第10話 とある死神の昇進
【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が発足してより389年後、
「念のために隠密機動とは別に
-- 瀞霊廷・一番隊隊舎内 --
一番隊舎内では隊長羽織を身に纏う二人の死神がいた。一人は額に十文字の傷を持ち、膝まで垂れる長い髭をたくわえた老人【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國。
そしてもう一人は、双璧を成すとも言われる【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】雷山悟。
「ふむ……」
この場で元柳斎は雷山より、つい先日に起きた護廷十三隊十番隊隊長の殉職案件についての最終報告を受けていた。
勿論、隠密機動や護廷十三隊などほかの実動部隊も調査をしていたが、先入観や情などに左右されない【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が行った最終報告書は事態の把握する上で欠かせないものであったからである。
「まあ、この際十番隊隊長が実力不足だったかは置いて、一概に隊長と言ってもその実力は千差万別。卍解とて戦闘に特化したものとも限らない。だから時としてこのような結果になっても仕方なしと考えるけどな」
「相分かった。その他書き漏らしは一切ないと考えても良いか」
「ああ、
十番隊隊長が殉職したと報告がなされたとき、昇格を含めてすぐに代わりができる者がいない状況であった。もし十番隊隊長の殉職が何者かに仕組まれた事件であった場合は早急に新たな者を隊長に据えなければならなかった。
そこで、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の役割のひとつである『隊長代理制度』を行使するか否かしばらく審議にかけられていた。
「そのことについてじゃが、改めて【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國より、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”に正式に『十番隊隊長代理』を要請する」
「しかと受け取った。それで誰を指名するんだ?」
「椿咲南美を第一とする。次いで浮葉刃。この両名のいずれかを十番隊隊長代理に据えようと考えておる」
「椿咲を第一と選んだ
「今回の案件で雷山、おぬしが出るほどではない。それは銀華零白、狐蝶寺春麗にも言えること。ましてやおぬしらは表向きには戦死しておる身、迂闊に代理にすべきではないと判断した結果じゃ」
十番隊隊長殉職案件は事件性がないため、緊急性もない。そのため【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の最高戦力でもある3人をわざわざ出すほどではない、そこで雷山たちにも引けを取らず、かつれ『真央霊術院』で教鞭を執り広く顔も知られる椿咲を代理として据えるのが最も良いと元柳斎は考えていた。
勿論、それは雷山も元柳斎の言葉のニュアンスである程度察するに至っていた。
「成程、それで『真央霊術院』の講師としてもある程度名が知られている椿咲にしようって話か」
「左様。理解が早うて助かる」
「分かった。ただ、椿咲は今外に出ていてな。呼び戻すのに少し時間はかかるが構わないか?」
「構わぬ。戻り次第、至急儂に元へ来るよう伝えてもらえれば良い」
「承知した。では、俺は十四番隊詰所へ戻らせてもらう」
-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --
「雷山悟、只今帰還した」
「おっかえり♪それで、私の隊長代理の話はどうなったの?」
「それも含めて順番に話す。まず、十番隊隊長殉職案件は事件性なしと報告して正式に受理された。そしてそれに伴う十番隊隊長代理だが、元柳斎は椿咲を指名して来た」
「えー、私で良かったのに」
狐蝶寺は不服そうな顔と声を上げていた。
【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”における『隊長代理制度』は未だ一度たりとも使われたことのないもので、狐蝶寺は初めて使われるのならば、自身が良いと意気込んでいたためである。
「そんな声を上げても仕方ないだろ。そもそも俺たちが無理に出張る隊長代理なんて制度一度たりとも使われない方が良いんだぞ」
「ちぇ……」
「まあ、機会はまたあるだろうから気長に待ってな。それよりも椿咲を呼び戻したいんだが頼めるか?」
「それは私がやるからいいけど、その前に雷山くんに1つ言うことがあったの」
そう言うと狐蝶寺は1枚の書類を雷山の前に差し出した。雷山は狐蝶寺の声に反応する前にその書類に目を落としていた。
「この後予定なにかある?」
「なんだ?
雷山が目を落とす書類には護廷十三隊隊長の1人に昇進のために退位せよと命が下ったと書いてあった。
隊長の昇進かと雷山が考えていた時、狐蝶寺は思わぬことを言った。
「今日の午後に
「桐生?」
狐蝶寺の言う
しかし、狐蝶寺が唐突に挨拶に来ると語った事もあり思わず聞き返していた。
「曳舟桐生十二番隊隊長ですよ」
雷山が聞き返したことで、曳舟の事を忘れてしまったのかと2人の会話を聞いていた
「いや名前は知っているが、何故急にそんな話が出てくるんだ?」
「何故って
「いやいや、”言ったみたいなんだよ”じゃないんだよ。春麗はそのこと聞いてなかったのか?零番隊と情報のやり取りしてるのに」
雷山は最重要とは言えないまでも『零番隊に昇進する隊長が挨拶に来る』という情報を狐蝶寺が零番隊の
「え?一週間くらい前にちゃんと聞いたよ。雷山くん忘れちゃったの?」
「おい待て、俺は今初耳なんだが?」
「あれぇ?」
「はぁ……ホントにこいつは」
雷山はいつものことと思いつつも、かつての痣城の一件のことも
「まあまあ、結果としては曳舟桐生十二番隊隊長が来る前に知れたのでよかったじゃないですか」
「白は知ってたのか?」
「ええ、一週間くらい前に春麗ちゃんから直接言われましたね。……思い返せば、何故雷山さんには言わないのだろうと不思議に思いましたが」
「はぁ……」
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それから数時間後、十四番隊詰所と廊下とを仕切る襖の外から声が聞こえて来た。雷山たちは狐蝶寺が言った通り曳舟が挨拶に来たのだと思った。
「失礼します、【護廷十三隊十二番隊隊長】
「雷山悟は中にいる。入って来てもらっても構わんぞ」
襖が開かれるとそこには紫色の髪をした巨乳の美人が立っていた。曳舟桐生本人だ。
曳舟は入ると同時に礼儀として一礼していた。
「失礼します。雷山部隊長、時間を取ってもらい感謝します」
「いや、気にしなくていい。それより零番隊昇進おめでとう」
「ありがとうございます。そしてこれからよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしくな。さっそくだが、護廷十三隊の頃には知る由もない……いや、零番隊に昇進するほどの死神である曳舟ならうわさ程度なら聞いたことがあるだろうが、我々は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”と言う部隊だ」
「ええ、うわさ程度ならば聞いたことはあります。たしか護廷十三隊の後援部隊だとか」
「ああ、それ以外にも未知の勢力に対する先制攻撃をする
「成程……構成員は3名ですか?」
曳舟の質問は室内に配置してある机や椅子の数から見て構成員3名では少ないという印象を持っていたために出た言葉であった。
雷山たちも構成員の数を隠そうという意図もなく、後ほど紹介しようと思っていた矢先にその問いが投げかけられたため、室内を見て十四番隊の構成員の数が目の前にいる3名だけではないことに気付くその観察眼と勘の鋭さに感嘆していた。
「いや、構成メンバーは全員で6名だ。ただ、今は第一将・
そう言う雷山と目が合った狐蝶寺は咄嗟に目線を逸らしていた。
狐蝶寺が曳舟がやってくることを言い忘れていたために、浮葉は流魂街のとある調査、山吹と椿咲はそれぞれ別件の調査で瀞霊廷内に居なかった。椿咲に関しては『隊長代理』の件もあり呼び戻しているが、まだ帰って来てはいなかった。
「あら、それは残念ですね」
「どうする?『
「いえ、そこまで無理を聞いてもらうのは忍びないですよ」
「雷山さん、他3名の顔合わせはまた別の機会にしましょう」
「そうだな。ひとまずこの場にいるメンバーだけでも紹介しよう。まず、曳舟からみてから見て右側、頭に風車の髪飾りを付けているのが【十四番隊・第四将”副将”】狐蝶寺春麗」
「はーい♪雷山くんから紹介がありました。狐蝶寺春麗です♪主に零番隊や総隊長のおじいちゃんと情報のやり取りをしてるよ♪たぶん私が一番多く顔を合わせると思うけど、よろしくね♪」
狐蝶寺は軽い感じで曳舟に手を振っていた。一方の曳舟は自身を母親のように慕ってくれている副隊長にどことなく似ているという印象を持って手を振り返していた。
「そしてその隣、銀色で長髪の方が【十四番隊・第五将”大将”】銀華零白」
「雷山さんから紹介に預かりました、銀華零白です。私は主に十四番隊の参謀を務めています。今後ともどうぞよろしくお願いしますね」
銀華零はそう言って丁寧に曳舟に一礼した。曳舟もそれに倣って一礼していた。
「改めてだが、【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】をやっている雷山悟だ。よろしくな」
雷山は右手を差し出し握手を求め曳舟もそれに答えた。握手している最中に狐蝶寺春麗、銀華零白、雷山悟という3名の名前を聞いた曳舟はどこか覚えがあると感じていた。
それは自身が隊長になるよりも前、記録で語られる”史上最強”の一角たち。
「……雷山部隊長、もしや御三方は……―――」
曳舟がそれを口にしかけた時、雷山は口の前に人差し指を持ってきてそれ以上は口外しないでくれと暗に伝えていた。
「さすがに博識だ。だが、あんまり表では言いふらさんでくれよ。
"初代の一角"『雷山悟』『銀華零白』『狐蝶寺春麗』
以上、3名は何百年も隊長だったこともありその名前だけなら一度は聞いたことがあるほどの有名であった。
しかし、表向きには今から389年前、十四番隊発足と同時期に3名とも死亡したとされている。
理由は勿論、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の存在を隠すためであり、もし、不用意に表で雷山たちの名前を出せば、何故400年近く前に死んでいるはずの人物の話が出てくるのかと話題になった結果、”十四番隊”の存在が漏れる危険性があり、あまり外で雷山たちの名前を出すことは避けるべき事案であるとされていた。
「あら、それは失礼なことを……」
「気にするな、元柳斎がうるさいだけだ。話は変わるんだが、曳舟は何を作り
「……あたしが作り出したのは『仮の魂とそれを体内に取り込む技術』。あたしよりはるか永い時を生きる雷山部隊長なら知っているかもしれませんが、大昔は
「
「……ええ、あれは概念を悪用したもの。いわば、義魂の負の遺産」
「すまない。変なことを言ってしまったな」
曳舟が不快感を出したことを察した雷山はすぐに謝罪していた。
「気にしないでください。技術は使う人物によって善にも悪にも成り得る。それだけのことです」
「……もうしばらくは
「3日後には
ひよ里ちゃんとは曳舟の副官であり、【護廷十三隊十二番隊副隊長】
「隊長を辞める時の悩みの1つだな。だが曳舟も分かってるとは思うが、最後は信じていくしかないからな」
雷山もかつて五番隊隊長を退位する時に当時の副隊長であった椿咲南美に如何にして伝えるか、彼女が後任となったときしっかりやれるかと悩んだ過去があった。しかし、そんな雷山も椿咲の隊長に就任する覚悟を聞き、雷山自身も後任を信じる覚悟を決めて道を譲ったことがあった。
「ええ、それでは時間を作ってもらいありがとうございました。今度は零番隊としてお会いしましょう」
「本来は【王属特務】と【宮廷遊撃部隊】が会わなければならない非常時なんか来ない方が良いんだけどな。だが、もし顔を会わせたならよろしくな」
「大変だと思うけど、頑張ってね桐生ちゃん♪」
「また機会があればよろしくお願いします」
「はい、ではこれで」
曳舟は一礼すると十四番隊詰所を後にした。曳舟が去って行ったあと雷山はふとあることが気になった。
「……そう言えば、春麗は空いた十二番隊隊長の席は誰が埋めるのか聞いているのか?」
「知らないよ。
「まだ隊首試験の情報はうわさ話も含めて何も来ていませんね。恐らく各隊長は選考に入ってるとは思いますが、難儀するかと」
「先代が有名だと次代が大変になるからな。まあ、殉職と違って急な話じゃないからそのうち決まるだろ」
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「椿咲南美、只今戻りました。雷山隊長、私は何故呼び戻されたんですか?」
曳舟桐生の来訪から数十分後、椿咲が戻ってきた。椿咲は自身が呼び戻された理由について狐蝶寺から聞いていなかった為、不思議に思っていた。
「呼ばれたときに春麗から聞いていないのか?」
「聞こうとしたら『とりあえずよろしくね』とだけ言われてしまいまして……」
雷山が目を向けると狐蝶寺はサッと目を逸らしていた。雷山は呆れにも似た感情を抱いたが、今はそれを話している暇ではないと後回しにした。
「十番隊隊長殉職の案件で元柳斎から椿咲に対して『十番隊隊長代理』の要請を受けたんだ。帰ってきて早々で悪いんだが、一番隊隊舎へ向かってくれないか?」
「ああ、そう言う話だったんですね。1つだけ確認を、雷山隊長は私が隊長代理に就いても良いと考えていますか?」
「俺は構わないと思っているぞ。そもそも俺や白、春麗だと十三隊に要らぬ混乱が広がるんだろ。元柳斎もそんなようなこと言ってたしな」
「分かりました。では、私は至急一番隊隊舎へ向かいますね」
「ああ、急ですまないが頼んだ」
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「失礼します。【十四番隊・第三将”中堅”】椿咲南美。参りました」
それからさらに数十分後、椿咲の姿は一番隊隊舎の隊長執務室にあった。
その理由は勿論、十番隊隊長代理について拝命をするためだった。
「来たか。雷山から聞いとるであろうが、おぬしに『十番隊隊長代理』を任命したい」
「はい、【十四番隊部隊長】たる雷山隊長からはすでに私が隊長代理に就く許可はいただいております。正式に【宮廷遊撃部隊・十四番隊】第三将”中堅”椿咲南美の名において、十番隊隊長代理の件、謹んでお受けします」
椿咲は礼儀として深々と頭を下げて一礼していた。こうして【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”発足後初となる『隊長代理制度』が開始された。