「【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】雷山悟だ。失礼する」
雷山は椿咲を伴って一番隊隊舎へとやって来ていた。元柳斎に第1次報告として前線の状況を説明すると同時に、銀華零より届いた沙汰について意見をするために、
「雷山か。帰還には些か早いがするが」
「訳あってとんぼ返りだ。それよりも魂魄消失案件の最終処分について聞かせてもらおう。一体何を考えている」
「匿名の通告があっての、【十二番隊隊長】浦原喜助、【鬼道衆総帥・大鬼道長】握菱鉄裁の霊圧が確認されたことは明白、よって【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の調査を待たずとも良いと『中央四十六室』の判断じゃ」
「『
「平子真子ら隊長格7名は虚として厳正に処分だぁ?ふざけるんじゃねぇぞ!!」
先刻、銀華零からあった浦原喜助らの捕縛命令とは別の報告。それは、
” 【五番隊隊長】平子真子以下7名の隊長格は職位を全て剥奪の上、
というものであった。
護廷十三隊の後援部隊である【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”としてこれは到底看過できるものではなかった。
銀華零が反逆に問われるリスクを負う覚悟を決めていたのも、雷山が怒り、狐蝶寺が藍染、中央四十六室を殺しに行くと予想がたてられたのもこれが主な理由であった。
「言いたいことは分かる。じゃが、おぬしらも分かっておろう”護廷の為に犠牲もやむなし”であると」
「では聞くが、これからの護廷十三隊と鬼道衆。この二つの部隊がどうなるとお前は考えているんだ!」
「愚問じゃな。この事態を見越して儂は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”を発足させた」
「見越してだと?どう考えても許容範囲を超えてるだろ!はぁ……もういい。直接『
「待て雷山、勝手な真似は慎め」
「やかましい。椿咲、後の報告は頼んだぞ」
雷山は元柳斎の静止も聞かずに椿咲に報告を任せて出て行ってしまった。
残された椿咲と元柳斎の間に会話はなく、先程までの雷山の怒号が嘘のように辺りには静けさが残っていた。
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「【
『中央四十六室』の裁判官と賢者が一堂に会する『地下議事堂』の前で、雷山はそう名乗りを上げ面会許可を求めていた。 しかし辺りは静まり返っており、雷山に対して返答はなかった。
返答が無かったことで今まさに裁判が行われていると判断した雷山は腰に差す斬魄刀に手をかけた。
「失礼、【宮廷遊撃部隊】雷山悟部隊長とお見受けいたします」
「……誰だ?」
声を掛けられたため雷山は背後に目を向けた。そこには自身も知らぬ1人の死神が部下と思われる死神を連れて立っていた。
雷山は即座に『中央四十六室』の護衛の任に就く護廷十三隊の死神だと判断した。
「私はこの場の警備を任されている者です。失礼ながら名は明かせません。『中央四十六室』へ面会とのことですが、今は間が悪い。お引き取りを願います」
「さっき俺の名前を呼んだからそれ相応に俺のことは知っていると見る。そのうえで言うが、そう言われて大人しく帰るような奴に俺は見えているのか?」
「いいえ、しかし恐らくはあなた様の目的の人物はすでにこの場には居りません」
「どういう意味だ?」
「本来は話す
「……成程。つまりは二人とも逃げたから仮に俺がここをぶち破っても無意味……って言いたいわけか」
「左様です。お引き取り願いますか?」
「……いいだろう。だが、もしこれが嘘だと分かれば問答無用であんたの首が飛ぶことになるからな」
雷山は目の前の死神の言う事が真実であるとは思っていなかった。だが、嘘だと断定することも出来なかった。
そこで、仮に真実だった場合を考えて取るべき選択肢を変えた結果だった。
「……良かったのですか?帰してしまって、それに【宮廷遊撃部隊】とは……」
雷山の背中を見送る部下の死神がそう口を開いていた。その死神は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”なる部隊に心当たりが無かった。
上官の死神はチラッと視線を向けると手を部下の死神の前に出して言葉を遮った。
「余計な詮索は止した方がいい。死を意味する」
「はっ……!し、失礼しました」
「今は地下議事堂に侵入した者の捜索が最優先。行くぞ」
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「ありがとうっす、夜一さん」
隠密機動の刑軍が身につける黒装束。その顔部分だけを取る【二番隊隊長】
ここは双極の丘の地下に広がるとある空間。『中央四十六室』の判決を今まさに受けんとしていた浦原、
「礼なんぞ要らん。夕べ、何故儂にも一声掛けんかったと蹴り飛ばすのも後にしておいてやる」
「……!」
浦原が目を向けると完全に虚化しかかっている隊長格たちの姿があった。
「全員ともここへ運んである。おぬしが研究しておった新しい義骸の試作品ものう」
「さっさとやってしまえ、今回の事件のことを最初に平子に聞いた瞬間、おぬしが考えておった最悪の顛末とそれに対する最善の策を」
「……ふっ、やらしい人だ。全てお見通しってことっすか」
「おぬしがそれを言うか」
「鉄裁さん。さっそくですが、平子さんたちに時間停止をかけてください。そしてそのままこの場所に二、三層の結界を、今から20時間で僕たち2人と平子さんたち8人。計10体の霊圧遮断型義骸を作ります」
「……夜一殿は如何される」
「儂の事など気にするな。どうとでも逃げ遂せる」
「現世に身を潜め、解き明かします。必ず、この虚化を解除する方法を」
「その前に、私に事の詳細を話してもらっても良いですか?」
「!!」
突然声をかけられたことで、浦原たちはそちらに視線を移していた。
見ると銀色の長い髪を持ち、袖のあるタイプの隊長羽織を見に纏う1人の女性死神が立っていた。
勿論、銀華零白本人なのだが、浦原たちは姿だけでは誰かを判別できるわけもなく警戒するには十分すぎた。
「ああ、人の目でしたら大丈夫ですよ。この場には私しかおりませんし、入口では別の二人に人払いをお願いしていますので」
「……おぬしいったい何者じゃ。何故ここが分かった」
「それは『中央四十六室』の地下議事堂からここまであなた方の後をつけてきたからですね」
「……して、おぬしは何者か聞いても良いかの」
「これは失礼しました。私は銀華零白と申します。念のため言っておきますが、あなた方3名を捕らえに来た訳ではないのでご安心ください」
「銀華零白じゃと?」
かつて【護廷十三隊三番隊隊長】の職位にあった銀華零白の名前は、その経歴から護廷十三隊隊長を担う者なら一度は聞いたことがある程の有名な名前であった。
しかしそれと同時に数百年前に戦死したとも伝わっていた。
四楓院夜一はそれを指して、”何故数百年前に戦死した元隊長が隊長羽織を着てこの場にいるのか”と暗に言っていた。
「もしかしてっすけど、狐蝶寺春麗さんと同じ……」
「……雷山さん経由で聞いてはいましたが、やはり春麗ちゃんと顔を会わせているようですね。ならばこちらの立場を明かしても良さそうですね」
銀華零はこの少し前、雷山経由で流魂街にて狐蝶寺が浦原と顔を会わせているこを聞いていた。
しかし、浦原を直接見たことがない銀華零は果たして、目の前にいる人物が浦原喜助本人なのか分からなかったために、狐蝶寺の名前が実際に出るまであえて身分を明かさずにいた。
「改めて、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が一人、銀華零白と申します。今回”十四番隊”も魂魄消失案件の調査を行っておりました。狐蝶寺春麗が前線に居たのはそのためです。浦原十二番隊隊長、後ほど雷山悟に報告するために私にも今回の顛末及び今後の対策を話してもらえると助かります」
「分かりました。まず、魂魄消失案件は【五番隊副隊長】藍染惣右介による
「……成程。では、その件について雷山悟には山本総隊長へは別な報告としてあげるよう進言いたします。先程名前の挙がらなかった四楓院二番隊隊長はどう逃げ遂せるつもりですか?」
「先程喜助にも言うたが、儂のことは気にするでない。どうとでも逃げ遂せる」
「そうですか……」
銀華零はそう呟いた後、あごに手を当ててまるで探偵が推理しているかのように何かを考えながら夜一の事を見つめていた。
そしてただ一言、”その手もアリですね……”と呟いた。
「四楓院二番隊隊長。わたくしから1つ提案ありますが、よろしいですか?」
「なんじゃ?」
「よろしければの話ですが、あなたが犯した逃走
銀華零が突然言い出したその提案に四楓院夜一は警戒心を露わにした。”十四番隊”という組織が如何ほどのものか知らないが、そんな真似をしてタダで済むわけがないと思ったからだった。
「そのような真似をする理由を聞かせてもらえるか」
「単刀直入に言ってしまえば、護廷十三隊側に我々と通じる者を作りたいと考えたからです」
「つまりは
「ええ、我々【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”はその立場上、表立って行動することができないのですよ。これから先、藍染惣右介の動向を探るには護廷十三隊側に我々と繋がる者を設けるのが得策だと考えた結果です」
「そのような話ならば断るぞ。儂は隊長の座も隠密機動総司令官の座もさほど執着してはおらぬ。この機に辞めてしまうならそれも構わぬとすら考えておった」
「あら、残念ですね。であれば、我々も取るべき行動を変えましょうか」
「何をするつもりじゃ」
「簡単なことですよ。
「待ってください。銀華零白さん」
銀華零の言葉を浦原が遮った。
銀華零、引いて言えば【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が、”藍染惣右介を捕らえ、事態の鎮静化を図る行動”をとる事は浦原も想定していたことであった。
しかし、これほどの事をいざ実行に移すまで誰にも詳細について悟らせなかった藍染惣右介の不気味さを体感した浦原は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”と言えどもただでは済まない事態になると推測していた。
「……何でしょうか?」
「今回の事件について”十四番隊”は、藍染惣右介については知らぬ存ぜぬを貫いてください」
「……その
「それは分かります。しかし、藍染惣右介の暗躍は僕にも【護廷十三隊】にも、そして恐らくは【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”でさえ実際に行動に移すまでは尻尾すら掴めていなかったはずです。そんな相手に僕たちのためとは言え無策で関わることは避けるべきと思います」
「……その結果、追われる立場になってもですか?」
「仮に僕たちが無罪になったとしても、平子さんたちは
「……はぁ、強情なのも考え物ですね。分かりました。そこまで言うのでしたら、こちらも浦原十二番隊隊長の気持ちを汲みましょう」
「ありがとうございます。銀華零白さん……いえ、銀華零隊長。
「ええ、元より瀞霊廷の守護も、護廷十三隊の援護も”十四番隊”の存在意義ですので、お任せを」
銀華零は一礼すると去って行った。その姿を見ていた浦原であったがすぐに目を離し、義骸の作成に集中し始めた。
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「雷山悟。今戻った」
「おっかえり~♪あれ、南美ちゃんは?」
雷山が十四番隊詰所へ戻ると、狐蝶寺は湯吞を片手に椅子に座っていた。
詰所内を見渡す雷山だが、蒲原たちの身柄保護に動く銀華零たちの姿がまだなかった。
「椿咲は始末特務部隊として報告させるために残してきた。それより白たちはまだ戻ってないのか?」
「まだ戻ってないね。雷山くん、そろそろ聞かせてくれない?あの時、白ちゃんからどんな内容の連絡が来たのか」
「……分かった。簡潔に言えば、
「……藍染くん殺しに行っていい?なんなら、四十六室の方でも」
「今はまだダメに決まってるだろ。というより、そう言うと思ったからこそ俺は黙ってたんだよ」
「……冗談だって♪」
「
冗談だという狐蝶寺だが、その眼には殺気が見え隠れしているのを雷山は気付いていた。
そんな雷山を前に狐蝶寺はあえてと言うべきか話題を変えた。それは、元柳斎が先の命令に対してどう対応するつもりなのかという事。
「元柳斎は命令に従えの一点張り、
「その襲撃したって言うのが白ちゃんたちじゃないの?」
「まだ本人たちから聞けていないから不明の状態だな」
その時、廊下と室内とを仕切る襖が開かれた。雷山と狐蝶寺が目を向けると、身柄保護に動いていた3人が立っていた。
「遅くなりました。銀華零白、浮葉刃、山吹雷花。3名帰還いたしました」
「おかえり♪」
「さっそくですまないが、身柄保護の件はどうなった?」
「その事について報告があります」
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「……四楓院夜一が?」
雷山は驚きの声を上げていた。
この数分前から銀華零は起きたことを順を追って雷山に説明していた。
それは主に浦原喜助、
「はい、”十四番隊”が逃走
「はぁ……四楓院のじゃじゃ馬姫め」
雷山は大きなため息を吐いていた。銀華零が夜一に言った通り、”十四番隊”が逃走
即ち、浦原たちが現世に潜伏することも、夜一が職位を剥奪されることもなかったのである。
「まあ、こうなったことは仕方ない。問題は……」
「藍染惣右介の出方ですね。現在『十番隊隊長代理』を務める南美ちゃん、引いては我々【宮廷遊撃部隊】に本性を知られ、どう動くつもりでしょう」
「俺たちが元柳斎に詳細を話さないと高を括っているのか、それとも追及を逃れる術があるのか……ん?」
雷山はその時、あることに気が付いた。それは事件当夜に藍染惣右介の霊圧が前線で確認されていないことだった。
「どうしたの?」
「前線にいたはずの藍染の霊圧が確認されていないのはおかしい」
「……確かにそうですね。始末特務部隊として向かった隊長格以外の霊圧があれば気付かれるはず。現に浦原十二番隊隊長と
「浮葉、藍染が事件当夜に瀞霊廷にいたかどうか調べてほしい」
「それはどういう……―――」
「……ッ、成程。承知しました」
浮葉は雷山が調べてほしいとした事柄について理解が及んでいなかったが、すぐにその意図に気付き調査へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「本当に良いんだな?」
「四十六室からの命じゃ。
雷山は元柳斎から椿咲以外の【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”による『隊長代理』は必要なしの判断を『中央四十六室』からの命で下したことを伝えていた。
本来は元柳斎と雷山双方の合意によって行われる『隊長代理』だが、事態の揉み消しを図る『中央四十六室』が出張ってきた形であった。
「聞くが、何故
「今回は特例措置ということになっておる」
「特例措置、ねぇ……。早い話が、表向きは殉職したとされる始末特務部隊を本当は
「分かっておるなら大人しく手を退け」
「別に余計な混乱を招くつもりはない。だが、あとで手が足りないと言われても俺たちの預かり知らぬことだからな。それは言っておくぞ」
「心配せぬとも、手は打ってある」
「……そうか。では、追加の『隊長代理』の話は無かったこととして、俺は詰所に戻るぞ」
元柳斎から正式に『隊長代理』が行使されないことを聞いた雷山は要は済んだと言わんばかりに背を向けて歩き始めた。
「待て、まだ話は終わってはおらぬ。半月前の流魂街魂魄消失案件とその始末特務部隊の身に起きた事象について説明をしてもらおう」
元柳斎は『中央四十六室』の動きからして自身の耳に届いている報告がすべてではないことを察していた。
そこで、行方知れずとなった浦原たちと8名の隊長格以外で前線に居た【宮廷遊撃部隊】からその情報を得ようとしていた。
雷山は元柳斎のその思惑を分かっていたが、銀華零が浦原と結んだ”知らぬ存ぜぬを貫く約束”と『中央四十六室』からの余計な追及を避けるために断る意思を示した。
「……椿咲から報告は受けているだろ?」
「じゃが、あの報告が全てではなかろう」
「時が来たら報告する、とだけ言っておく。椿咲に聞いてもダメだからな」
「それはつまり、言えぬ訳がある……と捉えても良いか」
「さあ、それは元柳斎の捉え方に任せる」
そう言うと雷山は部屋から出て行った。
その場に残る山本元柳斎は雷山があえてしたと思われる言い回し、その理由について思案することとなる。