宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

40 / 44
第38話 再起の兆し

 

 

「やっほー♪山吹ちゃん怪我はどう?」

 

 

翌日のこと、

狐蝶寺の姿は総合救護詰所(そうごうきゅうごつめしょ)にあった。東仙との戦闘で負傷した山吹のお見舞いが目的でやって来たのだ。

幾つかある病室のうち、1つに入るとベッドの上で本を読んでいる山吹の姿があった。

 

 

「狐蝶寺隊長、わざわざありがとうございます。卯ノ花隊長によれば近いうちにも職務に戻れるそうです」

 

「もっとゆっくりしてても良いんだよ?私たちの中で一番大変な目に遭っちゃったんだから」

 

「そうも言ってられませんよ。それよりも藍染惣右介の件ですか?」

 

 

山吹は狐蝶寺が自身のお見舞いを第一の目的でやって来ているのは重々承知だった。しかしそれとは別に藍染惣右介の件で何か情報を共有するのも目的の1つなのだろうと察していた。

 

 

「やっぱ山吹ちゃんは勘が鋭いね。南美ちゃんからだけど、藍染くんが『大霊書回廊(だいれいしょかいろう)』にヒントがあるって言ってたんだって」

 

「……なるほど。つまりあたしが復帰したら最初の仕事はその痕跡探しという事ですね」

 

「雷山くんはまだ何も言ってなかったけどね」

 

「ならば雷山部隊長にお伝えしていただいてもよろしいですか?藍染惣右介の痕跡探しはあたしが行いますと」

 

「オッケー♪雷山くんに伝えておくよ」

 

「おや、狐蝶寺隊長。お見舞いですか?」

 

「うわぁ!?」

 

 

音もなく背後に立っていた卯ノ花に狐蝶寺は驚いた。一方の卯ノ花は驚く狐蝶寺を気にすることなくベッドの横まで歩いてきた。

 

 

「卯ノ花隊長、おはようございます。あたしの健診ですか?」

 

「はい、お身体は変わりないですか?」

 

「ええ、無理はしないですけど多少戦闘するくらいならば可能だと思います」

 

「皆さんそうおっしゃるので、一度診せてもらってもよろしいですか?それから判断いたしましょう」

 

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

 

「……そうですね」

 

 

卯ノ花は山吹に当てていた手を離して一呼吸置いた。

狐蝶寺と山吹は卯ノ花が間を置いたことで、少し緊張した面持ちをしていた。

 

 

「この調子なら、予定通り明日には職務復帰といたしましょうか」

 

「ありがとうございます」

 

「良かったね、山吹ちゃん!」

 

「ですが、無理は禁物ですよ。そこは肝に銘じてくださいね」

 

「勿論です。卯ノ花隊長」

 

「では、わたくしはこれで」

 

 

卯ノ花は一礼すると山吹の病室を後にした。それを見届けた狐蝶寺も十四番隊詰所に戻ろうと考えた。

 

 

「じゃあ、私も十四番隊詰所に戻るね。山吹ちゃんが明日にも退院できるって伝えないといけないし」

 

「そうですね。よろしくお願いします」

 

「また明日迎えに来るから待っててね。じゃあ、また明日ね♪」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】雷山悟。馳せ参じた」

 

「入れ」

 

 

瀞霊廷の一角『一番隊隊舎』

雷山の姿はそこにあった。元柳斎に今回あったことすべての正式な報告をするためにやって来たのだ。

 

 

「……さっそく此度の藍染惣右介の件、報告を聞かせてもらおうかの」

 

 

元柳斎は部屋に入ってきた雷山が定位置につくのを見計らいそう切り出した。

片目を開いて雷山を見据える元柳斎の声が静かに部屋に重く響いていた。

 

 

「勿論だ。だが、どこから話せばいい?」

 

「すべての発端、101年前の流魂街魂魄消失案件」

「あの時、おぬしはこう言った。”時が来たら話す”と、儂は今がその時じゃと思うとる」

 

「俺が言った事までよく覚えているものだな」

 

「嘘、偽りを話す必要はない。ありのままあったことを話せ」

 

「……あの日、前線であったことはすでに耳に入っていることだろう」

 

 

雷山が言っているのは101年前の時点で元柳斎に報告として挙がっている事柄。

 

浦原喜助が非人道的行為たる(ホロウ)化の実験をあろうことか同僚たる護廷十三隊隊長で行ったこと、

その際狐蝶寺と(ホロウ)化した当時の【九番隊隊長】六車拳西との交戦があったこと、

そして狐蝶寺、椿咲以外の隊長格が(ホロウ)化に至ったこと、

 

 

「あの報告、あったこと自体はおおむねその通りだ。ただ一点、違うのは(ホロウ)化の実験を行っていたのは藍染惣右介だという事だ」

 

「あえて問う。何故それを儂にも報告しなかった」

 

「質問を返すようで悪いんだが、101年前のあの当時、あったことをありのまま話したとして、果たしてお前はそれを信じたのか?」

 

「…………」

 

「藍染惣右介の評判の高さは俺も伝え聞いていた。そんな奴が(ホロウ)化の実験を主導し、その罪を浦原喜助になすりつけたと言ったとしていったい誰が信じるというんだ?」

 

「………」

 

「それが、101年前のことを元柳斎、お前にも言わなかった最大の理由だ」

 

「……成程、理にかなっておる」

 

「話を戻すが、椿咲から受け取った情報が2つある。1つ目は藍染が大霊書回廊(だいれいしょかいろう)で何かを調べていたという事だ。崩玉(ほうぎょく)に関すること以外の何かをな」

 

「つまりはそれを探し出さねばならぬと言う訳か」

 

「ああ、これに関しては昨日(さくじつ)春麗が山吹に話をしたみたいでな。本人の意思を確認してからだが、山吹を派遣するつもりでいる」

 

「ふむ……2つ目とは」

 

「現世の浦原喜助からだ。藍染の持ち去った『崩玉』はまだ使えるような状態ではなく、覚醒と言える状態になる時期は不明とのことだ。これの詳しい調査は涅マユリに任せではどうかと椿咲から進言を受けている」

 

「分かった。涅隊長には話を通しておこう」

 

「最後に聞くが、浦原喜助、握菱鉄裁、四楓院夜一。この3人の罪はどうするつもりだ?」

 

「無論、不問とする。平子真子らに関してもな」

 

「勝手に決めていいのか?」

 

「その事で、おぬしに提案がある」

 

 

元柳斎から”提案”という言葉が出た時、雷山は一瞬だけ”げっ……”という顔をしていた。それは元柳斎も気付いていたが、今はその事を指摘する時間も惜しいためあえてスルーしていた。

 

 

「此度の藍染惣右介離反の際、四十六室が暗殺されたのはおぬしも知っておろう。そこで次の四十六室が決まるまでの間に限り、【護廷十三隊総隊長】であるこの儂と【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】であるおぬしとで決定権を折半(せっぱん)したい」

 

 

元柳斎がそう言うには訳があった。藍染によって中央四十六室が暗殺されたのはもはや周知の事実であった。そこで尸魂界(ソウル・ソサエティ)は直ちに再編を行おうとしていたのだが、前四十六室が暗殺されたことに伴い、資格を有する貴族たちが(こぞ)って辞退しており、その人選に難航していた。

 

そこで元柳斎は次の四十六室が決まるまでの間、瀞霊廷にある2つの実動部隊のトップ、すなわち自身と雷山で四十六室の代わりを担い、さらにその決定権を分けようと考えたのだ。

 

 

「つまりはこれから決めることの責任を半分持てって話か」

 

「左様。話を受けてもらおうとは本音じゃが、無理強いはせん。おぬしを迂闊に敵に回すのは御免じゃからの」

 

「……分かった。その話は受けよう」

 

「構わぬ。そして近々行う隊首会にて【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”について公にすることを考えておる」

 

 

それを聞いた雷山は驚いた顔を見せていた。発足して六百余年、今まで隠していた【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”をどういう風の吹き回しで知らせるに至ったのか考えていた。

 

 

「何故そう考えるに至ったかを聞いてもいいか?」

 

「これより先、藍染惣右介との決戦が待っておるのが明白であること。そして認めたくはないが、此度の案件は護廷十三隊のみでは対処しきれなかったことが主に挙げられる」

 

「つまりはこれから互いに協力をしなければならない。その為には【宮廷遊撃部隊】の存在を公にしなければならない、と言うことか」

 

「左様。じゃが、おぬしらが護廷十三隊と相対したことも少なからず影響している事は理解してもらおう」

 

「……まあ、確かにあれだけ暴れてしまっては隠すことなど出来ないか」

「元柳斎、ならばこちらからも提案を1ついいか?」

 

「言うてみよ」

 

「空いてしまった【三番隊隊長】と【九番隊隊長】の席、そこに十四番隊(うち)からの『隊長代理』を就かせるのはどうだ?」

 

 

雷山からの提案に声にこそ出さなかったが、元柳斎は少し驚いていた。

同時に雷山はどういった考えをもって『隊長代理』を提案しているのかと考えた。

一方の雷山は元柳斎が自身に向ける鋭い視線からそんなことを考えているのだろうなと察した。

 

 

「別に(よこしま)な考えは無いぞ。ただ、【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”を公にせざるを得なくなってしまったことへの詫びだ。いずれにせよ、空いた2つの隊長の席を埋めるつもりだったんだろ?」

 

「……誰を就かせるつもりじゃ?」

 

「『三番隊隊長代理』に白、『九番隊隊長代理』に春麗。そして、五番隊隊長代理は俺から椿咲南美に交代という事でどうだ?」

 

「銀華零、狐蝶寺は分かるとして何故おぬしまで変わる」

 

「元柳斎も分かってるだろ?【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が発足してから『隊長代理』は過去2回しか行使されず、いずれも1人に対してだった」

「その中で一気に3人も同時に入ることになるのは想定外の事態と言わざるを得ない。だから『隊長代理』に最古参2人を入れる代わりに俺が戻ろうという考えたんだ」

 

「ならぬ」

 

「その理由(ワケ)は?」

 

「おぬしは分かって『隊長代理』の話を儂にしたのではないか?現状、最重要課題は護廷十三隊の戦備強化であることを」

「確かに椿咲南美の実力は儂も高く買っておる。じゃが、おぬしと比較すれば天と地ほどの差があることは明白。これが理由(ワケ)になってないとは言わせぬぞ」

 

「はぁ……分かった。『隊長代理』は銀華零、雷山、狐蝶寺で受けよう。だったらと言うか、1つ頼みごとを受けてもらえないか?」

 

「頼み事じゃと?」

 

「元々後日、椿咲に頼もうと思っていたんだが、五番隊の隊士を集めて正式に挨拶をと考えていたんだ。しかし、藍染の影響もあり混乱が予想される。そこで元柳斎に同行を願いたい」

 

 

雷山は元柳斎に五番隊隊士たちを集めて行う、護廷十三隊の現状と五番隊隊長を就任する説明を頼もうと考えていた。

 

藍染惣右介を含めた3名の隊長の離反は彼らが隊長を務めていた三番隊、五番隊、九番隊にダメージを与えていた。中でも副隊長も不在の【五番隊】はとりわけ深くダメージを受けており、雷山は自身が隊長に据えられるだけではこの混乱は治まらないと考えていた。

 

 

「成程、儂がじかに赴けばおぬしの信用性も増すと言う訳か」

 

「ああ、ぽっと出の死神が隊長に就任したと語ったとして誰が信じるんだって話だ」

 

「残念じゃが、その申し出は断る」

 

「……分かった。無理にとは言わない。俺で何とかしよう」

 

「待て、誰も同行させぬとは言うてはおらぬ。儂の代わりに長次郎を同行させよう」

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「……よし、だいたい集まったな」

 

 

翌日のこと、雷山の姿は五番隊隊舎にあった。その目的は勿論、現状『五番隊隊長代理』として自身が受け持つ五番隊の混乱を鎮めるためである。

隊士たちより一段高いところに雷山は立っていたが、その隣には【一番隊副隊長】雀部(ささきべ)長次郎(ちょうじろう)忠息(ただおき)の姿もあった。

 

 

「山本元柳斎重國殿より伝達である。【元五番隊隊長】藍染惣右介の離反に伴い、この場に立つ雷山悟殿を改めて正式に新五番隊隊長として任命する運びとなった」

 

 

ざわっ……

 

雀部がそう言うと同時に集う隊士たちの間にざわつきが見られた。

いくら元柳斎の伝達でも雀部の言葉でも、見ず知らずの者が隊長となると言われればよく思わない人物が多いことは明らかであった。事実として、雷山は隊士たちが自身に対して懐疑的な目を向けていることに気が付いていた。

 

 

「尚、雷山新五番隊隊長の信用については、山本元柳斎重國殿並びにこの私、雀部長次郎忠息が保障する。諸君らは変わらず職務励むように。雷山隊長、後はお願いします」

 

 

そう言うと雀部は雷山と入れ替わる形で後ろへ下がった。雷山は1度、集う隊士たちの顔を見回した。そして、わざとらしく咳き込むと言葉を発した。

 

 

「ゴホン……雀部副隊長から紹介に預かったが改めて、俺の名は雷山悟という。先日、山本総隊長より沙汰があったと思うが、藍染惣右介の死去に伴って緊急任命で隊長に就任した者……だったんだが、少し状況が変わってしまってな。今日から正式に五番隊隊長を拝命することとなった」

 

 

雷山がそう語る最中、眼下の隊士たちは藍染が抜けた今、この先の五番隊に対する不安を語る者が多くいた。

 

 

「現在、藍染が抜けた穴があり、雛森副隊長も療養中で人手も足りない状況だ。皆には苦労をかけると思うが、この危機を脱するためにも力を貸してほしい。そしてそれでもなお、俺のことを信用に足る者と思えないならば、大人しく身を引こう。最後に言っておくが、この先【五番隊】だからとお前らが仕事をしにくくなる状況には絶対しないことは約束しよう」

 

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

 

「こんな忙しい時に無理を言ってすまなかった。助かったぞ」

 

 

帰り(みち)の途中、雷山は雀部に感謝の言葉を述べていた。元柳斎の補佐という立場にあり、忙しいであろう雀部にわざわざ時間を作ってもらったからである。

 

 

「いいえ、気にすることではありませぬ。元柳斎殿の命とあらば私はそれに従うのみ」

 

「忠臣ここに極まれりだな。話は変わるが、双極の丘で黒崎一護に一撃もらってたが、もう大丈夫なのか?」

 

「ははっ……、お恥ずかしいところを見られておりましたか」

 

「正直驚いたぞ。雀部ほどの死神が更木剣八を倒すほどとは言え、黒崎一護に一撃もらうとは夢にも思っていなかった。捉えられない程だったのか?」

 

「そうですね……大前田副隊長を攻撃したところまでは視認できていたのですが、私が突きを繰り出したあの瞬間、まるで瞬間移動したかのように視界から消えておりました」

 

「そうなのか。元柳斎に報告としてあげてはないが、”十四番隊(うち)”の山吹も懺罪宮(せんざいきゅう)で一撃もらっているんだ」

 

「なんと、山吹隊長がですか」

 

 

山吹の実力を知る雀部は数日前に起きた懺罪宮(せんざいきゅう)での出来事について雷山と等しく驚いている様子だった。それだけ山吹と雀部に一撃だけでも入れた黒崎一護の実力は前代未聞と言わざるを得ないものだったのだ。

 

 

「ああ、結果論だが変に黒崎一護と敵対関係にならなくて良かったと思ってる。さて……」

 

 

雷山と雀部は話すうちに岐路に辿り着いていた。互いにこの後の行き先が違うためここで別れようとしていた。

 

 

「ひとまず五番隊舎内の調査は俺が隊長業務と並行して行う。何かあればまた連絡しよう」

 

「よろしくお願いします。では、私はこれで」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。