「今回、十番隊隊長に復帰の形で就任しました。椿咲南美です。どうぞ、よろしく」
厳粛な雰囲気の中、椿咲はそう声を紡いでいた。
ここは瀞霊廷内にある隊首会議場。そこでは総隊長である山本元柳斎重國から見て奇数隊が左、偶数隊の隊長たちが右に互いに向かい合うようにして一列に並んでいた。
その中で名目上は十番隊隊長へ復帰となる椿咲は元柳斎と向かい合うような形で隊首会議場の入り口近くに立っていた。
「まさか隊長羽織姿の椿咲さんを見ることになるとは思わへんかったわ」
そう言葉を投げるは【五番隊隊長】
「そう?私は機会があればいつでも隊長職に復帰するつもりはあったんだけどね」
「そない簡単に言えるんは椿咲さんだけやで」
「ふふっ、まあ同じ隊長同士だし、先代も後代も抜きにしてやっていこうよ。改めてよろしくね」
「……さて、そろそろ本題に入ろうかの」
元柳斎のその言葉で平子と椿咲は私語をやめて定位置についた。それを確認した元柳斎は手に持つ杖をダン、と床に突いた。
「今回、集まってもらったのは椿咲南美の復帰に関するものがひとつ、そして【十二番隊隊長】
今回、隊首会が開かれた理由は大きく分けて2つあった。1つが椿咲南美が期間限定の特例措置とは言え十番隊の隊長職に復帰する旨を伝えるため。これは椿咲が隊長を辞して300年近く経っていたため、名前だけしか知らぬものが多いだろうと元柳斎が考えた結果だった。
そして2つ目が曳舟桐生の後任について各隊長へ通達を出すためだった。
「皆も知っての通り、【十二番隊隊長】曳舟桐生に昇進のため退位せよと命が下った。そこで各隊長にあっては隊長足り得る者の推挙を願いたい。後日、推挙のあった者すべての隊首試験を執り行う。その際に立ち会いを命ずる隊長は追って沙汰する」
「総隊長、発言をしてもよろしいですか?」
「何じゃ、椿咲南美よ」
「私はまだ十番隊の事を何も知らない状態ですが、仮に十番隊の隊士を推挙する場合それは可能でしょうか?」
椿咲は本来の所属が”十四番隊”であることからたまたま同時期に行われることとなった十二番隊の新隊長の人事について干渉しないつもりであった。
しかしその真意を知らない他の隊長たちから懐疑的な目を向けられることを避けるために、もしもの場合どうするべきかを元柳斎に問いとして投げかけていた。
「規則としては可能となる。しかし先に言うた通り十番隊に疎いおぬしが仮に十番隊の隊士を推挙する場合は、四番隊の卯ノ花隊長と協議したうえでとする。卯ノ花隊長、良いか」
「構いませんよ」
「承知しました。ありがとうございます」
椿咲は一礼すると定位置に戻った。その後、元柳斎は議場を見回して、他に意見のあるものはないかを見ていた。
「他に申したいことがあるものは居らんようじゃな。これにて解散」
・
・
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「2人は推薦したいって子いないの?」
隊首会の帰り
「俺はおらへんな。別に放っといても誰かがなるやろ」
「隊長」
平子が我関せずと言いたげな態度を示したことで藍染は呆れるように言っていた。それを見た椿咲は平子は答えないとして藍染に意見を聞くことにした。
「藍染君は誰かいる?誰が良いと思う?」
「椿咲隊長、僕はそのような事言える立場じゃありませんよ」
「大丈夫だよ。別に誰かに意見している訳じゃないし、何より誰がどう思うのは自由なんだから」
「……分かりました」
困ったように、或いは嫌がるようにしていた藍染だったが、椿咲にしつこく問われたために折れた形だった。
「そうですね……ッ」
「
考えていた藍染は何かを思いついたかのように一瞬だけハッとした顔をすると1人の死神の名を呟いた。その名について平子は聞いたことは無かった。
「浦原喜助?誰やそれ」
「二番隊第三席、隠密機動第三分隊・
「……たまたまですよ」
「俺としては復帰したばかりの椿咲さんが知ってる方が驚きやけどな。浦原っちゅうんが隠密機動なら尚更や」
「『真央霊術院』で見たことがあるだけだよ。あの当時から変わってる子だとか、面白い子だとか言われていたから」
椿咲が言っていることは大胆な嘘である。椿咲は『真央霊術院』で浦原に会ったことは無く、本人が霊術院を卒業しているかも知らなかった。それでも名前と所属、実力を知っているのは”十四番隊”として得た情報の結果であり、それを悟られぬためにもっともらしい理由をつけて平子の追及をかわしていた。
「それじゃあ、私はこっちだから。またね」
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『……なんで藍染君、浦原喜助君の事を知っているんだろ』
平子たちと別れた後、1人歩く椿咲はそう考えていた。平子が言っていた通り、隠密機動の死神は隊長と副隊長を除けば名前が伏せられていることが多く、ましてや各部隊長ともなればよほどの情報通でもない限り知ることは難しかったためだ。
『本当にたまたま知っていただけ?それとも……』
「確信は持てない、か。藍染君は勤勉だから、たまたま知っていた可能性は否定できないしもう少し様子を見ようかな」
-- 瀞霊廷・十番隊隊舎 --
「それじゃあ改めて、私の名前は椿咲南美。今回訳あって十番隊隊長を拝命するに至った死神だよ」
翌日、椿咲の姿は十番隊隊舎にあった。隊首会にて正式に各隊長へ挨拶を済ませた椿咲は今度は自身が受け持つ十番隊隊士たちに挨拶すべくある程度ではあるが人を集めた。
「かつては五番隊隊長を担っていたんだけど、みんなの中には『真央霊術院』で私を見たって方が多いんじゃないかな。前隊長のことは聞いているけど、その人の意思も背負って隊長を務めていくつもりだから、よろしくね」
『真央霊術院』にて教鞭を執っていたことが幸いしてか懐疑的な目を向けるものは少なく隊士たちは歓迎しているようだと椿咲の目には映っていた。
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「みんな早いね。もう来てるんだ」
それからさらに数日後、椿咲の姿は一番隊隊舎にあった。理由は明白で数日前の隊首会にて沙汰のあった、十二番隊の新しい隊長が決まったからだった。
隊首会議場へと続く一番外の建物には、各隊長が来たが分かる出勤札のような物があり椿咲はそれを見て呟いていた。
その前では平子と【七番隊隊長】
「随分とのんびりだね。椿咲隊長は」
「だって、式典が始まる時間は決まってるだからあまり早く来すぎてもしょうがないと思わない?」
「そないなこと言えるんは椿咲さんくらいやで」
「そんな事言わないでよ。……十一番隊は病欠?」
椿咲は各隊の札が番号が書かれた表を向いている中、十一番隊の札だけが何も書いてない裏を向いていることを指して聞いていた。
「
「……大変だね」
『十代目剣八』にして現在の【十一番隊隊長】
「ホンマになんであない豚みたいなやつ隊長にしたんやろな」
「しょうがねぇだろ。代々十一番隊隊長は”剣八”が務める。そう言うしきたりだ。誰かが悪いって言うなら、あいつに敗けた先代の剣八が悪いのさ」
「まあまあ、そこまでにして行こうよ。私が最後なんでしょ?」
「椿咲隊長が最後ってわけでもないよ」
3人が声の聞こえた方へ目を向けると【八番隊隊長】
「いやぁそれにしても
「あれ、今日は早いね。春水さん」
「何言ってるの。僕はいつも一番乗りだよ」
「あたしがケツ引っ叩いて起こしたんや」
「
「ふふっ、なんだか懐かしいな」
京楽と矢胴丸のやり取りを見て椿咲はかつて自身が【五番隊副隊長】を担っていた頃と似ていると思っていた。その昔、悪戯好きであった椿咲は礼儀をあまり重きに置かずに奔放に職務に当たっていた。
「椿咲隊長、何か言ったかい?」
「なんでもないよ。それよりそろそろ行こっか」
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「しっかしまあ、この頃ころころと隊長がよう変わりよるな。一昨年は三番隊にローズ、数日前には十番隊に椿咲さんやろ」
「そこに来て十二番隊、こないな調子で大丈夫なんか」
新隊長着任の儀が執り行われる、隊首会議場に向かう道中【十二番隊前隊長】曳舟桐生がすでに発ったことを始めとして、平子が隊長の代替わりが激しい現状を憂いていた。
「まあまあ、何事にも代わり時ってものがあるんだよ。今はたまたま
「私は100年ちょうどだけどね。それよりも京楽隊長。御一人忘れてますよ」
「そうだぞ、京楽。卯ノ花隊長がいるだろ」
「あっ、そうだった。大先輩忘れちゃ叱られちゃうよ。怖い怖い」
「何が怖いのです?」
「「…………」」
廊下の突き当りを右に曲がった時、左から当の【四番隊隊長】
「いや、何も。今日も怖いくらい天気がいいねって話をちょっと……ね?」
「あ、ああ……」
「「あはは……」」
誤魔化しになってない誤魔化しをする2人を気遣ってか、はたまた雰囲気を良くするためか、椿咲は卯ノ花に挨拶していた。
「おはようございます。卯ノ花隊長」
「おはようございます、椿咲隊長。まだ数日しか経ってはいませんが、十番隊は如何ですか?」
「さすがに300年ちかくブランクがあると感覚を取り戻すのが大変だなというのが正直なところですね」
「徐々に取り戻して行けば良いのですよ。それはそうと、何やら隊長の代替わりについて聞こえましたが」
「ついさっき平子隊長たちと話してたんですよ。私もそうですけど、最近隊長の代替わりが激しいって」
「あらまあ、そう言う事でしたか。三番隊は引退、十二番隊は昇進。十番隊のように殉職と言う訳ではないのですから、平和で良いことではありませんか」
「昇進、ですか?」
卯ノ花が発した”昇進”という言葉。それに最も反応したのは藍染だった。隊長たちの話に割って入ってしまったことで、さすがに平子も注意し、藍染も謝罪したが特に誰も咎めようとはせず、話の輪に入ることを許していた。
「曳舟隊長は昇進されたのですか?」
「そうだよ」
「隊長位より上となると四十六室ですか?そう言った話はあまり聞いたことがないのですが……」
「四十六室じゃないよ。彼女が入ったのは、【王属特務】”零番隊”さ」
「……ッ!!【王属特務】……!!」
「なんじゃ、通せんぼか?」
背後から声をかけられた藍染は振り返った。そこには【六番隊隊長】
「おめでとうございます」
「祝いの言葉なら本人に言ってもらえぬか、卯ノ花隊長」
「なんや、新入りって二番隊の……」
夜一と卯ノ花のやり取りで十二番隊の新しい隊長が二番隊の者であることが知られることとなった。
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「たっだいま♪雷山くん、
新隊長着任の儀から数時間後、狐蝶寺が書類を手に持ちながら高らかにそう声をあげて十四番隊詰所へと入ってきた。
狐蝶寺が書類を片手に襖を開けると、椅子に座りお茶を飲んでいる椿咲の姿が目に入った。
「あれ、南美ちゃん。今日どうしたの?」
「春麗さん、おかえりなさい。新任の儀が終わったので、一度立ち寄ろうと思っただけですよ」
「それよりも春麗、十二番隊の新しい隊長は誰になったんだ?」
「えーっとね……最初から読むよ」
狐蝶寺の持つ伝達、そこにはこう書いてあった。
『前十二番隊隊長・曳舟桐生昇進のための隊長職退位に基づき行われた隊首試験にて、二番隊隊長・
「浦原喜助?聞かない名だな」
後に起きる一件で有名となる浦原喜助だったが、当時の彼はまだ二番隊第三席の地位だったため、雷山もその名は聞いたことがなかった。しかし"情報屋"の異名を持つ”十四番隊”なだけはあり浦原の事は椿咲が知っていた。
「隠密機動の第三分隊・
『
なお、隠密機動に関わる者、十四番隊、総隊長を除いた一般の死神(護廷十三隊各隊長も含む)にはこの施設・制度の存在は知らされておらず、捕縛・収容された者は「脱退」したと伝えられる。
しかし護廷十三隊には脱退制度はない(個人の事情でやむを得ず隊を離れる際は"休隊"。それが長期に渡り復隊の目処が立たない場合は"除籍"となるちなみに引退は除籍扱いになる)ため薄々勘付いている者もいる。
「
「その浦原って子はどんな隊長になるんだろうね」
「さあな、少なくとも俺たちが表に出てくるような面倒事さえ起こさなければなんでも良いんだけどな」
「また何かあればお知らせしますよ。さてと……」
ゆっくりとお茶を飲んでいた椿咲だが、狐蝶寺が帰ってきたのを見届けると同時にゆっくりと湯飲みを置いて立ち上がった。
「なんだ、もう行くのか」
「はい。前隊長が殉職した分、仕事に滞りがあるみたいなので」
「あれだけサボり癖のあった椿咲がな……気張って行って来いよ」
「勿論ですよ」