宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第40話 蝶形花vs死神代行

 

 

「じゃあ、今日はよろしくね。黒崎一護くん」

 

「ああ」

 

 

翌日、朝日が完全に昇りきった時刻―――

十四番隊詰所にある演習場に2つの影があった。

 

1つは【十四番隊・第四将”副将”】狐蝶寺春麗、そしてもう1つ【死神代行】黒崎一護。

 

2人は互いに見つめ合ったまま、その(とき)を待っていた。

 

 

「いやぁ、椿咲隊長。招いてもらっちゃって悪いね」

 

 

京楽は持参した酒を片手にその様子を見守りつつ椿咲と語らっていた。その隣には京楽のお守り役として伊勢七緒がいた。

 

 

「こちらこそ、急な話でしたのに来てくださってありがとうございます」

 

「気にしないでおくれよ。狐蝶寺隊長が戦っている姿はあまり拝めるものじゃない。それに、七緒ちゃんにもいい経験になると思ったからね」

 

「私は隊長が飲み過ぎないように監視に来ただけです」

 

「もう、そんなこと言っちゃって~」

 

 

そんな京楽たちの他に観戦に訪れていたのは、

【二番隊】砕蜂、四楓院夜一【四番隊】虎徹勇音【七番隊】射場鉄左衛門【十番隊】松本乱菊【十三番隊】浮竹十四郎、小椿仙太郎、虎徹清音の8名。

 

卯ノ花は万が一現地でけが人が出た場合を考慮したが、救護部門の責任者が『総合救護詰所』離れるわけにはいかないとし、経験と見識を広げる意味を含めて代わりに勇音を行かせていた。

その他、狛村や日番谷などはそれぞれ私用で断っていた。

 

 

「では、そろそろ始めとするが、最後にルールの確認だ」

 

「まずは狐蝶寺春麗」

 

 

雷山は狐蝶寺の方へ向きながら、彼女に課されるルールを告知していた。

 

 

「基本的に鬼道、及び斬魄刀の始解と卍解の使用は禁止。ただし、斬術のみ使用は可能とする。その他、白打と歩法は使用しても構わない」

 

「オッケー♪」

 

「次に黒崎一護だが、こっちはまあ、何でもありだ。始解だろうが卍解だろうが使用しても構わない」

 

「ああ、分かってる」

 

「最後に勝敗についてだが、特に取り決めはしない。ただ、狐蝶寺については先のルールから逸脱した行為をした場合は反意(はんい)として負けとする」

「それ以外の場合は、勝敗が着いたと判断したら俺が手ずから止めに入る。危険と判断した場合もな」

 

「ふふっ♪黒崎一護くん、その実力じっくりと見せてね♪」

 

絶対(ぜってぇ)後悔させてやる」

 

「では、お互いに全力を尽くしてくれることを期待して、いざ尋常に……」

 

 

「始め!!」

 

 

ガキンッ!!――――――

 

 

雷山が手を振り下ろすと同時に狐蝶寺は瞬歩を使って一気に距離を詰めた。

一護は早いと感じながらも現世で浦原との修行を経て阿散井、更木、白哉と数多の隊長格と戦った経験からその刀を受け止めていた。

 

 

「……このくらいは受け止められるわけね」

 

「舐めてんじゃ……ねぇぞ!」

 

 

実力差からか力負けしていた一護だが、力を振り絞り斬魄刀を弾いた。

 

そしてそのまま狐蝶寺に斬りかかったが、狐蝶寺は身体を反らして左手を軸にしてバク転をする要領で後ろへ飛び退きそれを躱していた。

 

 

「今度はこっちの番だ」

月牙天衝(げつがてんしょう)!!」

 

 

一護は大刀を構えて一気に振り下ろした。

すると、刃先から高密度の霊圧が放出され斬撃のように狐蝶寺に向かっていった。

 

狐蝶寺は着地すると同時に迎撃態勢に入っていた。それも束の間、狐蝶寺の斬魄刀と一護の放った『月牙天衝』と呼ばれる斬撃がぶつかり合った。

 

 

「……ッ」

 

 

【十四番隊・第四将”副将”】の地位を持つ狐蝶寺をして、その場で押し返せる威力ではなく数メートル後退させるに至った。

 

 

「いまのは、斬撃?」

 

「ああ、斬撃の瞬間に俺の霊圧を喰って刃先から高密度の霊圧を放出する。『斬月』の能力であり、俺が持つ唯一の技だ」

 

「なるほどね」

 

 

結果として無傷だったとはいえ、自身を数メートル後退させるほどの威力がある斬撃を放ったことに狐蝶寺は素直に拍手をして称賛していた。

 

 

「いい威力だよ。私が相手じゃなきゃ今ので決着がついてたね。けど……」

 

 

それは一瞬のことだった―――

 

狐蝶寺が斬魄刀を横一閃に振り抜くと同時に一護の横を風の刃が通り抜けた。

それは、さながら鎌鼬(かまいたち)のように一護の頬に切り傷を与え、血が垂れていた。

 

 

「なっ……!?」

 

「斬撃を飛ばすのはなにも君だけの専売特許じゃないんだよ?」

「黒 崎 一 護くん」

 

 

そう言う狐蝶寺は普段の天真爛漫さとも言える表情から一変していた。

 

それはまるで、相手を陥れた時に人が見せる邪悪な笑みそのものだった。殺気や牽制のための圧すら出していないのにも関わらず、それを見た一護は思わずゾッとしていた。

 

 

「なんだよ。その表情は……」

 

「……ああ、ごめんね。つい楽しくなっちゃって♪」

 

 

その瞬間、さっきまでが嘘のように十四番隊詰所で見た天真爛漫とした表情に戻った。

唖然とする一護を他所に狐蝶寺は再び斬魄刀を構え、攻撃を仕掛ける姿勢を見せた。

 

 

「さあ!構えて、黒崎一護くん!今度は最初よりも少し速度を上げるよ!」

 

「っ!!」

 

 

狐蝶寺がそう宣言すると、その宣言通りにさっきよりも早い動きで一護の懐まで迫っていた。

一護はかろうじて目で捉えた残像の影から狐蝶寺の刀を受け止めた。

 

 

ガキンッ!! ガンッ!! ガキンッ―――

 

 

月牙天衝(げつがてんしょう)!!」

 

「ふふっ♪」

 

「!」

 

 

狐蝶寺と一護が互いに剣を打ち合わせる中、一護は再び『月牙天衝』を放った。

しかし、狐蝶寺は一護が月牙を放つ直前に少し、ほんの少しだけ斬魄刀を動かして軌道をずらして躱す動きすら見せなかった。

 

それは当然、一護を驚かせるには十分だった。

 

 

「黒崎一護くん、提案」

 

「なんだよ」

 

「そろそろ卍解しなよ。始解状態の君の動きはだいたい分かったからさ♪」

 

 

狐蝶寺は斬魄刀の切先を一護に向けて挑発するように叫んだ。

 

 

「そのままじゃ、私どころか藍染惣右介くんも倒せやしないよ!全力で来なよ!」

 

「……上等だ」

 

 

見え見えな挑発だったが、一護はそれに乗ることにした。

一護は右手に持つ『斬月』の切先を狐蝶寺に向けるようにして前に突き出し、左手で右手を支えるようにして構え、

 

そして、

 

叫んだ。

 

 

「卍 解!!」

 

 

卍解と唱えた後、一護の手には身の丈ほどの大刀ではなく、通常サイズの漆黒の斬魄刀が握られていた。

また霊圧も隊長と何ら遜色ないほどに上昇していた。

 

 

「『天鎖斬月(てんさざんげつ)』」

 

 

「へぇ、それが君の……」

「!!」

 

 

それは一瞬だった。

 

狐蝶寺が途中まで言葉を紡いだ時、一護の姿が狐蝶寺がいる場所へと移動していた。

その切先がちょうど狐蝶寺の首元に当たる位置に構えた状態で、

 

 

「「「 !! 」」」

 

「あの狐蝶寺隊長が……」

 

『一歩も動けなかった、か……』

 

 

その一連の流れは、彼女の実力を知る観戦者たちを驚かせていた。

 

確かに狐蝶寺に油断が少しあった。しかし、それでも百戦錬磨の元護廷十三隊隊長。互いの実力で言えばそうそう埋められるほど近くは当然なかった。

だが、彼女は動けなかったのだ。

 

 

「夜一様……」

 

「驚いたじゃろ。一護の実力に」

 

 

双極の丘で狐蝶寺と一戦交えていた砕蜂は彼女の実力について多少の心得があった。

その上で狐蝶寺が動けなかったことについては驚愕と言わざるを得ず、あの黒崎一護と言う元旅禍(りょか)は何者なのかと暗に聞いていた。

 

 

『しかし、あの狐蝶寺春麗が動けぬ程とは……』

 

 

「……ふっ、驚いちゃった。まさかここまで早いとはね」

 

「言ったろ。後悔するなよって」

 

「後悔はしてないよ。まだ負けたわけじゃないからね」

 

 

狐蝶寺は突きつけられる斬魄刀を手で払いのけると同時に、その腕を掴み背負い投げの要領で一護を投げ飛ばした。

 

突然のことだったが一護はうまく受け身を取って地面へ叩きつけられることは回避していた。

 

 

「おお、うまいうまい」

 

「言ってられるのも今の内だぞ」

 

 

一護の卍解はその力の全てを一本の斬魄刀の姿に押し固めることで、卍解状態での超速戦闘を可能にしたものと言われていた。

 

その説が正しいと言わんばかりに一護は狐蝶寺の周りをものすごい勢いで駆け回っており、その残像がゆうに20体は超えていた。

 

 

「……早いね」

『さすがに私でも追いきれないや』

 

「けれど……」

 

 

ガキンッ―――!!

 

 

「これを受け切れない私じゃないよ」

 

「ああ」

 

「!!」

 

「言ったろ。斬撃の瞬間に俺の霊圧を喰って刃先から高密度の霊圧を放出するってな」

 

 

狐蝶寺は静かに目を閉じ、視界から入る一護の残像たちに惑わされるのを防ぎつつ僅かな風向きの変化を感じ取って斬撃を受け切っていた。

 

しかし、一護は少し前のやり取りからそれを読んでいた。

 

一護は狐蝶寺が斬撃を受ける瞬間に『月牙天衝』を使っていたのだ。

それに気が付いた狐蝶寺だったが、すでに斬魄刀の軌道を変えることも躱す余裕もなくなっていた。

 

 

「しまっ―――」

 

月牙天衝(げつがてんしょう)!!」

 

 

「うぐっ……くっ!!」

 

 

至近距離で始解とは違う黒い月牙を放たれた狐蝶寺だったが、なんとか受け止めていた。

 

 

「ま、まだまだ……」

「ッ!!」

 

 

その時、狐蝶寺は目の端で捉えた。

月牙天衝を放った瞬間、一護が自身の背後に回っていく残像を、

 

 

「月牙……」

 

「天 衝 ! !」

 

 

ドゴォォォォォォォォォ!!!!

 

 

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

 

前を後ろを黒い『月牙天衝』に挟まれた狐蝶寺は叫び声を上げながら轟音の中に消えて行った。

 

予想だにしていなかった光景に、雷山を除く観戦者たちは絶句していた。

 

 

「こ、狐蝶寺隊長が……」

 

「春麗さん!!」

 

 

辺りにまだ煙が漂うなか、山吹と椿咲が飛び込もうとしていた。2人とも狐蝶寺の安否を確認するためだった。

 

 

「山吹!椿咲!」

 

「……ッ」

 

「2人とも止まれ。そして狼狽えんな」

 

「しかし、雷山部隊長……」

 

 

「そうだよ」

 

 

狐蝶寺の声が聞こえたことで山吹はハッとして漂う煙に目を凝らした。

 

 

「はぁ…はぁ……まだ死んで、ないよ!!」

 

 

煙が晴れると中から狐蝶寺の姿が現れた。死覇装は所々破れており、隊長羽織も埃を被ってはいたが、先ほどと変わらずの姿をしていた。

 

・・・いや、先ほどと一点だけ違うところがあった。

それは彼女の持つ斬魄刀が日本刀の形から彼女の身の丈はある巨大な扇子(せんす)の形へと変化を遂げていたのだ。

 

彼女は背後からの『月牙天衝』を受ける直前、咄嗟に始解をしていた。

その事で大ダメージだけは避けていたのだ。

 

 

「…………」

 

 

雷山は2つ目の月牙が狐蝶寺にぶつかる直前に彼女の霊圧が上がるのを感じていた。そのことから、狐蝶寺は月牙を防ぐために始解したのだろうと推察していたが、同時にここで彼女の負けが確定してしまったことにただ1人気が付いていたのだ。

 

 

「狐蝶寺春麗の始解の使用をルールの逸脱と判断し、今回の模擬戦の勝者を黒崎一護として終了する」

 

「待ってよ。私はまだ、出来―――

「春麗、落ち着け」

 

 

狐蝶寺の言葉を遮って雷山が(いさ)めようとしていた。

 

雷山は感じ取っていたのだ。狐蝶寺の眼には未だ闘志が宿っており、ダメージを受けたことでテンションが上がり理性というブレーキが緩みつつあることに、

 

 

「俺は初めに言ったろ。始解も卍解も使用禁止であると」

「そのルールが破られた今、模擬戦は終わりだ」

 

「こんなに楽しくなってきたのに、止められるわけがないでしょ!」

 

 

そう言いながら狐蝶寺は身の丈ほどもある扇子(せんす)を大きく振るっていた。

 

辺りに粉塵が立ち、徐々に威力を上げる暴風とも呼ぶべき風の一撃が一護に向けて放たれようとしていた。

 

 

「”鎌鼬(かまいたち)烈風(れっぷう)”!!」

 

「はぁ……相変わらず聞き訳が悪い」

 

 

強大な暴風の一撃が放たれると同時に雷山が狐蝶寺と一護の間に割って入った。

 

そのまま雷山は右手を前に突き出すとまるで握りつぶすようにして迫っていた暴風を掻き消した。

余波で演習場の中に微風(そよかぜ)が流れたものの大きな人的被害は出なかった。

 

 

「終わりだつったろ。春麗」

 

「はぁ…はぁ…うっ」

 

 

肩で息をしながら静かに雷山を見ていた狐蝶寺だったが、顔をしかめると同時にバランスを崩して、前のめりに倒れそうになっていた。

それを見た雷山は咄嗟に抱きかかえるようにして支えた。

 

 

「ほら見ろ。やっぱり、だいぶ無理してるじゃねぇか」

 

「はは……もう少し行けると思ったんだけど」

 

「さっきの『烈風』も大した威力は出せてなかったぞ。そんな調子で始解なんぞしても、かなり甘く見積もって相打ちにしかならんぞ」

 

「そう、だね……」

 

「白、春麗の手当てを頼む」

 

「ええ」

 

 

銀華零は観戦席から狐蝶寺の元へ駆け寄ると雷山から狐蝶寺を預かった。

狐蝶寺は支えてもらわないと立っていられない程消耗していた。

 

 

「無茶ばかりしてはいけませんよ。しばらくゆっくり休んでください。春麗ちゃん」

 

「ありがとう、白ちゃん」

 

 

「悪いかったな。春麗のやつが最後に暴挙に出てしまって」

 

 

銀華零に狐蝶寺を任せた後、雷山は一護に声をかけていた。

 

結果的には未然防げたとは言え、一護に対して危険が及ぶ場面を作ってしまったことを詫びるためだった。

 

 

「結果的には無事だったわけだし、気にしちゃいねぇよ」

 

「……そうか。どうだった?十四番隊(うち)の狐蝶寺春麗は」

 

「あの人、めちゃくちゃ強ぇな。向こうが始解をしていたら間違いなく勝てなかった」

 

 

一護は戦い負けたかのように神妙な面持ちで語っていた。

狐蝶寺は始解すらしていない状態で自身の卍解の速度にも対応していた。つまり卍解どころか始解だけでも使っていたら、自身は負けていたことが明白だったからである。

 

 

「だろうな。分かってると思うが、あれでもまだまだ春麗は本気じゃない」

 

 

雷山は一護に事実を告げていた。

仮にも勝負に勝っている者に慰めは侮辱であったことと、一護の場合は慰めよりも焚きつける方が今後実力を伸ばしていくことにつながると、

 

 

「単純な戦闘能力における藍染惣右介の実力は春麗ほどはない。が、総合力で言えばその春麗ですら楽に勝つことは出来ない実力を持ってる」

 

「ああ、分かってる」

 

「お前が今回の模擬戦で何を学んだかはあえて聞きはしないが、出来る限り力は貸す。またいつでも声をかけてくれ」

 

 

「お前たち3人も同様だ。修行の相手くらいなら付き合ってやるぞ」

 

 

雷山は観戦席に座る他の3人にも呼び掛けた。

 

【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”はこう考えていた。志波岩鷲も含めたたった5人で護廷十三隊相手にここまで引っ掻き回せた実力から鑑みて、修行を付けて実力を伸ばせばいい戦力となるのではないかと、

 

 

「……とまあ、堅苦しいのはこれでしまいにしよう。ここからは京楽の次男坊も楽しみにしていたであろう催しに移ろうか」

 

 

雷山はそう言いながら一度部屋の外に出て行った。

数秒後、戻ってきた雷山の手には酒が入る大きな徳利(とくり)があった。

 

 

「黒崎一護、石田雨竜、茶渡泰虎、井上織姫。お前たちの歓迎会をする!」

 

 

 

 

「さあ、宴会をするぞ!!」

 

 

 

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