神の代行人を名乗る狂信者たちを灰にし、小猫との熾烈な手合わせを終えた夜。暁連の自宅には、戦場のような殺伐とした空気とは無縁の、どこか家庭的で、それでいて密やかな熱を孕んだ時間が流れていた。
台所から聞こえてくるのは、パチパチと軽快に跳ねる油の音と、出汁の芳醇な香り。
エプロンを身に纏い、手際よく菜箸を動かしているのは、グレモリー家の「女王」こと姫島朱乃だった。彼女の黒髪は後ろで緩くまとめられ、うなじから漂うのは戦場での雷光の匂いではなく、石鹸と家庭的な温もりだった。
朱乃「連、もうすぐ揚がるわよ。お皿とお箸、並べてくれるかしら?」
連「……ああ」
連はソファから立ち上がり、棚から無造作に皿を取り出した。
自分の家でありながら、他人が台所に立っている光景にはまだ慣れない。ましてや、それが自分と同じ「呪われた血」を宿し、戦場ではサディスティックな笑みを浮かべる朱乃となれば尚更だ。
食卓に並べられたのは、山盛りの鶏の唐揚げと、湯気が立ち上る豆腐とわかめの味噌汁。そして炊きたての白い米。
至って庶民的なメニューだが、そのどれもが完璧な彩りと香りを放っていた。
連&朱乃「いただきます」
二人の声が重なる。
連はまず、揚げたての唐揚げを一、口齧った。サクッとした小気味よい食感の後に、じゅわりと溢れ出す肉汁と、程よく効いたニンニク醤油の風味が口いっぱいに広がる。
連「……美味いな。あんた、こんなに料理が上手かったのか」
朱乃「ふふ、嬉しいわ。連の好みが分からなかったけれど、男の子ならこういうのが一番元気が出るかと思って」
朱乃は自分の分にはほとんど手を付けず、連が美味そうに食べる姿を、頬杖をついて満足げに見つめていた。その瞳には、いつもの挑発的な色ではなく、どこか深い慈愛のような光が宿っている。
連「……何だよ。食べないのか」
朱乃「ええ、あなたのその食べっぷりを見ているだけで、私はお腹いっぱいよ。……ねぇ、連。小猫ちゃんとのこと、本当にかっこよかったわ。彼女、あんなに必死な顔、部長にさえ見せたことがないのよ?」
連は味噌汁を啜り、一息ついてから答えた。
連「あいつは、自分の中に眠る『力』を、ただの呪いだと決めつけていた。……昔の俺もそうだった。だが、俺たちの生きる世界は、綺麗事じゃ守れない。呪いだろうが汚れだろうが、それを自分の血肉にして振るう覚悟がなきゃ、理(システム)に飲み込まれて消えるだけだ」
朱乃「……そうね。私も、自分のこの血を……雷光を、ずっと忌み嫌ってきた。でも、あなたが『俺の炎も呪いだ』と言い切って、それを誇るように振るう姿を見て……少しだけ、自分を許してあげたくなったの」
朱乃の手が、テーブルの上で連の手に重なった。
彼女の手は驚くほど白く、そして僅かに震えている。
朱乃「連……。あなたは、私を一人にしないわよね? 世界中を焼き尽くしても、私の隣にいてくれる?」
連は、重なった彼女の手に少しだけ力を込めた。
連「……俺は誰の下にもつかない。だが、俺の隣に立とうとする奴を、無理に引き剥がすつもりもない。朱乃、あんたがその雷で俺の背中を焼かない限り……俺の黒炎が、あんたの道を照らしてやるよ」
不器用な、だが連なりの誓い。
朱乃は一瞬、少女のような幼い笑みを浮かべ、それから「……ええ。約束よ」と、蕩けるような声で応えた。
食後の談笑が終わり、時計の針は深夜を回ろうとしていた。
連は立ち上がり、空になった食器を手際よく食器洗浄機に並べていく。
連「さて……そろそろ送っていくよ。夜道に変な宗教団体が残っているとも限らないからな」
連が上着を手に取ろうとしたその時。
背後から、柔らかい感触と、石鹸の香りが押し寄せてきた。
朱乃が、連の背中にしがみつくように抱きついていた。
連「……朱乃?」
朱乃「ねぇ、連。……今夜は、帰りたくないわ」
耳元で囁かれる吐息が、連の昂ぶった神経を再び刺激する。
朱乃の腕が、連の首筋に絡みついた。
朱乃「泊まっていっても、良いかしら? ……一人は、嫌なの。あなたの黒炎の匂いがするこの部屋で……もっと、あなたの近くにいたいの」
連は、自分の右腕に宿るアザトースが、呼応するように熱を帯びるのを感じた。
天使と悪魔のハーフである自分と、堕天使の血を引く彼女。
不浄とされる者同士が、夜の静寂の中で、互いの体温を求めている。
連「……好きにしろ。客間なんてないぞ」
朱乃「ふふ……構わないわ。あなたの隣があれば、それで十分よ」
了承を得た朱乃は、パッと顔を輝かせると、連の頬に軽く唇を寄せ、そのままスキップするような足取りで脱衣所へと向かった。
朱乃「じゃあ、私、お先にお風呂をお借りするわね? ……連。……覗いちゃ、ダメよ? ……うふふ、それとも……?」
茶目っ気たっぷりにウインクを投げかけ、彼女は脱衣所の扉を閉めた。
直後、ジャーッという水の音が聞こえてくる。
一人、リビングに残された連は、ソファに深く身体を沈めた。
外では、夜風が窓を叩いている。
神の代行人を葬り、小猫を導き、そして今、最強の『女王』が自分の風呂に入っている。
数週間前までの「しがない人間」だった頃には、想像もできなかった光景だ。
連(……理を破壊する、か)
連は自分の右手の甲に刻まれた、黒炎の紋章をじっと見つめた。
アザトースの魂が、静かに、しかし力強く脈打っている。
この平穏は、嵐の前の静けさに過ぎない。天界も、冥界も、そして世界を裏から操る者たちも、この「黒炎」という異物を放っておくはずがない。
だが、今はいい。
脱衣所から漏れ聞こえてくる、朱乃の鼻歌。
それを子守唄代わりに、連は一時だけ、破壊の衝動を心の奥底へと沈めた。
連「……まったく。……お仕置きをするのは、俺の方なんだけどな」
不敵な笑みを浮かべ、連は夜の静寂に身を委ねた。
これから始まる、長く、血塗られた、そして甘美な物語の予感。
暁連の「二度目の人生」は、まだ序章を書き終えたばかりだった。
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