宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第26話 蝶形花(ちょうけいか)滅却師(クインシー)

 

 

「山吹雷花、只今戻りました」

 

「山吹ちゃんおか、えり……?」

 

 

雷山が十四番隊詰所を後にして半刻、山吹の声と共に襖が開かれた。反射的とも言うべきか、狐蝶寺は応答していたが、その声は最後になるにつれて徐々に疑問符が付く声色となって行った。

 

それは懺罪宮(せんざいきゅう)の守護の任に就く山吹が戻ってきたことにではなく、山吹が連れて来た2人を見て出た疑問符であった。

 

 

「山吹ちゃん、その2人は誰なの?」

 

旅禍(りょか)の方たちです。保護するために十四番隊詰所にお連れしました」

 

「2人も懺罪宮(せんざいきゅう)まで到達したんだ。すごいね」

 

「このお二方だけでなく、黒崎一護さんもですよ」

 

 

続けて山吹はその黒崎一護から手痛い一撃をもらってしまったと語っていた。3人の旅禍(りょか)が十四番隊の手助けがあったとはいえ懺罪宮(せんざいきゅう)に辿り着いたことと、そのうちの1人が山吹に一撃を入れた事実に狐蝶寺は、

 

「そうなの!?」

 

と驚きの声を上げていた。どちらの事実も狐蝶寺にとっては想定外と言わざるを得なかったからだ。

そんな中、茶渡は見覚えのある1人の死神に話しかけていた。

 

 

「……あんたは確か」

 

「また会いましたね、茶渡泰虎。無事にたどり着けたようで安心しました」

 

「……聞きたい。俺が辿り着いても朽木をあそこから出せないと分かって行かせたのか?」

 

「事実を述べれば、半分ほど出来ないだろうと思っていました」

「まず、あなたは鍵を持っていなかった。そしてあの場には白隊長や雷花隊長以外の隊長格が数多くいました。以上の2つから朽木ルキアを出すことは難しいと判断をしていました」

 

「何故行かせたんだ」

 

「私は初めに言いました。あなた方の保護を命じられている、と」

懺罪宮(せんざいきゅう)に行けば、白隊長と雷花隊長がいる。そこでは少なくとも茶渡泰虎、あなたが死ぬことは無くなり、保護される可能性が高かった。だから行かせたまで」

 

「そうか、分かった。じゃあ、井上と石田の保護も願いたい」

 

 

この時、この場にいる茶渡と岩鷲、夜一に連れられて行った一護の所在は分かっていたが、残りの2人である石田雨竜と井上織姫が何処にいるのかは十四番隊も把握していなかった。

 

 

「はいはーい!それなら私が行くよ。浮葉くんはこの子たちの守護と南美ちゃんの帰りを待っててもらってもいい?」

 

「承知しました。南美隊長が戻りましたら、雷山部隊長へ伝令いたします」

 

「よろしくね。じゃあ、山吹ちゃんもいこ。今から懺罪宮(せんざいきゅう)に戻るんでしょ?」

 

「では、途中までお願いします」

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「っはっはっは!それで、朽木白哉は逃げるようにその場から去って行ったと言うわけか」

 

 

五番隊隊舎で雷山は高笑いをしていた。銀華零から”縛道の七十七”『天挺空羅(てんていくうら)・応用編』によって懺罪宮(せんざいきゅう)での出来事とその顛末(てんまつ)の報告を受けていたからだった。

 

 

”笑い事ではありませんよ。こちらは黒崎一護さんが朽木六番隊隊長に殺されてしまうのではないかとヒヤヒヤだったのですから”

 

「悪い悪い。しかし急に白の霊圧を感じたものだから何かあったのかと思っていたが、そんなことが起きていたんだな」

 

”ええ、そして思いもよらなかったですよ。不意を突かれたとはいえ、雷花さんが黒崎一護さんに打ち負かされたのですから”

 

「……そうなのか?」

 

 

銀華零の一言は雷山を驚かせていた。黒崎一護はこの少し前に【十一番隊隊長】更木剣八を下していることを雷山は知っていた。

その事から現在の実力は隊長と何ら変わらない程と推測出来たが、それでも【十四番隊・第二将”次鋒(じほう)”】の地位を任される実力がある山吹を不意と突いたとしても負かすことなど考えられなかったからである。

 

 

「とんでもない実力だな。……だがまあ、当代の剣八である更木を倒しているから不自然な話ではないか」

 

”以上が黒崎一護さんが懺罪宮(せんざいきゅう)に到達した際に起こった事の報告です。それに付随してあともう2つ報告事項があります”

 

「なんだ?」

 

”1つが黒崎一護さんの他に茶渡泰虎さんと志波岩鷲さんの2名が懺罪宮(せんざいきゅう)に到達しました。少し前に雷花さんが先導する形で十四番隊詰所に向けて出立しました”

 

「分かった。そちらにも意識を向けておくよ」

 

”そしてもう1つ、浮竹十三番隊隊長に今回の案件の詳細をお伝えしました”

 

「ああ、それは構わないぞ。むしろ詳細を話すのが遅すぎたくらいだ。話は変わるが、春麗から藍染の斬魄刀の話は聞いたぞ」

 

”結局はどちらに作用していると思われるのですか?”

 

「まだ断定は出来ていないが、人目に作用しているのではないかと思っている。でなければ、101年前のことも例の死体のことも説明がつかない」

 

”成程。それで、死を偽装したご本人はどちらへ?”

 

「それは今、椿咲が調査中だ。そして潜伏している場所が分かり次第、強襲をかけようと思う」

 

”少し強引ではないですか?”

 

「白、藍染が死を偽装してまで潜伏したという事はそれ相応の理由が出来たからに他ならない。ならばこちらも多少強引にでも進めないとならないだろ?」

 

”はぁ……では、こちらも一応確認ですが、万が一の時に朽木ルキアさんを懺罪宮(ここ)から出すことはよろしいんですか?”

 

「ああ、今となってはそれも選択肢に入っている。正直、例の3人の誰かがいつ乗り込んできてもおかしくない状況だからな」

 

”分かりました。留意しておきます”

 

「最後に朽木白哉と揉めたって件だが、あれはこちらが上手いことやっておくから安心してくれ」

 

”ありがとうございます。では、また何かあればお願いします。”縛道の七十七”『天挺空羅・応用編』解”

 

 

その言葉を最後に銀華零は鬼道を解除していた。

辺りに静けさが漂う中、雷山は藍染の行動の意味を一考していた。

 

 

「恐らく、藍染の想定より旅禍(りょか)たちの進撃が早いのだろうな」

「……この想定外がこちらに有利に働いてくれればいいんだが」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「うーん……やっぱりなかなか見つからないよね」

 

 

辺りが暗くなった頃、瀞霊廷内のとある場所に狐蝶寺はいた。

一護たち3人と違い、未だ所在が掴めない石田雨竜と井上織姫を探しているためだった。

狐蝶寺は霊圧探査を行っているが、辺りに隊長格の霊圧がゴロゴロしているためか2人の居場所特定には至ってなかったのだ。

 

 

「けど、確か前に七番隊の第四席がやられたって聞いたからそれくらいの霊圧はあるんだろうけど……あれ?」

 

 

その時、狐蝶寺は【十二番隊隊長】(くろつち)マユリの霊圧を感じ取った。

そしてすぐにその霊圧の中に狐蝶寺の知らぬ霊圧が1つ紛れていることに気が付いた。

 

 

「もう1つの知らない霊圧は……滅却師(クインシー)?確か石田雨竜くんは滅却師(クインシー)て話だよね。という事は……」

 

 

狐蝶寺はマユリの霊圧の高さから戦闘中であることを察した。そしてそれは狐蝶寺にとっても非常にまずい事態であることを意味していた。

【十二番隊隊長】涅マユリは十四番隊内で唯一と言ってもいいほどに接点がない人物であり、仮に今回の案件の詳細をすべて話したとしても協力も得られずに旅禍(りょか)である石田雨竜を殺すことが明白だったからだ。

 

 

「ともかく、涅くんと戦っているのは石田雨竜くんで間違いない。急いで向かわなきゃ」

 

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

 

「うわぁ……これはまたすごいことになってるね」

 

 

狐蝶寺が霊圧を感じ取った地点に到達すると、そこは激しい戦闘の痕跡が残っていた。

通路の一部は消し飛び、地面の一部は半円状に削り取られていた。

 

 

「……あれ、涅マユリくんがいない」

 

 

辺りを見回していた狐蝶寺はつい先ほどまで雨竜と戦闘をしていたはずの涅マユリの姿が無いことに気が付いた。

その代わりに塀の上に立つ狐蝶寺のすぐ下では傷を負う【十二番隊副隊長】涅ネムと見慣れぬ装束に身を包む人物がいた。

 

 

 

「……ちょっと聞いてもいいかな?」

 

「!!」

 

 

マユリにギリギリ勝利した雨竜だったが瀕死とも言える重傷を負っており、狐蝶寺がいることにまるで気が付いていなかったため、突然話しかけられて形となっており塀の上を見上げていた。

 

【挿絵表示】

 

そこには袖の無いタイプの隊長羽織を身に纏う死神が自身を見下ろす形で立っていた。

 

 

「くそっ……増援か!!」

 

 

狐蝶寺は知る由もなかったが、雨竜の現在の姿は滅却師最終形態(クインシー・レツトシュティール)と言い、瀞霊廷の建造物等の霊子の結合を無理矢理自身の力へと変えるほどの力があった。

マユリ相手にその力をほとんど出し尽くした形となっていたが、矢を1本生成する力はまだあり、狐蝶寺を増援を勘違いして矢で射ろうとしていたのだ。

 

 

「ちょっと!?」

 

 

狐蝶寺は矢が放たれると同時に前に飛び一回転しながら雨竜たちの前に降り立った。

雨竜が放った矢の威力を肌で感じた狐蝶寺は冷や汗をかいており、雨竜もまたマユリが躱せなかった威力と速度で放った矢を完璧に躱されたことに驚いている様子だった。

 

 

「いきなり矢を射るのは反則でしょ!危ないなぁ……」

 

「うっ……」

 

 

マユリとの戦闘で受けたダメージと限界を超えた力を使った反動で雨竜は激痛に耐え兼ね片膝をついていた。

それを見た狐蝶寺は慌てて雨竜に駆け寄った。

 

 

「大丈夫……な訳ないよね。待ってて、今すぐ四番隊に連れて行くから」

 

「気にしないでほしい。それよりもあなたはいったい……」

 

 

雨竜は初めて見る狐蝶寺のことを先ほど倒した涅マユリの増援できた隊長だと思っていた。しかし狐蝶寺は自身を斬ろうとする素振りすら見せずに心配そうな面持ちで自身に駆け寄ったためその正体を推し測れずにいた。

 

 

「私は狐蝶寺春麗。【十四番隊・第四将”副将”】を務める死神だよ。君のことは夜一ちゃんから聞いているよ。石田雨竜くん」

 

「夜一さんから……!?ますますあなたは何者なんだ!?十四番隊は護廷十三隊とは違う部隊なんですか!?」

 

「そんな一気に質問されても困るよ。それに今は君を四番隊に連れて行くことが先だよ。気にしないでとかそう言う話じゃないの」

「君も四番隊まで連れて行くよ。涅ネムちゃん」

 

 

狐蝶寺は壁にもたれ掛かる形で座るネムに話しかけていた。どちらかと言えば敵側であるネムだが、さすがに狐蝶寺も怪我人をこの場に放っていけはしなかった。

 

 

「私は大丈夫です。直に隊員たちがやって来ます」

 

「それを待っていられるような傷でもないでしょ。ほら、行くよ」

 

 

狐蝶寺は2人を抱えると四番隊舎へ向けて走り出した。

その最中、雨竜に井上織姫の所在について聞いた。

 

 

「井上さんは十一番隊の死神に託した。そうだ、彼女の一緒に……ッ」

 

「ありがとう、それだけ知れれば十分だよ。傷に障るから後はしゃべっちゃダメだよ」

『十一番隊……織姫ちゃんの件は雷山くんにお願いした方がいいみたいだね』

 

 

狐蝶寺は井上織姫の身柄について、『隊長代理』としてだが五番隊隊長に就く雷山に動いてもらった方が下手に大事にならずに済むと判断して、2人を送り届けたら連絡しようと考えた。

 

 

         ・

 

         ・

 

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         ・

 

         ・

 

 

「井上織姫が十一番隊に?」

 

「うん、石田雨竜くんがそう言っててね」

 

 

約1時間後のこと、狐蝶寺の姿は五番隊隊舎にあった。

彼女は雨竜たちを総合救護詰所に送り届けた後、すぐに雷山に井上織姫の件を伝えるべくやって来ていたのだ。

 

 

「いくら十一番隊でも、彼らからしたら正体不明の私が織姫ちゃんを連れて行っちゃったら騒ぎになるかなぁって思って」

 

「……まあ、考えられると言えば考えられるな。分かった。井上織姫は俺が詰所まで連れて行くよ」

 

「よろしくね♪じゃあ、私は詰所に戻るから」

 

「待て待て、まだ肝心なことを聞いてないぞ。救護詰所に連れて行った石田雨竜は後に十四番隊が引き取るって認識でいいのか?」

 

「えーっと……いい、んじゃない……かな?」

 

「……おまえまさか」

 

 

狐蝶寺の答えに間があったことと、曖昧だったことから卯ノ花との間に何の取り決めなどされていないのだろうと察した。

 

 

「はぁ……まったく、夜が明けてから卯ノ花のところ行ってもらえるか?」

 

「うん、責任持って詰所まで連れてくよ」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「そう言うことだったんだね……」

 

 

同時刻、

とある場所で椿咲は呟いていた。この時、ようやく藍染が朽木ルキアをわざわざ双極を使った処刑にしようとしている理由と死を装ってまで姿を消した理由が判明していた。

 

 

「早くこのことを……―――」

 

「どなたに伝えるのですか?」

 

 

背後から声の聞こえた椿咲はゆっくりと振り返った。そこには藍染惣右介本人が立っていた。

椿咲自身は一切の動向を悟られずにここまでやって来ていたつもりだったが、藍染は椿咲がこの場にいることがさも当然であるかのような顔をしていた。

 

 

「……藍染君がここにいるってことは私が得た情報は正しいってわけだね」

 

「さすが椿咲隊長だ。過去の件があるとはいえ、僕が何故朽木ルキアに用があるかを突き止めたその推理力は見事だ。だが……」

 

 

藍染は鞘から斬魄刀と引き抜くと静かに構えた。その様子から藍染はこの場で自身を斬り捨てるつもりでいると椿咲は感じた。

 

 

「その情報を雷山悟に持ち帰られては困る。椿咲隊長にはここで退場していただきましょうか」

 

「はぁ……確かに想定外になるけど、しょうがないか」

「”月夜に紛れよ”『月華(げっか)』」

 

 

椿咲は鞘から斬魄刀と抜くと鋒を藍染に向けて解号を唱えた。

解放した椿咲の斬魄刀は柄の先に輪刀が付いた形へと変化していた。

 

 

「珍しいこともあるものですね。椿咲隊長が自らこれが想定外だと認めるとは」

 

「実際に想定外だからね」

「……まあ、想定外と言っても”藍染君をここで捕縛することが”なんだけどね!!」

 

 

椿咲は言い終わると同時に地面を強く蹴り藍染との間合いを一気に詰めた。

その速度は藍染をして、速いと言わざるを得なかったが、捉えられないほどではなく、難なく椿咲の斬撃を受けていた。

 

 

「いいの?迂闊に刀を受けちゃっても」

 

「ええ、あなたの斬魄刀の能力は知り尽くしている。それ故に脅威とは程遠いと判断しましたからね」

 

「……そう」

「そう言ってもらえて何よりだよ」

 

「!!」

 

 

その時、藍染の目の前にいる椿咲の姿が姿がまるでノイズが走ったように歪んだ。そして次の瞬間、爆発するように破裂した。

藍染は瞬時に斬りかかって来た椿咲は幻覚だったのだと察したが、本体である椿咲の姿はもうどこにもなかった。

 

 

「……成程。初めから僕を捕縛するつもりはなかったわけか」

 

「そうだよ」

 

 

声と共に再び椿咲の幻覚が藍染の前に姿を現した。先ほどのやり取りで本体はすでにこの場にいないと分かっている藍染はただ幻影を見ていた。

 

 

「藍染君を捕縛することも出来なくはないんだけど、時間がかかるからね。そんなことに時間をかけるよりも今は情報を雷山隊長に伝えるほうが先、残念だけどここまでだよ」

「じゃあね」

 

 

そのひと声と共に椿咲の姿はモヤのように消えて行った。

それを見た藍染はとあることを考えた。

 

 

「……やはり予定通りにはいくまい。多少無理をしてでも……」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「昨日の今日でごめんね、八流…‥卯ノ花ちゃん」

 

 

翌日、狐蝶寺は昨晩訪れたばかりの四番隊隊舎・総合救護詰所にいた。

応対した卯ノ花は昨日の今日でいったい何の用事かと言った視線を向けていたが狐蝶寺は一切気にしていなかった

 

 

「……構いませんよ。あなたがこういう方だったのは今に始まった事ではありませんから」

「それで、いったい何の用事でしょう?」

 

「昨日、石田雨竜くんを連れて来たでしょ?あの子をうちで預かれないかなって」

 

「……どのような意図でその様な質問をされたかはあえて聞きませんが、彼が怪我されていることもまた事実です。その様な状態で引き渡すことなど出来るはずもありません」

 

「大丈夫だよ。卯ノ花ちゃんほどじゃないけど、回道の心得はあるから♪」

 

「はぁ……」

 

 

卯ノ花は思わずため息を吐いていた。その程度で回復部門の長である自身が許可など出す訳があるまいと普通に考えれば分かることだったからだ。

 

 

「……あなたのことです。どうしてもダメと言っても聞かぬのでしょう。ただ、条件があります。絶対に無理はさせてはなりませんよ」

 

「分かってるって♪」

 

「では、旅禍(りょか)はこの下にいます。あとは好きになさってください」

 

「ありがとうね!」

 

 

狐蝶寺は卯ノ花に礼を言うと、地下にある医療牢へと続く階段を下りた。

階段を降りきると目の前には牢があり、包帯を巻かれた雨竜が1人ベッドに座っていた。狐蝶寺の気配に気づいた雨竜は視線をこちらへと向けていた。

 

 

「あなたは……」

 

「怪我の具合はどう?石田雨竜くん」

 

「狐蝶寺さん……でしたっけ。大丈夫です」

 

「そう、良かった良かった」

 

「それで、いったい何の用事ですか?」

 

「今から君を十四番隊詰所へ連れて行こうと思ってね」

 

 

その時、雨竜が自身に対して警戒心を向けたのを狐蝶寺は感じ取った。

彼にしてみれば、敵陣のど真ん中でつい昨日出会ったばかりの死神にどこへとも知らぬ場所へ連れて行くと言われているわけであり、警戒しても仕方がないと考えた。

 

 

「うーん、多分誤解していると思うけど、別に私たちは君たちを始末しようとしてるわけじゃない。むしろ逆だよ」

 

「逆?」

 

「うん、私たちは君たちを保護しているんだよ。朽木ルキアちゃんの処刑を阻止することと並行してね」

 

「なっ!?」

 

 

その一言は雨竜を驚かせた。

内部事情を知らぬ雨竜にしてみれば、十四番隊も護廷十三隊と同様に朽木ルキアの奪還に来た自身らを排除するために動いていると考えていた。

昨晩のあの時、自身を斬らなかったことを不思議に思ったが、それは自身たちがどうやって尸魂界(ソウル・ソサエティ)に踏み入ったかを知るための重要参考人として生かす判断を下したのだと思っていた。

 

 

「誰にも言っちゃダメだよ。特に君が昨日相対した涅マユリくんと同じ護廷十三隊の隊長たちにはね」

 

「何故、その事を僕に話したんですか……」

 

「協力してほしいのが1つ、それと君たちに死んでほしくないのが1つってところかな。実際にもう2人、君のお友達が保護されているわけだし」

 

「…………」

「……分かった」

 

 

長い静寂が2人の間を包んでいた。それほどまで雨竜は目の前の死神の言うことを信ずるべきか悩んでいたのだ。

そして長い葛藤の末、雨竜は牢を出て狐蝶寺について行くことを承諾した。

 

 

「じゃあ、案内するね。私たちの本拠地、十四番隊詰所に!」

 

 

 

 





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