破壊の黒炎   作:ぐちロイド

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第8話 小猫への稽古

大聖堂の残骸が黒炎の余波で煤け、夜風に混じって「虚無」の匂いが漂う中、暁連は右腕の微かな熱を鎮めるように深く息を吐いた。

 

連「……終わったな。神の代行人なんて大層な看板を背負っていても、黒炎の前ではただの燃えカスだ」

 

連が背を向け、朱乃と共に闇に消えようとしたその時だった。

 

小猫「……あの、連先輩」

 

低く、それでいて鈴の音のように澄んだ、だがどこか切実さを孕んだ声が連の足を止めさせた。

振り返れば、そこには白髪ショートカットの少女、塔城小猫が立っていた。普段は無表情で、毒舌を吐きながら羊羹を食べている彼女だが、今はその金色の瞳に、言いようのない「焦燥」と「渇望」が宿っている。

 

小猫は、連の圧倒的な破壊の痕跡――ベネディクトが立っていた場所にある、抉り取られたような空白――をじっと見つめていた。

 

小猫「……手合わせ、お願いします。空いている時間で、構わないので」

 

小猫の声は微かに震えていた。それは恐怖ではない。自分の中に眠る「力」への嫌悪と、それを上回る「強さ」への飢えが、彼女を突き動かしているようだった。

 

連は足を止め、無言で小猫を見つめ返した。

彼女の家系――「猫叉」としての仙術。彼女がひた隠しにし、忌み嫌っているその力は、連の『終焉を刻む黒炎』とは対極にある「生のエネルギー」だ。だが、今の彼女はその力を否定し、純粋な物理攻撃と魔力だけで戦っている。それでは、いずれ限界が来る。

 

朱乃が隣で、楽しげに目を細めた。

 

 

朱乃「あらあら、小猫ちゃん。連に稽古をつけてもらうなんて、随分と積極的ね? 彼の指導は……私のお仕置きと同じくらい、厳しいわよ?」

 

朱乃の言葉を無視し、小猫は連の瞳を逸らさない。

連はふっ、と短く鼻で笑った。

 

連「……明日の放課後なら空いている。俺の家に来い」

 

それだけを言い残し、連は朱乃と共に夜の帳へと消えていった。

 

---

 

翌日の放課後。駒王町のはずれにある、古びているが手入れの行き届いた一軒家。

そこが、この世界における暁連の拠点だった。

 

インターホンが鳴る前に、連は玄関の扉を開けた。そこには、学園の制服にジャージを羽織った小猫が、緊張した面持ちで立っていた。

 

小猫「……お邪魔します」

 

 

連「入れ。中庭が少し広い。そこでやるぞ」

 

連は彼女を中庭へと促した。そこは、連が日々アザトースの黒炎と対話し、過負荷に耐えるための鍛錬の場だ。地面の土はところどころガラス状に変質しており、この場所で放たれた「熱」の凄まじさを物語っていた。

 

小猫は中庭に立つと、すぐに戦闘態勢を取った。小さな拳を固め、全身から魔力が溢れ出す。

 

小猫「……お願いします」

 

 

連「ああ。だが、一つだけ言っておく。……自分を殺したままの拳じゃ、俺には掠りもしないぞ」

 

連は武器を顕現させず、ただポケットから手を出して自然体で立った。

その瞬間、小猫が地を蹴った。

 

ドォォォンッ!

 

小猫の体躯からは想像もできないほどの衝撃波が走り、彼女の拳が連の顔面を捉えようとする。だが、連は首を僅かに傾けただけでそれを回避し、空いた小猫の脇腹に、掌を軽く添えた。

 

連「遅い。そして、重みがない」

 

パァン、と乾いた衝撃が走り、小猫の体が数メートル後方へ吹き飛んだ。彼女は空中で見事に着地したが、驚愕に目を見開いている。

 

連「……今のは、魔力じゃない。ただの浸透波だ。小猫、お前は自分の『力』を怖がっている。猫叉としての仙術……それを封じ込めたまま、悪魔の力だけで俺に勝てると思っているのか?」

 

小猫「……それは……!」

 

 

小猫の表情が苦渋に歪む。彼女にとって、仙術は姉の暴走を思い出させる呪いそのものだ。

 

連「俺を見ろ」

 

 

連が右腕を掲げると、そこからドロリとした漆黒の炎が溢れ出した。

 

 

連「俺のこの力も、かつて地獄を焼き尽くした古龍の呪いだ。天使と悪魔、相反する血が混ざり合い、放っておけば俺の魂を内側から焼き潰す。……だが、俺はこいつを『呪い』とは呼ばない。これは、俺が俺であるための『武器』だ」

 

連の瞳が、黒炎と共に鋭く光る。

 

 

連「力に善悪はない。あるのは、それを使うお前の意志だけだ。姉がどうした、過去がどうした。そんな下らない理由で、目の前の敵から目を逸らすな」

 

 

小猫「……っ!」

 

 

小猫が再び叫びと共に突っ込んでくる。今度は魔力を全開にし、連続した打撃を叩き込む。

右、左、回し蹴り。

連はそのすべてを最低限の動きで見切り、あるいは掌で受け流していく。

 

連「どうした、そんなものか! 俺を殺す気で来い! 理を破壊する拳を見せてみろ!」

 

連の言葉に呼応するように、小猫の動きが変わった。

彼女の肌から、微かに白い「気」が立ち昇り始める。無意識のうちに、彼女が拒絶していた「仙術」が、連の圧倒的なプレッシャーに抗うために漏れ出しているのだ。

 

連「……いいぞ。それでこそ食い甲斐がある」

 

連は初めて、笑みを浮かべた。

 

 

「形態変化:大鎌形態『デス・サイズ』」

 

連の手に、禍々しい闇の炎を纏った大鎌が現れる。それを一振りするだけで、空間が悲鳴を上げ、中庭の空気が一気に氷点下へと叩き落とされた。

 

連「受け止めてみろ、小猫。これが『無』への誘いだ」

 

連が鎌を振り下ろす。物理的な重圧と、存在そのものを消し去る虚無の波動。

小猫は逃げなかった。彼女は両腕を交差し、全霊の仙術と魔力を一点に集中させる。

 

小猫「――っ!!」

 

激突。

黒い炎と白い気がぶつかり合い、連の家を揺るがすほどの衝撃波が周囲を薙ぎ払った。

小猫の足元の地面が陥没し、彼女の制服の袖がボロボロに裂ける。だが、彼女は耐えた。その瞳には、恐怖ではなく、確かな「闘志」が灯っている。

 

数分後、静寂が戻った。

連は大鎌を消滅させ、肩をすくめた。

小猫は荒い呼吸を繰り返しながら、その場に膝をついた。

 

連「……合格だ。少しは、自分の力と向き合う覚悟ができたようだな」

 

連は懐から、朱乃から貰ったという高級な羊羹を取り出し、小猫の頭の上にポンと置いた。

 

小猫「……あ。……これ……」

 

 

連「糖分補給だ。修行の後はこれだろう? ……小猫、お前の道は、お前が決めるんだ。誰かの影に隠れる必要はない」

 

小猫は、頭の上の羊羹を大切そうに受け取ると、俯いたまま小さく「……ありがとうございます」と呟いた。その耳が、ほんのりと赤くなっているのを連は見逃さなかった。

 

小猫「……また、来てもいいですか?」

 

 

連「ああ。暇な時なら相手をしてやる」

 

小猫は深く一礼し、足取りも軽く家を去っていった。

その後ろ姿を見送りながら、連は自分の右腕に視線を落とした。

 

連(アザトース……。お前、あの子の『生』の力に当てられたか?)

脳内で、古龍が満足そうに喉を鳴らすような感覚があった。

 

 

 

 

連が家の中に戻ろうとしたその時、背後の電柱の陰から、くすくすと忍び笑いが聞こえてきた。

 

朱乃「あらあら、連。あんなに格好良く女の子を導いちゃって。……小猫ちゃん、あんな顔をするなんて、完全にあなたの『毒』に当てられちゃったわね?」

 

連「……朱乃。いつからいた?」

 

影から現れたのは、制服姿の姫島朱乃だった。彼女は楽しそうに、だがその瞳の奥には少しだけ独占欲を滲ませて、連に歩み寄る。

 

朱乃「最初から、ずっと見ていたわよ? ……あなたが他の子を優しく指導する姿なんて、ちょっと嫉妬しちゃうわ」

 

朱乃は連の腕に身体を預け、耳元で甘く囁いた。

 

 

朱乃「さて……小猫ちゃんの修行が終わったなら、次は『私の時間』よね? ……昨日の続き、覚悟はできているかしら?」

 

連「……ふん。望むところだ。俺の黒炎が、あんたのその欲情ごと焼き尽くしてやるよ」

 

連は朱乃を抱き寄せ、そのまま家の中へと入り、扉を閉めた。

外では、夜の駒王町が静かに更けていく。

だが、その平穏の裏側では、神の代行人を失った天界、そして黒炎の噂を聞きつけた新たな刺客たちが、着実に牙を研ぎ始めていた。

 

暁連。

天使と悪魔、そして古龍の力を宿したその少年が、真の意味で世界の理を焼き尽くす日は、そう遠くない。

 

連「……アザトース、聞こえるか。次に来る奴らは、もっと歯応えがありそうだぜ」

 

闇の中で、黒い炎が不敵に揺らめいた。

 

 

転スラの二次創作主人公でやって欲しい種族は?

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