女幹部でも追加戦士になれますか? 作:改々
逆曇シアは困っている人を放ってはおけない典型的なお人好しだった。
たとえ遠い場所で発生した、常人なら気のせいだと忘れる程に微少な魔力だったとしても、誰かが襲われている可能性を考え助けに向かう。これも彼女なら当然の行動。
結果、厄介事に巻き込まれたとしても。
「こういう時ってどうすればいいの……? あっ、お母さんやお父さんはどこ?」
「誰なのか知らない」
目の前の少女は淡々と答える。どこか感情の薄い、掴みどころのない印象を受けた。身長が低い点も含め、髪が地面に届くくらい長い。
シアと出会ってから表情一つ変えていないのも合わさり、どう対応すればいいのか判断に困る。
「えっと、迷子、だよね……。名前を教えてほしいな」
「零音」
「わかった。零音ちゃんだね。苗字は言える?」
「知らない」
「じゃあどこから来たのかわかる?」
「知らない。初めて」
怪人が暴れているなら、まだいい。被害を抑えながら倒せばいいだけ。普通の迷子だったとしても警察に行ったり、一緒に親を探してあげられる。
でも全裸で家も苗字も不明なのは初めての経験だった。加えて気がかりなのは、周囲に少しだけ怪人らしき魔力が残存していることだ。
(川で遊んでいたら流されて、その時に水着を紛失したのかな……この時期にこんな場所で? 今は秋だから完全にないとは言い切れないけど)
「零音ちゃん……怖いこと聞くね。怪人に襲われなかった?」
「……」
相変わらず無表情。今までと違い返答はない。
「わからないのかな……? とにかく無事で良かった。まずはこの場所から離れよう。一旦わたしの家に──あっ、でも服を着ないと。でも服は家にしかないから……」
「このままでも別にいい」
「裸はダメだよ!? わたしがいじめてると思われて通報されちゃう!」
その後、自分が脱ぐと説得したことによりシアは上半身を下着姿で、零音はサイズ違いの服を着ながら数分間歩いた。
◆◆◆
ここら周辺では間違いなく最も豪華で、日本中を探しても同レベルの家は両手で数えられる程度のもの。
シアの家──逆曇邸とはそのような場所だ。
「広い家……でも人がいない?」
「わたし、両親とは別々に暮らしてるの。普段はメイドのブランって子がいるんだけど今はいないから」
「そう」
初めこそ圧倒されていた零音だが、すぐに慣れたらしい。汚れた体を洗うため、泳ぎの練習ができる程広大な風呂に入れられる。
「ごめんね、わたし用のサイズしか服がなくて」
「別にこれでいい」
体が綺麗になった零音は、一般的なホテルよりも更に豪華な部屋へと案内されていた。零音に合うサイズがなく若干不恰好なものの、全裸よりは数倍マシ。
それに服なんて気にする間もなく零音の思考は循環し続けていた。
「じゃあ私は寝る。おやすみ」
「えっまだ昼だよ?」
しかしベッドに入った零音は止まらない。一瞬にして寝てしまっていた。
きっと疲れていたのだろう。シアは静かに自分を納得させ部屋を出た後、思考を巡らせる。
(やっぱり、気のせいじゃない。僅かに零音ちゃんから怪人の魔力を感じる)
そもそも怪人は人に化けて行動しているため普通の人には見分けられないのだ。それは
しかし怪人が怪人としての姿を晒す、或いは魔法を使うなどの行動を取れば確実に魔力が漏れ痕跡が残る。人に擬態した怪人を怪人と断定できる確実な証拠。
そして誕生したばかりの怪人や魔力コントロールが下手な怪人は、何もしていないのに
零音の正体は怪人。そんな最も安直かつ単純な説をあえて除いた時、考えられる可能性は一つ。
(まさか怪人が零音ちゃんに何かした……? だってあの子、記憶や感情が欠落してるように見えた。服を着なくても平気で両親も知らないなんて……おかしい。怪人に奪われたのかも)
シアはこう見えて頭が回る。明日、零音に怪人について心当たりがないか改めて聞いてみようと決心した。
その為には準備が必要。こういった役目が得意らしい人物を呼んでみようとまで考えた所で、外を見ると夜だった。
翌日。ぐっすりと眠った零音を起こし、朝食をとる。
そして怖がらせないように配慮しながら、シアは昨日の疑惑について話していく。
本来ならこういった説明は別の人に任せるのだが到着していないため仕方がない。昨日呼んだ筈なのに、軽く見られてるなとシアは内心苦笑いした。
その人物は怪人の仕業かどうかもわからないような迷子に付き合う程暇ではないだけかもしれないが。
「零音ちゃんは怪人って知ってる?」
「……詳しくない」
「じゃあ怪人は──何を目的にしているのか」
「知らない」
嘘だ。零音は全て知りつつもあえて黙っている。シアには知り得ないことではあるが、零音の頭の中はどう誤魔化すかで必死だった。
反応を見たシアは食べ物を口に入れながら、優しい声を心掛けて話す。
「怪人は同族を増やすのが目的なの。その方法は魔力を持ち魔法が使える人、つまりその為の"魔印"を持った人に強い憎しみを抱かせること。そうすれば魔印が狂い、その人は怪人になっちゃう」
故に怪人は人を襲い、人に危害を加え続ける。種族として人間と敵対する運命にあるのだ。
そしてシアがこの話をした理由も零音にある。
「零音ちゃんって魔印持ちだよね。漏れてるよ、魔力」
「……!」
「だからって何もする気はないの。でも心配で……零音ちゃんが怪人に狙われているかもって考えたら」
ピンポーン、と来客の合図を示す音が鳴った。連絡よりも遅い訪問に若干の不満を覚えつつもシアはカメラを覗く。
「遅いですよ
「誰と勘違いしてんの?」
「え────っ零音ちゃん逃げて!」
言い終わるより先に窓ガラスが割れた。相変わらず無表情で食事を続ける零音と、臨戦体勢をとるシア。そして割れた窓から侵入してくる見知った顔。
零音にとっても想定外の来客であり内心とてつもなく焦っていることは誰にも伝わっていない。
「こんな良いトコ住んでたんだ〜。ボクにも分けてほしいな。ソイツとか」
「零音ちゃんを狙いに来たの!? ティカ!」
シアにとっても家に怪人が現れたのは初めて。それも並の怪人ではない。目の前の相手は、仲間達と協力してやっと撃退できる強敵。
零音を守るように立ち塞がり、
普段ならこうもあっさりとはいかない。ティカに全ての意識を向けた弊害だった。
「えっ!?」
拘束されたことなんかよりもずっとシアにとって衝撃だったのは、背後から掴まれたこと。気持ち悪い触手らしき何かが強烈に手足を締め付け、苦悶の表情を浮かべる。
「うっ……な……!」
「ナーイス最強兵器ちゃん」
「零音でいい……」
「前、ボクには名乗らなかったくせに」
触手を出していたのは零音に他ならない。混乱するシアをティカが楽しそうに痛めつけていく。
「なっ、なんで……!? 零音ちゃん……!」
「私は怪人だから」
必死に零音へと呼びかけるシアの姿は非常に滑稽だっただろう。
「どうする? コイツ。頭を握り潰しちゃう? それともコイツの前で家族を皆殺しにした方が面白いかな?」
「や、やめて! お願い、殺すならわたしだけにして!」
「シアは殺さない」
血を吐き、ボロボロになりながらもシアは希望を捨てていなかった。昨日の夜、仲間の
加えて零音は初めてシアの名前を呼んだ。絶望に染まりそうだったシアの瞳が僅かに光を取り戻す。
が、それも本当に一瞬。すぐに絶望は舞い戻る。
「えぇ? あのエボルヴィングペンダントってヤツ……所有権があるからさ。シアを殺さないとお土産にできないじゃん!」
「既に手土産はある」
零音が見せたのはシアのものとは別のエボルヴィングペンダント。シアは綺麗なピンク色だが、零音が持つのは深い紫色。
見覚えのあるシアは何が起こったのかを即座に察する。そして、心の底から嘘だと思いたかった。
「……それは湘さんの……」
「あの人はもう食べた。無防備だったから」
「は……?」
待ち人は既に死んでいた。そんな単純な事実をシアは受け止められない。
叫び出したシアを散々笑ったティカはその様子を見て納得する。
「あっぐ、ああっ、違うの湘さんがそんな、違うの……戦闘になるなんてっ」
「ぷっ、確かにこんな虐めて楽しいヤツは殺したくない気持ち判るカモ。いいシュミしてるよ、レイネ」
闇に繋がるポータルが開く。ティカが手招きし零音もそれに続く。
「うっ、ううああああ!! 待って、待ってよ零音ちゃん……こんなの」
「安心して。シアは最後」
崩れ落ちる意識の中、相変わらず無表情で無機質な顔がシアを見つめていた。