宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第22話 転換点

 

 

「はい!?」

 

「なっ……!?」

 

 

雷山が旅禍(りょか)たちの案内役と目される人物の捜索に出て四半刻(しはんこく)

十四番隊詰所には銀華零、椿咲、山吹の3人が戻って来ており、狐蝶寺は雷山に言われていた通りに中央四十六室の状況を伝えていた。

それは百戦錬磨の3人を驚かせるには十分すぎる内容だった。

 

 

「まさか藍染惣右介の手がそこまで入り込んでいるとは……」

 

「うん。さすがに私もビックリしちゃったよ」

 

「疑っているわけではないのですが、事実なのですよね?」

 

 

内容が内容だけに銀華零は思わず聞き返してしまっていた。それほどまでに中央四十六室の全滅は真実と言えども信じ難い内容だった。

 

 

「うん、雷山くんが実際に見て来たそうだから」

 

「藍染惣右介の仕業なのですか?」

 

「たぶんだけどね。藍染くんの目的が朽木ルキアちゃんの処刑なら、四十六室を皆殺しにするのが手っ取り早いからって雷山くんも言ってたし」

「それで雷山くんから伝言なんだけど、藍染くんの斬魄刀の能力について精査してほしいってさ」

 

「失礼ながら、南美さんはご存じないですか?藍染惣右介の斬魄刀について」

 

 

山吹は椿咲にそう問いを投げていた。この場にいる4人の中で唯一、藍染が入隊した時期に護廷十三隊の隊長を担っていたことと、100年前に『隊長代理』として藍染と直接会っているため心当たりがある可能性が高かったからだ。

しかし椿咲は静かに首を横に振っていた。

 

 

「記録通りの情報しか」

「ただ、流魂街(るこんがい)での事件の時に藍染君は平子君に対しこう言っていました。”あなたの後ろをついて歩く僕が別人になっていたことに”と」

 

 

それは101年前の”流魂街魂魄消失案件”での一幕。藍染が倒れる平子に対しネタばらしと同時に挑発の意も兼ねて語っていたことだった。

 

 

「あ、そう言えばそんなこと言ってたね」

 

「成程、その言葉の意味をそのまま受け取るなら、やはり幻覚系の斬魄刀という事になりますね」

 

「はい。ただ、それだけではあの時に瀞霊廷で藍染君の姿が目撃されたこと、中央四十六室の皆殺しを誰にも知られずに行えたことに説明が出来ません」

 

「うーん、困っちゃうね」

 

「そうでもないですよ。詳細は不明なれど、幻覚系統の能力という大部分が分かっていれば、対処も作戦立案も可能です」

 

「さすが白ちゃん!”十四番隊”の参謀の名は伊達じゃないね!」

 

「ふふっ、ともあれ今は浮葉さんが旅禍(りょか)の皆さんの保護に動かれていますし、私たちは雷山さんの帰りを待つことにしましょう」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「……誰じゃ?」

 

 

瀞霊廷内南側にあるとある路地で1匹の黒猫が道を歩いていた。

数歩行ったところでその歩みをやめ、辺りに問いかけた。

 

 

「…………」

 

「隠れておらんで姿を見せたらどうじゃ?」

 

「上手く気配は消していたつもりなんだが、よく分かったな」

 

 

その瞬間、黒猫の背後にある空間がまるで陽炎(かげろう)のように歪み始めた。それは一瞬モヤが濃くなったと思えば、すぐに晴れていき徐々に人の姿が露わになっていった。

黒猫はそれを見て高位の鬼道であると見抜いた。

 

 

「それで気配を消していたとは儂も随分と甘く見られたものじゃな」

 

「そりゃ畜生相手に本気出すやつがいるかって話だ」

 

 

黒猫は目の前に現れた隊長羽織を身に纏う死神を見て警戒感を露わにしていた。

黒猫の正体の人物と雷山との間に面識はなく互いに名前しか知らない状態だったため当然と言えば当然だった。

 

 

「そんなに警戒しなくても取って食おうってわけじゃない。少し話がしたい」

 

「儂と話したいとな。ならば、まず名乗れ。おぬしはいったい何者じゃ?」

 

「それはすまないことをしたな。俺は【宮廷遊撃部隊(きゅうていゆうげきぶたい)十四番隊部隊長(じゅうよんばんたいぶたいちょう)】雷山悟だ」

 

「雷山……成程、おぬしが雷山悟か」

 

「今度はこちらが1つ注文をつけよう。その猫の姿、解いてくれないか?どうにもその状態だと話しにくくてしょうがない」

 

「……いいじゃろう」

 

 

黒猫が霊圧を少し開放すると同時に猫の姿が徐々に人の姿に変わっていき、最終的には褐色肌の女性の姿になった。そして雷山はその姿に見覚えがあった。

 

 

「……その昔、猫に変化する(すべ)を持つとは噂で耳にしたことはあったが、本当だったんだな。【先代護廷十三隊二番隊隊長】四楓院(しほういん)夜一(よるいち)

 

「儂のことを知っておるか」

 

「ああ……ってその前に服を着ろよ。猫の時より話しづらくなったじゃねぇか」

 

 

雷山は咄嗟に目を逸らした。目の前にいる夜一は服を着ておらず、裸の状態で立っていたからだった。

 

 

「今は持っとらん。儂は気になどせぬし、それに女子(おなご)の裸などおぬしにとっては今更でもあろう」

 

「余計な誤解を招く表現は止してくれ。お前が良くてもあとで白と春麗に殴られんだよ。仕方ない、術を解かせて早々悪いが猫に戻ってくれ」

 

「やれやれ」

 

 

夜一は面倒くさいと言いたげにため息を吐くと再び黒猫の姿に戻った。

裸を見られても気にしないと夜一は言ったが、雷山にとって夜一がどうこうではなく、そんな状態で話していたと銀華零、狐蝶寺に知られれば逆鱗に触れるのは目に見えていたからである。

 

 

「それで、何故あんたを知っているかだったか。そんなものあんたが四楓院のじゃじゃ馬姫って有名だったからに他ならない。それに101年前の事件の際、白から報告も受けている。まさか旅禍(りょか)を連れて戻って来るとは思っていなかったが」

 

「……旅禍(りょか)を伴って尸魂界(ソウル・ソサエティ)に踏み入った儂をひっ捕らえようという腹積もりか?」

 

「少し話がしたいと言ったろ。そんなことをするつもりはない」

 

 

夜一は雷山が言う事が真実がどうか判断しかねていた。しかし、仮に逃げるにしても瞬神(しゅんしん)と謳われた自身の歩法でさえ雷山相手では逃げ切るのは不可能であると考え、ここは大人しく話をするべきと判断した。

 

 

「……分かった。話を聞こう」

 

「今回、我々【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”は朽木ルキアの処刑阻止を前提に動いている。その中でお前が連れて来た旅禍(りょか)たちと協力関係を結びたいと考えているんだ」

 

「……そこで他の背格好と名前を教えろと言う訳じゃな」

 

「ご名答。名前も外見も知らずにどうやって協力するんだって話だ」

 

「1つ聞く。おぬしら”十四番隊”は処刑阻止に動くと言うたが、それを信用する証拠は?」

 

「ない。だが、今回の処刑騒動も101年前の時と同様に藍染惣右介によって仕組まれたことだというのは分かっている」

 

「……理屈は分かる。じゃが、それでもって情報を話すほど儂はお人好しではないぞ」

 

「だろうな。だがお前も分かっているはずだ。我々の協力があれば朽木ルキアの救出が尚の事容易になる事も、他5人の旅禍(りょか)が死ぬ可能性が限りなく0になることも」

 

 

夜一は今の5人がバラバラになってしまった状況を鑑みて、戦力としては十分すぎるほどの雷山率いる【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の協力を得るのも悪くはないと考えていた。

 

 

「……分かった。儂が連れて来たのは全部で5名。ただし、はぐれてしまったためどこにおるかは儂も知らぬ」

 

「それに関してはうちの1人が探しているからいい。仮に十三隊に捕まったとしても何かしろの理由を付けて殺すことだけは阻止しよう」

 

「その言葉、信じてよいのじゃな?」

 

「今この場でお前に嘘を吐く理由もメリットもこちらにはねぇよ」

 

「分かった。では、話そう」

 

 

その後、雷山は今回の旅禍とされている黒崎(くろさき)一護(いちご)石田(いしだ)雨竜(うりゅう)茶渡(さど)泰虎(やすとら)井上(いのうえ)織姫(おりひめ)志波(しば)岩鷲(がんじゅ)の5人の名前とその特徴を聞きだした。

 

 

「ひとまず、名前と特徴だけじゃが確かに伝えたぞ」

 

「……黒崎に石田?」

 

 

雷山はその名前に聞き覚えがあった。そう、それは今から200年前現世で相対した滅却師(クインシー)の生き残りたち。

 

 

「四楓院夜一、黒崎一護と石田雨竜って言うのは滅却師(クインシー)か?」

 

「いや、一護は違う。何故じゃ?」

 

「……気にするな。昔似た名前のやつと相対した覚えがあるだけだ」

 

 

ドンッ!!

 

 

その時、夜一と雷山は【六番隊副隊長】阿散井(あばらい)恋次(れんじ)の霊圧を感じた。そしてその霊圧の中に夜一にとっては知る。雷山にとっては知らぬ霊圧が含まれていた。

 

 

「この霊圧は阿散井恋次の……」

 

「成程、これが黒崎一護か」

 

「雷山悟よ。悪いが、儂は先を急ぐ、ひとまず協力感謝する」

 

 

夜一は雷山にひと声かけるとそのまま霊圧のする方へと去って行った。

 

 

「……目的は達したな。しかし案内役で来たのが話が通じる四楓院夜一で助かった。浦原相手では下手に言いくるめられる上に嘘を吹き込まれてしまうからな」

 

 

雷山は先ほど阿散井恋次と黒崎一護の霊圧を感じた方角に目を向けた。【宮廷遊撃部隊】の共通認識の1つに旅禍(りょか)が隊長格と戦闘を始めた場合は死に瀕するリスクを負う前に割って入ってでも止めるべきがあった。

 

 

「……仕方がない。様子だけでも見に行くか」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「……出遅れたか。もうかなり人が集まっているな」

 

 

雷山は阿散井恋次と黒崎一護が戦っていた場所の近くまでやって来ていた。

戦闘自体はすでに終わっていたが、辺りに多くに人だかりが出来ているのが見えたために迂闊に近づけなくなっていた。

 

 

「阿散井は護廷十三隊が勝手にやってくれるから捨て置くにしても、黒崎一護は何とかしなければな。"縛道の二十三"『指円望遠(しえんぼうえん)』」

 

 

雷山は自身の右目の前で片眼鏡のような形に指で円を作ると人だかりの中を探り始めた。

 

 

「……おお、阿散井恋次の方は派手にやられたな。他に倒れている奴は……なしか」

 

 

倒れる阿散井恋次の周りには恐らく自身と同じく霊圧を感じやってきた【三番隊副隊長】吉良(きら)イヅル、その他隊士数人だけがそこにあり、黒崎一護も四楓院夜一の姿もその場になかった。

 

 

「黒崎一護がいない以上手出しは無用だな。しかしついこの間三席と五席を倒したところだろうに、もう副隊長を倒してその場から逃げ(おお)せることが出来るレベルの実力か……」

 

 

雷山は少し前に【十一番隊第三席】班目(まだらめ)一角(いっかく)、【同第五席】綾瀬川(あやせがわ)弓親(ゆみちか)両名が旅禍(りょか)に撃破されている情報を得ていた。

それに対して雷山も黒崎一護という死神代行の成長スピードに驚嘆していた。

 

 

「こりゃ、うかうかしてると我々の出番もなく、本当に黒崎一護だけで朽木ルキアを助け出してしまうかもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"六番隊副隊長・阿散井恋次の敗北――――"

 

 

その情報は瞬く間に瀞霊廷中を駆け巡ることとなった。

護廷十三隊の席官だけではなく副隊長とは言え、隊長格にも被害が及んだことに【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國は危機感を覚え、火急の事態であるとして戦時特例を発動した。

これによって隊長、副隊長を含む上位席官の斬魄刀常時携帯及び、全面開放を許可する決断をした。

 

 

 

 

「雷山くん、結構大変なことになったよ?」

 

 

襖を開けると開口一番で狐蝶寺がそう話しかけて来た。その手には1枚の報告書らしきものがあった。

内容は阿散井が旅禍(りょか)に敗北したというものだった。

 

 

「……なんだ、阿散井恋次の件か」

 

「あれ、知ってたの?」

 

「案内役と話しをしたついでに現場を見て来たからな。随分とまあひどくやられてたな」

 

「あ、そう言えば聞いてなかったけど、案内役って誰なの?」

 

「ん?分かってなかったのか?四楓院夜一だよ」

 

「あー、だからじゃじゃ馬姫って……」

 

 

狐蝶寺はその時、少し前に雷山が『じゃじゃ馬姫を探しに行く』と言っていたことを思い出した。

あれは四楓院夜一のことを指していたのだと気付いたのだ。

 

 

「他の5人の名前と容姿も聞いてきたぞ。名前はそれぞれ黒崎一護、石田雨竜、茶渡泰虎、井上織姫、志波岩鷲と言うそうだ」

 

「志波岩鷲?志波ってもしかしてあの志波家?」

 

 

普段人の名前などあまり覚えていないような狐蝶寺でもさすがに元五大貴族の一角の名は聞きなじみがあった。

 

 

「直に見てないし霊圧も感じ取ってないから何とも言えないが、恐らくそうだろう。まあ、すでに志波空鶴が絡んでいるから他にも志波家の誰かが絡んでいてもおかしくはないけどな。ところで、白と山吹はどこに行ったんだ?」

 

「その事なんだけど、総隊長のおじいちゃんから全体への伝令と私たちへの伝令の2つが届いたの。1つが、

 

”今回の阿散井恋次の件は火急の事態と判断する。よって今より戦時特例を発動し、上位席官の斬魄刀常時携帯及び、全面開放を許可する"

 

って内容。そしてもう1つが、

 

”此度の事態につき【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”から2名、【第二将】山吹雷花、及び【第五将】銀華零白に懺罪宮(せんざいきゅう)の守護を命ずる”

 

だって」

 

「戦時特例は良いんだが、このタイミングで2人持っていかれるとはな。思わぬ誤算だな」

 

「そう?白ちゃんが言ってたんだけど、朽木ルキアちゃんの近くに怪しまれることなく近づけるので好都合だって」

 

「……そうか。そう言う見方も出来るか」

 

 

普通ならば、雷山のそれと同じようにこの忙しくなる時に朽木ルキアの守護に割く時間はないと考えるところだった。

しかし守護の命を受けた時、銀華零は冷静だった。確かに2人割かれるのは事実だったが、正当な理由で朽木ルキアの近くにいることが出来ると、そう考えたのだ。

 

 

「そう言うこと♪ただ、白ちゃんと山吹ちゃん斬魄刀置いて行ったみたいでね」

 

「はあ?じゃあ春麗、持って行ってくれないか?ついでに四楓院夜一と接触に成功したという情報も持って」

 

「おっけーい♪」

 

「頼んだぞ」

 

「はーい!じゃあ行ってくるね!」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「うーん、私としては朽木ルキアちゃんを懺罪宮(せんざいきゅう)から出しちゃえばすぐに終わると思うんだけどなー……」

 

 

懺罪宮(せんざいきゅう)へ向かう道中、狐蝶寺はそう声を漏らしていた。

狐蝶寺はあまり表立って行動するべきではないことは分かっていたが、それでも朽木ルキアを先に救い出してしまえば、藍染が派手に動き出すのではないかと考えていた。

 

 

「まあ、でもこれは雷山くんも思いついていたことだろうし、それをやらないってことは他に考えがあるんだろうなー」

 

 

狐蝶寺は雷山から聞いてないが故に知る由もなかったが、雷山も朽木ルキアを懺罪宮(せんざいきゅう)から出してしまえば藍染とて動かざるを得ない状況を作れるのではないかと考えていた。

 

しかし、それと同時に藍染は101年前の事件、及び今回の中央四十六室の皆殺しを誰にも気づかれずにやってのける人物。

 

まだ何も策も用意しておらず、ましてや証拠もない状態で迂闊にそんな行動を起こせば、”十四番隊”が賊軍として扱われ、護廷十三隊との不要な戦争となる可能性が大いにあった。そして最悪のパターンとして戦争の最中、朽木ルキアが藍染一派の手によって殺されてしまう可能性があったためにやるべきではないとこの作戦を見送っていたのであった。

 

 

「あっ!いけないいけない。こんなこと言うと白ちゃんに怒られるんだった」

 

 

 

 

 

"きゃああああああああーーーーーー!!!"

 

 

 

 

 

「え?なに今の悲鳴……」

 

 

突如として悲鳴が聞こえ、狐蝶寺も思わず立ち止まってしまった。

 

 

「うーん、何かあっても嫌だし一応様子だけでも見に行こうかな……」

 

 

狐蝶寺は進路を変えて悲鳴が聞こえた方へ向かった。

 

 

「あ、藍染隊長が……!!」

 

「藍染隊長ーーーーー!!!」

 

 

狐蝶寺が着くと、そこでは副隊長が複数人集まって壁の上部を見て絶句していた。そう、彼らの目には【五番隊隊長】藍染惣右介が胸に斬魄刀を突き立てられる姿が映っていた。

 

 

「え、藍染って……」

 

 

斬魄刀が突き立てられる死神の姿は狐蝶寺の目にも映っていたが、一点だけ副隊長たちとは違っていた。

 

狐蝶寺がふと眼下を見ると、【三】と書かれた隊長羽織を身に纏う死神が一人歩いて来ているのが見えた。

狐蝶寺はすぐにそれが【三番隊隊長】市丸ギンであることに気が付いたが、1つ驚愕する事態が起きた。

 

 

『……え?』

 

「…………」

 

『気のせいかな。いま目が合ったような……』

 

 

狐蝶寺は現在、姿と霊圧を消す鬼道を使っているに加え、気配も消しているため目が合うことなどほとんどあり得ない状態であった。しかし、"なんとなく"程度の違和感だったが、狐蝶寺は市丸と目があったような気がした。

 

 

「何や?朝っぱらから騒々しい。……おや、これは一大事やね」

 

 

市丸はまるで他人事かのようにそう言いながら副隊長たちの前に姿を現した。

その顔には笑みが浮かんでおり、まるでこうなるのが分かっていたかのようだった。

 

 

「……お前か!!」

 

 

少しの間の後【五番隊副隊長】雛森(ひなもり)(もも)が市丸に斬りかかるべく動いた。

彼女は市丸の態度ととある幼馴染から受けた忠告である、三番隊に気をつけろの言葉で市丸が藍染を殺したと思っていた。

 

 

『え、ちょっと!?』

 

 

その行動はさすがの狐蝶寺も驚きを隠せずにいた。そして、雛森が斬りかかろうとしている最中市丸が彼女を殺すために死覇装(しはくしょう)の袖口から手を出したのも見えた。

 

 

『このままじゃあの子……雷山くんごめん!』

 

 

このままでは雛森は市丸に殺されると判断した狐蝶寺は、割って入って止めるべきと斬魄刀に手をかけ動こうとした。しかし、それより早くそして意外な形で彼女は命を拾うことになる。

 

 

ガキンッ――――――!!

 

 

「吉良くん、どうして……」

 

 

市丸と雛森の間に割って入った人物。それは【三番隊副隊長】吉良(きら)イヅルだった。

吉良は寸でのところで雛森の斬撃を受け止めていた。

 

 

「僕は三番隊副隊長だ。どんな理由があろうとも隊長に剣を向けることは僕が許さない」

 

「お願い、退いてよ。吉良くん……!!」

 

「それは出来ない」

 

「退いて!退いてよ!!」

 

「ダメだ!!」

 

「退けって言うのが分からないの!?」

 

「ダメだというのが分からないのか!!」

 

「くっ……"(はじ)け"『飛梅(とびうめ)』!!」

 

 

解号を唱え、始解した雛森の斬魄刀は七支刀の形へと変化した。それと同時に能力の影響か爆発し、辺りを爆風と煙が包んだ。

 

 

「こんなところで斬魄刀を……浅薄(せんぱく)……!!」

 

 

怒りのあまり我を忘れて斬魄刀を解放する雛森に対して吉良は浅はかすぎると考えた。

 

 

「自分が何をやっているのか分かっているのか!公事と私事を混同するな、雛森副隊長!!」

 

 

吉良の言葉に耳を傾けず、雛森は再度爆撃を放った。それは自身を阻む吉良へは向かわず、市丸の方へ向かっていった。

 

 

ドォォォン...

 

『ちょっとぉぉぉ!!血気盛んなのは良いんだけどさぁぁ!!』

 

 

市丸の方へ向かった爆撃だが、大きく外れて狐蝶寺のいる場所の近くへと着弾した。一方、吉良は自身の上司である市丸への明確な攻撃を受けて雛森を斬る覚悟を決めたようだった。

 

 

「……そうか。それなら仕方ない。僕は君を敵として処理する。"(おもて)()げろ"『侘助(わびすけ)』!!」

 

 

雛森、吉良両名の件がぶつかろうとしたその時、護廷十三隊十番隊隊長・日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)が割って入りその場を収めた。

 

 

「動くなよ。どっちも」

 

「日番谷くん……」

 

「捕らえろ。二人ともだ」

 

「日番谷くん!!」

 

 

雛森は日番谷に対して何故止めたのかと言いたげな顔をしていた。

 

 

「雛森、剣でやり合いなんかやってる場合かよ。藍染隊長をあそこから降ろしてやるのが先なんじゃねぇのか」

「……総隊長への報告は俺がする。そいつらは拘置だ。連れて行け」

 

 

雛森は【十番隊副隊長】松本(まつもと)乱菊(らんぎく)、【七番隊副隊長】射場(いば)鉄左衛門(てつざえもん)に抱えられ連行されていった。途中すれ違う市丸ギンを睨みながら、

 

 

「すんませんなぁ、十番隊長さん。三番隊(うち)副隊長(もん)まで手間かけてもうて」

 

「……市丸、てめぇ雛森を殺そうとしたな」

 

「……はて、何のことやら」

 

 

とぼける市丸だったが、右腕だけが不自然に死覇装の袖口から出ていた。

 

 

「今のうちに言っておくぜ。雛森に血流させたら俺がお前を殺すぜ」

 

「そら怖い。悪い奴が近づかんように、よう見張っとかなあきませんな」

 

「どうなさいました!市丸隊長、日番谷隊長!……なっ!?これは、藍染隊長が……!!なんという……」

 

「藍染隊長を降ろしてやってくれ」

 

「は、はい!」

 

 

その後、磔にされた死神の身体は降ろされ総合救護詰所へ搬送されて行った。

騒ぎが治まった直後、雛森の爆撃を受けないように物陰に隠れていた狐蝶寺は辺りを探りつつ出てきた。

 

 

「藍染くんが死んだ……?いやでも……」

 

 

狐蝶寺は101年前に自身と椿咲2人を相手取っても顔色一つ変えない程、余裕に満ちる藍染が誰かに殺されるなどあり得ないと考えていた。

しかし、先ほどの現象を目の当たりにしどういうことかと考えていた。

 

 

「ともかく今は白ちゃんと山吹ちゃんに斬魄刀を届けに行くのが先だね」

 

 

 

 

 

" 【護廷十三隊五番隊隊長】藍染惣右介殺害 "

 

 

旅禍(りょか)の侵入事件の最中に起きたこの1つ事件は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の1人が表舞台に出てくる最大の転換点となった。

 

 

 

 





・その他用語


”縛道の二十三”『指円望遠(しえんぼうえん)
人差し指と親指で円を作り、そこに霊圧の膜を張る。片眼鏡(モノクル)のように左右どちらかの目で覗くことで、遠くを見ることが出来る。練度によって見える距離が変わる。

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