宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第13話 藍色の暗躍

 

 

「火急の事態につき失礼する」

 

 

その言葉と共に雷山はまるで押し入るように一番隊隊舎の隊長執務室へやって来た。

普段の彼ならば、礼儀として部屋の入る前に名乗りを上げるところだが、今はそんな余裕と時間を現状持ち合わせていなかった為、無礼承知の措置であった。

 

 

「元柳斎、こんな時にいったい何用だ?」

 

「無論、此度の魂魄消失案件に関して」

「既に伝わっとると思うが、現地へは椿咲南美を向かわせておる。それ故、その他【宮廷遊撃部隊】人員は詰所内で待機を命ずる」

 

「やはりか……椿咲の名が始末特務部隊にあった時にそう思いはしたが」

 

「今はともかく我々【護廷十三隊】に任せてもらおう。おぬしらに動いてもらうのはその後でも良い」

 

「……残念だが、既に我々は動いている。いや、結果的に動いてしまったと言った方が正しいか」

 

「なんじゃと?」

 

 

雷山がそう言うと同時に元柳斎は片目を開き見据えていた。”また勝手な行動をしたのか”と、

それは一般隊士、下手をすれば隊長格すら冷や汗をかくほどの威圧感が出ていた。

 

 

「そんな目で見ないでもらいたいな。それにお前が思ってることとはだいぶ違う。九番隊が調査に出ると聞き、”十四番隊”からも2名調査に派遣していた。そのうち浮葉だけ帰還し、1人が残る状態になっただけの話だ」

 

「状況は分かった。が、先に言うた通り、その人員にあってはすぐに呼び戻してもらおう」

 

「無理だ、と言ったら?」

 

「何故じゃ?……待て、もしや前線に残る”十四番隊”は」

 

「【十四番隊・第四将”副将”】狐蝶寺春麗」

 

「…………」

 

 

元柳斎はよりにもよって狐蝶寺が前線に残っているのかと言いたげな顔をしていた。それと同時に雷山が自らが出て行こうとしていた理由も理解していた。

 

狐蝶寺では前線に向かわせた始末特務部隊と衝突する可能性が否定できなかった。それは椿咲がいても同じ事であり、その荒れた場を纏める出来るのは雷山など限られたものしかいないと元柳斎自身も分かっていたからである。

 

 

「再度問うぞ【護廷十三隊総隊長】。俺が前線に出向くの、問題ないよな?」

 

「1つ問う。おぬしはこうなることを見越して狐蝶寺を向かわせた訳ではあるまいな?」

 

「そんな面倒な手間をかけるなら初めから俺が行ってる。それに俺は初め浮葉を調査に向かわせるつもりだったんだが、春麗がついて行くと聞かなくての結果だ」

 

 

雷山はそう言い残すと元柳斎の返事を待たずに走って出て行った。

 

 

その頃、

時同じくして、

 

 

 

-- 流魂街(るこんがい)・とある平原 --

 

 

 

「裏切ってなどいませんよ。彼はただ、忠実に僕の命令に従ったにすぎない」

 

「この声って、もしかして……」

 

 

地面に倒れ込む平子と東仙と相対していた狐蝶寺は声がした方へ目を向けていた。そこにはまだ幼さが残る1人の死神を連れて【五番隊副隊長】藍染惣右介が歩いて来ていた。

 

 

「藍染君……」

 

「藍染くん?」

 

 

現在の護廷十三隊について詳しくない狐蝶寺は目の前の眼鏡をかけた死神の名を口にした椿咲に対して聞き返していた。

答える椿咲は信じ難いと言いたげな顔をしていた。

 

 

「【五番隊副隊長】藍染惣右介君です」

 

「どうも、椿咲隊長。やはり(ホロウ)化した六車隊長でも、椿咲隊長に手傷を負わせるまではいきませんでしたか」

 

「それってどういう……」

 

「南美ちゃん」

 

 

徐々に動揺を見せる椿咲に対して狐蝶寺は名前を呼ぶことで気分を落ち着かせていた。

そんな彼女だが、その眼には明らかに苛立ちや怒りが見えていた。

 

 

「【五番隊副隊長】藍染惣右介くんって言われてたよね。一応聞くけど、救援じゃないよね?」

 

「貴女は……」

 

 

藍染はその時「そうか」や「成程」と呟いて何やら1人で納得した様子を見せていた。

ここへ来る前から始末特務部隊の隊長格たちとは別の霊圧を感じ取っていたため、その正体について思案して答えに辿り着いたからであった。

 

 

「何故貴女がこの場に居るのかは今は置いておきましょう。今は、」

「こちらの観測をするのが先だ」

 

 

藍染は狐蝶寺たちから地に伏す平子に視線を移していた。眼下では(ホロウ)化したひよ里によって負わされた傷で冷や汗をかき自身を睨む平子の姿があった。

 

 

「藍染……やっぱしお前やったんか……!!」

 

「気付かれていましたか。さすがですね、平子隊長。いつからですか?」

 

「お前が母ちゃんの子宮ん中()る時からや」

 

「成程、ひどく疑われていたものですね。しかし、僕に深く疑念を抱いて頂いたことには感謝しなければなりませんね」

 

「……どういう意味や」

 

「気付きませんでしたか?()()()()()()()()()()()()()()()()になっていたことに」

 

「ッ!!」

 

 

平子は驚愕していた。自身は藍染が危険だと思い、最大限警戒していたにもかかわらずその警戒をすり抜けて別人にすり替わっていたことに、

 

 

「ここ数年は椿咲隊長がいない場面を狙ってはいましたけどね」

「平子隊長、あなたは鋭い人だ。もしあなたが他の隊の隊長のそれと同様に副官に心を開いていたなら、僅かな所作や癖の違いに違和感を覚え、或いは見抜いていたかもしれない。あなたが深く疑念を抱き、警戒し、僕について何も知らないでいてくれたおかげで、そこに倒れることになったんですよ。平子隊長」

 

「藍染……!!」

 

「ふっ……ああ、それともう一つだけ言っておきましょう。あなたは恐らく僕を選んだと思っているのでしょうが、実際は逆です」

「隊長の”副隊長任命権”と同様に、隊士にも”着任拒否権”がある。行使されることは稀ですが、それでも僕は副隊長にならない選択肢もあった。では、何故そうしなかったか?」

「理想的だったからですよ。あなたのその僕に対する疑念と警戒心が僕の計画を進めるうえで好都合だった。分かりますか、()()()()()()()()()んじゃない。()()()()()()()()()んです」

 

「藍染!ぐはっ……!!」

 

 

力を振り絞って立ち上がった平子だったが、突然口から白いものが吐き出され、顔の左半分を覆い始めた。

それを合図とするかのように東仙によって斬り伏せられ、意識がない他の隊長格も同様の事態が起き始めた。

 

 

「平子君!!」

 

「藍染惣右介くん、これはなに?何をしているの?」

 

 

事態の悪化を受けて椿咲は平子に駆け寄り、狐蝶寺は斬魄刀を藍染に突き立てた。しかし、藍染はその事を一切気に留めずに話を続けていた。

 

 

「安い挑発に乗っていただきありがとうございました。……しかしやはり軽い興奮状態の方が(ホロウ)化の進行状況は早いみたいだね」

 

(ホロウ)化、やと……?」

 

「知る必要はない」

 

 

藍染は椿咲と狐蝶寺が間にいることをまるで気にもせずに平子を斬るために斬魄刀を鞘から引き抜いた。

 

 

「最期に1つ覚えておくと言い、平子隊長。目に見える裏切りなどたかが知れている。本当に怖いのは目に見えぬ裏切りですよ。さようなら、あなたたちはとても良い材料だった」

 

「くそおおぉぉ!!」

 

「南美ちゃん、その隊長さんをよろしくね」

 

 

平子を斬ろうとする藍染にカウンターとして狐蝶寺が攻撃を仕掛けようとしたその時だった。藍染は狐蝶寺ではない何かの気配に気付いたように一瞬だけ目を向けるとその場から飛び退いていた。

それと同時に黒いフードを被った何者かが斬りかかり、藍染の左腕に巻かれていた副官証をひっかけ、弾き飛ばした。

 

 

「ほう……これはまた面白いお客様だ。いったい、何の御用ですか?」

 

 

そう言葉を口にする藍染の目の前には黒いフードの装いの【十二番隊隊長】浦原喜助と死覇装に青い羽織を纏う【鬼道衆総帥・大鬼道長】握菱(つかびし)鉄裁両名が立っていた。

 

 

「浦原隊長、握菱(つかびし)大鬼道長」

 

「浦原隊長、何故ここに……」

 

 

黒いフードにより顔が見えていなかったが、藍染がその名前を口にしたことで狐蝶寺と椿咲はこの場にやって来て、つい先ほど藍染に斬りかかったのが浦原であることを知った。

 

 

「き、喜助……なんで来たんや、アホか……」

 

「平子さん、何すか?その趣味の悪い仮面は」

 

「はっ……言うてくれるやんけ……」

 

 

自身の冗談に対して、普段と変わらぬ返答をする平子に浦原はまだ間に合うと安どの表情を一瞬浮かべた。

そしてすぐにその表情を殺し、藍染に目を向けた。

 

 

「藍染副隊長、ここでなにを?」

 

「何もしておりません。御覧の通り、偶然にも戦闘で負傷した”魂魄消失案件始末特務部隊”の方々を発見し、椿咲隊長と共に救助を試みていたところです」

 

「……何故、嘘を吐くんすか?」

 

「嘘?副隊長が隊長を助けようとすることがおかしいと?」

 

「そこじゃない。戦闘で負傷した?違う、」

「これは(ホロウ)化だ」

 

 

【宮廷遊撃部隊】すら持ち合わせていないこの不可解な現象について(ホロウ)化と言い切った浦原の語りに藍染を除いたその場にいるは人物は息を飲んでいた。

唯一、藍染はやはり予想通り(ホロウ)化と断定してきた浦原に面白いと言った印象を持ち合わせていた。

 

 

「椿咲隊長、今回の魂魄消失案件は何者かによる(ホロウ)化の実験によるっす。この状況でぼかす必要もない訳っすけど」

 

「……成程。やはり君は思った通りの男だ。今夜ここへ来てくれてよかった。ギン、要。目的は十分果たした、行くよ」

 

「待て、藍染!話はまだ……」

 

「逃がすと思ってるの?これだけのことをやっておいて」

 

 

歩いて去って行こうとする藍染の行く手を斬魄刀の切先を向けた狐蝶寺が阻んでいた。

対して、藍染はその時不敵な笑みを浮かべていた。まるでこの場から簡単に逃げ遂せることが出来ると言わんばかりに、

 

 

「逃げるとは思ってはいないさ、逃げる必要がないからね」

 

「それってどういう……」

 

「お二人とも、お退き下され!!」

 

 

突然響き渡った握菱(つかびし)の声に、浦原と狐蝶寺は目を向けていた。見ると握菱(つかびし)左腕を伸ばし右腕でそれを支えるような格好を取っていた。

その構えから鬼道を放つと察した2人は咄嗟に飛び退くことでは握菱(つかびし)の射線上から()けた。

 

 

「”破道の八十八”『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』!!」

 

 

握菱(つかびし)が伸ばしている左手より蒼い雷撃が放たれた。それは勢いそのままに背を向けている藍染ら3人を飲み込もうとしていた。

巨大な雷撃が迫る中、藍染は背中を向けてまま薄ら笑みを浮かべて一言呟いた。

 

 

「”縛道の八十一”『断空(だんくう)』……」

 

 

鬼道の防壁が生成され、握菱(つかびし)の雷撃をぶつかり合って爆発炎上した。その光景に、鬼道を放った本人である握菱(つかびし)は信じられないと言いたげにそれを見つめていた。

 

 

「……バカな。()()()()()()()()()断空(だんくう)』 で ()()()()()()()()……!?」

 

 

 

”縛道の八十一”『断空(だんくう)

それは、八十九番以下の破道を全て防ぎきる効果を持つ縛道。しかし、それはあくまで実力が近しい者同士が使った場合であり、隊長と同等とも言われる鬼道衆の【大鬼道長】が放つ鬼道を副隊長が詠唱破棄した状態で止めることなど不可能であった。

握菱(つかびし)はそのことに対して驚いていたのだ。

 

 

 

「申し訳ない。(のが)してしまったようです」

 

鉄裁(てっさい)さん、彼はいったい……」

 

「ぐああぁぁぁ……!!」

 

「平子君?平子君!しっかりして!!」

 

 

うめき声と共に平子がより一層苦しみ始めた。目も徐々に焦点が合わなくなっており、(ホロウ)化しきるのも時間の問題だった。

 

 

「……3人共ここに倒れてる隊長格のみんなを頼んでもいいかな」

 

 

緊迫した状況下の中、

ただ1人冷静にそう言葉にした狐蝶寺に全員の視線が向けられた。

 

 

「【先代護廷十三隊十三番隊隊長】狐蝶寺春麗さんっすね。いったい何をするつもりですか」

 

「そんなもの決まってるでしょ。あの3人を捕らえに行くんだよ」

 

 

そう言う狐蝶寺の目には明らかな怒りと殺気が映っていた。

狐蝶寺は雷山と等しく護廷十三隊の後輩たちのことを大事に思っていた。それはどんな理由があったとしても仲間を手にかけることに対して怒りを見せる程に、

そんな彼女が明らかに仲間を実験動物としか見ていない藍染惣右介に対して怒らぬはずが無かった。

 

 

「……春麗さん、私も行きます」

 

「南美ちゃんは救援部隊でしょ?私の身勝手に付き合い必要はないよ。それよりこの場の始末をお願いね」

 

「それは浦原隊長がやってくれますよ。それに救援部隊ではなく、始末特務部隊です。今回の案件ついて始末をつけるのが私の役目ですよ」

 

「……はぁ、分かった。南美ちゃんも意外と強情だよね」

 

「待ってください!いくらなんでも無茶だ」

 

 

浦原は【大鬼道長】である握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)の鬼道を簡単に止める実力を持つ藍染惣右介相手にいくら先代隊長たる狐蝶寺春麗でも椿咲南美でも危険すぎると言っていた。

 

 

「失礼言ってくれるね。……浦原くん、さっき君はこの白いものを吐き出す現象を(ホロウ)化と言い切ったよね。つまり君はこの現象に対して知識があるわけだ。対して私はこの場にいても右往左往するだけで邪魔にしかならない。そんな私に出来る唯一のことはあの3人を捕らえること。適材適所ってやつだよ」

 

 

狐蝶寺の言っていることは屁理屈と捉えることも出来たが、一理あることもまた事実だった。

そして浦原にとってこの場で狐蝶寺を止めることの出来る理由は一切ないため、自身の不用意の為に狐蝶寺に危険が及ぶ可能性を考えながらも引き下がった。

 

 

「……分かりました。お気をつけて」

 

「任せておいてよ♪」

 

【挿絵表示】

 

 

 

そう言う狐蝶寺は天真爛漫とも、可愛らしさがあるとも言える笑みを浮かべて答えていた。

しかしそれも束の間、狐蝶寺は霊圧を解放すると同時に辺りの空気と狐蝶寺の目つき、先ほどまでの狐蝶寺の雰囲気をガラッと変えた。それは浦原や握菱(つかびし)がゾッと戦慄を憶える程のものだった。

 

 

「……見つけた」

「浦原隊長、平子君を、みんなをよろしくお願いします」

 

 

狐蝶寺は一言だけ呟くと、椿咲は浦原へ一言かけると、共に瞬歩で消えた。

一方で残る握菱(つかびし)はつい先ほど、狐蝶寺が言っていた通り、浦原には何かこの現象を止める手立てに心当たりがあるか問いを投げかけた。

 

 

「浦原殿、先ほど狐蝶寺殿が言っていた通り、この事の対処法に心当たりがある。そう捉えても良いか」

 

「……はい、賭けのような方法ですが」

 

「承知。それでも何もないよりはいい」

 

 

握菱(つかびし)は立ち上がると同時にとある鬼道を使うべく構えた。

 

 

「今からこの場にいる全員をこの状態のまま十二番隊舎へと運びます。隊舎の設備があれば、彼らの命は救えましょう」

 

「この状態のまま……!?そんな、どうやって……」

 

「”時間停止”と”空間転移”を使います」

 

「なんだって……!?」

 

「どちらも”禁術”。使用は厳に戒められているもの。故に今よりしばしの間、耳と目をお塞ぎ願いたい」

 

 

辺りを眩い閃光が包むと同時に握菱(つかびし)の鬼道によって空間ごと転移していった。

その頃、狐蝶寺たちは藍染らがいる地点まで今一歩のところまで迫っていた。

 

 

「…………」

 

 

歩く愛染は一瞬だけ後ろをチラッと見ると斬魄刀を抜刀し横一閃に振り抜いた。それと同時にガキンッという金属同士が当たるけたたましい音が辺りに響いた。

辺りに静けさが戻ると同時に斬撃を仕掛けた狐蝶寺が藍染たちの目の前に着地する形で現れ、それに続くように椿咲が瞬歩で現れた。

 

 

「やれやれ、僕にいったい何の用事ですか?椿咲隊長、そして狐蝶寺隊長」

 

 

藍染が狐蝶寺の名を口にしたとき、当の本人である狐蝶寺と椿咲は一瞬だけ目を見開いた。

前線に着いた時の隊長格たちがそうであったように、関わりのない者は姿や霊圧を見ただけでは誰も狐蝶寺本人だと分かるはずが無かった。

しかし藍染は何の疑いもなく狐蝶寺を本人として認識していたのだ。

 

 

『やっぱり春麗さんのことを……』

 

 

「さっきなんか納得してるなぁと思ってたけど、私のこと知ってるんだ」

 

「当然ですよ。先代の隊長を知らぬほうがおかしい話だ」

 

「尚の事おかしいね。公的記録じゃあ、私は300年くらい前に死んでいることになっているんだけど」

 

「……ええ、しかし貴女はこうして僕の目の前にいる。記録よりも自身の目で見たことの方が信じるに値しますよ。狐蝶寺隊長」

 

「ふーん。まっ、この際私のことを知っているとかはどうでも良いんだよ」

「藍染君、私たちが言うことはただ1つ、大人しく投降してほしい」

 

【挿絵表示】

 

 

 

狐蝶寺と椿咲は互いに背中を合わせるように立っていた。

藍染を見据えている椿咲に対し、狐蝶寺の顔には笑みが見え、余裕があるように思えた。

 

そんな目の前で圧倒的な霊圧を放つ2人を前に東仙は臨戦態勢をとり、市丸は何をしてもアカンと斬魄刀に手すらかけずに、藍染は不敵な笑みを浮かべてただ見据えていた。

 

 

「仕様がない方たちだ」

 

 

たとえこの場で逃げ(おお)せたとしても追いつかれると判断した藍染は自身の斬魄刀の能力で足止めをしようと考えた。

しかし、死神は霊圧を用いた戦いであるため藍染の斬魄刀の能力が確実に狐蝶寺春麗、椿咲南美という死神に通用する保証もないためある意味賭けのような形となっていた。

 

 

「抗ってくれても良いけど、私と南美ちゃんも手加減なんかしない。相応の覚悟をすることだね」

 

「面白いことを言いますね。まるで手加減が出来ると言っているみたいだ」

 

 

ゴロゴロゴロォォォォォォ!!!

 

 

狐蝶寺、椿咲と藍染が激突しようとしたまさにその時、突如雷鳴が辺りに轟いた。狐蝶寺と椿咲はその音が雷山の斬魄刀によるものだとすぐに気が付いたが1つだけ決定的なミスを犯していた。

それは雷の轟音に反応した際に一瞬、ほんの一瞬だけ目の前にいる藍染惣右介から意識を逸らしてしまったことだった。

その隙を藍染が当然見逃す訳もなく、すぐさま鬼道を使って姿を眩ませたのだ。

 

 

「”縛道の八十七”『陽炎写(かげろううつし)』」

 

「しまっ……」「藍染君!!」

 

「惜しかったですね、椿咲隊長」

 

 

笑みを浮かべたまま藍染は市丸や東仙と共に陽炎のように消えて行った。

それとほぼ同時に、瞬歩で雷山が現れた。雷山は無傷で立つ狐蝶寺と椿咲の姿を見て一瞬だが安堵の表情を浮かべていた。

 

 

「雷山隊長」

 

「雷山くんごめん!逃げられちゃった!」

 

 

今までにあったことの全ての説明を省いた狐蝶寺のその声に雷山は戸惑いを見せていた。

 

 

「逃げられたって何にだよ。例の(ホロウ)みたいな霊圧をしたやつか?」

 

「【五番隊副隊長】藍染惣右介くんだよ。彼が(ホロウ)化実験の首謀者だったんだよ!」

 

 

副隊長と藍染の名前を聞いた時、雷山は一瞬だけ驚いたように目を見開いていた。たった1人の副隊長が【護廷十三隊】、引いては【宮廷遊撃部隊】相手にこれだけのことをやり(おお)せた事に感嘆すら覚えた。

そしてもう1つ、椿咲から聞いていために人柄もある程度知っている、藍染惣右介と言う死神が大逆を働いた事実には予想外と言わざるを得なかった。

 

 

「……成程。(ホロウ)化と言うのも初めて聞く言葉だが、つまるところ浮葉が報告した例の(ホロウ)みたいなやつはその実験体という事か」

 

「そう言うこと。それでここからが本題、藍染くんを追おうよ。雷山くん」

 

「その前に前線はどういった状況になってるか教えてくれ」

 

「それは私が報告します」

 

 

雷山は2人が前線を放って来ている訳はないと思っていたが、前線の状況が全く分からない状態にあり、場合によっては藍染を放って置き、2人を伴って前線に戻る必要があると考えていた。

その中、始末特務部隊の1人として前線に赴いた椿咲が狐蝶寺に代わって雷山に報告を始めた。

 

 

「まず、前線で対応にあたった始末特務部隊は、私を除いて壊滅状態にあります。詳細を言えば(ホロウ)化しかけている状態です。その後、【十二番隊隊長】浦原喜助、【鬼道衆総帥・大鬼道長】握菱鉄裁両名が参上しました」

「現状は(ホロウ)化に対して知識のある浦原隊長、握菱(つかびし)大鬼道長の両名が残り(ホロウ)化の処置を行っている状態です」

 

「……分かった。では、前線はその2人に任せて我々は藍染捕縛を第一とする」

 

「オッケー」「分かりました」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

”雷山さん、聞こえますか!”

 

「白か?心配をかけたな、春麗も椿咲も無事だぞ」

 

 

3人揃って瀞霊廷に帰還した時、銀華零より鬼道による呼びかけがあった。雷山は自身らが帰還したことを察知した銀華零が呼びかけして来たものだと思ったが、銀華零の口からは思いもよらない言葉が飛び出した。

 

 

”その前に厄介なことが起きました。つい先ほど、浦原十二番隊隊長と握菱(つかびし)大鬼道長に捕縛命令が出ました”

 

「捕縛命令だと?何の容疑でだ?」

 

”命令を出したのは『中央四十六室』。容疑に関しては浦原十二番隊隊長へは”禁忌事象研究及び行使・儕輩欺瞞(せいはいぎまん)重致傷の罪”。握菱(つかびし)大鬼道長は”禁術行使の罪”の容疑です”

 

「……成程、先手を打たれたか」

 

「先手?何があったの?」

 

「浦原と握菱(つかびし)に捕縛命令が出た。罪状は儕輩欺瞞(せいはいぎまん)重致傷と禁術行使」

 

「ッ!!」

 

「え!?なら早く止めないと!」

 

「白、状況は分かった。山吹は戻ってるか?」

 

”はい、戻って来ました”

 

「よし、では俺はこの後椿咲と共に元柳斎のもとへ向かい状況の確認をする。中央四十六室(ろうがいども)のことだ、まず無罪などあり得ないだろう。そこで浦原、握菱(つかびし)両名の身柄保護を最優先とするために動く、部隊人員は白、浮葉、山吹の3名だ」

 

”……分かりました、準備しておきます”

 

 

普段なら中央四十六室の判決に手を出すという反逆とも取られかねない危険な行動を止める銀華零であったが、そのリスクを負ってでも浦原、握菱(つかびし)の身柄保護するべしと覚悟を決めていた様子だった。

 

 

”そして雷山さん、捕縛命令と共にもう1つ別の命が……”

 

「別の命?……は?」

 

 

その声に狐蝶寺は目を向けていた、そして雷山から怒りを感じ取った。

雷山は銀華零から伝えられたもう1つの命令のことに一瞬驚いた顔をした後、眉間にしわを寄せて怒りに満ちた顔をしていた。

 

 

「分かった。ひとまず準備を頼んだぞ。はぁ……」

 

「また何かあったの?」

 

「ああ、捕縛命令とは別な命が出たそんなんだが

 

 

雷山は途中まで言いかけた言葉を飲み込んだ。

 

 

―――……いや、春麗には話せないなこれは」

 

「なんで?雷山くんも知ってるでしょ。私の一番嫌いなことが隠し事されることだって」

 

「それを知った上で()()言うべきじゃないと判断したんだ。なぜなら、白から聞いた内容を春麗に教えれば、確実に藍染惣右介と中央四十六室を殺しに行くくらい怒ると思ったからだ」

 

 

雷山は長い付き合いの狐蝶寺の性格を知っていた。仲間を大切にする死神だと、

 

そんな彼女が銀華零からの報告内容を聞いたらどうなるか、どうするか、そんなものは火を見るよりも明らかだった。

 

 

「…………」

 

 

一方の狐蝶寺は雷山に不満を感じていた。しかし同時に考えた。何故、報告内容ではなく報告内容を聞いた後の行動を言ったのかと、

狐蝶寺は雷山は察してほしかったのだと考えついた。自身の性格を知る雷山が、自身がその行動に移すほどの内容である報告を受けたのだと、だからこの場は雷山への不満だけにとどめて大人しく休んでくれと、口には出さずに暗にそう言っているのだと。

 

 

「春麗、気付いてないと思わないが、少し霊圧も落ちてる。本番はこれからだって言う時にばてていたら楽しめないぞ?」

 

「……分かったよ。それじゃあ少し休ませてもらうね」

 

「ああ、だが白たちの方に何かトラブルがあったらそっちの対応に当たってくれ」

 

「はーい」

 

 

 

 





・その他用語


”縛道の八十七”『陽炎写(かげろううつし)
陽炎を発生させて自身の姿を風景に溶け込ませる。この縛道は鬼道自体をかなり使いこなせないと練習レベルの効果も出せず、熟練した者(例えば、藍染惣右介など)なら溶け込ませる対象を他者にも影響させたり、姿を隠す以外に自身や他人の姿を(かたど)った陽炎を出すことも出来る。

ちなみに雷山が最も得意としている鬼道。

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