宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

10 / 26
短話:200年前 現世滅却師(クインシー)
第9話 七五百年決戦


 

 

十四番隊発足より299年後(痣城剣八の反乱から49年後)

 

 

 

-- 現世・空座(からくら)町 --

 

 

「……―――とは言え、現世の人間相手に手荒なことはしたくないんだ。まずは矛を収めてくれないか?」

 

「死神ふぜいが何を言うかと思えば、残念ながらお断りだな」

 

「そうか……ならば仕方あるまい」

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

時は少し遡り半年前のこと、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”に属する雷山悟と椿咲南美の姿は瀞霊廷内のとある甘味処の前にあった。

 

 

 

-- 瀞霊廷内・東側 --

 

 

 

「ここですよ!ここ!」

 

 

椿咲は店の外観上部に掲げられている看板を指さして言っていた。その店は狐蝶寺に幾度となく瀞霊廷内に連れられる雷山も知らなかった店であり、椿咲のやつ普段から忙しい合間のどこで見つけてくるのかと半ば呆れも入っていた。

 

 

「……またいつの間に甘味処なんて見つけたんだが」

 

「半月前です!歩いてたらたまたま見つけました!」

 

「はぁ……言っておくが、美味くなかったら怒るからな」

 

 

普段なら、「帰る」と言い出す雷山だが、今回は特段何も言わずに店の引き戸を開けて甘味処の中へ入って行った。

その理由は数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

「……雷山隊長。最近瀞霊廷の東の方に新しく()()()が出来たので休憩がてら()()()行きましょうよ」

 

 

十四番隊詰所の中、諜報から戻ってきた椿咲は書類を一通り整理した後に、思い立ったように声を上げていた。

 

 

()()()?……まあ、たまの休みで行ってみるのも良いか」

 

「雷山さんが甘味処のようなところに行くのは珍しいですね」

 

「椿咲にはたまに晩酌に付き合ってもらってるからな。こういう時に素直に言う事を聞いておかないと、酒飲み仲間がいなくなるんだ」

 

「何か言いましたか……?」

 

「なにも。ほら、行くならさっさと行くぞ」

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「私はあんみつ下さい。雷山た……雷山さんはどうします?」

 

「そうだな……俺もこいつと同じものを頼む」

 

「はいよ。そんじゃすぐ作るから待ってておくれ」

 

「ありがとうございまーす!」

 

「……さて、本題に入るか」

 

 

店員が奥へ引っ込んで行ったのを確認した雷山はそう切り出した。

 

 

「隠語を使わないとならない状況と判断したのは分かるが、何があった?」

 

 

雷山は諜報を担当する椿咲南美と山吹雷花との間に、十四番隊の他のメンバーに共有するのは危険すぎる情報を、部隊長たる雷山に直接伝えたいとき発する隠語を設定していた。

 

椿咲の場合は『甘味処』『一緒に』の2ワードを1つの会話の中に入れること。

山吹の場合は『本』のワードを会話に入れて()つ左手で斬魄刀の柄を触ること。

 

そうやって設定しており、椿咲の意図を察した雷山は普段ならあまり出かけない甘味処まで足を運んでいたのだった。

 

 

「はい、少しややこしい事態になったので」

 

「ややこしい事態?」

 

「はい、49年前……ちょうど痣城剣八の反乱があった頃にご報告したこと憶えておりますか?」

 

 

椿咲が言う報告とは49年前、痣城剣八の騒動が瀞霊廷を賑わせていた時、痣城捕縛のために一時帰還していた椿咲が雷山に対して暫定として報告したことである。

その内容とは、現世にてとある勢力がやり過ぎとも言える(ホロウ)滅却の動きを見せていたこと、それが徐々にエスカレートしていることであった。

 

 

「ああ、滅却師(クインシー)の一件だろ?」

 

 

- 滅却師(クインシー) -

虚を滅却する霊力を持つ人間の種族である。現在は約750年前に光の帝国(リヒト・ライヒ)と言う滅却師(クインシー)の国を率いていた皇帝・ユーハバッハの敗北を受けて現世へと逃れた数少ない残存勢力となっている。

斬魄刀で(ホロウ)を斬ることで極悪人を除いて尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと送ることが出来る死神とは違い、滅却師(クインシー)は文字通り滅却して魂魄ごと消滅させることしか出来ず、三界の調整者(バランサー)と自負する死神とは折り合いが悪くなってきており、最近では護廷十三隊内でいっそのこと殲滅してはどうかと声が上がって来ている状態であった。

 

 

「はい、護廷十三隊内で殲滅せよの声がかなり大きくなってきていることは私の耳にも入ってはいますが、つい先日護廷十三隊を名乗る死神が接触してきました」

 

「なんだと?」

 

「はい、お待ちどおさま!あんみつ2つね!」

 

 

その声と共に雷山と椿咲の目の前に器が置かれた。椿咲は極秘情報とも言えることをこの店員に聞かれていないかヒヤヒヤしている様子だった。

 

 

「おお、これは美味そうだな」

 

 

一方で椿咲の気が動転していることに気が付いていた雷山はあえて声を上げることで椿咲に冷静さを取り戻させようとしていた。

 

 

「え……あ、わぁ!ありがとうございます!」

 

「はいよ!それじゃあゆっくりしてってね!」

 

「それでそいつは何番隊の誰かは言ってたのか?」

 

「いえ、ただ護廷十三隊としての使いとしか言いませんでした」

 

「ふむ……少なくとも俺の耳には護廷十三隊が動いている情報は入ってないな。隠密機動もまた同様に」

 

 

【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】である雷山は、【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國に調査結果を報告すると同時に護廷十三隊側がどう対応するかを情報として知ることが出来ることになっていた。しかし、椿咲が調査している現世の滅却師の件は十四番隊の調査が終わるまでは静観と元柳斎はしており、事実として護廷十三隊が動く情報は一切上がっていなかった。

 

 

「疑う訳じゃないんですけど、山本総隊長が雷山隊長にも告げずに独断で動かれた可能性は?」

 

「100%無いとは言い切れないが、考えられんな。元柳斎にも調査内容はある程度報告していて、こちらが調査を終えるまで手出し無用としている。理由に痣城の時にあった護廷十三隊と不用意に顔を会わせることを防ぐためと言ってあるし、こちらに何も言わずに動くことはしないだろうな」

 

 

過去に雷山と狐蝶寺は痣城剣八の捕縛の際に、護廷十三隊隊長である京楽春水と浮竹十四郎と対面するという元柳斎からすれば失態以外の何物でもない行動をしており、ならばと雷山は護廷十三隊の前には一切姿を見せない代わりに十四番隊が調査や捕縛に乗り出す事態となった場合はこちらを優先させてほしいと元柳斎に条件を提示していた。

最後の切り札たる十四番隊を秘匿しておきたい元柳斎はその条件を飲んでおり、それを破ってまで護廷十三隊として調査に乗り出すことは考えられないと雷山はしていた。

 

 

「では、何故……」

 

「元柳斎以外にも護廷十三隊を私的に動かそうと思えば動かせる者たちがいるだろ?そう、例えば中央四十六室(ろうがいども)、五大貴族が筆頭・綱彌代(つなやしろ)家とかな」

 

「……また貴族ですか」

 

 

椿咲も雷山同様に貴族たちが産む争いの種にはうんざりしており、介入して来たのが本当に貴族の命を受けた護廷隊士ならどうしたものかと考えていた。

 

 

「雷山隊長、私としてはその真偽も確かめるために護廷十三隊と名乗る死神と接触してみようと思うのですが、如何ですか?」

 

「……甘すぎるな」

 

 

雷山はあんみつを一口食べた後にそう言葉を発した。椿咲は「甘すぎる」の言葉が食べたあんみつの事を指しているのか、自身が語った護廷十三隊と名乗る者に接触する行動に対して言ったのか判断に迷った。

 

 

「それはどっちに対して言ってます?」

 

「椿咲の方だ。あんみつの方は俺好みの甘さだ」

 

「甘すぎですか?」

 

「ああ、恐らくだがその護廷隊士は椿咲の存在に気が付いていない。気が付いているなら名乗りなどしないだろうし、もっと別な方法で接触を図るはずだ。それをわざわざ自ら正体を明かしに行くのは考えが甘いと言わざるを得ないな」

 

「しかし、それならばどうしたらいいんでしょう?その護廷十三隊を名乗る人物は滅却師(クインシー)側を扇動しているようにしか見えないんですが」

 

「ふむ……まあ、余計な仕事が増えるのは御免(ごめん)(こうむ)るから止めはしたいのは本音だが」

 

 

雷山はこのまま滅却師(クインシー)と護廷十三隊が衝突すれば十四番隊にも応援要請が来ることになるだろうと予想していた。ユーハバッハ率いる光の帝国(リヒト・ライヒ)との戦いを知る雷山からすればそれは避けたい事ではあった。

しかし一方で説得程度でこのまま滅却師(クインシー)側が大人しく止まるわけもなく、また何もせずに三界を危険にさらすのは言語道断であり、()しもの雷山も判断に迷っていた。

 

 

「とにかく、その護廷十三隊と名乗る人物が正体不明である以上、迂闊に手を出すのは辞めた方が良い。少しの間、椿咲は静観に徹してくれ」

 

「……分かりました」

 

 

”さすがに不服そうだな。”雷山は椿咲の表情や声色でそう言った感情を読み取った。

 

 

「そして護廷十三隊と名乗る人物が宣戦布告、或いはそれに準ずる行為を行った場合、そして椿咲の正体が露見してしまった場合はすぐに連絡をよこしてくれ。気乗りしないが、俺が直接出向こう」

 

「分かりました。山本総隊長へは報告されますか?」

 

「いや、今はまだやめておこうと思う。椿咲、今日は奢ってやる。武運を祈ってるぞ」

 

「はい」

 

 

それから数日たった時のこと、椿咲から鬼道による緊急の報告が入って来た。

 

 

”雷山隊長!非常にまずい事態になりました”

 

「……俺が先日言った事が起きたのか?」

 

”はい、例の護廷十三隊と名乗る人物が現世の滅却師(クインシー)側に対して宣戦布告をしました”

 

「はぁ……」

 

 

雷山が吐いたため息には、どこの誰か知らないが余計なことをしやがってと言う呆れと怒りが混じっていた。

そして、雷山がそんなため息を吐いたことでその場に居た銀華零と浮葉にも非常事態が伝わった。

 

 

「雷山部隊長、何かあったのですか?」

 

「どうやら椿咲が潜入調査している滅却師(クインシー)たちに動きがあったみたいなんだ」

 

滅却師(クインシー)ですか……」

 

 

雷山と同様に過去の滅却師(クインシー)との大きな戦争を知る銀華零はまたひどい戦いが起きるのでしょうかを案じるような顔をしていた。

そして、雷山が口にしたことで更に心配が上がることとなる。

 

 

「ああ、それで今から現世に赴いて滅却師(クインシー)側と話をつけてこようと思う。浮葉は一応元柳斎にこの一件の報告を頼む」

 

「承知しました」

 

「雷山さん1人で向かうのですか……!?」

 

 

銀華零は1人で滅却師(クインシー)の残存勢力のもとへ向かおうとする雷山に対して驚きの声を上げた。

 

 

「椿咲がいるから正確には2人だな。安心しろ、相手はユーハバッハじゃない。死にはしないだろ」

 

「しかし……分かりました。死んでも帰還してくださいね」

 

「それじゃあ生きてるのか死んでるのか分からんな」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

-- 現世・空座(からくら)町 --

 

 

「コソコソと妙な動きをしているとは思っていたが、やはり死神の間者(かんじゃ)だったか」

 

 

現世にある空座町、そこのとある一角で椿咲と滅却師を率いる黒崎(くろさき)という人物が相対していた。

先の護廷十三隊と名乗る人物による宣戦布告を受けて、長く潜入調査して温厚な人物と認識している黒崎の人相の変わりようを見て、申し訳なさと哀しさを感じていた。

 

 

「……よく分かったね。結構自信があったんだけど」

 

「当然だ。だてに滅却師(クインシー)を率いてはおらん。目的を吐いてもらおうか」

 

「言うは易しだけれど、言ったら私の事始末するんでしょ?それとも人質にする?」

 

「それは貴女の返答次第になろう。何が目的でいつから潜り込んでいた?」

 

「信じてはもらえないんだろうけど、さっき宣戦布告してた護廷十三隊と名乗る人物と私は全くの無関係なことは先に言っておくよ。目的はここ数十年に渡って現世の(ホロウ)殲滅が過激になってたからその調査、もう50年は経つかな」

 

「先の死神とは無関係だと?確かに信じられる話ではないな。その調査の目的も我らを殲滅するの誤魔化しにしか映らないぞ」

 

「だよねぇ……けれど、こっちも大人しく捕まるわけにはいかないからさ」

 

 

椿咲は腰に差してあった斬魄刀をゆっくりと引き抜いた。黒崎も椿咲が簡単に投降するとは思っておらず、それは徹底抗戦を意味していることを瞬時に理解した。

 

 

「”月夜(つきよ)(まぎ)れよ”『月華(げっか)』」

 

 

始解した椿咲の斬魄刀は柄に輪刀が付いている少し異様な形をしていた。しかし、それだけだった。外見は確かに変化したが、それに付随する能力が目に見えなかったために、黒崎は最大限に警戒していた。

 

 

「そんなに珍しい?死神の始解って」

 

「そうだな。私は初めて見ることになるな」

 

 

ヒュンッ!!

 

 

言葉を言い終わると同時に黒崎が仕掛けた。霊子で弓を生成すると同時に矢を放ったのだ。

それは椿咲の心臓を正確に射抜く軌道を飛んでいだが、身体を貫く前に椿咲は斬魄刀で矢を弾いていた。

 

「へぇ、黒崎さんが攻撃するの初めて見るけど、やっぱり弓なんだね」

 

神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)と言う。そしてこれが、神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)だ」

 

 

黒崎は大量の矢を同時に放って弾幕を張ることで椿咲の行動を制限していた。勿論、百戦錬磨の椿咲もその狙いに気が付いていたが、飛んでくる大量の矢を弾き落とすことで精一杯の様子でとても対処できる余裕はなかった。

 

 

「今だ!この死神をひっ捕らえよ!」

 

「はい!」

 

 

椿咲の周りに控えていた他の滅却師(クインシー)が椿咲を捕らえようと近づいた。しかし、身体に触れると同時にまるで陽炎のようにその場から消え失せてしまった。

 

 

「どこに行った……!?」

 

「成程。これがあの死神の斬魄刀による効果か」

 

「正解」

 

 

冷静に分析する黒崎の背後にいつの間にかと言うべきか、椿咲は回り込んでいた。黒崎は一応両手を上げたが椿咲はすぐに刀を引いた。

 

 

「……何故刀を引いた?」

 

「言ったでしょう?私はあくまで調査の名目で来ていると、尸魂界(ソウル・ソサエティ)も私も今はまだあなた達と事を構えるつもりはないってことだよ」

 

「戯言を、先ほど護廷十三隊が言っていたではないか。尸魂界(ソウル・ソサエティ)滅却師(クインシー)に対して宣戦布告するとな。よもや、あれは護廷十三隊ではないと申す訳はないよな」

 

「所属は護廷十三隊なんでしょうけど、命令を出しているのは山本総隊長ではないと思いますよ」

 

「ほぅ……では誰だ?」

 

「それは分かりませんよ。尸魂界(ソウル・ソサエティ)に戻って調べない限りは」

 

「そうか。では、貴女を捕らえて人質とすれば良いわけだな」

 

 

そう言い切ると同時に黒崎の姿は椿咲の背後にあった。椿咲はすぐに瞬歩(しゅんぽ)に似た滅却師(クインシー)の歩法によってだと考えたが、動きが自身の目の残像でさえ捕らえなかったことは驚嘆に値していた。

 

 

「……早いね」

 

「ああ、そしてこれで終わった」

 

「――……ッ!!それはどうかな」

 

 

ピカッ ゴロゴロゴロォォォォォォ!!!

 

黒崎が椿咲に向けて矢を放とうとした時だった。突然、ゲリラ豪雨のように辺りに雷鳴が轟き雷が二人のいる場所目がけて落ちた。

黒崎は雷の直撃を避けるために再度滅却師(クインシー)の高等歩法を使ってその場を脱した。

 

 

「何事だ!」

 

「今そいつを人質にとっても尸魂界(ソウル・ソサエティ)は動きはしないぞ。何しろ、この場で起こってること一切が元柳斎の耳に入ってないんだからな」

 

 

落雷が起きたことによって生じた閃光が治まるとそこには隊長羽織を見纏う黒髪の死神が立っていた。椿咲も同様の羽織を身に纏っていたことから同じようなものなのだろうと考えた黒崎だったが、唯一椿咲と違ったのは目の前の死神が放つ威圧感だった。

 

 

「失礼したな。俺は【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】雷山悟だ。あんたが現世にいる滅却師(クインシー)の残存勢力を率いている者か?」

 

「ああ、その通りだが」

 

「そうか。滅却師(クインシー)とは言え、現世の人間相手に手荒なことはしたくないんだ。まずは矛を収めてくれないか?」

 

「死神ふぜいが何を言うかと思えば、残念ながらお断りだな」

 

「そうか……ならば仕方あるまい」

 

 

次の瞬間、黒崎は驚愕した。雷山と名乗った死神が一瞬にして目の前まで迫っていたからだった。

黒崎は知る由もないが、その原理は黒崎が瞬きをした一瞬の完全な死角を雷山が感じ取り瞬歩で近付いていた。瞬きは誰しも無意識の内にやっていることのため、やられた側は急に目の前に迫っている構図となるわけである。

 

 

「”雷斬居合(らいざんいあい)一閃(いっせん)”」

 

 

雷山は鞘に納まる斬魄刀を勢いそのままに引き抜いて黒崎の首を刎ねようとしていた。しかし、黒崎の首には青い紋様が浮かび上がっており首が刎ね飛ぶことだけは回避していた。

 

 

「……俺の斬撃を防ぐとはな。750年前、瀞霊廷に攻めて来た滅却師たちも使ってたが、なんて技なんだそれ?」

 

「……静血装(ブルート・ヴェーネ)と言う、我らにとっては基本技術だ」

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)だと?成程、しかし大した防御力だな」

 

「こちらも驚かされた。まさか静血装(ブルート・ヴェーネ)を用いてもなお、僅かながら斬撃を貫通させてくるとは」

 

 

そう言う黒崎の首筋には血が垂れていた。静血装(ブルート・ヴェーネ)を用いてもなお雷山による斬撃は完全に防ぎきれない程の威力を有していたからだった。

 

 

「1つ聞こう。先程、”今そいつを人質にとっても尸魂界(ソウル・ソサエティ)は動きはしない”と言っていたが、あれはどういう意味だ」

 

「そのままの意味だ。あんたは恐らく護廷十三隊と名乗る死神から宣戦布告を受けているんだろうが、その死神は正式な命を受けて宣戦布告はしていない。要するに、尸魂界(ソウル・ソサエティ)のくだらない一派があんたたち滅却師を排除しようとしてるという事だ」

 

 

雷山が語った事はつい先程椿咲が語っていたことと全く同じだった。黒崎は椿咲が語ることを嘘と断じて耳を傾けなかったこととそれほどまでに冷静さを欠いていたことを恥じていた。

 

 

「だが、あくまで()()正式に尸魂界(ソウル・ソサエティ)が宣戦布告をしていない過ぎない。(ホロウ)殲滅を止めろとまでは言わないが、もう少し大人しくするんだな」

 

「貴様!!」

 

 

柱の影から1人の若い滅却師(クインシー)が飛び出してきた。若さゆえか真正面から突っ込んでくるその姿を雷山は十分に捉えていたが、あえて何もせずに目の前まで進んでくるのを許した。

一方で若い滅却師(クインシー)は雷山に向けて矢を引いている状態で明確な攻撃であった。

 

 

「……石田、よせ」

 

「しかし黒崎さん……!!」

 

「よせと言っただろう」

 

 

黒崎が出した霊圧と殺気に良しだという滅却師(クインシー)は恐れおののき数歩下がっていた。

 

 

「雷山と言ったか。話は分かった。しかし、滅却師は虚に対して抗体を全く持たない種族、故にこれからも殲滅は続いてゆく」

 

「はぁ……」

 

 

雷山はわざとらしくため息を吐いた。目の前の黒崎と言われている滅却師(クインシー)はこのまま(ホロウ)殲滅を続ければいずれは尸魂界(ソウル・ソサエティ)との全面戦争に至ることを理解していたが、それでも同胞の為に止まるわけにはいかないと強情さを見せていた。

 

 

「強情さは時に身を亡ぼすんだが、仕方ない。椿咲、帰るぞ。潜入調査もこれでしまいだ」

 

「え?……あ、はい!」

 

 

斬魄刀を鞘に納めて歩き出した雷山の後を慌てて椿咲も追いかけた。

 

 

「我らの事を報告するか?」

 

「ああ、しないわけにもいかないからな。こう報告しておこう。”現世の滅却師(クインシー)は率いている黒崎と名乗る者を殺害した結果、瓦解した状態になった。今は無理して叩く必要はないだろう”とな」

 

「それは恩着せか?それとも750年前にあったという戦いへの贖罪(しょくざい)か?」

 

「それはどう捉えてもらっても構わないぞ。忠告はした。あとは栄えるも滅びるも好きにしな。では、さらばだ。次は戦場で会わないことを祈ってるぞ」

 

 

そう言い残して雷山と椿咲は瞬歩でその場から去って行った。一方で残された黒崎は笑っていた。

 

 

「ふふっ……」

 

「黒崎さん?まさか、(ホロウ)殲滅を止めはしないですよね。そんなことをすれば……」

 

「止めるつもりはない。それでは今を生きる同胞、亡き同胞に示しがつかないからな。だが、みすみす尸魂界(ソウル・ソサエティ)にやられるつもりもない。いろいろと準備はしておいた方が良いだろう」

 

 

 

この数か月後、中央四十六室と貴族の家系にある護廷隊士複数名の賛同のもと、尸魂界(ソウル・ソサエティ)は重い腰を上げて現世の滅却師の殲滅作戦を敢行した。

記録では数多くの滅却師(クインシー)がこの戦いで死んだとされているが、実際のところ不思議と言うべきか事前に多くの者がまるで尸魂界(ソウル・ソサエティ)側の動き察知していたかのように行方をくらませていた。

尸魂界(ソウル・ソサエティ)側は事前に動きを知らせた間者(かんじゃ)がいると疑ったが、結局のところ誰の仕業かは分からなかったという。

 

 

……ただ一つ、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”という組織を除いて、

 

 

 





月華(げっか)

【十四番隊・第三将”中堅”】椿咲南美の持つ斬魄刀。

解放をすると柄の先に輪刀が付いている形の斬魄刀へと変化する。
月明かりを用いて『相手に幻覚を魅せる能力』を持つ。月明かりを用いてとあって()()()()()()()しか能力を扱うことが出来ない(曇りは勿論、新月もダメ)。
始解時に出来ることの具体例は、
・自身を風景に溶け込ませて見えなくする。
・自身を別の姿に見せることができる。
など。
これは物に対しても有効であるが自身の周り50mの範囲に限定される。また、他者の姿を見えなくしたり、他者を別の姿に見えるようにすることは出来ない。
そしてあくまで外見の見え方を変えるだけなので、触られるのは勿論のこと霊圧探査が得意な者には簡単に見破られる。
解号は『月夜(つきよ)(まぎ)れよ』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。