「雷山部隊長及び山本総隊長の命で参りました。山吹雷花です。以後、どうぞよろしくお願いします」
瀞霊廷の地下にある中央四十六室――
その一角にある大霊書回廊と呼ばれる場所に
「こちらこそお願いします。山吹隊長」
「浮竹隊長。あの、こちらの方は……」
浮竹に同行していた
しかし、あの時はその正体について聞いている場合ではなかった為、実質今回が初対面であった。
「元十三番隊隊長、山吹雷花殿。俺がまだ席官だった頃に隊長だった方だ」
「そ、そのような方が……!?」
「小椿三席、虎徹三席」
「「は、はい!」」
声色と表情から物語るように、2人は緊張していた。
自身たちの上官である浮竹よりさらに先代の隊長とあれば、こういった態度になるのは仕方のないことだと山吹は思ったが、もっと砕けて接してもらってもいいのにと思うところもあった。
「そんなに畏まることもありません。確かにあたしは浮竹隊長の先代ですが、今の十三番隊隊長は浮竹隊長です」
「は、はい!」
「お互いに言いたいことを言える間柄になりましょう。でなければ、見えるものを見落としてしまうことになりますし」
小椿と清音は感じた。
山吹雷花と言う死神はあまり笑顔を見せるようなタイプではないが、この人も敬愛する浮竹と同様に他者を思い、部下を思う隊長であると、
一方で山吹は中央にあるモニターを操作して、自身が聞き及んでいる藍染が閲覧したであろう書物にある程度の目星をつけていた。
「さて、それでは藍染惣右介の痕跡探しを始めましょうか」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「日番谷先遣隊と
五番隊隊舎内、そこでは
その話題は昨晩、現世に派遣された日番谷を引率責任者とする先遣隊が
「はい。第一次報告として先ほど上がって来たものですが」
「……限定解除をして殲滅に成功か」
報告書には6体現れた
「どの階級から
「つまりは隊長と言えども限定解除無しでは太刀打ちすることも困難。それが
「はい」
「椿咲からは何か報告はあるのか?」
雷山は顎に手をやり、何やらひとしきり考えた後に浮葉に尋ねた。
「いえ、何もありません」
「そうか。では、【宮廷遊撃部隊】としては静観の判断を取ろう」
「よろしいのですか?」
「ああ、椿咲が何も報告をよこさないという事はまだ椿咲自身、或いは日番谷先遣隊で対処可能だと判断したのだろう。ならば、こちらが迂闊に動くわけにもいくまい」
「承知しました。それからこれは【五番隊隊長】としての伝達なのですが……」
そう言うと浮葉は一枚の書類を雷山の前に差し出した。
書類に目を落した雷山はすぐさま立ち上がった。
「悪い、少し急用が出来た。浮葉は引き続き、情報収集を頼む」
「承知しました」
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「お待ちしてました。雷山隊長」
「ああ、さっそく案内してくれないか」
数刻後のこと、四番隊・総合救護詰所に雷山の姿があった。
浮葉に渡された伝達の差出人は卯ノ花であった。その内容は藍染に重傷を負わされた五番隊副隊長、雛森桃が意識を取り戻したと言うものであった。
「雛森の容体はどうなんだ?」
「現在は安定していますが、まだ完全回復とはいっていません。職務復帰にはまだ相応の時間を要します」
「そうか。まあ、ひとまず挨拶だけすることにしよう」
雷山は卯ノ花に案内されるまま雛森が収容される病室へとたどり着いた。
部屋に入る前に礼儀として、壁とコンコンと二回叩いてから部屋に入った。
「失礼する。具合はどうだ?雛森副隊長」
「か、雷山……隊長……」
雛森は衰弱していた。声も弱々しく、生きているのがやっとと言える状態だった。
卯ノ花の言う通り、職務復帰にはまだまだ時間を要する状態だった。
「そのままでいい。意識を取り戻してくれてよかった」
「あ、あの……藍染、隊長は……」
藍染の名を隊長を付けて呼んだことで、雷山は雛森がまだ心の整理が出来ていないと感じた。
そして今の雛森の状態を鑑みて、事実を述べることは毒にしかならないと考え、噓も方便として雛森に言った。
「……気にするな。必ず連れ戻してやる」
「あ、ありがとうございます……」
「今はまだゆっくり休め。そんな身体じゃ、藍染が帰って来たら心配させるぞ」
「はい……」
雛森は
「……藍染惣右介の求心力は本当に恐ろしいものだな。雛森自身、裏切られたと分かっているだろうに、それを信じられないんだろう」
「ええ、本心を隠していた頃の彼は理想の隊長とも言われていましたからね」
「理想の隊長か。俺もかなりの数の隊長を見てきたつもりだが、ああいうタイプは稀に見る。求心力と言う点においては、それこそ辞める時にひと騒動あったという椿咲以上だろうな」
「藍染惣右介はその椿咲隊長の弟子と聞いてますが」
「本人は大分気にしていたけどな。大逆の罪人を育ててしまったと」
「彼女らしいですね」
「ああ、珍しくへこんでいたものだから思わず励ましてしまったよ」
「……雷山隊長らしくないですね」
雷山は思わず小さく「おい……」と声を出していた。
その表情から俺はそんなに薄情者に見えていたのかと雷山は言いたげだった。
「ったく、弟子が困ってたら助け舟を出してやるのが師匠の役割だろ。お前だって分からないわけないだろ?」
どこか含みのある言い方をされた卯ノ花は冷たい視線を雷山に向けていた。
それは今この場で雷山を斬り捨てても構わないと言いたげな鋭い視線。
「雷山隊長、そのことは口外しないでくださいね」
「ああ、”その時が来るまで”だろ?」
雷山は右手を上げると雛森の病室を後にして行った。
「…………」
「…………」
長い沈黙が辺りを包む――
黒崎一心と椿咲南美。2人がこうして無言のまま互いに向かい合うように座ってどれだけの時間が経ったのだろうか。
「はぁ……」
「……!!」
椿咲がため息を吐くと一心驚いたように身体をビクッとさせた。
ここは黒崎一護の自宅『クロサキ医院』。一護たちが学校に行っている間に椿咲は一心と話そうと思いここまで来ていたのだ。
一心も日番谷、松本と共に椿咲の霊圧も感じ取っており、内心いつかは来るだろうと思いつつもビクビクしていたのだ。
「まずは生きていてくれてよかったよ。一心君」
「い、いえ……」
「けど、私との約束は守ってくれなかったね」
「そ、それは……」
椿咲が言っている約束とは、かつて一心が現世に再び行くときに交わしたものだった。
一心はその時の約束を片時も忘れたことはなく、自身のしたことに後悔はないが、約束を破ることになった事には申し訳なさがあった。
「私との約束なんて忘れちゃったよね」
「忘れたことなどありません!1つ、無事に戻って来ること。2つ、戻ったら隊首試験を受けることです」
「……良かった覚えてくれてたんだね」
「申し訳ありませんでした。約束を破ることになってしまって」
「気にしないでとは言えないけど、それで明日の一心君が今日の一心君を笑うことになっていなければいいよ」
「お心遣い感謝します」
「それで、何があったのかはなんとなく分かるけれど、ちゃんと聞いてもいいかな」
椿咲はかつて一心が語っていた
そしてその予想通り、現世での事件の後に真咲と言う
「成程ね。一護君のあのデタラメな強さの理由が分かったよ。両親が死神と
「なんだかこうやって改めて話すと恥ずかしいですね」
「そう?一心君のそういった話を聞けて私は嬉しいけどね。……その写真の人が真咲さん?」
椿咲は一心の後ろにまるでポスターのように飾られる、巨大な遺影に写る人物が黒崎真咲なのだろうと推察していた。
真咲は笑み浮かべており、とても優しそうな人物と言う印象を椿咲は持った。
「ええ」
「話してみたかったな。一心君が私との約束を破ってまで守ろうと覚悟を決めた人に」
「きっと気があったと思いますよ」
「……一心君、かなり踏み込んだ質問をするけどいい?」
「なんでしょう?」
「真咲さんは、何故その若さで亡くなったの?」
「…………」
その時、一心の顔がわずかに歪むのを感じた。自身の妻の死について聞かれれば当然のことだろう、場合によっては軽蔑されても仕方ないと椿咲は考えていたが、
それを押してでも確認を、確証を得なければならないことがあると椿咲はあえて踏み込んでいた。
「私は現世で
「あの人はすごい強さだったよ。それこそ私じゃ負けちゃうくらいにね。だからこそ同じ黒崎姓であり、
一心はただ椿咲の眼を見ていた。この人はただの知的好奇心で死について聞く人ではない。それ相応の理由があるはずだと、
「……椿咲隊長ならば
『
9年前の6月17日【宮廷遊撃部隊】はユーハバッハによる
しかし、情報が足りなかった点と相手の居城が分からなかった点から元柳斎は静観すべしとの判断を下していた。
「うん。まさかとは思ったけど、やはり真咲さんは……」
「ええ、
「ごめんね、一心君にはつらい記憶なのに、無理聞きくような真似をして」
「でしたら、1つ教えてください。椿咲隊長は、【宮廷遊撃部隊】はユーハバッハについてどう思われていますか」
「まだ何とも言えないのが本音だけど、9年前からユーハバッハが動いている。そして近いうちに何かしらの行動を起こす。私たちはそう考えているよ」
「……そうですか」
「一心君。ユーハバッハがいつ行動を起こすかは分からないけど、【宮廷遊撃部隊】は先陣を切って対処するつもりだよ」
「……よろしくお願いします」
「ふふっ……あ、もうこんな時間だ」
椿咲はチラッと時計を見ると立ち上がった。時刻は夕方に差し掛かろうとしており、一護を始め他の家族に見られるのは止した方がいいと考えた。
ドアノブに手をかける直前、椿咲は何かを思い出したように声を上げると一心の方へ振り返った。
「一心君、念のために聞くけど、護廷十三隊に戻る気はない?」
「そう言っていただけるのはありがたいですが、戻る気はありません。自分は勝手に居なくなった身、それでは筋が通りませんから」
「一心君らしいね。真咲さんのことと一心君のことは雷山隊長には報告することになるけど、口止めするように言っておくね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、またね」
椿咲は手を振るとドアを開けて一心のもとを去る。
その顔に部下が生きていたこと、久方ぶりに話せた喜びを見せて