宮廷の遊撃人   作:らりるれリッター

48 / 49
第45話 破面(アランカル)来襲②

 

 

「っは!この程度かよ死神!!」

 

「くそっ……」

 

 

倒れる一護を前に青髪の破面(アランカル)は嘲笑していた。

 

一護は卍解していたが、相手の破面(アランカル)は刀を抜くことすらなく戦っていた。

それだけで両者に圧倒的な実力差があることを物語っていた。

 

 

「卍解してまともになったかと思えば、大したこともねぇな」

 

「精々スピードくらいか?」

 

 

青髪の破面(アランカル)、グリムジョーは一護の頭を掴むと自身の顔の高さまで持って来た。

 

 

「やっぱりつまんねぇなお前。そろそろしまいとするか」

 

 

グリムジョーは一護の顔を持つと手に霊圧を貯め始めた。それは彼ら破面(アランカル)が大虚(メノス)時代から持つ『虚閃(セロ)』と言う技であった。

 

 

「じゃあな、死g……―――」

 

 

虚閃(セロ)が放たれる直前、突然グリムジョーが弾き飛ばされた。

 

虚閃(セロ)を放とうとしていたことと、霊圧を感じさせずに何者かが自身を攻撃してくることを予想だにしていなかった為、攻撃をモロに浮きてしまったからだった。

 

 

「つ、椿咲さん」

 

 

一護の眼前には【十四】と刻まれる白い隊長羽織を身に纏う椿咲が立っていた。

 

 

「一護君、大丈夫?」

 

「俺よりもルキアを」

 

 

そう言われて椿咲はルキアの方に目を向けた。一護も決して軽くはないけがを負っていたが、それ以上にルキアの方が危ない状態だと察した。

 

 

「一護君、まずはルキアちゃんを……―――

「テメェ、何者(なにもん)だ」

 

 

一護に声をかける間もなくグリムジョーが歩いて来ていた。

椿咲自身あの程度ではダメージなど皆無だろうと考えていたが、予想していたよりもグリムジョーの復帰が早くあまりいい状況とは言い難かった。

 

 

「……私に聞く前に、まず自分から名乗ってみたらどうかな」

 

「っは!確かにそれもあるか、いいだろう。破面(アランカル)No.6(セスタ)グリムジョーだ」

 

「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”第三将『中堅』椿咲南美」

 

 

その時、グリムジョーと名乗る破面(アランカル)は怪訝な顔をしていた。

彼が大虚(メノス)時代から護廷十三隊の名は聞いていたが、【宮廷遊撃部隊】なる部隊は聞いたことが無かったからだ。

 

 

「聞いたことねぇな」

 

「当たり前でしょ?最近ようやく表舞台に立てたんだから」

 

「んな話に興味はねぇ。で、そこの死神を助けに来たって訳か」

 

「そうだよ。君が大人しく虚圏(ウェコムンド)に帰るなら見逃してあげなくもないけど、どうしたい?」

 

「それで帰ると思ってんのか?テメェら全員皆殺しにするまで帰らねぇよ」

 

「はぁ……じゃあ、仕方ないか」

 

 

その瞬間、椿咲の雰囲気が一気に変わったとグリムジョーは感じ取った。

事実、椿咲は霊圧を解放しており眼に殺気が映っていた。

 

 

「いい霊圧だすじゃねぇか……」

 

「よ!!」

 

 

グリムジョーは響転(ソニード)で椿咲の背後へと回り込んだ。

椿咲が響転(ソニード)を見るのはシャウロンに続き2度目であったが、影でギリギリ捉えることの出来たシャウロンとは違い、グリムジョーの響転(ソニード)は影すら捉えることが出来なかった。

 

 

『ダメだね。これは……』

 

 

 

 

” 避けきれない―――――― ”

 

 

 

 

ザシュッ!!

 

 

「そんな……!!」

 

 

一護は見ていた。

グリムジョーの手刀が椿咲の身体を貫く瞬間を、

力なく倒れる椿咲のその様(さま)を、

 

 

「けっ、この程度かよ」

 

「……なにが?」

 

「!!」

 

 

風切り音が辺りに響く―――

 

椿咲がグリムジョーに斬撃を仕掛けていた。ギリギリのところで斬撃を躱していたグリムジョーだが、自身の目を疑っていた。

 

そこに立っていたのは今まさに自身が手刀を突き立てたはずの椿咲だったからだ。

 

 

『どうなってやがる……』

 

 

空中に留まるグリムジョーは椿咲を見下ろしていた。その眼に解せないという感情を込めて、

一方で椿咲は左手を腰に当てながら、どこかドヤ顔気味にグリムジョーを眺めていた。

 

 

「ふふっ、解せないって顔をしているよ?」

 

「ちっ……何をしやがった」

 

「今日はとてもきれいな月夜だからね。不思議なことも起きるものだよ」

 

「答えになってねーぞ。死神」

 

「……いいよ。教えてあげる」

 

 

椿咲は手に持つ斬魄刀を前に突き出しながら高らかにその名を呼んだ。

 

名を『月華(げっか)』。その能力は『相手に幻覚を魅せる』ものだと、

 

 

「成程な……」

 

 

能力を聞いたグリムジョーはそのカラクリに気が付いたようだった。

初めに目の前に立っていた椿咲は幻覚で出来た偽物でわざと攻撃を受け、背後から自身を斬る算段であったと、

 

 

「いいぜ、面白くなってきやがった」

 

 

グリムジョーは自身の腰に差してある斬魄刀に手をかけ引き抜いた。

それと同時に霊圧の解放され、辺りにグリムジョーの霊圧が轟いていた。

 

 

「テメェなら、刀を抜く価値はありそうだな。もっと楽しませてくれよ。死神」

 

 

ガキンッ!!

 

 

斬りかかったグリムジョーの剣を椿咲は難なく受け止めた。そして僅かに剣軸をずらすことで、グリムジョーの体勢を崩し転じて攻撃に移った。

 

 

「ちっ……」

 

 

しかし、グリムジョーも椿咲の剣筋を見切っており、身体を捻り或いは、弾くなどして捌いていた。

 

刃がぶつかる金属音が辺りに響く、もう幾度かの斬り合いの果てについに一撃が決まる。

 

 

「オラァ!!」

 

 

椿咲の腰あたりで斬魄刀を横一閃に振り抜いたグリムジョーだったが、刃は椿咲の身体を通り抜けるように素通りした。

 

そして椿咲がニヤッと笑ったかと思えば、靄(モヤ)のように消え失せ、すぐ後ろから本体であろ椿咲がグリムジョーに袈裟斬りを浴びせた。

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

破面(アランカル)はその身体の表面自体が鋼皮(イエロ)という鎧を纏っている構造をしていた。それは並の斬撃ならば弾いてしまう程に強固であった。

しかし、椿咲の太刀筋はグリムジョーの鋼皮(イエロ)を貫通して、ダメージを負わせていた。

 

 

「くそっ」

 

「大人しく帰る気になった?」

 

「誰が……テメェの言いなりに……」

 

「……そっか」

 

 

少し間を置いて呟くと、椿咲はグリムジョーに背を向けた。

あまりにも隙だらけだったことに加えて、突然だったためにグリムジョーも動けずにいた。

 

 

「それじゃあ、一護君。一太刀浴びせてあげてよ」

 

「なに?」

 

 

時間にして1秒ほど、

椿咲の言葉の意味にグリムジョーは気が付いた。

 

自身が雑魚と断じた死神が超高密度の霊圧を刃先に貯めていたことに、

黒い刃を模した斬撃が自身に向かって放たれようとしていることに、

 

 

「月牙(げつが)天衝(てんしょう)!!」

 

 

一護の叫びと共に黒い月牙がグリムジョーに向かって放たれた。避ける間もないと判断したグリムジョーは咄嗟に腕をクロスするようにして、防御の態勢を取った。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「なんだ?今のは」

 

 

最大限の霊圧を込めて放ち、直撃させた月牙だったが、グリムジョーに大ダメージを負わせるには至らずに、鋼皮(イエロ)の表面に火傷のような傷を負わせるだけに終わった。

 

しかし、椿咲に負わされた傷と相まってグリムジョーは冷や汗をかいていた。

 

 

「ウルキオラからの報告には、そんな技無かったぜ」

 

「……上等だ」

 

 

そう言いながらグリムジョーは斬魄刀を構えた。今までとは違う構えから椿咲は他の破面(アランカル)たちのそれと同じように斬魄刀を解放しようとしていると考えた。

 

 

「これなら本気で戦っても良さそうだ」

 

 

グリムジョーが斬魄刀の解放を匂わせたことで、椿咲の予想は確信に変わった。

 

始解のままでは解放したグリムジョーに勝てないと判断した椿咲は卍解しようとした。しかし、その直後にとある人物の霊圧を感じたことでそれを止めることとなる。

 

 

「この霊圧は……」

 

「刀を納めろ。グリムジョー」

 

 

その声と共に藍染と共に虚圏(ウェコムンド)へと消えた元九番隊隊長、東仙要が現れた。

東仙の登場はグリムジョーも予想外の事であり、驚いた様子だった。

 

 

「ッ!!東仙」

 

「東仙?藍染と消えた、隊長か……?」

 

 

東仙の名は一護の知るところであり、何故この場に現れたのかと言いたげであった。

 

 

「何故、テメェがここにいやがる」

 

「……分からないのか?現世への無断侵攻、5体の破面(アランカル)の動員及び敗死。全て命令違反だ」

 

 

東仙は度重なる命令違反で藍染が怒りを見せているとグリムジョーに伝えていた。同時に、その裁断は虚圏(ウェコムンド)で下されることも、

 

 

「行くぞ、グリムジョー」

 

「待ちなよ。東仙君」

 

 

黒腔(ガルガンタ)と呼ばれる入り口を開いたところで、椿咲は斬魄刀を東仙に向けていた。

 

 

「椿咲南美か」

 

「ちゃんと破面(アランカル)たちの手綱を握っててもらわないと困るよ」

 

「…………」

 

「それとも、藍染君含めて君たちの管理が杜撰(ずさん)なのかな?」

 

「ふっ」

 

 

椿咲の安い挑発に東仙は鼻で笑っていた。まさか【宮廷遊撃部隊】ともあろう者がこんなみえみえな挑発をするとは思ってもいなかった。

 

 

「挑発のつもりか」

 

「さあ?どう捉えようと勝手だよ」

 

「まあ、いいだろう。私はグリムジョーを連行しに来ただけだ」

 

 

東仙は椿咲に背を向け黒腔(ガルガンタ)へと歩いていく。

 

その後に続くグリムジョーを一護は呼び止めた。

 

 

「待てよ!勝負はまだついてねーぞ!!」

 

「……あぁ?」

 

「ちょっと、一護君!!」

 

 

思わず椿咲は声を上げた。落としどころが出来て、大人しく帰ると言っている敵を無暗に止めようとしていたからだ。

 

 

「勝負がついてねぇだと?ふざけんな!!」

 

「勝負がつかなくて、命拾いしたのはテメェだ!」

 

 

グリムジョーが言うことは至極正しかった。この場でグリムジョーに”ダメージ”を与えたのは椿咲の斬撃のみ、

一護の黒い月牙天衝はグリムジョーに傷こそ与えたが、ダメージを与えるには至っていなかった。

 

つまりは仮にこのまま戦闘を続けたとしても、一護に勝ち目はなかった。

 

 

「俺とまともにやれるのは、この死神くらいだ。テメェのあの技も撃ててあと2、3発が限度だろ」

 

「!!」

 

「仮にテメェがあの技を撃ち続けられたとしても、この死神が卍解をしたとしても、解放状態の俺は倒せねぇ」

 

「解放……だと?」

 

「俺の名を忘れるなよ、死神―――

 

 

”グリムジョー・ジャガージャック”

 

 

―――次にこの名を聞いた時が、テメェの最期だ」

 

 

不敵な笑みを浮かべたままグリムジョーは黒腔(ガルガンタ)の奥に消えて行った。

 

緊張が解けたからか、はたまた限界だったか、一護はその場に倒れ込んだ。

 

 

「ルキアちゃん!!」

 

 

椿咲は倒れるルキアに駆け寄った。

義骸に介抱されるルキアは鳩尾を何かで刺突されており、息も絶え絶えの状態になっていた。

 

椿咲は小さい結界を張ると回道の施術の為に手をかざした。

 

 

「待っててね。回道で応急処置するから」

 

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

 

「椿咲隊長!」

 

 

しばらくすると、松友が駆けてきた。息が上がっていることからかなり急いでこの場に来たことが分かった。

 

 

「乱菊ちゃん、そっちの状況はどう?」

 

「破面(アランカル)たちは退けました。しかし、一角と隊長が重傷を負ってまして……」

 

「分かった。じゃあ、ルキアちゃんの応急処置が終わったらそっちに向かうね」

 

「あ、いえ。隊長は今織姫が治療してくれています」

 

「そうなの?」

 

 

椿咲はその時、双極の丘で織姫が一護を治療していた風景を思い出した。

比較的短時間で一護の傷をいやしており、かなり特異な能力であると記憶していた。

 

 

「……じゃあ、ルキアちゃんの治療も織姫ちゃんにお願いしてもらっていいかな。私の回道じゃ精々応急処置がいいところだから」

 

「分かりました」

 

 

松本はルキアを抱えると日番谷を治療する織姫の元へ駆け出した。

その背中を見送ると、一護へと目を向けた。

 

一護はただ茫然と黒腔(ガルガンタ)が閉じた空を見上げていた。

 

 

「まずは無事で良かったよ。ただ、あの場面で下手に挑発するのは良くないね」

 

「椿咲さん、俺は……」

 

「”何も護れなかった”って?」

 

 

一護は無言で頷いた。ルキアに怪我を負わせその相手を倒せてすらいない、東仙の乱入があったが、椿咲が来なければ死んでいた可能性すらある。

 

仲間を護ることに重きを置く彼にとって後悔しか残らない戦いだった。

 

 

「俺は仲間を護れてもねぇ、傷をつけたやつを倒せてもねぇ」

 

「そうだね。今の一護君の実力は、油断していて、始解もしていない春麗さんくらいだもんね」

 

 

椿咲はあえてと言うべきか、厳しい言葉を一護に放っていた。

狐蝶寺との模擬戦で雷山とのやり取りを見ていた椿咲は、一護への慰めは逆効果になると分かっていたからだった。

 

 

「けど、だからと言ってそうやって後悔しても仕方がないよ。実力を付けなきゃ誰も護れないのは事実だから」

 

「……ああ、そうだな」

 

「それじゃあ、一護君も織姫ちゃんのところに行こう。傷も治してもらわないと」

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

「日番谷隊長は昨日の破面(アランカル)たちについてどう思う?」

 

 

翌日、一護たちの通う『空座第一高校』の屋上に制服姿の日番谷と椿咲の姿があった。

2人は”隊長”として昨日の破面(アランカル)たちについて意見を交換していた。

 

 

「あくまで推測ですが、俺たちの戦った破面(アランカル)たちは最下級(ギリアン)でしょう」

 

「最下級(ギリアン)にしては強すぎない?中級大虚(アジューカス)くらいじゃないの?」

 

「崩玉の効果が未知数な点と中級大虚(アジューカス)ならば、あの程度の被害では済まなかったと考えた結果です。尸魂界(ソウル・ソサエティ)の検証待ちになりますが」

 

「そっか……あ、でも確実に1体は中級大虚(アジューカス)、下手をしたら最上級(ヴァストローデ)の破面(アランカル)だったね」

 

「黒崎と椿咲隊長が戦った個体ですか?」

 

「うん、相手が斬魄刀を解放したら、私も卍解しないと太刀打ちできないって思ったくらいだからね」

 

「そんな個体が……」

 

 

椿咲の実力を知る日番谷は、”椿咲が卍解をしなければならないと判断した”と言う事実だけでその破面(アランカル)個体が少なくとも、自身の想定以上の実力を持っていたと考えた。

 

それと同時に自身の相対したシャウロンが言っていたことを思い出した。

 

 

「自分と相対した破面(アランカル)、シャウロン・クーファンが言っていました。あの場に十刃(エスパーダ)と呼ばれる破面(アランカル)が来ていたと」

 

 

椿咲は日番谷から破面(アランカル)の持つ数字の意味を聞いた。そして自身が相対したグリムジョーがNo.6(セスタ)の数字を持つ十刃(エスパーダ)であった事を知った。 

 

 

「そっか、まだ本気も出していないあれで6番目なんだね」

 

 

椿咲は珍しく真剣な表情をしていた。

あれほどの霊圧を持つグリムジョーよりもまだ上に5体十刃(エスパーダ)と呼ばれる破面(アランカル)たちがいる事実は深刻な問題であると捉えていた。

 

 

「ひとまず、尸魂界(ソウル・ソサエティ)への報告は日番谷隊長にお願いしてもいいかな」

 

「ええ、構いませんけど。椿咲隊長はどちらへ?」

 

「ちょっとね」

 

 

日番谷の隣に座っていた椿咲だったが、おもむろに立ち上がっていた。

 

 

「現世に来てから気になることが2つあってね。今からその1つを確認しに」

 

 

椿咲は瞬歩でとある場所へと向かった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。