《前回の誤字報告者兄貴姉貴》(敬称略)
貧弱な自分、Simca V、アカギ
ありがとナス!
そのウマ娘には才能があった。
常識を置き去りにするような、自由で強大な走り。
大地を揺らし、雨を跳ね除け、風のように駆ける彼女。
そんな彼女には、悩みがあった。
彼女をスカウトせんと集まるトレーナー達が口々に語るのは、「君ならG1勝利も夢じゃない」「クラシック三冠だって夢じゃない」といった栄誉の話。
彼女にはそれが、どうしても魅力的な話に思えなかった。言葉を選ばず言うなら理解ができなかった。
こんな状態でトレーナーがつくはずもなく、ついには友人から「この状態が続けば出走拒否とみなされ、退学もありうる」との警告まで受けてしまった。
彼らが望むものを叶える気になれない、一緒に歩んではあげられない。かと言って、こちらに無理に合わせてもらうというのも申し訳ない。
彼女はすっかり堂々巡りに陥っていた。
そんな折、こんな噂話を耳にした。
「学園の隅っこのレース場あるじゃん。あそこの子たち、トレーナー無しでレースに出ようとしてるらしいよ」
「トレーナー無しで……って、できるの? そんなこと」
「なんか規則上はできなくはないんだって。ただ、レースに関する書類だの、レース場への交通手段の確保とか宿泊場所の確保とかも全部自分らでやらないといけなくなるから推奨はできないって話みたい」
「あ〜……なら、それやるにしても最終手段かなぁ。3年間書類に悩まされるぐらいなら、トレーナーにスカウトしてもらえた方がいいかも」
「ねー。35Lの子達ってその辺どうするのかな」
「ていうか前から思ってたんだけど35Lって何? あそこだけコース名おかしいよね」
「35L……35L……」
「どしたの急に」
『
おお。
それが本当ならなんと魅力的な話か。トレーナーに縛られることなく、自由に走れるということではないか。
書類の話は少し気になるが、とりあえず本人らに話を聞きに行こう。
確か35Lと言ったか、聞き覚えのあるコースだ。あそこには同期もいるし、以前とある事情でお世話になった事がある。顔見知りぐらいには思ってくれているだろう。
「うふふっ、楽しくなりそう…!」
そのウマ娘は学園の端の方へと足を向ける。
その足取りは、先程よりも幾分か軽いものになっていた。
近くの茂み。
「いやぁ今日もウマ娘ちゃんがかわいいねぇデジたん」
「でゅふふ……ですねぇ。おや? 見て下さい同志。あそこの道ゆくウマ娘ちゃん」
「ん? おー……あらぁご機嫌な足取り。どしたんだろ」
「それに向かう方向も変ですね、あの方向には特に何もなかったはず……」
「……いや、デジたんは知らなくて当然だけど、あっちには整備が追いついてないコースがあるね、35Lって言ったかな確か。変な名前のコース」
「ほう……そこにご機嫌そうに向かうとは?」
「なんでしょうなぁ……ねえデジたん」
「なんでしょう同志」
「尾行したくない?」
──────
───
「そういえばなんだけどさ」
チーム『ポラリス』結成から数日たったある日のこと。
いつものように35Lコースでコツコツと整備を進めていたメーデーコールがふと、といった様子で口を開いた。
隣で、なんらかの資料とストップウォッチを片手に持ったストラことCaptain Strikeがその言葉に反応した。彼女の視線の先では、コースで併走*1しているギムリーグライダーとマッスルリーブの姿がある。
「どうされました?」
「ポラリスの中だとエルモがデビュー済でシニア級、ギムリーとリーブがもうすぐデビューなんだよね?」
「そうですね。お二人は7月後半のメイクデビューを、先輩の次走は来月の目黒記念を予定しています」
「レース関係の提出書類とかってどうしてるの? トレーナーがいないわけだから自分らでやってるんだろうけど」
「その通りです、普段は皆さん自分で用意されています。トレーナーがついていなくてもレースに出られるのはありがたいですね」
「チーム顧問の話初めてたづなさんにされた時にも言われたんだけどさ、自分達で書類用意するの大変じゃない? 言ってくれたら私やるよ?」
「……コールさん、我々全員フライト経験者ですよ? 1回のフライトの度にどれだけの書類を用意してきたとお思いで?」
「あっ、そうか」
「しかもハドソンさん以外はデジタルの“デ”の字が出たり出なかったりしていたような80〜90年代出身ですよ? 1レース分の書類ぐらい朝飯前です。まあ、気持ちだけ受け取っておきますよ」
「すごいねぇ、私の仕事がないや」
「何を仰います、コールさんの仕事はこのチームを見守る事ですよ。帰りを待つ人がいるのといないとではやる気が違いますから」
「そういうものなの?」
「そういうものですよ」
そういうものらしい。
「じゃあ、トレーニングとかどうしてるの?」
「全員独学みたいなものですねぇ。教科書も参考にはしていますが、基本的な事しか載っていないですし」
「……じゃあ、その資料とストップウォッチは? タイム取ってるだけ?」
「ああ、これですか。気になります?」
「うん。ここに来ると誰かしらがそれ持ってるから何だろうなとは思ってたんだけど」
ストラは、突然まるで秘密兵器でも見せるかのように真面目な表情になった。
思わず肩が強張る。
「今日の学食の献立です。こっちはただのストップウォッチ」
ズコー
……ベタなお笑いみたいなずっこけ方をしてしまった。
「トレーニング資料とかじゃないの!?」
「そんなんあるわけ無いじゃないですか。余白にタイムは取ってますが、Lucky Charm……一種の魔除けですよ、日本で言うところのお守りみたいな物です」
「は、はあ……“魔除け”? どういうこと?」
「その、一部の熱心なトレーナーがですね、我々だけで練習してるとたまに「君たちの為に練習を見てあげよう!」「練習メニューを持ってきた!」とお節介を……」
「別に悪いことでは無いんじゃ…」
「その練習メニューに『絶対バ群に慣れさせる』『無謀な逃げ戦法を堅実な先行策に矯正させる』と書いてあったら?」
「あー……難儀だねぇ」
「本当ですよ。おや?」
ストラが何かに気がついたように顔を上げた。メーデーもそちらの方向を見る。
どうやら誰かが来ていたらしい。そこそこ距離があるので顔は見えないが、ポラリスメンバーではない別のウマ娘だろうか。
そのうちに、来客ウマ娘が気がついたのか、手を挙げながらこちらに歩み寄ってきた。
「あら、シービーさんですね」
「知り合い?」
「知り合いというか顔見知り?ですかね。なかなか早い人ですよ、素人目で見ても」
「へー」
そのウマ娘が近づいてくるにつれ、なんとなく既視感を感じるようになってきた。
足が速い、シービー……なんか聞いた事があるような……
「あっ」
「?」
腰まで伸びた茶髪に、横に跳ねたサイド、スラリと伸びたスレンダーな身体に、頭の上に乗った『CB』というバッジのついた白いミニハット。
「おーい!」
自由なレースの世界を愛するクラシック三冠ウマ娘、ミスターシービー、その人である。
「お久しぶりですシービーさん。またトレーナー達のスカウトですか?」
「いや、今日はそれじゃなくて。エルモいる? トレーナー無しでレースに出るって聞いたんだけど」
「あー、先輩は今日は休養日でして。マツユキさんとクルーさんを連れて駅前に行くとは聞いていますが」
「あちゃー、タイミングが悪かったか」
「急ぎの用でしたら今連絡しましょうか?」
「んー、いや、急ぎではないからまた後日でいいかな。ところで……」
ミスターシービーがこちらを向いた。うおっ顔良っ。
「へえ……噂には聞いてたけど、本当にウマ娘なんだ。トレセンの職員でウマ娘って初めて見たな。私、ミスターシービー。よろしくね」
「め、メーデーコールです」
うおっ顔良っ。(2回目)
「えーと、メーデーさんはトレーナーじゃないんだよね? 確か、用務員って話だったかな」
「ええ、『顧問』って体でこのチームを預かってて」
「じゃあ、レース関係の書類とかも貴女が?」
「いや、全部この子たちが。仕事がなくって嘆いてたところだよ」
「本当にそうなんだ、ねえストラ、ちょっと書類について教えてくれない?」
「構いませんが……理由をお聞きしても?」
「ちょーっと、ねぇ……」
そうやって話していると、併走していたギムリーグライダーとマッスルリーブが戻ってきた。
「走り込み終わったぞー……って、シービーじゃん。よっす」
「やっほー!」
「やっ、2人とも」
シービーと、ギムリー、リーブの2人が仲良さそうにあいさつを交わす。
その後は、そちらと書類関係の話を始めた。もうしばらくかかりそうだと思っていると、隣に立っていたストラがこちらに顔を寄せてきた。
「コールさん、さきほどから少し様子がおかしいですが、シービーさんと何かあったんですか?」
「何もない。初対面だよ、うん。少なくとも今世では」
「……あの方も前世があると?」
「その辺説明するってなるとかなり大規模な話になるから今は省略するけど、そうだな。クラシック三冠ってあるでしょ?」
「ええ。ミドルディスタンスの最高峰、Two Thousand Guineas,Derby,St. Leger……あ、日本だとサツキ、日本ダービー、キッカでしたっけ。日本のクラシック三冠は
「あれが史上3人目の”三冠馬”だって言ったらさぁ、どう思う?」
「……本当ですかそれ」
「マジマジ、歴史が変わらなければね。あと今のシンボリルドルフ会長が4人目」
「それはぁ……非常にまずいですね」
「まずい? 何が?」
「……ギムリーさんとリーブさん、特にギムリーさんですね。彼女の適性はマイルから中距離、トレーニング次第で長距離もまあギリといったところで、デビュー後の大目標もクラシック三冠を目指しているんですが…………その、シービーさんと同期なんです」
「……83世代だったかぁ~~~~~~~~~~~~~~~~」
思わず天を見上げる。まさかの三冠ウマ娘と同期、しかも中距離となるとバチバチにやりあう関係になる。シービーだけじゃない、カツラギエースをはじめとした強者もいるし、シービーが今年デビューするのなら来年には『皇帝』シンボリルドルフが待ち構えているということだ。これはひどい。
「ど、道理で速いわけですね……」
「……これさ、どうする? 伝える? あの2人に」
「……いえ、これしきのことで動揺するようなお2人ではないと思いますが、不確定要素は増やしてもいいことはないでしょう。警戒だけしておきます」
「うん、それがいいよ。2人だけの秘密、ね」
「ンッゲフッゲホッ……A,Affirmative……」
どうして顔が赤いんですかね。ちょっと耳元で囁いただけなのに。
━━━━
━━
35Lから少し離れた茂みで、双眼鏡を構えた2つの影があった。片方は、ピンク色の髪に赤いデカいリボンをつけた、制服姿のウマ娘。
もう片方は、シンプルなリクルートスーツに身を纏った若い女性だ。
「ほぇ~、シービーさんにこんな交友関係があったとは」
「……」
「あの作業服のウマ娘ちゃん……いや“さん”か。噂に聞く用務員のメーデーコールさんですね。ほかの方々はチーム『ポラリス』の方々。くっ、デジたん一生の不覚……35Lコースの存在を知らなかったとは……」
「……用務員? そうなの?」
「え? ええ。つい最近採用になったそうで。……てか同志? どうしました? 顔怖いですよ?」
「あ、ああ……ごめんごめん。……あのメーデーさんが、ミスターシービーの方を見ながら“三冠馬”って言ってたのが聞こえてね」
「“三冠バ”? よ、よく聞こえましたねこの距離で。あ~……まあ、実際評判は高いみたいですよ? 私も事情は存じ上げないですけど、誰かトレーナーさんがついたら三冠も夢じゃないかもですねぇ……」
「ええ……本当に、そうね」
厳しい目でメーデーコールを見つめるその女の胸には、蹄鉄の意匠が刻まれたバッジが光り輝いていた。
「同志はシービーさんのことスカウトしに行かないんですか? というか、「早く担当を見つけるかどっかのチームでサブトレになれ」ってせっつかれてるって……」
「ん~~~~~私にはデジたんがいるからなぁ」
「一昨日会ったばかりじゃないですか私たち」
「( ´・ω・`)ねえ知ってる? 正論ってね、時に人を傷つけるんだよ」
感想欄で運対が相次いでるのは皆さん承知の上でしょうが、それを踏まえて新規ウマ娘とかのアイデアを投げつける場を活動報告の方に設けましたわ!皆さん新規ウマ娘とか思いついたらこれからは感想欄でなく活動報告の方に投げてくださいまし!