「……あれは」
狐蝶寺と一護の模擬戦と宴会が執り行われた翌日、
太陽が真上に差し掛かりこれから夕方へと移ろい行くそんな時、
瀞霊廷の一角を歩いていた椿咲は一護と織姫がせわしなく走っているのを見かけた。
「黒崎一護君、井上織姫ちゃん、そんなに急いでどうしたの?」
「椿咲さん!ルキアを見てないか?」
「ルキアちゃん?私は見かけてないかな」
「そうか、悪い!」
「黒崎君!すいません、ありがとうございます」
「ああ、ちょっと待って2人共!」
お礼を言いながら片手を上げて去って行こうとする一護を椿咲は呼び止めた。
反射的に一護は「なんすか?」と声を出して振り返っていた。
「良ければ私も手伝うよ?」
「いいんですか?その、忙しかったりは……」
椿咲は織姫の言葉を遮るように手を出して、首を横に振っていた。
その様子から自身の都合に関しては一切気にしなくても良いと答えているようだった。
「昨日春麗さんがわがままを通して大暴れしたでしょ?」
「あー……」
一護と織姫は狐蝶寺が模擬戦をやると言い出した時の情景を思い出していた。
曰く、あの我儘を通す条件が【宮廷遊撃部隊】の書類整理を含めた雑務を1人で請け負うことだったのだ。
今頃は自主的に監視役をかって出た山吹と共に十四番隊詰所にいるだろうと椿咲は語った。
「だからね、正直時間を持て余してたんだよ」
「ありがとうございます!椿咲さんが居れば心強いです!」
「褒めても何も出ないけれどね。それで、心当たりはあるの?」
ルキアの行く当てについて、一護は2つの場所を口にした。
それを聞いた椿咲は3人で一緒に場所に行ってもしょうがないと、二手に分かれることを提案した。
「じゃあ、私はこっちの方に行ってみるよ」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「……恋次、何故ここにいる」
「何故って俺は副隊長ですよ?」
四番隊・総合救護詰所に白哉の姿があった。
瀕死の重傷を負った白哉は自身の屋敷ではなく救護部門である四番隊で療養していたのだ。
「……”何故生きている”と思っているのだろう」
「まさか」
白哉は自身がしたことを考えれば、阿散井が自身に対して何故生きながらえていると負の感情を抱いていてもおかしくはないと考えていた。
しかし、阿散井は一切の間のおかずにそれを否定していた。
「あんたが死んだら、俺は誰を目指して強くなればいいんすか」
「…………」
「隊長、俺は――」
「やっ!朽木白哉君、怪我の具合はどうかな?」
阿散井が何かを口にしようとしたとき、意図せず椿咲がそれを阻んでしまった。
思わぬ来客だったが、白哉は特段驚いた様子も見せずにただ目を向けた。
「……椿咲南美か」
「……あ、ごめんね。話を遮っちゃったみたいだね」
「椿咲……さん、何故こちらに」
「白哉君のお見舞い。……って言いたいところなんだけど、ちょっと人探しの手伝いをね」
「人探しですか?」
「うん、ルキアちゃんがいないみたいなの」
「はっ!?」
椅子に座っていた阿散井だったが、椿咲の言葉を聞いて驚きのあまり立ち上がっていた。
阿散井の慌てたような様子からルキアはここへは来ていないのだろうと椿咲は推察していた。
「ルキアがいないってどういう……」
「そのままの意味だよ。黒崎一護君と井上織姫ちゃんも探しているけどね」
「…………」
「黒崎一護君が、”もし恋次たちのところにいなけりゃ、あそこっきゃねぇ”って言ってたから。他に当てがあるんだと思うし、そんな心配することでもないと思うよ」
あっけらかんと言う椿咲に阿散井は困惑していた。
一方で白哉は話を聞いたうえで、一護が探しているのなら怪我を負う自身が無理を押してまで探すほどではないと冷静さを見せていた。
「椿咲南美。
「勿論。あの2人だけに任せるのも良くないしね」
「……そうか。ならば、
椿咲は何も言わずに部屋の出口に向かって歩き出した。一護の言っていたもう1つのあてに場所に向かうために、
部屋を出る直前、椿咲は振り返り白哉を見据えた。
その顔には自身の後輩にあたる隊長に向けた
「白哉君……いえ、朽木隊長。貴方の貴族としての誇りが分かると軽々しくは言いませんけど、次は取捨選択を間違えないでくださいね。かつて朽木
「案ずるな、肝に銘じてある」
「ふふっ」
椿咲は小さく笑うといつものどこか緩い表情へと戻っていた。
「それじゃあ、騒がしくしちゃってごめんね。恋次君に白哉君」
椿咲は手を振ると部屋を後にして行った。
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「久しぶりだね。空鶴ちゃん」
「ん?南美じゃねぇか!久しぶりだな」
椿咲は一護が言っていたもう1つの当て、
そこには既に一護と織姫、そしてルキアが居た。・・・何故か一護は鼻血を出して
「……まあ、聞きたいことが1つあるけどその前に、空鶴ちゃんも元気そうで良かったよ」
椿咲は今から約20年ほど前のこと、当時の【十番隊副隊長】志波一心が現世にて失踪したときに事情の話すために空鶴の元を訪れたことがあった。
「一護を迎えに来たのか?」
「そうなんだけど、なんで黒崎一護君は鼻血なんか出してるの?」
「ああ、それは一護があんまりにも同じことを言わせるもんだからな」
「はぁ……やっぱり空鶴ちゃんが原因だったんだ」
「そんなのはどうでもいいだろ。それより丁度いいから南美も飯食ってけよ!」
「いいの?それじゃあ、ご馳走に預かろうかな」
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「晩酌に付き合ってよ。空鶴ちゃん」
「……南美の方から誘ってくるなんて、珍しい」
夜も
普段誘ってくることなどしない椿咲が誘ってきたため、空鶴は珍しいと思いつつ何を考えているんだと少し身構えていた。
「――そろそろ話せ、何が聞きたいんだ」
辺りが夜の静寂に包まれる中、2人は静かに月を見ながら飲んでいた。
そんな中、とうとう居心地の悪くなった空鶴は椿咲に自身を晩酌に誘った理由について問い始めた。
「……ルキアちゃんとは話せた?」
少し間を置いて、椿咲はそう話を切り出した。
【元十三番隊副隊長】志波海燕が殉職した時期は椿咲が『十番隊隊長代理』を担っていた時期でもあった。椿咲は事件の概要を知っていた。当然、海燕に止めを刺したのもルキアであることも、
「ああ、ちゃんと謝罪の言葉を聞けた」
「そう、良かった」
「あの時、何があったかは浮竹に聞いている。朽木ルキアが後悔の念を抱いていることもな」
「いい子でしょ?ルキアちゃん」
「そんなこと昔から知ってるさ、兄貴が最期まで礼を言っていたからな」
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「ってことがありまして」
「成程、そんなことが……」
翌日、五番隊隊舎で椿咲は雷山と会っていた。
椿咲は昨日あったことを雷山に報告していた。雷山は大事になっていなければそれでよしと考えているようだった。
「……っと、もうこんな時間か」
「そう言えば、先ほどから時間を気にされていましたよね」
椿咲は雷山がしきりに時間を気にしていたことに気付いていた。
ただ、話を遮ってまで聞くことでもないと今まで触れずにいたが、雷山がその事に言及したので聞いていたのだ。
「ああ、これから
「……あ、もしかして」
椿咲は雷山の口から現世と
「ああ、せっかくだから全員で行くか。黒崎たちの見送りに」
約1時間後、雷山は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”6人全員を引き連れて
雷山たちが着いた頃にはルキアを始め、幾人かの隊長格が全員等しく一護たちの見送りのために集まっていた。
「よっ!黒崎」
「雷山さん、それにみんなもどうしたんだよ」
「見送りも無しに現世に帰らせる訳がないだろ。これから先、藍染絡みで世話になるだろうが、その時はよろしくな」
「ああ」
雷山と一護が握手している中、狐蝶寺は辺りをキョロキョロと見回していた。
狐蝶寺は思った。瀞霊廷を賑わせ、藍染の謀略を暴いたとはいえ死神代行相手にここまで集まるものなのかと、
「……思ったよりも結構集まってるね」
「そりゃあ、形がどうであれ黒崎たちのおかげで事態の収拾が出来たんだからな。これくらいの見送りが無ければ、恥ってもんだ」
「一護くん、君にこれを」
『あれは、確か……』
しばらくして浮竹が一護に対して何かを渡しているのを雷山は遠目からだったが見ていた。はっきりとは分からなかったが、形などから”死神代行戦闘許可証”だと推察していた。
そして、浮竹の口から説明がなされると同時に推察が正しかったことを知る。
「なんすかこれ?」
「”死神代行戦闘許可証”。現れた死神代行が
「これを使えば君はいつでも死神になれる。勿論、君のしてくれたことにこんなことで報いきれるとは思わないが」
「良いっすよそう言うのは、俺は俺の都合でやっただけっすから、こいつはありがたくもらっておきますけどね」
「…………」
一護の返答に浮竹はどことなく、この男からもしかしてと言いたげな嬉しそうな顔をしていた。
「さあ、時間だ」
浮竹のその言葉をまるで合図とするかのように、
「じゃあな、ルキア」
「ああ、ありがとう。一護」
一護たちが
「代行証、渡してもよかったのか?」
「……雷山隊長」
浮竹が目を向けると雷山がすぐ隣まで歩いて来ていた。
”死神代行戦闘許可証”の真の意味を知る雷山はその意味を伝えずに一護に渡しても良かったのかと、浮竹に問いを投げていたのだ。
「銀城空吾の一件があった時、【宮廷遊撃部隊】の誰も護廷の隊長ではなかったし、そもそも関わってすらいないが、取り決めのことは聞き及んでいる」
雷山が”取り決め”のことを口にしたとき、浮竹は少し眉をひそめていた。
銀城のことを信じている浮竹にしてみれば、あまり口にしてほしい話題ではなかったからだった。
「”もし次に死神代行が現れたら、そいつを銀城を炙り出す餌として利用し、両者ともに抹殺する”だったか」
「…………」
雷山が指摘していることは異論の唱えようのない事実であり浮竹は一瞬押し黙ってしまっていた。
「もう一度聞くぞ、代行証を渡しても本当に良かったのか?」
「……雷山隊長、きっと一護くんは自分たちの想像を大きく超えてくれると思うのですよ」
「想像を大きく超える、か」
「彼は朽木を、部下を救ってくれた。その恩人を取り決めだからと言って問答も無しに殺すことを俺は良しとは出来ない」
「……だから、選ばせるのか?」
雷山は浮竹が説明した内容ではすぐに矛盾があることに一護が気付くと分かっていた。
それを一護の前であえて言及することはしなかったが、不思議には思っていた。それを浮竹の口からその真意が聞けたことで先の説明に得心がいった。
浮竹は一護に自身がどうありたいのか、どうしたいのかを選ばせるつもりでいたのだ。
「ええ、自分が言った事はいずれ嘘であると分かるでしょう。その時に一護くんがどんな選択をするか分からない。しかし、自分は可能性に賭けたいと思います」
「……ふっ」
雷山は小さく笑った。
浮竹の語った事は現役の護廷十三隊隊長が口にする言葉では到底なかったからだ。
「浮竹、今のはとても護廷十三隊とは思えない言葉だ」
「ええ、勿論分かっています」
「だが、言いたいことは分かる。確かに黒崎は面白い奴だ。そう思うのも無理はない」
「……よろしいのですか?」
代行証について浮竹を問い詰めることはせずに場を後にする雷山に銀華零は声をかけた。
浮竹の言うようにはならず、護廷十三隊の想定通りの結果になれば黒崎一護と言う死神代行を討伐するのは【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”になる公算が高かったからだ。
「考えも無しに、或いは無茶な話だったならば問い詰めた。だが、黒崎一護と言う死神代行を目の当たりにして、浮竹の言うことも一理あると判断した」
「しかし、もし浮竹十三番隊隊長のおっしゃることが外れたら……」
「その時は俺が責任をもって黒崎と討伐するだけだ」
「雷山さんおひとりでですか?」
「ああ、結果的に俺の判断ミスという事になるからな。それを他の奴に押し付けるような真似はしない」
「……わかりました」
いずれ訪れるであろう一護と銀城の接触に一抹の不安を抱えながら銀華零は返事をしていた。