野上武志先生の漫画「はるかリセット」に登場する陸上自衛隊の幹部である宮武慶子は護衛艦「かが」で目覚めた。防大同期の藤堂ゆきえと慶子は何故か海将と陸将で司令官になっていた。

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新年の職業病的夢

 「ようやく起きたかミヤタケー」

 宮武慶子は目覚めると目の前に防大同期の藤堂ゆきえが居た。

 おかしいと感じた。

 何故ゆきえは海将の階級を付けているのか?

 「早く起きて、作戦行動中なんだぞ」

 作戦行動?何の事だろう?

 そう思いながらもベッドから起きて自分の制服を着込む、すると自分の制服も陸将になっている。

 「藤堂、冗談にしてはキツイぞ」

 慶子はさすがにゆきえを注意した。自衛官が冗談でも違う階級章を付けてはならないのだから。

 「冗談?何を言っているのだ?」

 ゆきえは戸惑っているようだった。

 「さあ行くぞミヤタケー。作戦が始まるのだから」

 ゆきえは着替えた慶子の手を引いて連れ出す。

 すれ違う隊員の誰もがゆきえと慶子に敬礼をする。

 佐官の幹部自衛官もであり慶子はどうなっているのか混乱する。

 「藤堂、ここは何処なんだ?護衛艦の中みたいだが」

 慶子の問いに「何を今更」と言いながらゆきえは「ここは護衛艦『かが』ですよ。統合任務部隊の旗艦もとい司令部」と答えた。

 それでも慶子は訳が分からない。

 いつ統合任務部隊を編成したのだろうか?

 しかもいつ護衛艦「かが」に乗ったのだろうか?

 「タケミヤ、その様子は記憶喪失にでもなったんですか?」

 慶子の様子を見てゆきえはさすがに心配になる。

 「ここまで来て司令官の交代は無理だから今から説明をするぞ」

 ゆきえは慶子をまず「かが」の飛行甲板に連れ出す。

 甲板では日の丸を付けた航空自衛隊のF-35B戦闘機が2機発艦している様子が見えた。続いてSH-60K対潜哨戒ヘリが着艦し隊員が慌ただしく動き回っている。

 「本当に『かが』に来てしまったんだ・・・」

 ようやく「かが」に来た事を慶子は実感した。

 「次、行きますよ」とゆきえは慶子の手を引く。

 「ここが統合任務部隊の司令部です。貴方は統合任務部隊の陸上自衛隊部隊の指揮官ですからね。そこは覚えて」

 だから陸将なのかと思いつつ入室するが、とんでもない立場だぞと冷や汗が背中に出る。

 護衛艦「いずも」型が有事で海上司令部の機能を持っている。それを慶子は目前で見せられる。陸海空の隊員が通信端末やノートPCに向き合い、時には打ち合わせをしている。入室するや幕僚の佐官達が敬礼する。ゆきえも慶子も敬礼をして応える。

 

 ゆきえは地図が広げられた台に慶子を引っ張る。

 「我が統合任務部隊の任務は台湾奪還作戦の第一段階である基隆上陸作戦を行う事です」

 ゆきえは台湾の地図の北を指した。

 基隆(キールン)は台湾北部にある港湾都市である。

 この港湾を利用して奪還作戦の主力部隊と補給物資を揚陸させるのだろうと分かる。

 分かるけど台湾奪還作戦って何だ?と慶子は疑問が大きくなる。

 「中国は2カ月前に祖国統一を掲げて台湾に軍事侵攻を始めたんだよ。都市部と平野部のほとんどを中国軍は制圧したけれども台湾政府と台湾軍は山岳地帯に立て籠もり抵抗を続けた。日本は中国軍の在日米軍基地への攻撃を日本への武力攻撃と判断して自衛隊を防衛出動させた」

 ゆきえは簡潔に事態を説明する。

 「え?日本が中国と戦争状態に?」

 さすがに慶子は驚く。状況に慣れたゆきえは「その通り、米軍と共同で行動中さ」と付け加える。

 「日本政府とアメリカ政府に台湾政府は対中共同戦線を結び、米軍の中国本国への攻撃、日米共同の作戦で中国海軍の戦力を低下させたのもあって自衛隊を先陣とした台湾上陸部隊が編成された。それがこの統合任務部隊、分かったミヤタケ?」

 慶子は「うん」と答えたが「何でこんな状況に?」と半分呑み込めていない。

 「この作戦を成功させれば米軍やオーストラリア軍・カナダ軍の主力部隊を台湾に進出させれると言う流れだ。分かったミヤタケー?」

 ゆきえの問いに慶子は「分かった」と答えるがこの状況に馴染めない。

 それでも陸将として陸自部隊の指揮官を務めねばならない。

 慶子の指揮下は自衛隊版海兵隊である水陸機動団を主力に機甲戦力として第71戦車連隊の2個中隊、砲兵火力の野戦特科は第7特科連隊第1大隊、防空に第7高射特科連隊から3個中隊と第7師団からの増援が加わる。

 (もうアメリカの海兵隊は守備隊だからなあ)

 敵前上陸は以前はアメリカ海兵隊が得意とするものであったがアメリカ海軍の新たな戦略「分散海洋作戦」や「競合的な環境下での沿岸作戦」に海兵隊も沿い、海兵隊は拒否的抑止を担うインサイド部隊として地対艦ミサイルや対空ミサイルを装備し島嶼各地に展開する守備隊に近い存在となった。

 (だから陸自が代わりにこうして殴り込む訳になるのだな)

 幹部自衛官として知り得た米軍と自衛隊の変化についての情報がこの作戦が成立する意味が理解できた。しかし自分が何故陸将で陸自部隊指揮官なのかは納得できていないが。

 「米軍の攻撃が成功したぞ。陸自の作戦を開始してくれ」

 ゆきえが慶子へ命じる。

 この作戦で米軍は艦艇からの巡航ミサイルや空母「エイブラハム・リンカーン」からの戦闘機による空爆で基隆の中国軍に打撃を与えている。

 「了解、水機団出撃せよ!」

 慶子は指揮官として命じる。

 輸送艦から揚陸艇のLCACで海から、V-22オスプレイで空から水陸機動団の隊員は出撃する。

 「2水機連が和平島にヘリボーン降下し展開中、交戦中なり」

 「1水機連がまもなく基隆東岸防波堤に到着、迫撃砲らしき砲火を受ける」

 基隆港とその周辺は沿岸が消波ブロックで敷き詰められ壁もありAAV7で乗り上げるには無理がある。そこでヘリボーンと揚陸艇で侵攻する作戦となった。

 米軍が幾らか叩いたとはいえ、犠牲が出るだろう。

 まだ戦車も野戦特科の支援も出せない。

 ゆきえに「いせ」に搭載されているAH-64D戦闘ヘリの発艦を要請するぐらいしか出来ない。F-35Bは制空に出動している。

 これが司令官の立場なのか・・・胃が痛いような思いを慶子は感じた。

 「2水機連第2中隊死亡2名負傷1名」

 慶子の手元にある端末や司令部のモニターに表示される。

 戦死者・・・

 部下に戦死者・・・

 幹部自衛官として目の当たりにする死

 名前も顔も知らない誰かが・・・

 頭が狂うようだ。これが司令官の立場なのか・・・

 「2水機連より再度の航空支援要請です。敵砲兵を攻撃されたい」

 「1水機連からも支援要請、敵の砲撃を受け前進困難なり」

 慶子の元へ苦戦の報と支援要請が届く。

 「戦闘ヘリは?」と慶子は尋ねる。

 「敵潜水艦との戦闘中で護衛艦『いせ』は回避運動中により発艦は不可能です」

 海自の連絡担当が答える。

 「藤堂、いや藤堂海将、『いせ』を離脱させて戦闘ヘリを発進されたい」

 慶子は要望をゆきえに出す。

 「水上戦群は複数の敵潜水艦と交戦中、『いせ』のみを離脱だせるのは危険だ。要請は却下する」

 ゆきえは毅然と言う。

 未発見の敵潜水艦に「いせ」が狩られてしまっては意味が無いとゆきえは考えていた。

 「代わりに空自と米軍に支援要請を出している。既に那覇基地からF-2戦闘機4機、米軍の「リンカーン」からも戦闘機が出ている。もう少し待ってくれ」

 ゆきえは少しすまなそうな声色で慶子へ言う。

 「現場の連隊長へ通達、航空支援はもうすぐ来る頑張れ」

 慶子はもう少し粘って欲しいと願うしかできない事に苛立ちを感じた。

 「1水機連より緊急、敵戦車が接近中なり。対戦車戦闘を行う」

 「2水機連より連絡、敵歩兵の突撃を受けるも撃退せり」

 前線は激しさを増すばかりだ。

 残る手段は水陸機動団で残る第3水陸機動連隊を前線へ応援として送り出す事だ。

 「水機団の残る連隊は出動できるか?」

 と慶子は尋ねるが、輸送艦が敵潜水艦の出現で退避行動中だと言う。

 「くそ!」と慶子は思わず悪態をつく。

 何も手札が無い。何もできない。

 こんな事なら、司令官になりたくない!

 憤怒にかられたまま慶子の意識は暗転した。

 

 

 携帯電話がけたたましく鳴る音で慶子は目覚めた。

 職場である防衛省から発信される緊急連絡の通知である。

 「北朝鮮が弾道ミサイルを発射した模様」

 通知内容を見て北朝鮮?と一瞬理解できなかった。

 ついさっきまで中国軍から台湾を奪還する作戦を実行する指揮官をしていたのだから。

 しかし目覚めた部屋は二段ベッドの部屋だった。

 そういえば年末年始の当直をしていたんだったと慶子は思い出す。

 独身者で実家に帰らない慶子は年末年始の連休時期は当直に任命されていた。

 正月から有事は発生しないと思っていたが、大雪での立ち往生した民間車輌への救援に能登半島での震災、今年は南米でアメリカが特殊部隊である国の大統領を捕まえる作戦を実行させた。

 近頃は正月でも油断がならない。

 ついには北朝鮮も弾道ミサイルを放つ。

 「みんな休もうよ。年始ぐらい」

 慶子は夜間の当直で寝たばかりのところを叩き起こされて悪態をつきながら着替え、顔を洗って整える。

 ゆきえはどうしているだろう?

 呉で輸送艦乗りになっている同期を思う。

 そういえば伝統ある海軍一族の実家で過ごしていると新年の挨拶メールがあったなと思い出す。

 「もう普通の正月は私には無縁かな・・・如水君と過ごしたかったなあ」

 と思いながら慶子は指揮所に向かうのであった。

 


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