「山本総隊長はなんとおっしゃっていたんですか?」
一番隊隊舎で雷山と元柳斎が話し合いをした数十分後、『十四番隊詰所』に戻った雷山に銀華零はそう問いを投げていた。
銀華零は既に
「椿咲以外に『隊長代理』は不要とする最終決定が下されたこと、先日の案件の詳細についてだな。前者はともかく、後者は元柳斎にも事細かな情報が行っていないんだろう」
「成程。それで雷山さんに聞こうとしていたと」
「白が浦原喜助と交わした約束もあるからな、時が来たら報告すると濁してきた」
「申し訳ありません。あの時の約束が枷になってしまっているようで」
「別に構わないぞ。藍染にこちらの情報が洩れすぎるのは避けたかったのは事実だしな。それよりも浮葉、例の件について調べはついたか?」
半月前のこと、流魂街での一件が起きた直後に雷山は浮葉にあることの調査を依頼していた。
それは”事件当夜に藍染惣右介が瀞霊廷にいたのを見たかどうか”
勿論、前線にいた狐蝶寺と椿咲が藍染と相対しているためそんなことを調べる必要など普通なら皆無だった。しかし、前線で浦原の霊圧が感知されたというならば、藍染の霊圧もまた感知されていなければおかしい道理であり、雷山はそこに着目していた。
「結論から申しますとあの日、藍染惣右介の姿は【八番隊隊長】京楽春水を始め複数の者が目撃しているそうです」
「やはりか……」
あの日、
始末特務部隊がまさに戦闘をしているその時、
瀞霊廷内で藍染惣右介の姿を見たものが数多くいた。その中には【八番隊隊長】京楽春水の名まであり、目撃情報の信頼性は盤石となっていた。
「京楽の次男坊に話を聞いてくるしかないか。戻って早々悪いが、留守を頼む」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「2人共驚かせてすまなかったな」
「「雷山隊長」 」
京楽を訪ねて来た女性死神の正体は【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】雷山悟が鬼道で姿を変えたものだった。
思わぬ人物の登場に、京楽はおろか椿咲すら驚いていた。
「京楽の次男坊、少し聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「ああ、先日の魂魄消失案件があった夜の話だ。【五番隊副隊長】藍染惣右介を瀞霊廷内で見たのかの確認なんだが」
「惣右介君?確かに見たよ。だいぶ落ち着かない様子ではあったみたいだけど」
「え……?」
「ふむ……」
雷山から見て京楽が嘘をついている様子はなかった。その事で確かにあの日の晩に狐蝶寺たちと相対した藍染と瀞霊廷にいた藍染がいたことが明らかになった。
「それがどうしたんだい?雷山隊長」
「……いや、これに関しては京楽の次男坊は知らない方がいい」
「……成程ね」
雷山はあえてと言うべきか、そう答えた。
京楽も雷山が話をみなまで語らなかった点と含みのある返答をしたことで、自身が関わるには危険すぎることが起きていると、雷山が暗に警告していると察した。
「ところで2人揃って何の話をしていたんだ?」
「他愛もない話ですよ」
「そうそう、他愛ない話さ」
「……そうか。2人が言いたがらないなら無理には聞かないでおこう。時間を取らせて悪かったな」
そう言うと雷山は再度自身に鬼道をかけて、自身をこの場に来た時と同じ姿に変えた。
部屋を出る直前、雷山は椿咲に言わんとしていたことを思い出し振り返った。
「椿咲、言い忘れていたが、正式に他の『隊長代理』は行われないことになった。苦労かけると思うが、もう少し頼んだぞ」
「分かりました」
椿咲の返事と共に雷山は去って行った。
京楽は雷山が椿咲に『隊長代理』と口走ったことと、2人の会話から椿咲も【宮廷遊撃部隊】の一員なのだろうと察していた。
「……恐らく、先ほどの会話で知られてしまったと思いますが、私の正体は京楽隊長が考えている通りですよ」
「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”ってやつだね」
「安心してください。今はただ、人手が足りないからと【十番隊隊長】を担っているだけに過ぎないので、浮竹隊長にだけならばお伝えしてもらっても構わないですよ」
「いいや、止しておくよ」
「ふふっ、それでは私はこれで失礼しますね。京楽隊長、また何かあれば助力をお願いしますね」
椿咲は立ち上がると京楽に対して一礼して去って行った。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「失礼します。【十番隊隊長】椿咲南美、参りました」
事件から3年後、椿咲は元柳斎に呼び出されて『一番隊隊舎』にやって来ていた。
要件については聞いたおらず、最近何かやっただろうかといろいろと考えていた。
「さっそくじゃが、此れより2日後に行われる。”隊首試験”の立ち合いを願いたい」
「”隊首試験”ですか?」
元柳斎が椿咲を呼び出した理由、それは隊首試験に立ち合いをしてもらうためであった。
『隊首試験』とは、総隊長を含む隊長3名以上立ち合いのもと行われる所謂、昇進試験である。
護廷十三隊では現在、3年前の事件で空いた6つの隊長の席を埋めることが急務とされており、今回その第一号となる形だった。
「山本総隊長、私はあくまで『代理』です。あまり護廷十三隊の人事に関わるようなことはしたくないのですが……」
「分かっておる。しかし、先の事件でおぬしを含め7名しか隊長が居らぬ状況。6回の”隊首試験”に同じ人物が複数回裁定するのは好ましいことではないと判断した結果じゃ」
元柳斎は椿咲を含め残る7人の隊長……もとい、まともに顔を出さぬ鬼巌城剣八を除いた6名の隊長たちで、計6回の隊首試験を執り行うことは公平性を欠くと危惧していた。それは、隊長が徐々に補充されても同じことが言えた。
そこでかつて【護廷十三隊】で100年、【宮廷遊撃部隊】でさらに200年ほど隊長の一角を担う椿咲に助力を願いたいと考えたのだ。
「この1度でも構わぬ。”隊首試験”の任、請け負ってはもらえぬか」
「……はぁ、そこまで言われてしまっては仕方がないですね。承りました」
「椿咲南美よ。儂は”自身はその立場上護廷十三隊の人事に関わるべきではない”と思うその心意気を買っておる。その卑下する必要もない」
「見透かされていましたか」
「儂と誰じゃと思うとる」
「失礼いたしました。日時について質問をよろしいですか?」
「2日後の午前、場所は『一番隊隊舎』の離れ」
「承知しました。それでは、私はこれで」
「待て」
去って行こうとする椿咲を元柳斎は呼び止めた。元柳斎は、先の椿咲の考えを分かっているうえで、推挙足る人物がいないかを問おうとしていた。
「はい?」
「おぬしの考えは分かっておるが、その上で問いたい。おぬしに隊長へ推挙足る人物はおるのかのう」
「そうですね……」
椿咲は顎に手を当てて考え込んでいた。『十番隊隊長代理』に就任して約10年、その期間の中で自身が隊長へ自身を持って推挙できる人物について、
「あっ……1人いました。志波一心君です」
「分かった。志波一心の名、頭に入れておこう。また時を見計らい推挙せよ」
「はい、またいずれ」
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「おはようございます。皆さんお早いですね」
2日後の午前、
”隊首試験”の開始予定より
室内は畳張であり、広さは20畳ほどといったところで、座布団が一列に3つ、それと向かい合うように1つ配置されていた。
ちなみに300年以上前に椿咲自身が隊首試験を受けた場所とはまた別の場所であった。
「随分とのんびりされておった様ですな、椿咲隊長」
そう話しかけるは【六番隊隊長】朽木
銀嶺は椿咲が現役で隊長を担っていた時代も霊術院講師時代も被ってはおらぬが、先代からその武勇や人となりは伝え聞いていた。
その中で、時間にかなりルーズという点を目の当たりにして話していたのだ。
「あまり待つことが好きじゃないんですよ。かなりのんびりなのは自覚してますけれど、遅刻はしたことないんですよ?」
「どうやら、失礼なことを言ってしまったようじゃな」
「気にしないでください。それよりもお孫さんの……白哉君でしたっけ。お元気ですか?」
「日々の鍛錬は欠かしてはおらぬ様子、しかしまだまだ熱くなる癖がありましてな。それが治ればもう一皮抜けるんじゃが」
「あら、若い証拠でいいじゃないですか」
「いやはや、お恥ずかしい限り」
銀嶺と椿咲の世間話に花が咲いていた最中、襖が開き元柳斎が入ってきた。
元柳斎は部屋をぐるりと見回すと、椿咲と銀嶺に座るように促した。そして自身を含めた3名を以て隊首試験に必要な人物は揃ってるとした。
「各々、揃っとるようじゃな。此れより”隊首試験”を執り行う。初めに言うが、此度は一隊長からではなく、複数の隊長格より推挙があった者の”隊首試験”となる」
通常の場合、隊首試験への推挙は隊長にのみ認められていた。しかし、先の事件の影響により隊長の数が激減した今回は副隊長にまでその権利を広げていたのだった。
そして複数の隊長と副隊長から名が挙がった人物が今回の試験対象者であった。
「試験を受けるものはすでに召喚済みじゃ、入れ」
一呼吸おいて、襖が開かれた。
そこにはメガネをかけ、優男の風貌をした死神、【五番隊副隊長】藍染惣右介が立っていた。
「藍染惣右介、参りました」
『藍染君……!?』
声と態度にこそ出さなかったが、藍染がやって来たことで椿咲は驚愕していた。今回、複数の隊長格から次期隊長へと名が挙がった人物、それが藍染惣右介だった。
勿論、裏の顔を知る椿咲からすればそれは何とも言い難いものではあったが、同時に表の評判も知るために名が上がることは仕方のないことと思う所でもあった。
「複数名の隊長格より推挙されるその力量をさっそく見せてもらおうかの」
「はい」
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「ふむ……その力量、申し分なし」
数分後、藍染の卍解とその
「ありがとうございます」
「朽木銀嶺、椿咲南美。両名とも、何か申すことはあるかの」
両の手を付き礼をする藍染を尻目に元柳斎は銀嶺と椿咲に目を向けていた。
元柳斎自身は先程で藍染の力量や隊長として相応しいか断ずるに十分としていたが、立ち合いを命じたからには他2名の隊長の意見を聞こうとしていた。
「何もございませぬな」
「でしたら、私から1つ質問を」
手を上げ元柳斎を見ていた椿咲は静かに視線を藍染に移してその姿を見据えた。
彼が内に秘める考えを推し測るために、隊長であった平子真子を裏切ってその次代の隊長になろうとするその心中を知るために、
「藍染副隊長、平子前隊長の意思をどう受け継ぐとお考えかを聞かせてもらっても?」
「そうですね……平子隊長は少し独特なお考えを持っておられる方だったと僕自身は思っています。しかし、その独特な考えは常に隊士のためを思っての考えでした。僕も平子隊長のように隊士のことを思える隊長となりたい。それが平子隊長の意思を継ぐことと考えます」
「…………」
「いけませんでしたかね、椿咲隊長」
「いえ、結構ですよ藍染副隊長。私からは以上です。山本総隊長」
元柳斎は藍染が質問に答える前と後で、椿咲の雰囲気が少し変わったのを感じっていた。その事から2人の間に何かあるのだろうと考えた。
しかし、それはあくまで憶測。椿咲に問うたところで真実が帰って来るとは限らない為あえて触れないでおく判断をした。
「【五番隊副隊長】藍染惣右介。おぬしからも何か申すことはあるかの」
「いいえ」
「相分かった。では以上で”隊首試験”は終いとする。結果については追って沙汰しよう」
「はっ!失礼します」
藍染は再度深く一礼すると、その場を後にした。
残った3人は隊首試験によって得た見聞をもとに藍染惣右介を隊長に昇進させるか否かの話し合いが始まった。
「正直に申しますと、藍染副隊長はまだ隊長に昇進するには若すぎると私は考えます」
切り出したのは椿咲だった。先日の事件で藍染の本性を知った椿咲は、藍染が隊長になることを何としても阻止したいと考えていた。
しかし先日の件は口に出せない為、もっともらしい”隊長になるにはまだ若いのではないか”という理由をつけて意見を述べていた。
「確かに些か若いと感じはするが……」
「椿咲南美の言う事も分かる。じゃが、護廷十三隊の現状を考えればその若き力が
「……確かに現時点で隊長へ昇進するべきと考える死神が藍染副隊長を除いて名が挙がってこないのは重々承知です。しかし、手が無いわけでもありません。事態を急ぎ過ぎるのもまた危険ではないのでしょうか」
椿咲はこの場に朽木銀嶺もいるために、ストレートに言うことが出来ず遠回しでの言い方で、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”もいるのだから焦るように次期隊長を据えなくても良いではないかとなおも食い下がっていた。
「おぬしの言いたいことは分かる。しかし
勿論、それは元柳斎も分かっていることだった。しかし、元柳斎の立ち位置は、
【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”はあくまで最後の手段。他に手が残されているうちに使うものではない。
であり、その申し出は却下しようと考えていた。
そしてそれは【宮廷遊撃部隊】の一員である椿咲自身も分かっていたことであり、
「椿咲隊長、確かに若者を生き急がせるのは得策ではないと私自身思うところがあるのは確か。しかし、同時に若者の成長の機会を奪ってしまうのは、如何ものかと考えるが……」
「……はぁ、分かりました。藍染副隊長を信じましょう。次世代を担ってくれることを」
『・・・この場は折れるしかない、か』
朽木銀嶺が賛成の立場を表明したことで椿咲はこれ以上反対し続けるのも無理があると判断し、賛成の立場に回った。
それと同時に、この事を【宮廷遊撃部隊】全員に共有して自身がその監視役を担うと心に決めていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「どうも、椿咲隊長」
「いったい何の用事かな。藍染
隊首試験から1週間。
『十番隊隊舎』に藍染が訪問して来た。事情の知らぬものが見れば先輩の隊長である椿咲に藍染が挨拶しに来たように見えた。しかし、椿咲は
「……ひどく警戒されていますね」
「逆に歓迎されると思っていたの?改めて聞くけど、いったい何の用事かな」
「深い理由などありませんよ。今回は本当にただ挨拶しに来ただけです。まあ、挨拶と言っても……」
「宣戦布告のようなものですけれどね」
その時、藍染は不敵な笑みを浮かべていた。それはまるで今この場で仮に相対しても自身が勝てると言わんばかりに、
引いては事件の際に相対した【宮廷遊撃部隊】の面々すら手玉に取ることすら出来ると言わんばかりに、
「面白いことを言うね。私はともかく、春麗さんに勝てるつもりでいるんだ」
「ええ、狐蝶寺春麗の名は有名ですからね。調べようと思えばいくらでも調べがつく」
「まあ、精々頑張りなよ。分かってるとは思うけど、私に宣戦布告するってことは監視されるのも覚悟の上だよね」
「ええ、勿論ですよ。では、表向きではどうぞよろしくお願いします」
そう言い残すと藍染は去っていた。
こうして事件から3年の月日が経ち、それぞれの思惑がありながらも【護廷十三隊】の立て直しが始まった。