宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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 (うれ)必要(ひつよう)はない

 何故(なぜ)なら

 そこに信念(しんねん)があるからだ




第3話 虚心の信念

 

 

【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が発足してより61年後(山吹雷花の加入より12年後)

 

 

「……それは、熟考した上での申し出としても良いのかの」

 

 

低く、地を鳴らすような声が響く。

山本元柳斎重國は、杖に両手を置いたまま、鋭い眼光を向けていた。

 

 

瀞霊廷内の一角にある一番隊隊舎、さらにその内部にある隊長執務室。

そこに二つの影が向かい合うようにして立っていた。

1人は【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國。

そしてもう1人は、

 

 

 

――――――三番隊隊長・浮葉(ふよう)(やいば)よ」

 

 

 

浮葉(ふよう)(やいば)』とは、今から102年前に銀華零(ぎんかれい)(はく)との代替わりで【護廷十三隊三番隊隊長】に就任した人物。

銀華零が隊長だった頃の副隊長でもあり、銀華零が狐蝶寺と同時に隊長職を降りたために、山吹雷花とほぼ同時期に隊長へ昇格した過去がある死神。

 

 

「……理由(わけ)を問おう」

 

「……私がこれ以上、隊長職に就く意味を見出せなくなりました」

 

 

浮葉刃の声には、迷いも未練もなかった。それがかえって、場の空気を重くしていた。

元柳斎は浮葉が言った事の意味についてさらに問いを投げた。

 

 

「”これ以上隊長職に就く意味を見出せない”とおぬしは言うたな。それはどういう意味じゃ」

 

「もう少し述べるのならば、雷山隊長と同じ考えを持った故です。かつて雷山隊長はおっしゃいました。”今の瀞霊廷は今の護廷十三隊が守っていくべきだ”と、私ももう隊長に就任して102年が経ちました」

 

「……成程。つまり”そろそろ自分も後進に譲るべきではないのか”……と、そう考えたわけじゃな」

 

「はい、山本総隊長のおっしゃる通りです。すでに影内(かげない)副隊長には話をしております。あとは、山本総隊長のご判断次第です」

 

 

元柳斎は一瞬だけ目を細め、遠い記憶を手繰り寄せるように息を吐いた。

 

 

「そうか……ならば、ひとつ思い出したことがある」

 

 

元柳斎が思い出したこと、それは山吹が【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”へ正式に異動をする日に、挨拶に来ていたときに言っていたことだった。

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

「山本総隊長、今までご指導ありがとうございました!」

 

「おぬしならばあえて言う必要はないが、これからも日々精進すると良い」

 

「はい!では、失礼いたします」

 

 

山吹は元柳斎に向かい一礼すると背を向けて歩き出した。しかし数歩行ったところで何かを思い出したように声を上げ立ち止まった。

 

 

「……あっ、山本総隊長。1つだけ頼みごとをしてもよろしいでしょうか?」

 

「何じゃ?」

 

「いつの日か、浮葉隊長も隊長職を引退する時が来ると思われます。その時は、浮葉隊長もあたし同様に【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”へ勧誘していただきたいのです」

 

「話を浮葉刃に通すことは可能じゃが、最終的な判断は本人、そしてその説得は”十四番隊”が行うものとなる。おぬしが今回、狐蝶寺から受けたようにな。それでも良いというのなら、話を通そう」

 

「はい、その時はあたしが責任と信頼を持って浮葉隊長と話をします。ぜひ、あたしに声をかけてください」

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「かつて十三番隊隊長を辞した死神がこう言っておった。『もし浮葉隊長が隊長を辞する時が来たならば、あたしに声をかけてほしい』とな」

 

 

その言葉を聞いた浮葉刃の眉が、ほんの僅かに動いた。浮葉の知る限り一人称が”あたし”の元十三番隊隊長有は1人しかいなかったからである。

 

 

「今ここに召喚する。それまでしばしここで待ってはもらえぬか」

 

「承知しました」

 

 

 

同 時 刻―――、

 

 

-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --

 

 

 

「もう!狐蝶寺隊長、この書類はここじゃないですよ!」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

「前に場所を変えますよって言ったばかりじゃないですか」

 

「ごめんごめん」

 

「……あの光景を見ていると十三隊時代を思い出しますね」

 

 

山吹と狐蝶寺のやり取りを離れたところで見ている銀華零がそう呟いていた。一方の雷山はそんな呑気な事を言っている場合かよと言いたげな視線を送っていた。

そんな時、1匹の漆黒の蝶が飛んできた。伝令に使われる『地獄蝶(じごくちょう)』だ

 

 

地獄蝶(じごくちょう)?」

 

「何故、今ここに……」

 

 

地獄蝶(じごくちょう)は山吹の前まで行くとホバリングするように空中に静止していた。そして山吹が手を差し出すと同時に手に止まり、伝達事項が流れて来た。

 

 

”【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”所属、山吹雷花殿に伝達致します。至急、一番隊隊舎へお越しください。お待ちになっている方が見えます”

 

 

「お待ちになっている?」

 

「いったい誰でしょうか」

 

 

雷山たちには一番隊隊舎に待つ人物について、元柳斎しか思い浮かんでいなかった。

その中で12年前のことで唯一心当たりがある山吹はハッとした顔をした。

 

 

「もしかして……ひとまず行って来ます!」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「山本総隊長、お待たせ致しました!」

 

「……この声は、やはり」

 

 

約30分後、外から聞こえてきたその声に浮葉は聞き覚えがあった。それはかつて同時期に隊長へと昇進し、共に切磋琢磨して先に門出を見送ったはずの人物。

 

 

「入れ」

 

「失礼します。お久しぶりですね、浮葉隊長」

 

「やほり雷花隊長でしたか。……その羽織は?」

 

 

浮葉は山吹が身に纏う隊長羽織を指して聞いていた。通常、隊長を引退すれば斬魄刀と共に羽織も返却となるはずだったからである。

 

 

「これは“十四番隊“の隊長羽織です。ほら、背中の文字も【十四】となっているでしょう?」

 

 

そう言って山吹は振り返ってみせた。

そこには山吹の言う通り背中の中央辺りにある◇の中に十四という文字が刻まれていた。

 

 

「早速、本題に入りますが浮葉隊長。【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”に属してはもらえませんか」

 

「【宮廷遊撃部隊】……ですか?」

 

 

その時、浮葉は12年前のことを思い出していた。

それはいつも凛としている山吹雷花が何か思い詰めて悩んでいる表情を浮かべていたために相談に乗った記憶だった。

 

 

「……成程。12年前のとある部隊と言うのは、そういうことでしたか」

 

 

浮葉は【宮廷遊撃部隊】の話と、12年前に山吹が語っていた”とある部隊”、そして相談に乗った出来事と合わせて、合点がいった様子だった。

 

 

「あ、あれは友人の話ですよ!」

 

「そうでしたね。失礼しました」

 

「話を戻しますが、”十四番隊”に属してはもらえませんか?浮葉隊長」

 

「……構いませんよ。貴女が私を誘うと言うことは、私の実力を買ってくだり自信を持っているということですから。しかし、その前に雷花隊長。貴女はその”十四番隊”に属してどう感じて来たかを教えてください」

 

「え、あたしがどう感じたかですか?」

 

「ええ、なんでも良いです。先に勧誘を受け、そして属することとなった貴女の率直な感想が聞きたいのです」

 

「そうですね……率直に言えば、まだ”十四番隊”で狐蝶寺隊長や銀華零隊長、雷山隊長に迷惑をかけないかの心配がないかと言えば嘘になります」

 

 

山吹はかつて浮葉に吐露した心情が未だにあると語った。

いくら狐蝶寺からの信頼に覚悟を持って応えたとしても12年程度では心の奥にあるその気持ちは払拭出来ないと、

 

しかし、それでもなお【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”に属して、今度は山吹が自信を持って浮葉を誘っている確固たる理由があると山吹は語った。

 

 

「しかし、先に挙げた御三方は信念と誇りを持って職務に当たっておられます。そこにあたしが迷惑をかけるなどと戯言(ざれごと)を挟む余地はありません。きっと何があろうと迷惑などと思わずに解決に導いてくださるでしょうから。その御三方が信念を持つ限りあたしもついて行く、そうあたしは考えています。……まあ、まだまだ若僧のあたしが言うのも烏滸(おこ)がましいですけどね」

 

「……ふっ、真面目な雷花隊長がそう言うのであればそうなんでしょうね。分かりました。【宮廷遊撃部隊】の話は正式に拝命します。三番隊の引き継ぎが終わり次第必ず属すると約束します」

 

「ありがとうございます!お待ちしてますよ、浮葉隊長」

 

 

その後、浮葉と山吹は一番隊隊舎を後にした。束の間ではあったが、”同期の隊長”として他愛ない会話をしながらそれぞれ帰路へ着いた。

 

 

 

-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --

 

 

 

「山吹雷花、只今戻りました」

 

「おっかえり♪」

 

「おお、戻ったか。急な呼び出しみたいだったが、いったい何だったんだ?」

 

「それをご報告するにはまず、12年前にあたしが異動に際して山本総隊長に挨拶へ行った時に遡らないといけないのですが……」

 

 

山吹は12年前に元柳斎と交わした約束のことを雷山たちに話した。

雷山たちは”あの元柳斎がそんな口約束をするとは意外だな”と言いたげな顔をしていたように山吹は見えた。

 

 

「……成程な。大方の流れは理解した。それで浮葉はなんと言っていた?」

 

「三番隊の引き継ぎが終わり次第必ず、と言っておりました」

 

「いいねいいね♪これで5人目だし、かつての三番隊と十三番隊コンビが揃ったね♪」

 

 

その時、銀華零は1人顎に指を当てて何やら考えている様子だった。

一頻(ひとしき)り考えたあと、名案を思いついたと言いたげに笑みを浮かべていた。

 

 

「雷山さん、1つ提案があるのですが、少しよろしいですか?」

 

 

銀華零からの唐突に言葉を投げかけられた雷山は思わず、

「提案?」

と間の抜けた声を出してしまった。

 

 

「ええ、これで5名体制となるわけですし、そろそろ役職名というか、誰が何を主として担当するかを決めるのはどうでしょうか?」

 

「はいはーい!それなら雷山くんは【宮廷遊撃部隊長】って役職がいいと思いまーす!」

 

「はぁ!?勝手に決めんなよ。【部隊長】って言うなら、俺よりも白の方が似合うだろ」

 

「私は雷山さんが担ったほうがいいと思いますけれど……昔からまとめ役は得意でしたでしょ?」

 

 

銀華零は護廷十三隊隊長時代に、3人で作戦行動をする際は決まって雷山がそのまとめ役を務めていたことを指して言っていた。

雷山本人は一切得意ではないと言い張ってはいるが、その際の戦績は凄まじく作戦失敗や負け戦になったことは、一度たりともないと言われているほどである。

 

しかし、雷山はそう言った指揮する立場ではなく、自ら前線に赴いて戦う方が性に合っていると自覚しているため、積極的にまとめ役はやりたがらず、元柳斎から過去に総隊長の話を打診されたときも断ったほどである。

 

 

「でしたでしょ?じゃないわ。俺はそんなトップじゃなく、前線で戦ってるのほうが性に合うんだよ」

 

「まあまあ、そう言わないでくださいな。それで役職名の方ですが、」

 

「おい、スルーかよ」

 

「山本総隊長がご教授なさってた剣道から着想を得たものにするというのはどうでしょうか?」

 

 

銀華零はかつて元柳斎から剣道と言うものを習った際に聞いた団体戦におけるポジション名を当てはめるのはどうだろうかと言っていた。

具体的には、”先鋒(せんぽう)” ”次鋒(じほう)” ”中堅(ちゅうけん)” ”副将(ふくしょう)” ”大将(たいしょう)”の5つである。

 

 

「おおー!いいじゃないの♪響きもかっこいいしさ」

 

「人数増えたらどうするんだよ。それに俺を仮に部隊長にするなら1人足りないだろ」

 

 

雷山の言う通り浮葉が加わったとして5名体制、その中で雷山を部隊長に据えれば、残り4名となり5つのポジション名が1つあふれる計算となっていた。

しかし、そんなこと銀華零も分かっており、残り1人についても当てがあるような様子だった。

 

 

「その時はまたその時に考えましょう。それに、最後の1人はもう半分決まっているようなものじゃないですか」

 

 

その時、その場にいた全員はある1人の死神が頭に思い浮かんでいた。

その死神はかつて雷山が隊長を担っていた頃の副隊長であり、62年前に代替わりで五番隊隊長に就任した人物。

 

 

「白、お前いずれはあいつを”十四番隊”に引き入れるつもりだったのか」

 

「あら、雷山さんは考えていなかったのですか?」

 

「……まあ、隊長を引退するってなった時に声をかけてやろうかとは思っていた。あいつはこういう話は大好きだし、何より声をかけなければ後でブーブーうるさいからな」

 

「ふふっ」

 

 

銀華零はかつての五番隊コンビの情景を懐かしむように笑っていた。

 

 

「相変わらずですね、雷山さんは」

 

「ほっとけ」

 

 

 

 

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