

 

 商店街のアーケードは、夕方の光で少しだけオレンジ色に染まっていた。

 

 総菜屋の前から揚げ物の匂い。八百屋の段ボールがはみ出していて、通路が少し狭い。頭上には古い鉄骨の梁が何本も走っていて、そこから吊り下げられた提灯がゆらゆら揺れている。

 

「ごめん待った?」

「ううん今来たとこ」

 

 櫻子ちゃんはいつもの制服じゃなくて、薄いベージュのワンピースを着ていた。

 ちょっと背伸びした感じ。髪もいつもより丁寧にまとめている。

 

 

 

 そして、雑貨屋を何軒か回って、カップを選んで。俺がレジで支払いをしている間に、櫻子ちゃんは外に出ていた。

 

 そのとき。

 

「ねえ、暇?」

 

 軽い、声がした。

 

 

 

 俺が振り返ると、商店街の柱にもたれかかった二人組の高校生くらいの男が、店の外で、櫻子ちゃんを囲むように立っていた。

 

 片方は金髪。もう片方は首元に大きなタトゥーを入れている。

 

「友達待ってるだけだから」

 

 櫻子ちゃんの声は、少しだけ硬い。

 

「その友達、俺らでよくない?」

 

 距離が近い。

 櫻子ちゃんが一歩下がる。

 

 

 

 俺はレジ袋を持ったまま、その間に入った。

 

「お、君が友達? こっちもすげー可愛い!」

「優等生っぽいけどな」

「いえわたし、どっちかというと不良ですね」

「万引きもしたことなさそうじゃん」

 

 そう言われて、俺は自分の過去の罪状を振り返った。まあ確かに万引きはしてないけど……。悪の組織だぞ? いろいろやったような……。

 

「えーっと、したことあるのは誘拐*5と脅迫*6と器物損壊*7と……あれは殺人未遂に入る*8、かな……? いや未遂じゃないか*9

 

 金髪の方が小さく「は?」と漏らした。

 

「どんどん出てくるじゃん……」

「……なんかやべえなこいつ」

 

 2人は、俺たちから目を逸らしてそのまま走り去った。

 逃げた、というより、関わらない方がいいと判断した感じだった。なぜそう思ったのかは、今は考えないこととしたい。

 

 

 

 

 

 2人の姿が視界から消えると、櫻子ちゃんの肩が、ようやく少し落ちる。

 

「……びっくりした」

「怖かった?」

「ちょっと。ありがと、守ってくれて」

 

 気にしてる風だったので、俺は笑って首を振った。

 

「友達だから。守るのは当たり前でしょ」

 

 そして俺はそれ以上、何も言わずに歩き出した。

 櫻子ちゃんも、隣を歩く。

 

 でも、その距離はさっきより少しだけ近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 雑貨屋の前で櫻子ちゃんと手を振って別れた。

 夕方のアーケードはオレンジ色で、天井の鉄骨が長く影を落としている。

 

「櫻子ちゃん、また明日ね」

「うん。また、明日」

 

 

 

 

 数歩歩いて、ふと、背中がざわりと騒いだ。

 

 音だ。ピシッ! と鞄の中で硬い何かにヒビが入る音。

 そして、頭上から「ギ……」と、嫌な金属音。

 

 反射的に振り向く。

 櫻子ちゃんはまだ数メートル先、スマホを見ながら歩いている。その真上。アーケードを支えている古い補強梁が、不自然に傾いている。固定金具が片側だけ外れ、重心が櫻子ちゃん側に寄っていた。

 

 落ちる。

 

 間に合うかどうかを考える前に、体が動いた。

 

「櫻子ちゃん!」

 

 走る。

 

 足音がやけに大きく響く。

 距離が縮まる。

 梁が完全に外れる。

 

『――変身!』

 

 

 俺は櫻子ちゃんの腕を掴み、そのまま自分の方へ引き寄せる。突き飛ばさず、抱き込んだ。俺の胸元に櫻子ちゃんの顔を押し込む形。そのまま両腕で覆い、背中を上に向ける。

 

 次の瞬間。

 

 ドン、という鈍い衝撃。けほ、と一瞬、息が詰まる。

 重みが背中にのしかかる。空気が一瞬抜ける。地面が震える。粉塵の匂い。

 

 でも、潰れない。

 

 鉄骨は俺の背中に当たったまま、斜めに滑り、足元のアスファルトに音を立ててめり込んだ。舗装がひび割れ、金属が軋む音が耳に残る。

 

 

 

 

 

 俺は息を吐いた。ふーやれやれ。

 

「あーよかった」

 

 腕の中で、櫻子ちゃんが固まっている。いやごめん、なんか突き飛ばしてボールみたいに破裂したらどうしようって思ったから……。

 

「……莉名ちゃん!? 大丈夫!?」

 

 顔を上げた櫻子ちゃんの瞳が、はっきりと震えている。

 

「うん、別に怪我もないし」

「なんで!?」

 

 なぜ無傷なのか。それはね俺が怪人ボディだから。……言えない! 考えろ俺の脳!

 

「当たり所が良かった……とか?」

 

 実際、当たり所は良かった。背中だから。知ってる? 背中の耐久力って正面の約7倍もあるらしいよ。偉い人が言ってた*10

 

「なんで……? 死んじゃうかもしれなかったんだよ!?」

 

 さっきと違う「なんで」が飛んできた。……いや、「なんで助けた」って言われると……あ! そうださっきの台詞!! ……頼む!! これで丸く収まってくれ!!

 

 

 

 

 

「――櫻子ちゃんは、わたしの初めての友達*11だから。守るのは当たり前かなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の答えを聞いて、なんと櫻子ちゃんは号泣した。人があんなに泣き叫ぶところを俺は初めて見た。

 

 

 マシロさんが俺の入団に賛成しなかった時のニシャプール様*12もかくやと言わんばかりに泣いてた。なんかごめん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そんな風に過ごしていると、いつの間にか時は過ぎ――。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、高校1年生になった。

 

 

 

*1
今もJSではある

*2
脅迫動画で鍛えた演技力

*3
当たり前だ

*4
参考:ピノ1箱6個入り、雪見大福2個入り

*5
被害者は自分

*6
被害者はNo.1ヒーロー

*7
公園の遊具を超音波メスで破壊

*8
バッタ怪人を穴だらけにした

*9
バッタ怪人は死んだ

*10
寂海王「やったアアアアア! 勝ったぞォッ!」

*11
「同級生で」という枕詞が付く

*12
正確にはここでマシロさんが賛成しなかったのは入団にでなく家出の面倒を見ること




 再結成式は書きたいなって。
 その後どうするかはちょっと悩み中です。














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