宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第12話 流魂街魂魄消失事件

 

 

”十四番隊”発足より398年後(浦原喜助が隊長に就任して9年後)――――――

 

 

 

-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --

 

 

 

流魂街(るこんがい)の住人が衣服を残して消えている事件?」

 

 

雷山は浮葉からここひと月の間に瀞霊廷をにぎわせているとある案件についての報告を受けていた。

それは、後に数多くの死神の運命を大きく変える事件だった。

 

 

「はい、雷山部隊長は9年前に報告した一件は覚えていらっしゃいますか?」

 

「9年前?……ああ、浮葉が流魂街(るこんがい)まで調査に行ったというあの一件か」

 

「はい、最初に確認された9年前に調査したときも今回と同様の状態でした。そしてここひと月の間には複数件の発生が確認されています。原因は私どもの調査結果も含めて未だ不明です」

 

「ふむ……その"衣服を残して"というのが気になるな。素っ裸で失踪するやつなんかまず居ないし、何より死んだなら衣服ごとなくなるはずだしな」

 

 

死神や流魂街(るこんがい)の住人などの霊体は衣服を含めてすべて霊子で構成されている。通常、死すれば衣服ごと霊子に分解されて消えてなくなってしまうため、衣服だけを残すことは異常事態と言わざるを得ない状況だった。

 

 

「これから再度調査に向かおうと考えておりますが、如何いたしますか?」

 

「ああ、調査は構わないが、その前に護廷十三隊はどう対応すると?」

 

 

雷山はこの異常事態について護廷十三隊が何もしていないとは考えてはいなかったが、調査することに関して被りが起きないようにまずは十三隊側の動きを知ってから指示を出そうと考えた。

 

 

「九番隊に調査を命じ、先遣隊10名が2日前、隊長以下10名の部隊が先ほど流魂街(るこんがい)に向けて出立したと」

 

「九番隊……今の隊長は確か六車(むぐるま)だったか。よし、では……」

 

「はいはーい!私も調査に行くよ!1人より2人な方がいいでしょ!」

 

 

雷山が浮葉に調査を任せようとしたまさにその瞬間、待ってましたと言わんばかりに近くで聞き耳を立てていた狐蝶寺が話に割って入って来た。

タイミングから考えて自身も浮葉の調査に同行させろと狐蝶寺が言い出したのだと雷山考えた。

 

 

「おい待て、勝手に決めんなよ。九番隊も動いている中、簡単な調査なら浮葉ひとりでも十分すぎるし、そもそも春麗の担当は調査じゃないだろ」

 

「えー、たまには良いじゃん」

 

「……私はご一緒でも構いませんよ。雷山部隊長、春麗隊長にも調査に同行してもらうのは如何でしょう?」

 

 

今にも駄々をこねそうな勢いの狐蝶寺を見かねた浮葉は、雷山に許可を求めていた。勿論、狐蝶寺に対して浮葉が気を遣っていることを雷山は分かっていたため、浮葉の為に渋々許可しようと考えた。

 

 

「はぁ……あまり春麗を甘やかすなよ。では、浮葉と春麗の2人で十四番隊としての独自調査を頼む」

 

「承知しました」

 

「オッケー♪任せてよ♪」

 

 

浮葉は一礼すると、狐蝶寺は手を振ると、瞬歩で調査に向かっていった。

浮葉刃と狐蝶寺春麗、2人の十四番隊メンバーが向かったことで(じき)に解決するだろうと雷山は思っていた。しかしそれから数時間が立った時、瀞霊廷に緊急事態を知らせる木の板を叩く音が響き渡ると同時に事態は一変した。

 

 

 

 

カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!―――――

 

 

”緊急招集!緊急招集!各隊隊長は至急、一番隊舎へ集合願います!―――――”

 

 

「雷山さん!」

 

 

その声と共に十四番隊詰所の襖を勢いよく開けて銀華零が入って来た。先程の声色から想像できる通り、その顔には焦りが見えていた。

 

 

「白、何があった?」

 

「先程入った緊急通達です。六車(むぐるま)九番隊隊長、同久南(くな)副隊長の霊圧反応が消えたと報告が」

 

「例の消失事件の前線部隊か。浮葉と春麗はまだ戻ってないのか?」

 

「はい、戻って来ていません。それどころか消息不明になっております」

 

 

銀華零が焦りを見せている理由は主に2つあった。

1つは、2人の”十四番隊”が向かったにもかかわらず九番隊に異常事態が発生したこと。

もう1つは、その九番隊と同じ辺りにいるであろう浮葉刃と狐蝶寺春麗と言う代え難い2人の”十四番隊”の消息が未だ掴めていなかったからである。

それは雷山にも言えることで焦りこそ見せてはいなかったが、浮葉と狐蝶寺ほどの実力者が居ながらこんな事態になることは信じ難いことであった。

 

 

「まさか、あの二人がいてこんな事態になるとは……」

 

「雷山部隊長!!」

 

 

その時、浮葉が勢いよく入って来た。普段の彼からは想像もできない程の焦燥感がその顔に出ていた。

銀華零も雷山もひとまず浮葉の無事が確認できたことで安堵したが、今はその浮葉が焦りを見せている理由を聞くことが先決と判断した。

 

 

「浮葉、春麗はどうした?」

 

「それも含めて簡潔にですが、ご報告申し上げます。1つ、流魂街(るこんがい)の消失事件が死神にまで被害が及びました。1つ、その調査の為に野営していた六車(むぐるま)九番隊隊長及び、久南(くな)九番隊副隊長以下複数名の席官の霊圧消失を確認。1つ、その後強大な(ホロウ)の霊圧を感知したため、春麗隊長が警戒のためその場に残り私が即時帰還いたしました」

 

「その場に残った?……成程、春麗のやつカッコつけやがって」

 

 

雷山は狐蝶寺が浮葉を報告のためにと理由をつけて庇った結果なのだろうと察した。

勿論、自身が狐蝶寺の立場なら全く同じ行動をしていたために責める気はさらさら無かったが、不測の事態が発生している中でその行動をとらなくとも良いだろうとは考えていた。

 

 

「分かった。前線に【十四番隊・第四将”副将”】がいることを鑑みても、この非常事態は火急の事態と考える。そこで前線には”部隊長”たる俺が直接応援に出向く。白は護廷十三隊の対応を確認後、俺に共有を頼む。帰って来て早々悪いが、浮葉は念のために山吹にこの緊急事態を伝え即時帰還を指示。そして、俺たちの方で何かあれば山吹の帰還を待ってからバックアップを頼む」

 

「承知いたしました」

 

「雷山さん!」

 

 

銀華零は斬魄刀を腰に差し襖に手をかけた雷山を呼び止めた。現地の状況が不明な現場に赴こうとする雷山を見て、その現地にいる狐蝶寺のことを思って、銀華零の表情には『心配』の二文字が現れていた。

 

 

「絶対に無茶だけはしないでください」

 

 

雷山は銀華零の表情がかつて痣城剣八の討伐に向かう時に自身と狐蝶寺に向けていた表情と重なっていた。

”また心配させているな”

そう感じた雷山は必ず狐蝶寺と共に帰って来てやろうと決意していた。

 

 

「ああ、春麗を連れて五体満足で帰って来るよ」

 

 

そう言い残すと雷山は襖を閉じて狐蝶寺春麗、及び九番隊の救援へと向かった。

 

 

 

同時刻、一番隊隊舎にて―――

 

 

 

「事態は火急である」

 

 

元柳斎のその声で緊急の隊首会が始まった。

会議場では【護廷十三隊総隊長】である山本元柳斎を中心に奇数隊と偶数隊に隊長たちが分かれて並んでいた。

 

 

「前線の九番隊待機陣営からの報告によれば、【九番隊隊長】六車(むぐるま)拳西(けんせい)、【同副隊長】久南(くな)(ましろ)の霊圧消失を確認。前線の状況の悪化及び魂魄消失案件による被害が護廷十三隊まで広がったことを鑑みて、隊長格を複数名選抜し、現地に向かってもらう」

 

 

ダッ! ダッ! ダッ! ダッ! ダッ! ダッ! ダッ!

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

「遅いぞ、浦原喜助」

 

 

その時、血相を変えた顔をして【十二番隊隊長】である浦原喜助がやってきた。他の隊長たちとは大きく遅れてやってきた浦原に元柳斎は苦言を呈していた。

 

 

「僕に、僕に行かせてください!」

 

 

浦原の訴えに卯ノ花、朽木銀嶺、浮竹、椿咲など長く隊長を担うものが目を向けていた。

 

 

「ならぬ」

 

「僕の副官が現地に向かってるんす!僕が―――」

 

「喜助!!」

 

 

浦原がみなまで言う前に夜一の怒号が響いた。

 

 

「おぬしが信じて送り出した部下じゃろう!おぬしが狼狽えればその者の侮辱になることが分からぬか!!」

 

「くっ……」

 

「まあまあ、そんなとこに立ってないで並んだ並んだ」

 

 

見かねた京楽が浦原の手を引いて、定位置につかせた。それを見た元柳斎は話を続けた。

 

 

「話を続ける。【三番隊隊長】鳳橋(おおとりばし)楼十郎(ろうじゅうろう)、【五番隊隊長】平子真子、【七番隊隊長】愛川羅武、【十番隊隊長】椿咲南美、以上の4名は直ちに現地に向かってもらいたい」

「【二番隊隊長】四楓院夜一は別命あるまで待機、【六番隊隊長】朽木銀嶺、【八番隊隊長】京楽春水、【十三番隊隊長】浮竹十四郎は瀞霊廷の守護、【四番隊隊長】卯ノ花烈は負傷者搬送に備えて、総合救護詰所にて待機せよ」

 

「お待ちください、総隊長。負傷者の救護ということならば、私は現地に向かうべきではないでしょうか?」

 

「現地の状況が分からぬ以上、救護部門の責任者を動かすわけにはいかぬ。代わりの者を向かわせる、入れ」

 

 

隊首会議場の扉が開くと杖を持ち死覇装の上から青い羽織を纏う死神と死覇装にピンクの衣を羽織る死神の2人が入ってきた。1人は【鬼道衆・副鬼道長】有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)。そしてもう1人は、

 

 

握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)か。表に出てくるのは久々だな」

 

 

青い羽織を纏う死神の名は、握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)。『鬼道衆』にて【総帥・大鬼道長】を務める人物。隊長とほぼ同じ実力を持つが、その役職故か表にはほとんど出てこない人物でもあった。

浮竹と京楽はそれほどの大物が出てきたことでかなりの大騒動と成り得ていることを改めて実感していた。

 

 

「話は聞いておるな。おぬしら2人には現地に向かってもらいたい」

 

「承知」「分かりまシタ」

 

 

その最中、京楽の目線は浦原へとあった。浦原は夜一に諭されたとはいえ、猿柿の安否について未だ心配しており、浮かない顔をしていた。

それを見かねてか、京楽はある提案を元柳斎にすることとなる。

 

 

「ちょっといいかい。山じい」

 

「ん?」

 

「いやぁ、すんません。あのさ、状況も分からない前線に【大鬼道長】と【副鬼道長】の2人が行くのはマズイんじゃないんですかね」

 

「……ならばなんとする」

 

「うちの副隊長を行かせますよ。おーい、リサちゃーん」

 

 

”今から呼ぶのか?”という浮竹を尻目に、京楽はそう名前を読んで見せた。すると隊首会議場の外から返事と共に矢胴丸が姿を見せた。

 

 

「なんや?」

 

「やっぱりいた。もう、隊首会を盗み見しちゃダメって言ってるでしょ」

 

「しょうがないやろ。隠してるもんほど見たくなるのが人の性や」

 

「……話は?」

 

「聞いとった」

 

「頼める?」

 

「あたりまえ」

 

「じゃっ、よろしく」

 

 

リサはグッと親指を立てると準備のために駆け出していった。

 

 

「勝手な真似をしおって」

 

「大目に見てほしいなぁ、これだけ大きな案件は稀だから部下に経験を積ませてあげたい親心ってやつだよ。山じいだってあるでしょ?」

「大丈夫、ああ見えてうちのリサちゃん結構強いんだから」

 

 

京楽と元柳斎のやり取りを聞いた椿咲はどこか懐かしむように笑みを浮かべていた。

 

 

「ふふっ、そう言えば、副隊長の時に雷山隊長に何回かこういう事任せてもらえたっけね……」

 

「というわけで、譲ってもらっちゃってもいいかな?大鬼道長さん」

 

「構いませんぞ。……では、お言葉に甘えて私は休ませてもらうとしましょうかな」

 

 

握菱(つかびし)は浦原を一瞥すると言葉通り隊首会議場を後にした。

それと同時にダン、と手に持つ杖を床に突き【総隊長】山本元柳斎重國は轟然たる声を上げた。

 

 

「それでは、鳳橋楼十郎、平子真子、愛川羅武、椿咲南美、有昭田鉢玄、矢胴丸リサ。以上の6名を以て、魂魄消失案件の始末特務部隊とする!」

 

 

椿咲を除いた4人は一礼すると同時に瞬歩で前線へと向かった。

残る椿咲は出立の前に元柳斎に一声かけていた。

 

 

「山本総隊長、伝達をお願いしてもよろしいですか?」

 

「……よかろう」

 

「ありがとうございます。では、これにて」

 

 

椿咲も元柳斎に対して一礼すると瞬歩でその場から姿を消した。

元柳斎はすべての指示を出し終えたとし、隊首会の解散を宣言した。

 

 

「これにて解散」

 

 

元柳斎が解散を宣言したことで、各隊長たちは持ち場に就くために出口へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「はあ?一番隊隊舎へ召喚だと?」

 

『はい、今しがた山本総隊長よりそう伝達が』

 

 

雷山が現地へ向かう道中のこと、銀華零より護廷十三隊の対応に関する情報共有があった。

その中で、出撃した隊長格の中に椿咲がいることと、【十四番隊部隊長】にあっては至急一番隊隊舎への召喚を命ずることが特筆すべき点だった。

 

 

「元柳斎のやつ何を考えている……」

 

 

初めは無視してでも現地に向かおうと雷山は考えたが、現地には狐蝶寺がいる上に、椿咲が向かったとあれば自身が一番隊隊舎を経由して現地に向かう時間はあると判断して、踵を返すように一番隊隊舎へと向かった。

 

 

 

-- 流魂街(るこんがい)・とある平原 --

 

 

 

「うーん、どうしよう」

 

 

浮葉を瀞霊廷に返した後、最前線に残っていた狐蝶寺は自身のおよそ100m前から放たれる(ホロウ)のような死神のような霊圧を前にしてどうしたものかと攻めあぐねていた。

それにはとある理由があった。

 

 

「雷山くんに私は後先考えずに戦うからあまり暴れるなって言われてるからなぁ……」

 

 

狐蝶寺は自身の持つ斬魄刀の能力と戦闘スタイルによって戦闘を行うと毎回のように辺りを荒らしてしまっていた。それは【宮廷遊撃部隊】の存在を隠すことにどうでも良さを感じる雷山をして、

 

『さすがにやり過ぎだろ』

と称されるほどで、余程の事態で無ければ1人で戦闘はするなと言われていた。

 

 

「けれど始解しなきゃ大怪我しそうなんだよなぁ。……それにしてもこの霊圧はいったい何なんだろう?間違いなく(ホロウ)なんだけど、不思議と死神っぽくもあるだよね」

 

「はっ……はっ……」

 

「……あれ、誰かが近づいて来てる?」

 

 

狐蝶寺はここへと近づいて来ている一つの霊圧を感じ取った。それは数刻前に浦原の命で九番隊の元へ向かっていた【十二番隊副隊長】猿柿(さるがき)ひよ()のものだった。

狐蝶寺も霊圧の高さから副隊長と予想した。初めは護廷十三隊の救援が来たのかと思ったが、人数が1人であったためにその可能性はないとすぐに判断していた。

 

 

「!!」

 

 

狐蝶寺がから遅れること数秒後目の前の、仮に”(ホロウ)のようなもの”と呼び、それも猿柿の霊圧に気づいた様子で攻撃態勢に入っていた。

その気配を察知した狐蝶寺はこのままでは走って来ている副隊長が不意を突かれる形で攻撃を受けると判断した。

 

 

「まずい、このままじゃあの子……!!」

 

「なんやあれ……」

 

 

猿柿の方も暗がりの中、およそ100m先に何かいることに気が付いたが、既に”(ホロウ)のようなもの”は猿柿を攻撃の間合いに入れていた。

 

 

「’#%$‘*@!!!!!」

 

「なっ……!?」

 

 

(ホロウ)のようなもの”の攻撃が猿柿へと届く直前、狐蝶寺は咄嗟に抱きかかえることで攻撃を空振りに終わらせていた。

 

 

 

「大丈夫?ケガはない?」

 

「待てや、あんた……ッ」

 

 

狐蝶寺はこの時まだ気づいていなかったが、猿柿は”(ホロウ)のようなもの”の躱しきれておらず、頬に小さな切傷のようなものを負っていた。

 

その事も意に介さずに猿柿は間に割って入った隊長羽織を纏う死神を見て(いぶか)しんでいた。仮にも【十二番隊副隊長】の地位を任されている自身も目の前の死神は見たことがなかったためである。

 

 

「ごめんね、名乗る訳にはいかないんだ。それよりも君は早く逃げて、ここは私が引き受けるから」

 

 

信じがたい光景を前にして、突如現れた狐蝶寺が言うことは猿柿にとってもっともらしい事ではあったが、猿柿にも去ることが出来ない理由があった。

 

 

「逃げられるわけないやろ……目の前に()るんわ拳西(けんせい)や……!」

 

「拳西?拳西って……」

 

 

その時、雲間から月明かりが差してきた。周囲が明るくなったことで狐蝶寺も目の前にいる(ホロウ)のようなものの正体を知ることとなった。その正体は、背中に【九】の文字が書かれた隊長羽織を身に纏い、顔には(ホロウ)の面を着けた【九番隊隊長】六車拳西だった。

 

 

「……成程ね。どうりで(ホロウ)の霊圧なのにどことなく死神っぽくもあったわけだ」

 

「’#%$‘*@!!!!!」

 

「”蛇睨(へびにら)み”」

 

「……!」

 

 

攻撃を躱された六車は理性もないまま、ただただ目の前にいる狐蝶寺に対して再び攻撃を仕掛けようとしていた。しかしその前に狐蝶寺は強大な霊圧と殺気、威圧感を放ち、一時的にはなるがその足を止めさせた。

 

 

「副隊長さん、この隊長さんがあなたの知り合いなのは分かったよ。だけど、このまま放っておけば被害が甚大になるのはあなたも分かるでしょ?だから悪いけど殺してでも隊長さんをここで止めさせてもらうよ」

 

「’#%$‘*@!!!!!」

 

 

(ホロウ)化した六車はまるで自身を鼓舞するかのように雄叫(おたけ)びを上げて狐蝶寺に向けて拳を振り下ろした。

 

 

「…………」

 

 

迫る拳を前に狐蝶寺はギリギリまで引きつけると、顔を動かして最小限の動きで躱し、斬魄刀で拳を弾いてみせた。そして、今の一撃で狐蝶寺も1つだけ分かった事があった。

 

 

「……やっぱり理性がまったく無いね。それにさっき斬魄刀で受けた時に感じた威力と今の拳の速さ……」

 

 

狐蝶寺は自身や銀華零、雷山と比較しても死神として考えうる実力を凌ぐ力を目の前の六車が持っていると考えるに至った。そして、本当の(ホロウ)ようにその力を本能のままに奮っていることも、

 

 

「どうしたものかな……」

 

「大丈夫か!ひよ里!」

 

 

ひよ里を呼ぶ声に狐蝶寺は一瞬だけ目を向けた。そこには隊長羽織を見に纏った黄色で長髪をした死神を先頭に隊長が計4名、副隊長が1名の部隊がやって来ていた。

その数と来た人物たちからして護廷十三隊の救援部隊が到着したものと狐蝶寺は考えた。

 

 

「……ありゃあ、ホントに拳西なのか?」

 

「さあな」

 

 

目の前で見知らぬ隊長と相対する(ホロウ)の仮面をつけた六車を指して、愛川がそう呟いていた。

勿論、そんなことは今現着した誰にも本人かは判断がついていなかったが、平子は目の前のみ知らぬ隊長を(いぶか)しんでいた。

 

 

「誰や……?」

 

「……”縛道の九十九”『(きん)』」

 

「!!??」

 

 

狐蝶寺が唱えると同時に杭とベルトが六車を捕らえ、そのまま地面に固定した。

到着した救援部隊と落ち着いて話せる環境を整えるべく六車を杭とベルトによる最高位の縛道で封じ込めたのだった。

 

 

「ふぅ……疑われてるみたいだね。殺気が痛いよ」

 

「あたりまえやろ。九番隊が消息を絶った場所に知らん隊長がおったら誰でも……」

 

「春麗さん!?」

 

「え?……南美ちゃん!?」

 

 

平子たちが疑いの眼差しを向ける中、この場で唯一狐蝶寺の事を知る椿咲がそう驚きの声を上げた。

そこで初めて平子たちは目の前の死神が椿咲の知り合いであることを、狐蝶寺は椿咲が護廷十三隊の救援部隊としてやって来たことを知った。

 

 

「なんや椿咲さんの知り合いかいな」

 

「うん、そうなんだけど……」

 

 

椿咲はその時この場をどう誤魔化そうか考えていた。狐蝶寺がこの場にいる理由が調査、或いは救援目的なのは容易に想像できたが、自身しか知らない狐蝶寺の正体を不用意に話してもいいものかと、話したとして平子たちが信じるのかと、そう考えていた。

 

 

「……ともかく、この人は私の知り合いだから大丈夫。今は六車隊長の方を―――」

 

「&%#$‘*‘!!!」

 

 

その時、どこに隠れていたか六車と同じく(ホロウ)化していた九番隊副隊長・久南(くな)(ましろ)が頭上より襲撃して来た。

久南(くな)は最も近くにいた鳳橋(おおとりばし)に攻撃を仕掛けた。それはかかと落としの要領で頭に足を振り下ろすものだった。

 

 

「ローズ!」

 

「ッ!!」

 

 

ガンッ!!

 

 

「くっ……!!なんて一撃なの……!?」

 

 

久南(くな)のかかと落としが鳳橋(おおとりばし)の頭に振り下ろされようとした時、咄嗟に椿咲が鳳橋を押し退ける形で庇い、斬魄刀で受け止めていた。

 

攻撃を上手く受け流していたが、そんな椿咲をして重い一撃と言わざるを得ない威力はあり、斬魄刀も摩擦故かバチバチと火花が散っていた。

 

 

「鳳橋隊長、平気!?」

 

「あ、ああ……すまない、椿咲隊長」

 

「&%#$‘*‘!!!」

 

 

久南(くな)はまるで獣のように雄叫びをあげると、空中に飛び上がり攻撃対象を変えた。

その行く手には平子と猿柿の姿があった。

 

 

「平子君!!」

 

「今度は俺かい!」

 

 

平子は咄嗟に猿柿を抱えると久南(くな)を迎撃する態勢に入った。

幾度かの打ち合いの果てに平子の斬魄刀を足で絡め取った久南(くな)はそのまま平子に足を振り下ろそうとしていた。

 

 

「”縛道の七十五”『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』」

 

 

久南(くな)の攻撃が平子に届こうとした時、上空より五本の鉄柱が降り注ぎその動きを封じた。

それは遅れてやって来た有昭田鉢玄が放った鬼道だった。

 

 

「ハッチ」

 

「間に合ってよかった。真子さん、この状況はいったい……」

 

「さあな、それを聞こう思うねんけど」

 

「ゴホッゴホッ……真子、いい加減離せ」

 

「アホ言え。ひとまず、あんたが椿咲さんの知り合い言うんは分かった。俺らが聞きたいんは、拳西のあの有り様についてや」

 

 

平子は(ホロウ)の仮面をつけて霊圧も(ホロウ)そのものへと変貌している六車のことを聞いていた。しかし、狐蝶寺も何があったのかを実際に見ていた訳ではなく、とても説明できるほどの情報を持ってるとは言い難かった。

 

 

「残念だけど、私も説明できるほど情報を持ってるわけじゃないんだよね」

 

「ほなら、まず拳西がなんでこうなったかを調べる必要が……」

 

「それは十四番隊(わたしたち)が調べるからこのことを総隊長のおじいちゃんに知らせるために、君たちは先に瀞霊廷に帰還してよ」

 

「アホか。俺たちは護廷十三隊やで、そうじゃなくとも拳西を置いて戻れるわけないやろ」

 

「ゴホッゴホッ!!真子……離、せぇ!!」

 

 

ザシュッ!!

 

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

 

その時、その場にいた全員は自身の目を疑っていた。平子に抱えられていた猿柿が苦しそうに咳をしたのも束の間に突然口から白いものが吐き出し、まるで(ホロウ)の仮面のように顔を覆ったのだ。

そしてそのまま(ホロウ)化した猿柿は平子を左肩から鳩尾にかけて斬りつけた。斬られた平子はそのまま地面に伏すように倒れたのだ。

 

 

「ひよ里!!」

 

「どうなってんだよこりゃ!!」

 

 

それは、全員に意識が猿柿に向いた一瞬のことだった。

突然、狐蝶寺を始めその場にいた全員の視界が闇に染まった。それと同時に今さっきまで感じ取っていた霊圧や声、気配すら消え失せてしまっていた。

 

 

「いったいどうなって……」

 

「なにこれ……?」

 

 

突然の事態に狐蝶寺と椿咲も理解が及んでいなかった。それを好機と見た何者かは2人に斬りかかった。先に斬り伏せた他の隊長格と同じくこの闇の中ならば2人を斬り伏せることが可能と考えたからだ。

 

 

「ッ!!」

 

 

しかしそこに唯一の誤算があった。

残るは狐蝶寺と椿咲という猛者であり、これまでの経験から背後で何者かが刀を振るったことによる僅かな空気の流れを感じ取り、見えないながらも斬撃を躱すことが出来たのだ。

 

視界が元に戻った後、辺りの状況は一変していた。狐蝶寺と椿咲を除いた全員が斬られて地に伏していたのだ。

 

その凶行に及んだと思われる、背中に『六車九番隊』と書かれた隊長羽織とは別の白い羽織を見に纏う死神が一人立っていた。狐蝶寺も椿咲もその死神を見たことが無く名前も分からなかったが、平子が呟いた一言で名前を知ることとなる。

 

 

「東仙……お前、自分とこの隊長を裏切ったんか……!?」

 

「バカな……」

 

 

平子に東仙と呼ばれた死神は、地に伏す平子のことを意に介さずにただ狐蝶寺と椿咲を見据えていた。

自身の斬撃を躱したことを信じられないと言いたげな顔をして、

 

 

「東仙って確か九番隊の……」

 

「君が今回のこの事件の首謀者ってことでいいのかな?」

 

「…………」

 

「何か言ったらどう?黙り込んでても話は進まないよ?”自分とこの隊長を裏切った”って言われてたけど、それは事実なの?」

 

「裏切ってなどいませんよ。彼はただ、忠実に僕の命令に従ったにすぎない。どうか彼を責めないでやってもらえませんか」

 

「え、この声ってまさか……」

 

 

椿咲は聞き覚えのある声が聞こえたことで自然と視線をそちらに向けていた。

 

そこにはまだ幼さが残る1人の死神を連れて、とある死神が歩いて来ていた。

 

それは後に”大逆の罪人”と呼ばれる死神であった。

 

 

 

 

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