正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~   作:うちっち

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『あいつに伝われば、全てが終わりだ』

 ――「体に気を付けて、元気でいてほしい」。

 

 俺の書いた、父への希望を見たニシャプール様とマシロさんはしばらく沈黙した。

 

 

 

 

 

「書いてほしかったのは、そういうのじゃないわ……。もっとこう、「家族で遊びに行きたい」とか、「焼肉食べ放題に連れて行ってほしい」とか、そういうやつよ」

 

「いえ、そもそもわたし、家族じゃないって言われたので……」

 

「……ん? え? どういうこと? ちゃんと説明してくれる?」

 

 

 

 俺は、2人に、これまでの経緯を説明した。

 

 

 

 俺が家事全般を請け負っていたこと。

 これまでも会話は少なかったけれど、組織が壊滅してから会話はさらに少なくなり、数日前にやっていたインタビューで、「私に娘はいません」と言われたこと。

 その後、少なくとも2日は家に帰って来ず、連絡もなかったこと。

 もう家を出ようと思ってさまよっていたら、ここに辿り着いたこと。

 

 

 

 

 全部聞き終わると、ニシャプール様は疲れたような顔でマシロさんを振り返った。

「悪、ってあいつの方じゃないかしら?」

「あたしも同じこと思いましたです。……それだと家族の希望とかは書きにくいですね。まあ、それはそうと、少し待ってみてもいいかもしれません」

 

 ピッ、とマシロさんが指を立ててくるくる回し、何やら提案してきた。

 

「手紙に『お世話になりました』とだけ書いて、家出してきたわけですよね。それを見て、慌てて探すようなら、家族としては大事に思われてると考えていいと思いますです」

「……あの、そのまま探されなかったら……?」

 

 非常に恐ろしいことを提案されているような気がした。「俺家族でない説」が、説でなく立証されてしまうような……。

 

 

 しかし、マシロさんはあっさりと言い放った。

 

「大丈夫です。何年も同居している時点で、何らかの重みはあるはずです。なければ、あいつは正義の味方失格です」

「さすがにそんな人でなしじゃなかったわよ。もし探さなかったら、あいつを簀巻きにして冬の学校のプールに放置してやるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、俺の置手紙を見て、父と兄がどんな反応をするか、まずは確認することになった。会議室で、やたらと長いテーブルの上座に座ったニシャプール様が、重々しく頷く。机には、「作戦本部長」「隊長」「リーダー」という様々な名札が鎮座していた。どれか1つに決めきれなかったと思われた。あとニシャプール様、一番大事な「首領」を忘れてます。

 

 

 

 続いて、少し離れた場所に座ったマシロさんが、頬杖をついて俺を物憂げにちらりと見た。今日もフェイスシールドはかぶっていない。机の上の名札は、「相談役」。なんだか「隊長」とかより地位がありそうな響きだった。

 

 

 

「で、手紙が見つかるまで、どれくらいかかりそうです?」

「最長でも、あと2日すれば……」

 

 俺は、ニシャプール様と対角線上のテーブルの端で、そっと身を縮こまらせた。名札は、「一般団員」。あと2日すれば、兄が研修から帰ってくるだろうから……。

 

 

 

「ていうか2人とも遠くない? もっとこっちに寄りなさいよ。声が聞こえづらいわ」

「せっかくテーブルが大きいから活かさないと、と思った結果です」

「マシロさんに同じです」

「仲悪いみたいじゃない……。壊滅直前の幹部会議みたいで、なんか嫌。こっち来て」

 

 

 寂しがったニシャプール様から要望があったので、くっついて3人並んで座った。必然的に、俺たちの前には、長いテーブルと誰も座っていない椅子という光景が広がる。

 

 

 

「あの、ニシャプール様。これはこれで、空席が目立ちませんか?」

「いいの! 気持ちだけは大きな組織で行きましょ!」

「大丈夫です、死んだみんなの霊が座ってますから、気持ちだけは満席です」

 

「えっほんと? 嘘よね? ……ちょっとマシロ! 黙らないで何か言って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 家出6日目。父は何度か俺の部屋をノックし、肩を落として去っていった。姿勢よく画面を見守っていたニシャプール様は、頭痛をこらえるみたいにこめかみを抑えた。

 

「昨日見たわこれ。えっ? リプレイ流してるの? 違うわよね?」

「でも、無理やり入ってこないところはお父さんのいいところです」

 

 すると、ソファーに寝転がっているマシロさんが、おせんべいを口にしながら、呆れたように呟く。

 

 

「いいところかもしれないですが、今はそれが思いっきり裏目に出てるんですよねぇ」

「というか、いつもの癖で部屋に鍵かけてきちゃいましたけど、家出なんだから開けてくればよかったですね。すみません、わたしのせいです」

「10歳の娘が6日間出てこないのに『鍵が閉まってるから』で放っておくのは、もはや別の問題なのです」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、7日目。荒い足音を立てて、俺の部屋の前にやってくる者がいた。俺は思わずテレビに飛びつく。……来た! この状況を打破してくれるのは、もはや1人しかいない!

 

 なになに、とニシャプール様とマシロさんも頭を寄せてきて、3人でテレビを見つめた。そこには、俺の部屋のドアをドンドンと激しくノックする、若い青年の姿があった。

 

 

「あれがお兄ちゃんの『ハイランドリール』です。父よりはわたしのことを気にしてくれてるんですよ」

 

 

 というか、なんかめちゃくちゃ焦ってる気がする。あんな顔を見るのは、俺が兄の中学校の授業参観に面白半分で参加した時以来である。あの時の兄のブチ切れ具合は半端ではなかった。いや、父が行けないって聞いたから寂しいかなって思ってつい……。今は反省している。

 

 

 画面の中で、ドガッ!ドガッ! と何度も拳を叩きつける兄を見て、ニシャプール様は目を丸くした。

 

「壊れるわよあれ。……いやいいか。だって莉名ここにいるもんね。……よし! 壊せ! やれーっ!」

「あっ割れたです! ホラー映画でしか見たことないですよ、ドアがあんな壊れ方するの」

 

 

 

 そして、兄は鬼のような形相で、部屋の中にドカドカと入っていった。ああよかった。これで、ようやく事態が進展しそうだ。

 

 

 やがて、鬼のような形相のまま、兄は俺の部屋から飛び出してきた。その手には、確かに俺の手紙が掴まれている。ていうか、握りしめすぎてぐしゃぐしゃに……。

 

「怒ってるのか心配してるのか、判別しかねますね……お兄ちゃん、表情に出やすいはずなんですけど」

「正直に言うと、食べるために捕まえてた獲物が逃げ出したみたいに見えるわ。ごめんね」

「いえ、正直、わたしも同じこと思いました」

 

 

 

 

 

 かくして、ようやく発見された俺の置手紙は、1週間経って、ようやく日の目を見た。内容に目を走らせても、父は腕組みをしただけで、表情1つ変えなかった。

 対照的に、兄はすごく怒っている。うん、さっきは判別しかねるとか言っちゃったけど、あれは怒っている顔だ。

 

 

 怒っている兄と、何考えてるかわからない父は、テーブルの上に置かれた手紙を挟んで座り、会話もないまま向き直った。ただ、ものすごく空気がピリピリしている。

 

『で、どうすんだよ。この始末』

 

「ハイランドリールが喋ったわよ! 言え! 莉名が心配ですって言え!」

「心配です、って話の流れに『どうすんだよ、この始末』っておかしくないです?」

 

 盛り上がっているニシャプール様と、冷静にコメントをくれるマシロさん。俺は、父がどう答えるか、息を殺して見守った。

 

 

 

 

『すぐ見つかるだろう。子供の足だ、そう遠くまでは行けないさ。捜査線を配備させよう』

 

「あ! お父さん、いちおう探してくれるみたいですよ!」

「いや、ちょっと違わない……? 私はなんていうか、外に向かってすぐ裸足で走り出して自分で見つけ出す、みたいなのを期待してたんだけど……。なんか、人任せみたいだし……」

 

『そんな悠長にしてる場合かよっ!!』

 

 画面の中で、兄が叫んで立ち上がった。……あ、俺って、兄には大事にされてたんだ。その事実にじわりと胸が熱くなる。ニシャプール様も同じ感想を抱いたらしい。

 

「そうよ! もっと言ってやれ! 私、決めた! ハイランドリールを応援するわ!」

 

 こぶしを握るニシャプール様に、俺はおずおずと疑問を口にした。

 

「えっと、ニシャプール様。正義の味方を悪の首領が応援していいんですか?」

「それはそれ!これはこれよ!」

 

 

 一方、父は、兄が怒っていてもあまり気にした様子はなく、軽く肩をすくめる。

 

『騒ぐと良くないだろう。『あいつ』が仮に生きていて、かぎつけられると厄介なことになる』

 

「あいつ、って誰かしら……?」

 

 不思議そうにマシロさんと俺を交互に振り返るニシャプール様。確かに。俺って誰かに狙われてたりするの……?

 

「それはないですね。もしそうなら、この1週間、もっと動きがあっていいです」

 

 マシロさんが、「俺が実は重要人物説」をばっさりと切り捨てた。ちょっと恥ずかしい。まあ、マスコミとかそういうアレかも。正義の味方の娘が家出した! っていうのは、ちょっと外聞はよろしくないから。いや娘じゃないんだっけ?

 

『ともかく、ニシャプールにだけは、何としても隠しておかないとな。あいつに伝われば、全てが終わりだ』

 

 

 

 

「えっ? なんで?」

 

 ニシャプール様が、心底不思議そうな顔でこちらを再び振り返った。いや、俺も同感です。ニシャプール様にだけは、俺の家出はバレたら駄目らしい。でもなんでだ……?

 

 

 俺はしばらく考え、やがて1つの結論に辿り着いた。

 「俺が小さい頃に亡くなった母親」というワードがヒントであった。そうだ、俺って、母親の写真とかも見たことない。全部、徹底的に隠されてたから。と、いうことは、ひょっとして。

 

 

 俺は、くるりとニシャプール様に向き直った。そして、正座してお辞儀する。

 

「ニシャプール様。いえ……! お母さん!!」

「莉名。もう1度同じこと言ったら、ニシャプール団を永久追放ね」

「なんでですか!?」

「そうなると自動的に、ニシャプール様がリズンスターの妻になるからだと思いますです。ちなみに、そういった事実はないですよ」

「そうなるくらいだったら死ぬわ。いさぎよく」

 

 ……死ぬんだ。

 

 

 

 

 

 ばっさりと、「ニシャプール様は俺の母説」が否定された。うん、まあそうだと思ったけど。じゃあ何? あの反応は。

 

 

 その後も3人で頭を悩ませたけれど、答えは出なかった。

 

 

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