宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

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第43.5話 三番隊と九番隊

 

 

「はいはーい!注目~♪」

 

 

椿咲が現世に発つ少し前の刻、

 

瀞霊廷の一角、九番隊隊舎では狐蝶寺(こちょうじ)春麗(しゅんれい)が隊士を集めて挨拶をしていた。

 

 

「すでに伝わっているかもしれないけど、今回九番隊隊長に就任した狐蝶寺春麗と言います!みんなよろしくね♪」

 

 

台を置き、そこから見下ろすように立つ狐蝶寺は手を振ったりなど、身振り手振りをしていた。

 

大多数の隊士は初めて見ることになる狐蝶寺のテンションについていけずに、唖然としていた。

しかしごく少数の、狐蝶寺が現役で十三番隊隊長を担っていた頃から居る古参の隊士はその正体に気が付いており、愕然(がくぜん)としていた。

 

 

「……東仙くんのことは残念だと思っているよ」

 

 

天真爛漫とも言える表情から一変した狐蝶寺を見て、辺りは一気に緊張感に包まれた。

狛村がそうだったように、九番隊の誰もが未だ東仙要のことを引きずっていた。

 

 

「けど、嘆いてはいられないよ!東仙くんを許すにしても許せないにしても、その目を覚まさせるにしても、直接相対しないといけない時が来る」

 

「そのためにも九番隊はこの私が責任をもって預かるよ!途中でいなくなったり、ましてや離反なんてもっての外!次に隊長になるべき子が現れるまでその時までいると約束するよ!」

 

 

狐蝶寺の演説に対して、自然と拍手が湧いた。誰もがどうすれば良いか、何を成せばよいかと迷いや不安を滲ませた眼をしていたのも束の間、各々がなすべきことを心に刻み、闘志みなぎる眼に変わっていた。

 

 

「みんないい目になったね。改めて言うけれど、これからよろしくね♪」

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

「あの」

 

「なに?」

 

 

それから少し経った時、九番隊副隊長の檜佐木(ひさぎ)修兵(しゅうへい)に狐蝶寺は話しかけられる。

立ち止まり、振り返ると檜佐木はどこか思いつめたような、言いにくそうな表情をしていた。

 

 

「狐蝶寺……隊長、つかぬことを聞いてもよろしいですか?」

 

「もうっ、そんな畏まらなくても良いのに」

 

「そう言う訳にもいきませんよ」

 

「……わかった。好きに呼んでいいよ。それで何が聞きたいの?」

 

 

「……狐蝶寺隊長は東仙隊長を斬るおつもりですか?」

 

 

檜佐木から問われたこと、それは東仙を殺すつもりなのかと言うものだった。

勿論、狐蝶寺は殺すこともやむ無し、もっと言えば殺す以外に手段もないと考えていたが、檜佐木の前で言ってもいいものかと言葉に詰まった。

 

 

「…………」

 

 

時間にしてはほんの数秒、

 

しかし2人の間に流れた沈黙の刻(とき)は何千年も経ったかのように重くのしかかった。

狐蝶寺は目を閉じて小さくため息を吐いた。少し間を置いて、自身の考えを語りだした。

 

 

「……斬るつもりだよ」

 

「やはり護廷十三隊を、瀞霊廷を裏切ったからですか」

 

「裏切ったからが理由なのは事実だよ。ただ、瀞霊廷や護廷十三隊を裏切ったからじゃないよ」

 

「東仙くんは狛村くんのような友達を、檜佐木くんや他の隊士のみんなのような部下を裏切ったから」

 

「……しかし、東仙隊長の事情も鑑みるべきと」

 

「檜佐木くんは甘いね。いや、優しいと言うべきかな」

 

「これは私の個人的な考えなんだけど、たとえどのような理由があったとしても友達を、部下を裏切った行為を許すことはできないと思うんだ」

 

「そう、ですよね……」

 

「はぁ……」

 

 

押し黙ってしまった檜佐木を見て、狐蝶寺はため息を吐いた。

それには呆れの感情が少し含まれていた。狐蝶寺は檜佐木が納得しておらず、強情であることを理解したからだった。

 

 

「あくまで、私が許せないって話だよ。けど、檜佐木くんが東仙くんの目を覚まさせると言うなら止めはしないし、その意思を尊重するよ」

 

「ありがとうございます」

 

「気にしないでよ。檜佐木くんは若いんだから思うようにやればいい、そのための九番隊隊長、狐蝶寺春麗だよ。それはそうと檜佐木くん、この後用事はある?」

 

「?」

「いえ、特には」

 

「だったら、ちょっと私に付き合ってよ♪」

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

「…………」

 

 

同刻、

 

瀞霊廷内のとある場所では銀華零(ぎんかれい)白(はく)が副隊長の吉良(きら)イズルを連れてどこかへ向かっていた。

2人の間に会話は無く、吉良は新しい隊長が自分を何処に連れて行こうとしているのか気になっていた。

 

 

『この隊長(ひと)はいったい何を考えているのだろうか……』

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

「このたび、三番隊隊長の職位を預かりました。銀華零白と申します」

 

 

数刻前のこと、三番隊隊舎では銀華零が吉良に顔を合わせていた。

吉良は市丸ギンの離反の後、すぐに現れた銀華零と名乗る銀髪の女性死神に怪訝な表情を向けていた。

 

 

「…………」

 

 

銀華零も表情から吉良が自身に不信感を募らせていることは分かっていた。

復職と言う形だが、仮にも隊長である自身に向けるべき表情ではないが、今はまだ仕方のないこととあえて指摘せずにいた。

 

 

「吉良副隊長。これから行くところがあるので、ついて来てもらえますか?」

 

「え?」

 

「せっかくですので、吉良副隊長とお茶をしようと思いまして」

 

「は、はぁ……」

 

 

吉良は困惑するように声を上げた。檜佐木と同様に吉良もまた前任の市丸ギンのことを引きずっていたのだ。

 

銀華零はその感情を多少でも払拭できればと誘っていた。

 

 

「もしかして迷惑でしたか?」

 

「い、いえ!そう言う訳では……」

 

「ふふっ、では参りましょうか」

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「あの」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「その……銀華零隊長は―――」

 

「”何を考えているのか”」

 

「!!」

 

「……ですか?」

 

 

自身が言おうとしていたこと当てられた吉良は驚いた顔をしていた。

初めて会う死神が自身の考えを見透かしていたことに、それほどまでに自身があからさまな態度を取っていたことに驚いていたのだ。

 

 

「吉良副隊長の表情(かお)を見れば分かりますよ。それと同時に信頼をいただけていないことも」

 

「も、申し訳ありません」

 

 

銀華零が語ることは上官である隊長に対する”不敬”でもあった。銀華零はそんなこと気にも留めていなかったが、吉良は心のどこかで銀華零を市丸を比べている後ろめたい気持ちも相まって、尚の事目を落としていた。

 

 

「気にすることではありませんよ。前任者に裏切られた後にすぐさま初めて見る者を信頼しろと言う方が無茶ですから」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「それで、”何を考えている”でしたか」

 

「はい……」

 

「貴方と市丸ギンのこと、裏切り者の隊と呼ばれていることについては聞き及んでいましたから、それを払拭できればと思いまして」

 

「何故、それが分かっていて三番隊隊長に……銀華零隊長がわざわざ復職せずとも」

 

「責任を貴方ひとりに押し付けるべきではないと思ったからです」

 

「…………」

 

「身の上話をしましょうか。わたくしは本来【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”と呼ばれる部隊の一員です。今回は三番隊隊長代理と言う形で復職したに過ぎません。そして、双極の丘でむざむざと市丸ギンを取り逃がしたのも我々です」

 

「双極の丘での話は聞きましたが、銀華零隊長が……」

 

「ええ、そうです。事の後、三番隊隊長代理の話がわたくしに来ました。それと同時に三番隊の現状もね」

 

「確かに他隊の目が厳しいことは事実ですが……」

 

「わたくしたちが双極の丘で取り逃がさねば無かったことです。故に、わたくしにもその責任の一端があると考えました。吉良副隊長、貴方が責任を感じているのは分かります。ならば、わたくしにもその片棒を担がせてもらえませんか」

 

「そんな!……いえ、銀華零隊長がそうと決められたなら僕はそれに従います」

 

「ふふっ、改めてよろしくお願いしますね。吉良副隊長」

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

『こ、これはいったい』

 

『どういう状況なんだ……』

 

 

狐蝶寺に連れられて来た檜佐木は甘味処で待っていた銀華零と吉良を見て、

銀華零と共に来た吉良は後からやって来た狐蝶寺と檜佐木を見て、

吉良と檜佐木の2人は困惑していた。

 

銀華零と狐蝶寺が幼馴染であることを知らない2人は、同時期に隊長に復職した2名がそれぞれ副官を連れて一堂に会することになったその理由を考えてた。

 

 

「さて、それでは顔合わせと行きましょうか。これから隊同士が親密になるはずですし」

 

「うんうん」

 

 

一方で銀華零と狐蝶寺はそれぞれの副官の困惑を知ってか知らずか、そのまま何事もないように進めようとしていた。

 

 

「あ、あの」

 

「はい?」

 

「銀華零隊長と狐蝶寺隊長はいったいどういったご関係で?」

 

 

ついに我慢しきれなくなった檜佐木は困惑をすべて吐き出すかのように2人に問いかけた。

この場のこの状況はどういう訳で、何故復帰となった2人の隊長がそれぞれ副隊長を連れて示し合わせたかのように甘味処に集まったのかと、

 

 

「幼馴染だよ」

 

「幼馴染ですか?」

 

「うん。もう何百年の付き合いだね」

 

「……まあ、ひとつ付け加えるなら雷山さんも含めて幼馴染であり、護廷十三隊の同期でもありますけどね」

 

 

それを聞いた檜佐木と吉良は得心がいった。

銀華零と狐蝶寺がそれぞれ白ちゃん、春麗ちゃんと親しく話していたその理由に、

 

 

「ん?待ってください。今雷山さんって……」

 

「ええ、五番隊の雷山隊長もわたくしたちとまた等しくですよ」

 

 

吉良は息を飲んだ。

数日前のことだが、吉良は雷山の実力の一端を見ていた。その彼と銀華零、狐蝶寺が同期であり、現在同じ部隊に属している。

 

たったそれだけで【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の総力が自身らの理解が及ばないものであると察したからだった。

 

 

「それで、なぜ自分たちはここに連れてこられたのか如何っても?」

 

「そうそう、話の途中だった!私と白ちゃんが一緒に隊長代理をやるものだから、せっかくなら副隊長も交えて親交を深めようって話したの」

 

「成程、そう言うことでしたか」

 

 

檜佐木は傷心している自分と吉良を気遣って、2人がこの場を用意してくれたのだと察した。とてもありがたいことだと思う反面、狐蝶寺が言った『隊長代理』なる言葉が気になった。

 

 

「すいません、狐蝶寺隊長。先ほどおっしゃった、隊長代理とはいったい」

 

「あら、春麗ちゃんは檜佐木副隊長にお話ししていないのですか?」

 

「え?逆に白ちゃんはもう言ってるの?」

 

「ええ、こちらに来る前にある程度はお話ししましたよ?」

 

「そうなんだ。じゃあ、先に檜佐木くんにも説明するね」

 

 

檜佐木は狐蝶寺がから説明を受けた。

 

『隊長代理』とは【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”とはいったい何か、

狐蝶寺と銀華零、ついでに雷山のその正体について、

 

 

「な、成程……」

 

 

説明を受けた檜佐木だが、理解しきれるほどのものではなく、半ばから返事となっていた。

 

 

「しかし、我々副隊長にそのことを話してよかったのですか?」

 

「雷山さんは副隊長の方々にはわたくしの判断で伝えてもらって構わないと言っていたので、問題ありませんよ」

 

「そうそう!じゃあ、雷山くんを倣(なら)って自己紹介をするね。私は【十四番隊・第四将”副将”】狐蝶寺春麗。今は九番隊隊長を兼務している形かな。よろしくね♪」

 

「同じく【十四番隊・第五将”大将”】銀華零白です。しばらくは三番隊隊長としてよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

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