拙作2つが区切りついてからじゃないと続かない、みたいなことを言っていた投稿者がいたようですがあれは嘘だ。
メーデーコールの自主的な35Lコース整備は、1人という事もありゆっくりではあるものの、着実に進んでいた。昼夜が繰り返されるたびに、風雨に晒されて劣化したベンチが新しく作り直され、ひび割れたコンクリートタイルが交換されていく。
そんな作業の中で、メーデーは様々な35Lのウマ娘と知り合った。
「鉄骨が切れない? ワイヤー貸してくれたら私削っておくよ?」
「削るの? 切るんじゃなく?」
筋肉を信奉するマイラー、マッスルリーブ。
「おお、見てくださいコールさん。ギムリーさんがまたスタミナ切らして変な走り方になってます」
「んな事言ってる場合じゃないと思うんだよマツユキさんや。おーい!まっすぐ走らないと危ないよー!」
「癖なんだよォー!!」
スタミナ自体はあるのに、管理を間違えていつも道半ばでスタミナ切れになる中距離ウマ娘、ギムリーグライダー。
「ゲッホ、ゴッホ!!!!」
「そんな勢い良く氷水飲んだら咽せるでしょそりゃ。あーあー、前が水浸しだ。ほら、拭いたげるから」
「……」(両手広げ)
「む、無言で受け入れ態勢を……!?」
隻眼のスプリンター、ワンアイドヒーロー。
「おーい、雨風強くなってきたからあがって来なー」
「冗談はよしてくれ!せっかくの観測のチャンスじゃないか!コンディション1!!!」
「行っちゃったよ。あー芝が荒れるゥ〜……」
狂気の道悪巧者、ハリケーンハンター。
「猪に跳ね飛ばされた……って、大丈夫なの?」
「大丈夫、です。昔から、身体は丈夫なので」
「5mぐらい跳ね飛ばされてかすり傷で済むのは“丈夫”で片付けていいのかなぁ……」
イギリス生まれの小柄な異能生存体、Captain Strike。
「ウワーッ!? なに!? なんで血塗れ!? 大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、山走ってたら熊と取っ組み合いになっただけだから」
「大丈夫な訳あるかバカ!!!!!!救急車ァ!」
クソ度胸のステイヤー、アクロバットクルー。
「うわ、コースが田んぼみたいだ。ビッチョビチョ」
「あ、ハドソンさんがコケて……おお」
「あれは“おお”だな」
「なんて綺麗な緊急着水……ハドソンさんの着水はいつ見ても惚れ惚れするね」
「君ら重馬場ですっ転ぶのを『緊急着水』って言うのやめない? おーい、大丈夫ー?」
即断即決、ハドソンミラクル。
以上7人に加えて、リーダー格のセントエルモライトとマツユキラッキーの2名を加えた9名が、35Lに集うウマ娘達である。
……
「いやメーデー過ぎる」
職員寮の自室で、メーデーコールは頭を抱えた。
『メーデー!:航空機事故の真実と真相』という番組をご存知だろうか?
カナダのシネフリックス社が制作し、ナショナルジオグラフィックチャンネルで放送されている、航空事故を扱ったドキュメンタリー番組である。
この番組や、同局の番組である『衝撃の瞬間』のファンで、同じ回を何度も視聴したり、特徴的なフレーズを
斯く言うメーデーコールも、前世では『メーデー民』の1人だった。
オープニングで毎度騙され「
と、まあ、こんな感じでくだらない事をしていたのが前世のメーデーコールなのだが。
「いやぁ……ギムリーグライダーはそのまんま過ぎでしょ……誰だ命名したの……」
『ギムリー・グライダー』。
おそらくメーデー民の中でも一位二位を争うほどの知名度を誇る言葉である。
その由来は、1983年にカナダで発生した『エア・カナダ143便不時着事故』から。
詳細を語り始めると45分ほどかかる為省くが、ヤーポン法とメートル法の単位変換でミスがあり、燃料を予定の半分しか搭載せず飛んでって上空でガス欠、そのまま滑空して旧カナダ空軍ギムリー基地に不時着したという事故である。ヤーポン死すべし。
この事故そのものと、事故機体の事を『ギムリー・グライダー』と称する事があるのだ。
バ名、レース中の不自然なスタミナ切れ、そしてその際の癖になっているという『進行方向に対して身体を斜めに向けながら走る*1』走法。
「1個だけなら偶然って片付けられたけどなぁ……3個か」
これを「すげえ偶然だなぁ!」と片付けられるほどメーデーコールは純粋ではない。
よく考えてみれば35Lの他メンバーも奇妙なのだ。
そもそもコース名からして奇妙? そこは突っ込んではいけない。
35L……35L……()
しかし、メーデーコールは純粋ではなかったものの、
「まあそういう事もあるか。ウマ娘だし」
楽観主義者ではあった。
しかし、そんな彼女の考えとは裏腹に、事態は予期せぬ方向へと転がっていく。
『承知ッ!学園としては君の提案を尊重するッ!』
『書類関係はこちらで進めます。明日、メーデーコールさんとしっかり話し合ってくださいね』
「はい。……無茶を聞いてくださり、ありがとうございます」
『何、メーデーコールくんと“同郷”なのであれば、これが最善だと私も思う。ただし!無理強いはいけないのでその点は気をつけるように!』
「……ありがとうございます」
そのウマ娘は、電話越しに深々と礼をすると、一言断って電話を切った。
「……ごめんなさい、コールさん。きっとこれから、いっぱい迷惑をかけてしまうでしょう。でも私達を率いるのは、貴女でなければならないのです。この世界で、最も私達のことを理解できる、貴女にしか……」
そう独りごちるウマ娘の右耳には───青と白の耳飾りが揺れていた。
──────
───
「ああああああああミスったぁあああああああ!!!!!!!!!!!」
翌朝、メーデーコールは盛大に寝坊した。
久しぶりに前世の趣味を思い出して、色々と思い出せるメーデー民語録を紙に書き出していたらこうである。
職員寮の階段を駆け下り、学園へと突っ走る。
固定業務のない自由な身であるメーデーコールだが、朝礼だけは参加するように言われている。
学園全体の1日の業務、特に、どこのコースで整備作業が実施されるのかを把握しておくのは極めて重要なことだからだ。
しかし、今日は少し様子が違うようで。
「ん?」
職員用昇降口の側に緑色が見えた。
駿川たづなである。
いつもは登校する生徒を見守る為に校門に立っている彼女が、どういう訳か今日は職員用昇降口のそばに立っていた。
「おっはようございまーす!!!」
とはいえ、それを気にしていられるほどの時間的余裕がある訳でもなく、彼女の横を走り抜けようとコースを定めたその瞬間である。
たづなが、進路を塞ぐように手を横に伸ばした。
「うおっマジか!?」
地面を蹴るのをやめ、両脚で踏ん張って思い切りブレーキをかける。ウマ娘用作業靴のアウトソールを盛大に削りながら、どうにかたづなの1m手前で停止した。
「お、おはようございます……あれ、まだギリセーフですよね?」
「ええ、時間はまだ2分ほどありますよ。メーデーさんの脚ならば間に合うと思います。ですが、理事長室で少々お話が。整備課のほうには事情を説明していますので、ついてきてください」
「えっ」
「あっこれクビになるかもしんねえ」と、メーデーコールは戦慄した。
「辞令ッ!メーデーコール殿!チーム『35L(仮)』の顧問を務めてもらえないだろうか!」
秋川理事長が、『辞令』と達筆な筆文字が書かれた扇子を掲げながらそう宣言した。
「……はい?」
「む、聞こえなかったか? ではもう一度。辞令ッッ!!!!」*2
「うおうるさっ。大丈夫です聞こえてます聞こえてました!意味が理解できなかっただけで!」
「辞令の書類としてはこちらになります」
たづなさんが渡してきた書類には、今の秋川理事長の言葉が大体そのまま記されていた。秋川理事長の押印もあり、一目で正式なものだと判別できる。
「えーと……確認ですけど、私の事情は覚えてますよね? トレーナーとかの知識は一切無い事も」
この世界に転生してすぐ、色々あって秋川理事長と駿川たづなにこの身の上については共有したのだが、にも関わらず今回こういう辞令が出た。
「はい、そこはしっかりと。実は、これはマツユキラッキーさんをはじめとした生徒の皆さんからの要望でして」
「マツユキさんの……あ、チーム名の『35L(仮)』ってのはもしかして……」
「うむ、第35L練習コースに集まっている9名のウマ娘の要望だ。本来であればチームの結成はトレーナーとウマ娘間で話し合われるもので学園が間に入ることはないが、君の立場が特殊な為こういう形に相なった、という訳だな」
な、なぜ…?
確かにあのコースを自主的に整備してはいたが、言ってしまえばそれだけだ。それに、自分が用務員であるのは伝えたはずだし、こういう方法を取ってきたのなら理解もしているはず。
理解が追いつかない。なぜ35Lのウマ娘達は、自分にチーム顧問を……『顧問』?
「待って下さい、『
「はい。こちらとしても、トレーナー免許を持たない職員をチームトレーナーとするのは承知できなかったので、あくまで練習の監督やレースの付き添いをする『顧問』とする、という妥協案ですね。これについてはマツユキさんも了承していらっしゃいます」
「トレーナー無しでレースって出場できるんですか?」
「『制度上は可能』というだけで、学園としては推奨していません。本来であればトレーナーが担当する、出場申請に宿泊施設の確保などの業務や、レースプラン、トレーニング案の作成、練習場の確保なんかもすべて自分でやらなければいけなくなりますから」
「なるほどぉ……ん〜…確認なんですけど、これ私の意思って反映されます?」
「無論ッ!35Lのウマ娘達とよく話し合って決めて欲しいッ!もちろん、この件を断ったとしても業務上不利になる采配は決してしないと約束しよう!」
「……まあ、そういう事なら。今日よく話し合って、可能な限り早期に決定します」
「はい。よろしくお願いします」
──────
───
「……来たね」
あの後35Lに移動はしたものの、結局どうするかは決まらず。「とりあえず話を聞いてから決めよう」という考えに至った。
彼女らが来るまでの間、ついでに整備作業も進めておく。
そうして時間を潰していると、コース入り口に白毛のウマ娘が見えた。
「コールさん……」
「聞いたよ、マツユキさん。私にチームの顧問になって欲しいって?」
「……迷惑、だったでしょうか」
マツユキはいつにも増して緊張しているように見えた。相当悩んだのだろう。
「迷惑か、どうかはまだ判断できないかな。まだ君から何も聞いてない」
メーデーコールはそう言うと、以前作った木製のベンチに腰掛け、隣をポンポンと手のひらで叩いた。
意図を察したマツユキがメーデーコールの隣に座る。
「それで、なんで私にチームの顧問を任せようと思ったの?」
マツユキを緊張させないよう、努めて優しい声を出すように心掛けながら問いかける。
「……貴女しか、考えられないからです」
マツユキは力強くそう言い切った。
「買い被りすぎじゃないかな? トレーナー免許も持ってない、ただの用務員だよ?」
「“ただの”では、無いですよね」
「……どういう意味かな?」
「貴女には……
思わずベンチから滑り落ちる。
「どッッ……どどど、どういう意味かな?? わわ私にはなんの事だかさっぱり」
「感情が出てますよ。特に耳と尻尾に」
「ハッ!?」
「……仏教の考え方では、『輪廻転生』という物があるそうです。命あるものは何度も転生し、人だけでなく動物なども含めた生類として生まれ変わる、と」
「ま、まあ…言葉だけなら聞いた事はあるけど。私が、それだと?」
「はい。……ただまあ、これについては昨日それらしいのを調べたら出てきただけなので、確信に至った経緯はまた別ですが」
「別…っていうと?」
「『I’m talking to a dead man』。覚えがありますね?」
そう、メーデーコールが作業の度に口ずさんでいた、前世でよく聞いていたあの歌の一節である。*3
「あ~………え、マジで? あれ? 確信に至った経緯アレなの?」
「はい。なぜあの言葉が歌になっているのかはさっぱりですが」
「……待って、待ってね? うん。私はまあ、そうだよ。前世の記憶がある、それは認める。じゃあ───あなたは? まさか、あの歌ひとつで私に前世の記憶がある、なんて思いつくわけがない。それができるのは、それが意味する何かを知っている者、だけ…………」
そこまで言って、一つの可能性に至った。
マツユキもそれを察したのか、くすりと笑みを浮かべる。
「そうだ、と言ったら?」
「マジで???? えっ、もしかして前世のエアカナダの関係者? マツユキさんが?」
「あっいえ、私は別です。関係者……関係者? 集まりの中でエアカナダの関係者と言えるのはギムリーさんですね」
「あっ、そりゃそうか。『ギムリーグライダー』って名前だもんね。…………今なんて? ”私は別です”?」
「何だと思います?」
「嘘でしょ……あっちょっと混乱してきた。あなた達何者? まさかメーデー民?」
「……『メーデー民』? なんです、それ?」
メーデーコールの中では核心に迫る物だったその問いは、本気で「急に何言ってるんだこの人」と思っているであろうマツユキの表情でお釈迦になった。
「嘘でしょ……えっ、あの、ナショナルジオグラフィックの『メーデー!』って番組、知らない?」
「ナショナルジオグラフィック、の……あー……事故の後にカナダ人が何か取材に来たというのは聞き及んでいましたが、あれってナショナルジオグラフィックだったんですか」
「え?」
「え?」
沈黙。
「いよーう、お疲れさん2人ともぉ」
声のした方を見ると、先ほど話題に上がったウマ娘、ギムリーグライダーがジャージ姿でこちらに歩いてきていた。その後ろには他の35Lのウマ娘達も見える。授業が終わったのだろう。
そのギムリーに、ベンチから立ち上がったマツユキが叫んだ。
「ギムリーさん!違ったっぽいです!」
「何が?」
「マジか!? じゃあアンタ何者なんだ!?」
「何が???」
「まず、前提の認識から合わせましょう」
ギムリーや他ウマ娘の参戦でわちゃわちゃした状況を両手をパンッと叩いて収めたのは、この35Lのまとめ役であるセントエルモライトである。
「コールさん、貴女は前世の記憶があるんですね?」
「まあ、そうだね。前世はヒトミミ、つまり人間だったよ」
『人間だった』と言った瞬間、他ウマ娘、先程まで話をしていたマツユキ以外のウマ娘がざわついた。
「な、何?」
「やはりそうですか……コールさん、私達にも前世があるのは聞きましたか?」
「うん、それは今マツユキさんから聞いたけど」
「実は、『前世』とは言ってもコールさんとは指す対象が違います」
「……どういうこと?」
「私達の前世は、“人間ではありません”」
「は?……はぁ!?」
「マツユキと話が合わなかったのはそこのすれ違いが原因でしょう。私達も、コールさんの前世は私達と同じだと今日まで疑っていなかったので」
「あ、あー……マツユキさんが『チーム顧問はあなた以外ありえない』って言ってたのはそういう……」
「あっ、ちょっ……」
「マツユキ〜、お前って奴はそんな愛の告白みたいな言葉でこの人口説いてたってのか」
「ちっ、ちがっ、そういうつもりでは……!」
アピエーターサングラスのウマ娘、ハリケーンハンターに揶揄われたマツユキが顔を赤く染めて必死にそれを否定する。
「じゃあ、貴女達の前世って?」
メーデーコールの疑問に、セントエルモライトは少し困ったように頬を掻いた。
「正確に表現できる言葉を私は持ち合わせていないので、あくまで抽象的な表現にはなりますが……『事故機体そのもの』ではないかと私は考えています」
「『
「はい。参考までに、私たちが前世どういう物だったかをそれぞれ紹介しますが……」
「あ、待って待って。当てたい。この世界で唯一のメーデー民として外すわけにはいかない」
「は、はあ」
「ねえ、メーデー民って何?」
「俺に聞かれてもなぁ……」
ワンアイドヒーローとアクロバットクルーが首を傾げる中、メーデーコールは改めて9人の顔を見つめる。
マツユキラッキー、セントエルモライト、ギムリーグライダー、マッスルリーブ、ハリケーンハンター、ワンアイドヒーロー、アクロバットクルー、ハドソンミラクル、Captain Strike……
ウマ娘の話になるが、ウマ娘は元ネタにかなり忠実な要素が多い。勝負服(ウマ娘・現実)の類似や、『癖』として描写される行動などがそれに当たる。
そこから考えれば、そう難しい物でも無いはずだ。
チーム『35L(仮)』のウマ娘の元ネタを考えてみよう!全部わかった君はプロのメーデー民だ!