宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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 信頼(しんらい) とは 覚悟(かくご)




第2話 炎天下の悩み

 

 

それは【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が発足して 49年経ったある日のこと

裏方の仕事故に動きにくくはあるが、徐々に【宮廷遊撃部隊】としての仕事を確立していた時、狐蝶寺(こちょうじ)春麗(しゅんれい)からの提案から始まった。

 

 

「雷山くん、ちょっといい?」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「いやね、山吹ちゃんが隊長を引退するらしいんだけど、”十四番隊”に入れられないかなぁって」

 

「待て待て、どこから山吹が隊長をやめるって話を手に入れて来たんだよ」

 

「え?えーっとね、散歩してた時にたまたま……」

 

「…………」

 

 

そう答える狐蝶寺の目が一瞬だけ泳いだのを雷山は見逃さなかった。その事からまた勝手に出歩いていたのだろうと考えた。

一方で自身の後任のことが心配である気持ちはわかるため、雷山自身特に咎めようという気持ちは無かった。

 

 

「はぁ……まあ、山吹が気になってたのはいいとして、もう山吹が引退するくらいに時が経ったのか」

 

 

山吹(やまぶき)雷花(らいか)』とは、今から90年前、狐蝶寺春麗と代替わりで【護廷十三隊十三番隊隊長】に就任した、いわば狐蝶寺の後任に当たる人物である。

 

狐蝶寺が隊長だった頃の副隊長でもあり、実力も本人の気質も知る狐蝶寺は、まだ3人しかいない【宮廷遊撃部隊】にその山吹を入れてみてはどうだろうかと言っていたのだ。

 

 

 

「確かに雷花さんならば、実力も問題はないですね。そして何より春麗ちゃんの扱いにも長けている」

 

「もう!まるで私の扱いが難しいってことみたいじゃない!」

 

 

銀華零が懐かしそうに笑みを浮かべていたことに対して、狐蝶寺は恥ずかしさからか顔を真っ赤にして抗議していた。

 

 

「まるでじゃなくて事実だけどな。まあ、この際春麗が言う事を聞く聞かないかは置いて、人手が足りない時があるのは事実だからな。元柳斎には一度話を通してみよう」

 

「やった♪」

 

 

狐蝶寺は親しみのあるかつての部下とまた一緒に働けることに笑みを浮かべて喜んでいる様子だった。

 

 

「春麗、まだ正式に入るって決まったわけじゃないんだ。そんな喜ぶなよ」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

-- 瀞霊廷・一番隊隊舎内 --

 

 

「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”所属、雷山(かみなりやま)(さとる)。馳せ参じた」

 

「入れ」

 

 

礼儀として雷山は一番隊隊長執務室に入る前に一言、声をかけた。少し間を置いて中から返答が帰って来たことでそれを合図に雷山は中へと入った。

 

 

「忙しい時に悪いな、元柳斎」

 

「構わぬ。して、儂に何用じゃ」

 

「単刀直入に聞くが、山吹を”十四番隊”に加入させることは可能か?」

 

 

元柳斎は片目だけを開いて雷山を見据えていた。大方、山吹雷花の引退を嗅ぎつけた雷山が”十四番隊”に引き入れようとここまでやって来たのだと思っていた。

 

 

「さすがに情報が早いのう」

 

「ああ、春麗のやつが散歩してるときに山吹が引退するって話を聞いたみたいでな。実際どうなんだ?」

 

「……成程、狐蝶寺春麗が発端か。結論から言ってしまえば、【宮廷遊撃部隊】における人事、加入や脱退も含めてすべておぬしらの自由になっておる。あとは当人の意思次第となろう」

 

「ふむ、つまり説得はこちらでやらないとならないってこと、そして最後は本人の意思を尊重すべきで無理強いはすべきでないってことか」

 

「左様。じゃが、儂とて【宮廷遊撃部隊】で勝手にやれとは言わん。創設を提唱した者として、場だけは設けよう」

 

「それだけ用意してくれれば助かる。あとはこちらで何とかしよう」

 

 

それから3日の月日が流れた。

雷山は狐蝶寺を連れて一番隊隊舎まで来ていた。目的は勿論、元の上官である狐蝶寺に山吹の説得をさせるためである。

狐蝶寺もどこか緊張した面持ちで落ち着きが無くモジモジしていた。

 

 

「お待たせいたしました!十三番隊隊長、山吹(やまぶき)雷花(らいか)、只今参上いたしました!」

 

 

少し時間が経った頃、礼儀正しくも力強い声が響いてきた。狐蝶寺と雷山にとっては久しぶりに聞く山吹本人の声だった。

 

 

「うむ、入れ」

 

「失礼します。山本総隊長、あたしにご用とは一体……」

 

 

山吹は元柳斎の顔を見ると一礼していた。そして歩きながら今回自身が一番隊舎に呼ばれた理由について聞いていた。

 

 

「おぬしを呼び出したのは儂ではなく……」

 

「私だよ♪」

 

「え?」

 

 

山吹は天真爛漫、軽い感じで語りかけてくるその声に聞き覚えがあった。気が付くと顔は声が聞こえてきた方へと向けられていた。

そこには笑顔を浮かべて手を振っているかつての自身の上官、狐蝶寺春麗が立っていた。

 

 

「こ、狐蝶寺隊長?本当に、狐蝶寺隊長ですか……!?」

 

「久しぶりだね、山吹ちゃん。随分と強くなったみたいだね、その羽織もよく似合っているよ♪」

 

「お久しぶりです、狐蝶寺隊長……!!」

 

「……?」

 

 

狐蝶寺の姿を見た山吹は涙を浮かべていた。普通の光景に見えるが、雷山はそこに少し疑問を感じていた。

 

狐蝶寺が隊長を退任して90年、その期間一度も会ってないという事を加味したとしても涙を流すほど喜ぶものなのかと、まるでもう二度と会えないと思っていた死者に再び会えたかのような、その涙に疑問を禁じ得なかった。

 

 

「……元柳斎、まさかとは思うが俺たち3人のこと死んだことにしていないか?」

 

「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の存在が不用意に公になっては意味がないと判断した結果じゃ、致し方なかろう」

 

「はぁ……まあ、俺たちを先に落としてから侵軍を始める輩がいないとも限らないが、別に俺たちを死んだことにしなくてもいいだろうに」

 

 

雷山は呆れていた。勿論、元柳斎の言う通り【宮廷遊撃部隊】の存在があまり公になっては、その役割となっている調査、諜報、隊長代理などの業務に支障をきたすことは理解出来ることだった。

しかし、自身たちを慕っていると言っても過言ではない当時の副隊長たち3人にわざわざ死んだと伝えなくても別な良い方法くらいあったのではないかと思うところもあった。

 

 

『まあ、元柳斎に言わせれば俺たちが死んだ程度で動揺して気落ちするようでは、護廷十三隊隊長なんぞ務まらないという事なんだろうけどな……』

 

 

雷山が元柳斎の思惑についてそう思案している目の前では、久しぶりに顔を会わせる狐蝶寺と山吹が高揚したように会話をしていた。

 

 

「山吹ちゃん、今までお疲れ様!隊長職を私以上にしっかりと務めてたって山本元柳斎(おじいちゃん)からよく聞いてたよ!」

 

「い、いえ、そんなことはありません。……隊長になって思い知りました。あたしなんてまだまだ狐蝶寺隊長の足元にも及ばないことを」

 

「そうやって自分が今どのくらいなのか知れていることが、山吹ちゃんが私以上って意味なんだよ!……引退した後って何かする予定とかってあるの?」

 

「特には決めてはいませんが……どうしてですか?」

 

「実はね、山吹ちゃんに相談というか、勧誘と言うか、伝えたいことがあってね」

 

 

山吹の気持ちが落ち着いたところで狐蝶寺が本題を切り出した。

ちなみに今回の山吹への勧誘は、入れたいと言い出した狐蝶寺本人が1人で行うことと決めており、元柳斎は言わずもがな、同じ”十四番隊”の雷山すら何も言わずに静観を貫くと決めていた。

 

 

「私は今、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”って組織に属しているんだよ」

 

「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”……ですか?」

 

「うん。えっとね、護廷十三隊の援軍だったり現世や流魂街(るこんがい)で調査や諜報とかやったりする隠密機動とはまた別の部隊だよ」

 

「そのような組織があったんですね」

 

「それでここからが本題なんだけど、その”十四番隊”に山吹ちゃんにも入ってもらいたいんだよ」

 

「あたしが……ですか?」

 

 

山吹には明らかな戸惑いが現れていた。いくら相手が敬愛する狐蝶寺春麗であっても、今日初めて聞いた組織に属してくれないかと言われて二つ返事をするような軽率さは山吹は持ち合わせていなかった。

 

 

「あ、もちろん無理にとは言わないよ!山吹ちゃんは山吹ちゃんの生活があるわけだし、あくまで山吹ちゃんを入れたいって言うのは私の我儘みたいなものだしね」

 

「……狐蝶寺隊長、山本総隊長、少し……時間をいただけますか?」

 

「え?私はいいけど……」

 

「良かろう。熟考した上で答えを出すが良い」

 

「ありがとうございます。申し訳ありませんが、一旦失礼します」

 

 

山吹は一礼すると急ぎ足気味に部屋から出て行った。山吹が出て行ったことで狐蝶寺は不安に駆られていた。

狐蝶寺は気付いていたのだ、出て行く山吹がとても深刻そうな顔をしていることを

 

 

「雷山くん、私変なこと言っちゃったかな……」

 

「別に変なことは言ってないと思うぞ」

 

「じゃあ、なんであんな深刻そうな顔して出て行っちゃったんだろう」

 

「……考えても見ろ。いくら信頼している元上官が誘ってきたとして、自身が聞いたことも見たこともない組織に二つ返事で属せるわけないだろ。俺だって【宮廷遊撃部隊】の話を初めて聞いた時、いろいろ考えたうえで返答したんだぞ」

 

「……そっか、そうだよね。山吹ちゃん、どうするのかな」

 

「さあな、それはあいつ自身の問題だ。俺たちはここで大人しく待ってるしか出来ねぇよ」

 

 

一方その頃、山吹は狐蝶寺からの十四番隊の話を受けるべきか否かで1人歩きながらずっと考えていた。

話を聞いた限り”十四番隊”はかなりの実力がいることは容易に想像でき、自身の実力が足り得ているかどうか

仮に足り得ていたとして、”十四番隊”の話を受けるとしても、自身に務まるかどうか、狐蝶寺、引いては雷山に迷惑をかけてしまうのではないかと、

 

 

「……どうすればいいんだろうか」

 

「雷花隊長、どうしたのですか?このようなところで何やら思い詰めたような顔をして」

 

「……浮葉隊長」

 

 

山吹に話しかけたのは護廷十三隊三番隊隊長・浮葉(ふよう)(やいば)だった。浮葉は山吹と同時期に隊長に昇進したためお互いに何か困ったことがあれば相談する仲だった。

そんな浮葉をして、今の山吹はいつもの様子とは大きく違って見えていた。

 

 

「いつも凛としている雷花隊長のその姿は珍しいですね。良ければ相談に乗りますよ」

 

「実は……」

 

 

山吹はそこで【宮廷遊撃部隊】の話を浮葉にしても良いのかと思うに至った。

仮にも十三番隊隊長を担っていた自身ですら【宮廷遊撃部隊】の存在は聞いたこともなく、それすなわち隊長格にも秘密にしているのではないかと、

 

 

「……言いにくいことならば、無理にとは言いませんが」

 

「いえ、そんなことはありません。これはあたしの()()の話なのですが……」

 

 

浮葉は先程の山吹の様子から友人の話ではなく山吹本人の話なのだろうと察していた。しかし、それを指摘するのは野暮なためあえてこのまま山吹の『友人』の話を聞くことにした。

 

 

「その友人はですね。恩人に当たる人からとある部隊に属さないかと誘われているそうで」

 

「それはとても名誉なことじゃないですか」

 

「あたしもそう思いました。けれど、いくつか懸念があるそうなんです」

 

「懸念?」

 

「ええ、まず、未熟者たる自身がそこに属しても良いのか。そして未熟者故にその恩人に迷惑をかけてしまわないかと心配で……」

 

 

浮葉は詳細は分からないが、山吹が恩人……恐らくは狐蝶寺前隊長から何かに誘われていてそれに乗ってもいいものかを決めあぐねていると考えた。

 

 

「私はその恩人という方ではないのであくまで推測になりますが、誘われていると言うことは、その友人の方を信頼していると同時に実力を買っているのではないですか?」

 

「……ッ!!」

 

 

浮葉から言われた事は、山吹が心の奥底で思っていたことでもあった。

山吹はあの時、狐蝶寺から【宮廷遊撃部隊】の話を持ち掛けられたとき考えていた。何故、自身にこの話をしたのだろうかと、

浮葉と会話したことで、狐蝶寺は自身を信頼してくれている、自身の実力を買ってくれているのではないかと、心の奥底にあった気持ちについて向き合うことが出来るようになっていた。

 

 

「私がその恩人の方の立場なら、実力が足り得ないならば勧誘など絶対にしません。実力が無ければ仲間はおろか、自分自身すらも守ることなどできませんからね。しかし、その逆ならば私は自信を持って勧誘しますよ。きっとその恩人という方も自信を持って勧誘されていたのではないですか?」

 

「…………」

 

 

山吹は【宮廷遊撃部隊】の話をしていた時の狐蝶寺の顔を思い出していた。その顔には不安など一切なく、逆に自信に満ちた顔をしていた。

 

 

「そっか……そうだよね」

 

「気持ちは晴れましたか?」

 

「はい、浮葉隊長、ありがとうございます」

 

「その()()という方によろしくお伝え下さい」

 

 

浮葉は立ち上がると手を振りながら歩いって行った。しかし、数歩行ったところで、何かを思い出したように立ち止まり、山吹の方へと振り向いた。

 

 

「雷花隊長。ひとつ言い忘れていた事がありました」

 

「え?」

 

「長らくの間、十三番隊隊長の職務お疲れ様でした」

 

 

そう言い残し、浮葉は去っていった。一方の山吹は立ち上がると、狐蝶寺が待つ一番隊隊舎へと歩みを進めていた。

浮葉との会話で見つけた自身の答えを伝えるために、

 

 

「申し訳ありません、お待たせ致しました」

 

「おっかえり♪」

 

「…………」

 

 

元柳斎は山吹の顔つきがここを一度出ていく前とは比べ物にならないくらいに変わったことに気がついていた。

相手からの信頼に応えるべく、覚悟を決めた良い面構えだと、

 

 

「では、さっそくじゃが、答えを聞かせてもらおうかの」

 

「はい、狐蝶寺隊長、山本総隊長。先程の【宮廷遊撃部隊】のお話ですが、謹んでお受けいたします」

 

「……それは熟考した上で出した答えとして受け取っても良いかの」

 

「はい!あたしなりに考えた結果です。狐蝶寺隊長があたしに期待を持ってくれているのなら、その期待に応えるまでです!」

 

「よかろう。【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國の名の下に、十三番隊隊長・山吹雷花の【宮廷遊撃部隊】への異動を許可する」

 

 

 

1 月(ひとつき) 後 ~

 

 

 

「改めまして、前護廷十三隊十三番隊隊長、山吹雷花です。再びご指導のほど、よろしくお願いいたします!」

 

 

山吹は【護廷十三隊十三番隊隊長】を引退するとともに【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”へと異動していき、今日は4人交えての顔合わせを行っていた。

 

 

「雷花さんとまた共に働けることは喜ばしいことですね」

 

「ああ、苦労をかけることもあるとは思うが、こちらとしてもよろしく頼む。山吹」

 

「よろしくね!山吹ちゃん!」

 

 

 

 

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