-追記-
1/15 小説状態の変更に伴いタイトルを変更しました
1/16 内容に一部不適切な節があったため該当箇所を修正しました。ご迷惑をおかけし誠に申し訳ありませんでした。
俺、いや『私』は、気づいたらこの世界にいた。
新たに与えられた名前は『メーデーコール』。
『退避退避退避!車両突っ込んでくる!あのバカ来やがった!(遺言)』
空港脇の道路で交通誘導の仕事中に居眠り暴走車に撥ねられ、気がついたらトレセン学園のトレーナー寮の一室で目覚めたのだ。いわゆる転生という奴である。
さて、ウマ娘で転生といえば、『すごく強いウマ能力』『ウマ娘のステータスが見える』あたりとかがメジャーだが。
「どっちか一つでもあったら良かったんだけどねぇ」
ウマ娘を見てもわかるのは可愛いことだけ。
競馬の知識は素人に毛が生えた程度。
持っているのは、ゲームとしてのウマ娘の知識と、TS転生で手に入れたこのウマ娘の身体だけ。
しかも本格化も終わった大人の身体。
これで何しろってんだよ三女神様よ。
それはともかく。色々あって秋川理事長やたづなさんは私の事情を把握している。
行くあてもないこの身に理事長は、トレセン学園で働く事を許可してくれた。神。
働く、とは言ってもトレーナーとか教官とか、ターフとか設備の維持整備員などではなく、完全な雑用だ。一応役職名は『用務員』である。
働き始めた当初こそ、「専門知識もない状態で大丈夫か」と不安に思ったものだが、意外にも役に立っているようで。
なぜかというと、トレセン学園にウマ娘の職員がかなり少ない……いや、ほぼいないからだ。
理由は色々あるらしいが、一番大きいのは『学生の熱気に当てられて”走りたい”という本能が抑えられなくなる』という生理的な物だという。その点私は人間由来なので、その辺の欲求とかは全くない。腹だけはちゃんとウマ娘並みに空くが。
なので、選抜レース用のスターティングゲートを動かしたりとか、故障した重機を移動させたりとか、食堂で使用する大量の食材を運び込んだりとか、パワーのいる場面において活躍の場があるのだ。
──────
───
さて、トレセンで用務員として働き始めて2週間ほどたった頃。
業務を終え、住処にしている職員寮への帰路についていた時の事である。
特に理由はないが、いつもと違う道を行ってみようと思い至った。
いつも通っている最短距離の道ではなく、そこから1本外れた、学園敷地内の外側を通る道。職員用の地図によれば、道沿いに練習用コースが一つだけある道だ。
入ってみると、道は舗装こそされているものの整備が行き届いていないのか、ひび割れ、穴ぼこでガタガタになっている。街灯も同じ状況のようで、ところどころで電球が切れかかったり、そもそも倒れていたり。
トレーナーをはじめとした学園職員が万年人手不足というのは聞き及んでいたが、少し外れるだけでここまで整備が追いついていないものかと少し驚いていると。
「……ん?」
ぴくりと、最近感覚に慣れてきたウマ耳が音を拾った。
「……誰か走ってるのか」
まあ特段驚くような物でもない。使用停止されているわけでもないのだから、生徒が使うのは自由である。むしろ、こんなに端っこにあるのなら「あまり使用率が高くない穴場コース」みたいな見方をされていてもおかしくない。
なんて思いながら歩いているうちに、どんどんその音は近くなってきた。その間に気がついたが、どうやら1人ではなく複数人が走っているようである。チームか、あるいは仲の良いウマ娘が複数人集まってトレーニングをしているのか。
ついに、そのコースが見えた。
『第35L練習コース(1940m)』
若干傾いた立て看板には、そう記されている。35はまだ分からなくもないがLってなんやねんLって。しかもコース長は1940m、なんとも中途半端な距離だ。あと60m頑張れなかったのか。
……ん?
「……いや、まさか。まさかな」
かなり年季の入ったコースだ。年単位で整備が入っていないように見える。まあ、ここに向かってくるまでの道があの調子だから、さもありなんと言ったところか。
そして、そのコースでは予想通り複数人のウマ娘がトレーニングを行っていた。見るに……コースで併走しているのが4人、コース脇でストレッチしているのが3人、コース脇で併走を見ているのが2人、合わせて9人。チームだとすれば結構大所帯だが……
「んー、トレーナーが見当たらないな……」
普通、コース脇とかでタブレットとかストップウォッチを構えているトレーナーか教官がいるものだが、見える範囲にそういった感じのヒトミミは見当たらない。やはりチームとかではなく仲の良いウマ娘の集まりなのだろうか。
と、先ほどの呟きが存外大きかったのか、コース脇で併走を見ていた2人のうち1人がこちらに気がついた。
白毛と、
その生徒は軽く会釈をしてから、こちらに向かって歩いてきた。
「こんにちは。えっと……やっぱりマズいですかね。ここを使用するのって」
「え? いやぁ、使用禁止の通達も出てないから大丈夫だと思うけど……」
「ああ、それなら良かったです。なかなか、人が少ない練習場所が見つからなくて」
その生徒はほっとしたように一息つく。
「一応確認なんだけど、この集まりってチーム?」
「それは、ですね…」
「トレーナーはいません。同じ境遇の子達で集まってるだけなんですよ」
答えに詰まった白毛の生徒に変わってこちらの質問に答えたのは───
「うおっ」
おそらく背丈が190cmを超える生徒。ただデカいだけじゃない、ちゃんと出るとこは出てるしひっこむところはちゃんと引っ込んでいる。『グラマラス』とは彼女のような体型を言うのだろう。
「ああ、驚かせてしまってすいません。この大きさですから」
「あ、こちらこそごめん。失礼だったね。えーと、これって聞いていいのかな。『同じ境遇』っていうのは? 地元が同じとか?」
「……まあ、そんなところですね」
……なんとなくはぐらかされた気がするが、おそらくあまり踏み込まれたくない事なのだろう。
「えーと、トレセンの職員さんでよろしいんですよね。失礼ですがあまり見覚えがなく…」
「ああ、まあ最近採用されたからね。用務員の『メーデーコール』といいます。よろしくね」
そう名乗った瞬間である。
目の前にいた生徒2人の顔が固まった。
「……なんかマズい事言っちゃった?」
「あ、ああ、すいません。なんでもないんです。えーと私達も名乗った方がいいですね、ええ」
背丈の大きい生徒が、白毛の生徒から紹介し始めた。
「中等部のマツユキラッキーです」
「私は、高等部のセントエルモライトです。よろしくお願いします、コールさん」
セントエルモライトが手を差し出してきたので、それを握る。……瞬間、手先にびりっと電流が走った。
「あいたっ」
「あっ、ああ……すいません。どうも静電気がたまりやすい体質で……」
「はは、大丈夫大丈夫。びっくりしただけだから」
「ありがとうございます。時に、コールさん。一つお願いしたいことがあるのですが」
「何かな」
「その、このコースの事なのですが、見ての通り整備が追いついていないのです。ここが共用のコースなのは重々承知の上なのですが、整備をして頂けるようたづなさんに取り次いで頂けませんか?」
「ま、そううまくはいかないよねぇ」
翌朝、始業とほぼ同時に理事長室に昨日の件を伝えに行った私は、数分もたたずに頭をかきながら出てきた。
理事長からの返答は、「申し訳ないッ!今年初めに整備部門で退職者が発生し、人手が足りていないのだ!可能な限り早期に整備を実施するよう善処するッ!」とのこと。まあ人手不足の組織なんて大概そんなものだ。とはいえ……
「このまま放っておくってのも癪だしなぁ……」
あの35Lを使用していたウマ娘たちは生徒━━子供で、私は大人だ。子供が困り、大人に頼った。これに答えずして何が大人か。
「やってみるかぁ」
幸い、私に決まった業務はない。緊急の作業で呼び出しがかからない限り、時間はたっぷりと、ある。
━━━━
━━
白毛のウマ娘、マツユキラッキーがその日の授業を終え、トレーニングのためにいつもの35Lコースを訪れると、すぐに小さな変化が目についた。
「……看板が傾いて、ない?」
若干右に傾いていたコース名を示す立て看板が、しっかりとまっすぐ立っている。しかも、見てみれば塗装もし直されているし、看板の周囲に茂っていた雑草も短く刈りはらわれている。
昨日の今日でもう整備が入ったのだろうかと不思議に思いながらコースに入る。
そこに、大人が一人動いているのが見えた。
ご機嫌な様子で、角材に対してのこぎりを前後に動かしている。何か作っているのだろうか。
「(Holy cow.I'm talking to a dead man.みたいな歌)(修正済)」
マツユキは絶句した。
昨日コースにやってきた用務員、メーデーコールが ト ン チ キ な 歌 を歌いながらベンチを作っているのである!
「生還できる見込みは♪……ん? ああ、マツユキさん、こんにちは。これからトレーニング?」
「そ、そうですが……す、すいません。何から突っ込んだらいいか混乱してて」
「あーこれ? いやぁ、学園長に昨日の件伝えたら『人手不足で時間はかかるけど、可能な限り早めに対処する』って言われてさ。私お呼ばれされなければ基本暇だから、できることやっておこうと思って。ターフの整備とかは知識がないから触れないけど」
「いやまあそれも聞こうとは思ってましたが、それより今の歌……歌? 歌はいったい……」
そこまで発言したところで、メーデーコールのポケットからスマホの着信音が鳴り響いた。
「ちょっとごめんね。はい、メーデーです。
……は? マックイーンとレバノン料理を食べに行ったゴールドシップが相席になったカエル漁のおっちゃんから航空機のブラックボックスをもらってきたから海水に漬けてから真水に漬けろと言ってる?
何言ってんですか?
すいませんグレッグさん、英語で話してもらって構わないんでもう一回言ってくれません? ……そんな暇はない? 早くメーデーを連れてこなきゃブラックボックスをCVRとFDRに分解してBEAとNTSBにそれぞれ送り付けると言ってる?
な、なんて恐ろしいことを……!?
す、すぐ行きますからブラックボックスは絶対に分解させないで!あっ、でも一応真水には漬けて置かせてください!ご、ごめんねマツユキさん!急な仕事が入ったから行くね!こっちのベンチはできてるから自由に使って!じゃっ!」
メーデーはそういうと、慌てた様子で使っていた工具を工具箱に収め、慌てて走り出した。
まるで嵐のような、高速で流れるスタッフロールのような人だなと思った。
「……」
それはそれとして、引っかかることが一つ。
『I'm talking to a dead man.』
あのトンチキな歌の一節だ。直訳すれば、『私は死人と話している』となるこの文章。
「もしかしたら、あの人は……」
オレンジ色に染まり始めた空に、青と白の耳飾りが揺れていた。
続かない。少なくとも拙作2つに区切りをつけてからじゃないと続かない。
本文中に散りばめられたメーデーネタが全部分かったら、君も立派なメーデー民だ!