小豆坂での勝利から一ヶ月が経った。
信秀の武名は益々尾張国内と近隣諸国に改めて駆け巡った。
加えて、息子信忠の武名も駆け巡り
「信忠の若様は流石の活躍だって聞いたぞ!」
「ああ!あの今川相手に伏兵を指揮して見事な采配だったとか!」
口々に信忠も褒め称えた。
しかし
「それに比べて・・・聞いたか、信奈の姫様の事・・・」
「ああ・・・留守を任されたにもかかわらず、戦場を見てみたかったと言う理由で城を出て行ったってな。それに信秀様が大層怒ったって。」
「なんと言うか・・・まさに『うつけ姫』だな・・・」
信奈の評判は落ちてしまっていた。
そんな中
信忠「漸く解かれましたか・・・」
信奈「ええ。ホント、退屈な日々だったわ。」
信奈の処分が漸く解かれた。
あの後、信奈は信秀に一ヶ月の謹慎処分を下され、城から抜け出せなかったのだ。
信忠「此度許されても、戦の時連れて行ってくれるか分かりませんけど。」
信奈「何よそれ!どういう意味よ!」
信忠「はは!ご冗談ですよ!まぁその時は、俺は留守役かもしれませんが。」
信奈「そうかもね。その時は、あなた以上の手柄を挙げてみせるわよ。」
信忠「そうですか・・・ふっ。」
信奈「ははは!」
信奈と信忠は、廊下で冗談を言いながら笑い合っていた。
その時
土田「先の戦では大層なご活躍でしたね、信忠。」
信忠「母上・・・信勝・・・」
土田御前が、一人の男の子を連れて現れた。
男の子の名は織田信勝。通称は勘十郎。信奈と信忠の弟だ。
信勝「兄上!小豆坂のお話、是非お聞かせ下さい!」
信勝は、純粋な笑みを浮かべて信忠に言った。
信忠「また今度な・・・」
信忠は、また今度と笑みを浮かべて答えた。
土田「それに引き換え・・・あなたは一体何をしてるのかしら?」
土田御前「殿の命令を無視して、皆に迷惑をかけて・・・どこまで戯けた事をすれば気が済むのかしら?」
信奈「・・・っ。」
すると土田御前は、信奈に対して厳しい態度に変わり、蔑むような目で見て言った。
信奈は、流石に母に言われ自業自得とはいえ傷ついた表情を浮かべた。
信忠「まぁ母上、姉上も流石に反省しておられます。ここは俺の顔に免じて、この通り・・・」
信忠は、これ以上の叱責は無用だと言い、頭を下げた。
土田「・・・分かりましたわ。あなたがそこまで言うなら、これ以上は言いませんわ。」
土田「さっ、参りましょう信勝。うつけが移ってしまいますわ。」
土田御前は、信勝を連れて去って行った。
信勝「・・・兄上。」
信忠「また後でな、信勝。」
信勝「・・・はい。」
二人が去った後
信奈「・・・」
信奈は俯いていた。
信忠「姉上・・・」
そんな姉に、信忠は気遣うように声を掛けると
信奈「気にしてないわ・・・ごめんなさい。」
信奈は、笑みを浮かべて答えた。
信忠「・・・そうですか。」
信奈「それはそうと・・・最近父上はどうなの?」
すると、信秀の様子について尋ねた。
信忠は、周囲を見渡した後、耳元に近づき
信忠「少し風邪気味でして、時折軽い咳を繰り返しております。」
信忠「それで、一昨日末森に移りました。」
風邪気味で、末森城に今いると言った。
信奈「・・・そう。何も起きなきゃ良いけど。」
この時信奈は、心配な表情を浮かべたのであった。