宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第37話 それぞれの学び

 

 

「へぇー、みんな同じクラスメイトだったんだね」

 

 

狐蝶寺は自身の席に腰を掛けて取り出してきた煎餅を食べながらそう言っていた。狐蝶寺自身、護廷十三隊時代から現世にあまり行った事がなく、ましてや霊術院に通ったこともないために”学校”という存在に興味津々であった。

 

 

「ねぇねぇ、現世の学校ってどんなところなの?」

 

「えっと……」

 

 

狐蝶寺から突然質問を投げかけられて織姫は思わず首をかしげていた。

 

 

「勉強をするところ、かな?」

 

「うーん、つまり霊術院と同じ感じなのかな?」

 

「霊術院?」

 

 

織姫は『霊術院』と言う聞きなじみのない言葉について聞き返していた。

それに答えたのは銀華零だった。

 

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)にある学校のようなものですよ。正式名は『真央霊術院』。死神を養成する機関でその起源は今からおよそ2000年前まで遡ります。まあ、わたくしたちは霊術院に通ったことが無いので、詳しくは答えられませんが」

 

「こういう時こそ、霊術院で講師をしていた椿咲が居れば話が早いんだが」

 

「学校では勉強以外に何かやったりするの?」

 

「体育とか音楽とか美術とかもやったりします」

 

「えー!そうなの!」

 

 

それを聞いた狐蝶寺は一層と目を輝かせた。

 

 

「音楽とか美術は分かるよ!昔、山吹ちゃんが現世で買ったって本にいろいろ書いてあったから」

 

 

その光景を眺めていた銀華零はたまたま近くにいたという理由で雨竜に対して少し手を挙げて静かに尋ねた。

 

 

「石田雨竜さん、わたくしからも1つよろしいですか?」

 

「何ですか?」

 

「真央霊術院は六年制なのですが、現世の学校もまた同じなのですか?」

 

空座町(からくらちょう)……と言うより、日本なら小学校六年、中学校三年、高校三年、大学四年が一般的です」

 

「成程……つまり教育期間そのものはこちらより長い、と言う訳ですか」

 

「もっとも、小学校と中学校は義務教育と呼ばれ、高校からはそうではないですが、進学する人は多いですね」

 

「それは興味深いですね」

 

 

その一方で狐蝶寺の質問は止まらない。

 

 

「霊術院だと、私たちが今着る死覇装とはまた違う装束が制服として指定されているんだけど、現世も同じなの?」

 

「そうですよ」

 

「……ちょっと着てみたいかも」

 

「狐蝶寺さん、絶対似合うと思います!」

 

「ありがとう♪他には?他には何かあったりするの?」

 

「えーっと……」

 

 

織姫は少し困ったように笑みを浮かべていた。

それを見かねてか狐蝶寺の問いに答えたのはそれまで黙っていた茶渡だった。

 

 

「部活動もある」

 

「ぶかつどう?」

 

 

狐蝶寺は初めて聞く部活動という言葉に首をかしげていた。

 

 

「授業が終わったあと、自分の好きなことをする活動だ。剣道や野球、サッカー、吹奏楽……色々ある」

 

「剣道!」

 

 

狐蝶寺が勢いよく立ち上がる。『剣道』は自身の『副将』の役職の由来にもなり、

銀華零、雷山と等しくかつて元柳斎から師事を受けたこともあり、聞きなじみのある競技であったからだった。

 

 

「やっぱり竹刀(しない)で斬り合うの?」

 

「恐らく、思っていることとは少し違うと思う」

 

「あっ……そうだよね」

 

「授業が終われば自由時間なのですか?」

 

「完全に自由じゃないですけどね。宿題もありますし、試験前は勉強をします」

 

「げっ……」

 

 

試験という言葉を聞いた時、狐蝶寺は声を出すとともに嫌そうな顔をしていた。

 

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)も現世も楽ではないということですよ」

 

「そうだよね~……けど、すごい楽しそう」

 

「ふふっ、春麗ちゃん、羨ましそうですね」

 

「……ちょっとだけだよ」

 

 

銀華零と狐蝶寺、2人のやり取りを見ていた織姫は優しく笑っていた。

 

 

「あっ、だったら今度みんなで現世に遊びに来てください」

 

「いいの!?」

 

「はい!」

 

「やった!そう言うことだから、雷山くんよろしくね!」

 

 

狐蝶寺が話を振ったことで雷山はようやく狐蝶寺たちの話へと耳を傾けた。

 

 

「さっきから何話してるのかと思えば、春麗が現世に行くって?冗談は止してくれよ」

 

「本気だよ!どちらにしても1回は現世に行かないといけないんでしょ?藍染くん関連で」

 

「……さて、俺は椿咲と待ち合わせの約束があるから出かけてくるぞ」

 

「逃げないでよー!」

「……あっ、それはそうとさ!」

 

 

狐蝶寺が声を上げた時、雷山は『こいつまた余計なことを思いついたな』と冷ややかな視線を送っていた。

一方で狐蝶寺はそれを意に介さずに一護の元へ駆け寄った。

 

 

「黒崎一護くん!私と戦ってよ!」

 

「は?」

 

 

突然話を振られたことで一護は思わず声を上げた。

 

 

「山吹ちゃんに一撃入れたんでしょ?だったら、その実力を体感してみたいと思ったんだよね。現世で剣道の授業もしてるって聞いたし」

 

「……?」

 

 

一護はその時、「山吹ちゃんって誰だ?」と頭に?マークが浮かんでいた。一護と山吹は懺罪宮(せんざいきゅう)で相対していたものの、あの時の一護はルキアたちの安否と白哉への警戒で頭がいっぱいだったため記憶に残るほどではなかったのだ。

 

 

「さっき療養中って言った子なんだけど、もしかして覚えてない?」

 

「どうなんだ?黒崎」

 

「って言われてもな……」

 

「えーっとね、ルキアちゃんが閉じ込められてた場所覚えてる?あの時、朽木白哉くん以外に君が攻撃した死神はいなかった?」

 

「……あっ!あいつか!」

 

「黒崎君、あいつって言うのは良くないよ。すいません」

 

「雷山くんの言う通り、やっぱり面白い子だよ。別に今すぐって訳でもないから考えて置いてよ♪」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

「砕蜂隊長……いや、砕蜂ちゃん。時間を取ってくれてありがとうね」

 

「いえ、椿咲隊長とあればいくらで時間など……って、頭をあげてください!」

 

 

一護たちが十四番隊詰所に来ていたその頃、

瀞霊廷の一角『二番隊隊舎』に椿咲の姿はあった。

椿咲は朽木ルキアの件で砕蜂からの協力に対する礼と不必要な心配をかけたことを詫びに来ていた。

 

 

「頭くらい下げさせてよ。これは私からのせめてものお詫びだから」

 

「椿咲隊長が謝ることなど何も……」

 

「砕蜂ちゃんに協力してもらったにもかかわらず藍染君を取り逃がしちゃった。謝る理由はこれだけで十分だよ」

 

「椿咲隊長……」

 

 

その時、砕蜂は押し黙ってしまった。椿咲にかける言葉が見つからなかったからである。

 

 

「……藍染惣右介ならば捕らえれば良いだけのことです」

 

「そうだね」

 

「それに、藍染惣右介を捕らえる一歩前までいった椿咲隊長らとは違い、我らはその暗躍に気付くことすらできなかった。これは恥ずべき失態です」

 

「そんなことは……」

「ですので!」

 

 

砕蜂の言う失態について否定しようとした椿咲だったが、砕蜂は椿咲がそうするのを分かっていたため言葉を遮った。

 

 

「また私に修行を付けてください。今度は夜一様と共にご指導してください」

 

「!」

 

 

砕蜂が夜一の名を口にしたことで、101年前に生まれた亀裂が修復されたのだと暗に知った。

その最中、外より声が聞こえてきて1人の女性が入ってきた。

 

 

「砕蜂、()るか?」

 

 

夜一は砕蜂を対面に座る椿咲を見て、一瞬だけ懐かしいと言わんばかりの顔をした。

 

 

「四楓院隊長、お久しぶりですね」

 

「椿咲隊長……成程、砕蜂が言うておった事はおぬしのことじゃったか」

 

「ふふっ、どうやら砕蜂ちゃんとの行き違いが解消されたみたいでよかったです」

 

「夜一様、いったいどのような用件で」

 

「初めは砕蜂を通じて椿咲隊長にも言伝をと思うていたが、間が良い」

 

 

砕蜂の問いに夜一はすぐに答えずに懐から一枚の紙を取り出した。

それを卓上に置き椿咲と砕蜂の前にスッと出した。

 

 

「喜助からじゃ」

 

「浦原喜助……」

 

 

嫌悪感の混じった声で砕蜂はその名前を口にした。101年前の事件で砕蜂は浦原を恨むほどではないが、それに近しい感情を持っていた。

 

”仮にも夜一様から信頼を得ているほどの実力があるお前が何故、夜一様を巻き込まなければならない程の下手を打ったのか”が彼女の言い分である。

 

 

「浦原隊長からはなんと?」

 

「喜助のやつ、こうなることを読んでおったようじゃ」

 

「……それは少し心外ですね。まるで私たちが失敗することを前提としていたようで」

 

「それに関しては後で喜助にも儂から言っておこう。それよりも藍染の持ち去った『崩玉』についてじゃが、まだ完全覚醒状態とは言えぬそうじゃ」

 

「つまりまだ奴は動かない、と?」

 

「そう言うことじゃ。しかし、喜助自身にも覚醒する時期は分からぬらしい」

 

「涅隊長にお任せしましょうか。尸魂界(ソウル・ソサエティ)にいない浦原隊長よりも涅隊長の方が幾分か詳しく調べられるでしょうし」

 

「分かりました。では、私は総隊長殿へご報告に行って参ります」

 

 

砕蜂は立ち上がると2人に一礼して去って行った。

残された椿咲と夜一の間には静寂が流れた。その静寂を破ったのは夜一の方だった。

 

 

「椿咲隊長、おぬしには砕蜂のことで随分と苦労をかけたのう」

 

 

夜一は砕蜂が席を外したのを見計らい改めて椿咲に対して謝意を伝えていた。

それに椿咲は笑って答えていた。

 

 

「苦労なんてしていませんよ。少し意地を張っていた女の子の話を聞いてあげただけです」

 

「今回の騒動の中、砕蜂と2人になれるタイミングがあっての、そこで胸の内を明かされた。101年前に何故何も告げずにいなくなったのか、私も連れて行ってもらえなかったのかとな」

 

「……そっか」

 

 

椿咲はどこか安心したのように、息を漏らすようにして声を出していた。その様子はさながら、肩の荷が下りたようだった。

 

 

「砕蜂ちゃん、ちゃんと言えたんだね。四楓院隊長に問いたかったこと」

 

「やはり椿咲隊長が……」

 

「あの当時、私も言われましたからね。そして説きました。隊長としての心構えをね」

 

「成程、どうりで強くなっておるわけじゃな。瞬閧(しゅんこう)まで身に着けておった」

 

「それは彼女の修業の成果ですよ」

 

 

椿咲はそれまでの穏やかな表情から少し厳しい表情に変えて語った。

 

 

「四楓院隊長、分かっているとは思いますが、戻って来たからといって101年の時が全部元に戻るわけではありません。砕蜂ちゃんにしてあげられなかったこと、彼女が頑張ってきたことについては四楓院隊長もしっかりと受け止めてあげてくださいね」

 

「無論、分かっておる。一度手を合わせて分かった。砕蜂はもう立派な儂の後代の【二番隊隊長】そして、【隠密機動総司令官】じゃからな」

 

「ふふっ」

「……では、私はこれで」

 

 

椿咲は立ち上がり出口の方へを歩き出した。

夜一は「もう戻るのか」と声をかけたが、椿咲はこの後雷山と会う約束をしているためそろそろ行かなければならないと答えた。

 

 

「そう言うことならば、仕方あるまいか。椿咲隊長よ。使って悪いが、雷山悟にも礼を伝えてもらえるか」

 

「ええ、それではまた」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「すまない、待たせてしまったか?」

 

 

数刻後のこと、雷山の姿は瀞霊廷の東側にあるとある甘味処の前にあった。

そこは200年前、とある案件について椿咲から報告を受けるために訪れた場所。

 

 

「いいえ、私も今来たばかりなので構いませんよ」

 

 

そう答えるは椿咲本人。椿咲はかねてから言われていた藍染が言ったヒントについて雷山に伝えようと考えていた。そこで休養のついでに200年前に雷山と共に立ち寄った甘味処を集合場所に指定していた。

 

 

         ・

 

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「よし、では本題に入るか」

 

 

店内へ異動した雷山と椿咲は200年前と同じくあんみつを頼んでいた。

そして雷山は自身と椿咲に注文したあんみつが置かれるのを待って話を始めた。

 

 

「双極の丘で藍染は”ヒントは椿咲に話してある”と言った。その”ヒント”とは何なんだ?」

 

「はい、藍染君は私に対してこう言っていました。”『大霊書回廊(だいれいしょかいろう)』にヒントがありますよ”と」

 

大霊書回廊(だいれいしょかいろう)?椿咲が調査で藍染を見たのも確かそこだったよな」

 

「はい。推測ですが、藍染君は『崩玉(ほうぎょく)』の情報以外に何かを調べていたんだと思います。それこそ『大霊書回廊(だいれいしょかいろう)』にしか収められていない情報を」

 

「……成程。つまりそれが何か分からないことには藍染が『崩玉(ほうぎょく)』を使ってやろうとしていることも分からないってことか」

 

「そう言うことになります。それともう1つ」

 

「もう1つ?」

 

「先ほど、四楓院隊長と会いまして……あっ、雷山隊長に礼をと言ってました」

 

「礼を言われるほどのことはしてないけどな。で、何と言っていたんだ?」

 

「『崩玉』についてです。浦原隊長が今回のことを読んでいたそうで、時期は不明ながらも完全覚醒状態になるにはまだ時間がかかると」

 

「成程。つまり『崩玉』が十分に扱えなければ藍染も仕掛けては来られないという事か」

 

「はい、これについては(くろつち)隊長にお任せしてはと思います」

 

「分かった。元柳斎に進言しておく」

 

「私からは以上です。すいません、大した情報ではなくて」

 

「気にするな。今はひとまずこれを食べるとしよう」

 

 

雷山が器を持ちあんみつを食べ始めた時、椿咲はどこか暗い表情で自身の前に置かれるあんみつを見ていた。

そして絞り出すような声で雷山に問いと投げた。

 

 

「……雷山隊長」

 

「ん?」

 

「私、藍染君への接し方を間違えてしまったんでしょうか」

 

「……は?」

 

 

雷山は椿咲が放った言葉に思わず間の抜けた返事を返していた。

一方で椿咲は目を落とし、目の前に置かれたあんみつを見つめたまま雷山に問いを投げていた。自身の上官であり、師匠でもある雷山ならば、どのように藍染に向き合ったのだろうかと、

 

 

「どういうつもりでその問いを俺に投げたのかは聞かないが、そんなことを言うとは椿咲らしくもない」

 

「そうですか?私としては由々しき事態だと捉えているんですけど」

 

「そうだな……」

 

 

雷山はそう前置きすると、手に持つあんみつ静かに置くと同時に椿咲を見つめた。その眼は普段より一層真剣そのものに見えた。

 

 

「椿咲、これはお前より長く隊長をやっている先人の一意見として聞いてもらえばいいが、どう育てどう接したとしても結局のところ本人の素質、考え方に依存すると思う。あれこれと考えたところで無駄な事だ」

 

「ははは……そう、ですよね」

 

 

椿咲はその時作ったような笑みを浮かべていた。雷山は椿咲から先の問いを投げられたとき、悟られないようにしているが本心としては自責の念を抱えているのだろうと推察していたが、作り笑顔を見て確信に変わった。

 

 

「何を気に病む必要がある。逆に考えてみろ。藍染は他に2名の隊長を引き連れていたとはいえ、【宮廷遊撃部隊】と【護廷十三隊】相手にあそこまでやってのけたんだ。言い方を変えれば師匠がしっかり教育した賜物(たまもの)とも言える」

 

「…………」

 

「もし責任が取りたいと言うのなら、椿咲自身が藍染を止めるんだ。それも立派な責任の取り方だと俺は思うぞ」

 

「スゥ……はあぁ……」

 

 

椿咲は静かに目を閉じ深く深呼吸をした。まるで何か覚悟を決めるように、そして目をゆっくりと開けるときりっとした表情を見せた。

 

 

「分かりました。私が藍染君の目を覚まさせます」

 

「良い表情になったな。今回も俺の奢りにしてやる。しっかりと頼むぞ」

 

 

 

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