バカと刀と召喚獣   作:レゾリューション

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今回短め


例外(イレギュラー)は、いつだって想定外の場所から現れる

「……少し気になる情報がある」

 

ぬるっと現れたのは、ムッツリーニ。今回は彼に情報収集を任せていたのだ。

 

「何だ?」

 

「Cクラスが、戦争の準備を始めている」

 

「Cクラスが?」

 

その報告は、Fクラスにとって決して良い知らせではなかった。

 

「恐らく、漁夫の利を狙っているのだろうな」

 

「合理的と言えば合理的だな」

 

「みんな、Fクラスが勝つなんて思ってないもんね」

 

学力差を考えれば当然だった。FクラスがBクラスに勝つと本気で予想している者など、ほとんどいない。当のFクラス生徒ですら、半信半疑なのだから。

 

「とりあえず、Cクラスと協定でも結ぶか」

 

雄二は淡々と言った。

 

「Dクラスを使って攻め込ませるぞ、とか言って脅しておけば、俺たちに手を出す気も失せるだろ」

 

「悪い顔してるね、雄二……」

 

「褒め言葉だ」

 

結局、交渉役として向かうのは刀夜、明久、雄二の三人となった。秀吉も同行しようとしたが雄二は首を横に振る。

 

「秀吉は待機だ。別の作戦がある」

 

「む……承知した」

 

ついでに、盾役――ではなく仲間として須川と島田も同行することになった。

 

「……」

 

島田は終始無言だったが、その無言が逆に怖い。刀夜は内心でそう思いながら、次なる戦場へと歩き出した。

 

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。このクラスの代表は?」

 

教室の扉を開くなり、雄二が居丈高に宣言した。突然の来訪にもかかわらず、Cクラスの教室にはまだかなりの人数が残っている。机の上には教科書、ノート、召喚用端末。ムッツリーニの情報通りどう見ても戦争準備の真っ最中だった。

 

 

「……私だけど、何か用かしら?」

 

そう言って前に出てきたのは黒髪のベリーショートの女子生徒の小山。無駄のない姿勢に、鋭く細められた目。一見するとデキる優等生だがその視線の奥には、はっきりとした打算と悪意が透けて見えた。

 

(性格悪そう、コイツ……)

 

刀夜は一瞬でそう判断した。

 

※初対面での印象としては極めて失礼である。

 

 

「Fクラス代表としてクラス間交渉に来た。少し時間はあるか?」

 

雄二が堂々と言い放つと、教室内の空気が微妙にざわついた。Cクラスの生徒たちは手を止めこちらを値踏みするように見てくる。

 

「クラス間交渉?ふぅん……」

 

小山は口元を歪め、面白い玩具でも見つけたかのような表情を浮かべた。その笑みは、どう見ても善意のそれではなかった。むしろ、弱者をどう料理するか考えている捕食者の顔である。

 

――もっとも。普段ピンチになったら、仲間を見捨てて自分だけでも助かろうとする男共(雄二・明久・刀夜)も、倫理観のレベルは五十歩百歩だった。

 

「ああ。不可侵条約を結びたい」

 

雄二がそう切り出すと、Cクラスの生徒たちの間にどよめきが走る。

 

「不可侵条約ねぇ……」

 

小山はわざとらしく顎に手を当て、少し考える素振りを見せたあと

 

「どうしようかしらねぇ、根本クン?」

 

と、教室の奥に視線を投げた。

 

(根本?)

 

刀夜の眉がほんの僅かに動く。嫌な予感が背骨を這い上がってきた。

 

「当然、却下だ」

 

その声と共に、教室の奥から姿を現したのは、短く刈り揃えられた黒髪にどこか粘ついたような視線をした男子生徒。文月学園二年Bクラス代表、根本恭二。

 

「だって、必要ないだろ?」

 

勝ち誇ったような笑み。明久の顔色が一段階悪くなった。

 

「なっ!?根本君!?Bクラスの君が、どうしてこんなところに!」

 

「酷いじゃないか、Fクラスの皆さん」

 

根本は肩をすくめ、芝居がかった口調で言った。

 

「協定を破るなんて“試召戦争に関する行為を一切禁止する”って、ちゃんと書いたよな?」

 

「な、何を言って――」

 

明久が抗議しかけるが、

 

「先に協定を破ったのは、そっちだからな?」

 

根本が指を鳴らした。その合図と同時に、Cクラスの取り巻きたちが左右に分かれる。まるで舞台の幕が開くかのように。そして、その奥から現れたのは、先ほどまで戦場にいたはずの数学担当、長谷川教諭だった。

 

「……あ」

 

空気が、一瞬で凍りつく。

 

「テメェら……最初からグルだったのか!どこまでも汚ねぇ連中だな!」

 

刀夜の怒声が響くが、状況は一ミリも好転しない。

 

「待ってくれ!僕たちは協定違反なんてしてない!これはCクラスとFクラスの――」

 

明久の必死の訴えを、雄二が即座に遮る。

 

「無駄だ。刀夜、明久!」

 

「根本は条文の“試召戦争に関する一切の行為”ここを盾にして、しらを切るに決まってる!」

 

「ま、そゆこと♪」

 

小山が楽しそうにウインクする。

 

「テメェのウインクなんざ可愛くねぇんだよ!」

 

「へ理屈だ!」

 

「へ理屈も、立派な理屈のうちってな!」

 

根本はそう言って、勝ち誇ったように両手を広げた。この場はすでに、Fクラスを追い詰めるための舞台装置として完成していた。

 

 

「逃がすな!坂本を討ち取れ!」

 

背後から飛んできた根本の甲高い号令と、それに呼応する複数の足音。どう考えても数が多い。しかも全員やる気満々だ。

 

雄二が振り向きざまに応戦しようとした、その瞬間。

 

「ここは通さん!」

 

須川が横から割り込み、雄二の前に立ち塞がった。雄二を狙っていた攻撃を、文字通り体で被せて受け止める。

 

「須川!」

 

「気にすんな!こう見えて盾役は慣れてる!」

 

慣れていてほしくないが、今はありがたい。しかし状況は、どう考えても最悪だった。Bクラス相手に正面衝突でFクラスで勝負になるはずがない。

 

しかも、切り札の姫路瑞希は、さきほどの戦闘で数学の点数を大量消費している。頼みの綱は、もう細い。根本はそれを知っている。だからこそ、数学担当の長谷川教諭を引っ張り出してきたのだ。

 

(汚ねぇやり方だが……効果的だ)

 

刀夜は内心で舌打ちする。

 

須川が最悪の一手を防いでくれたとはいえ、依然として、状況は綱渡りどころか断線寸前だった。そのとき

 

「雄二!」

 

明久が叫ぶ。

 

「なんだ、明久!」

 

「ここは僕が引き受ける!雄二は姫路さんを連れて逃げてくれ!」

 

言い切った明久は、その場に立ち止まり、踵を返した。遅れて走ってきた雄二と姫路と、すれ違う形になる。

 

(……明久)

 

刀夜は内心で目を見開く。

 

(明久、中々かっこいいこと言うじゃねぇか)

 

「よ、吉井君……わ、私のことは、気に、しないで……」

 

息を切らせながらも、姫路が必死に言う。

 

「……わかった」

 

雄二は一瞬だけ立ち止まり、明久を見る。

 

「ここはお前に任せる」

 

その短い一言に、信頼が詰まっていた。さらに、一緒に足を止めたムッツリーニに、刀夜は声をかける。

 

「いや、ムッツリーニも逃げろ。明日はお前が戦争の鍵を握る」

 

ムッツリーニは大役を任されている。ここで失うわけにはいかない。

 

「……了解した」

 

そう言い残し、ムッツリーニは静かに撤退していった。

 

そして。

 

「んじゃ、ウチは残ってもいいのかしら。隊長どの?」

 

明久の隣には、いつの間にか一緒に立ち止まっていた島田の姿。

 

「島田さん……」

 

「今さら一人でヒーロー気取られても困るのよ」

 

そう言って、指を鳴らす。

 

さらにもう一人。

 

「俺も残るぜ、明久」

 

刀夜が一歩前に出た。

 

「召喚獣の扱いなら、多少は慣れてるからな」

 

「刀夜まで……」

 

明久は一瞬驚いた顔をしてから、苦笑する。

 

「……二人とも、頼めるかな?」

 

「はーいはい。お任せあれっと」

 

島田は肩を回し、

 

「まぁ、なんとかなるだろ」

 

刀夜は軽く言ってのけた。背後では、Bクラスの足音が、確実に近づいてきている。だが、その場に残った三人の顔に、悲壮感はなかった。

 

むしろ、

 

(どうやって切り抜けるか)

 

そんなことを考えている顔だった。

 

 

ついに追手の四人が追いついた。

 

「ここまでだ、Fクラス!」

 

「逃げ回るのも終わりだな!」

 

その声と同時に、四人全員が腕を振り上げる。

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

光が弾け、Bクラスの召喚獣が一斉に出現した。数で押し切る気満々である。

 

「……ふぅ」

 

島田は一歩前に出ると、髪をかき上げた。

 

「Fクラスだからって、甘く見ないことね」

 

「はっ。そうか? 所詮Fクラスだろ?」

 

「上等よ! 実力差ってやつ、思い知らせてあげる!」

 

言い合いをしていたBクラスの男子――工藤が、召喚獣を前に出した。

刀を構え、一直線の突進。細かい動作など考えていない。だが、力は十分。点数差を信じた、教科書通りの戦法だ。

 

「このっ!」

 

島田も同じように召喚獣を突っ込ませる。一瞬、島田の召喚獣が押され、倒れかけたように見えたが....

 

『Bクラス 工藤信二 159点数学』

 

『Fクラス 島田美波 171点数学』

 

「……あ?」

 

工藤の顔が固まる。

 

「お前……本当にFクラスか……?」

 

島田はふっと不敵に笑った。

 

「ふふっ。数学を選んだのが間違いだったわね」

 

そして胸を張って言い放つ。

 

「これなら、漢字が読めなくてもなんとかなるのよ!」

 

(それを誇っていいのかは微妙だが)

 

その横で、刀夜はなぜか地味にダメージを受けていた。

 

(俺、国語得意で読解力もあって、漢字も普通に読めるのに……数学苦手って……)

 

無駄に自分と島田を比較して、勝手に凹む刀夜。が、そんなことをしている場合ではない。

 

「よし、俺も出るか」

 

刀夜が腕を振り上げる。ついでに、隣で明久も慌てて召喚。

 

「ぼ、僕も!」

 

二体の召喚獣が現れた。刀夜の数学の点数は57点。以前より上がったとはいえ、前のBクラス戦で20点以上を消費している。

 

(……無駄遣いはできねぇな)

 

投影、開始(トレース、オン)

 

刀夜の召喚獣は一振りの刀を握る。投影に消費される点数は基本2点。刀夜はあのよく分からない世界で2点消費するという事を聞いたとき、1点じゃないのかよと文句を言ったら

 

《本来なら最低10点消費するのを大幅に減らしてやってんだぞ。文句あんのか?》

 

……と返された。ぐうの音も出ない正論である。そもそも伝説級の刀工の力が使えるだけでも凄い事なのに、そんな人に文句を言った自分を、刀夜はそっと心の中で殴り反省していた。

 

刀夜の召喚獣は、まるで待ってましたと言わんばかりに刀を投影すると、敵に向かって一直線に走り出した。

 

 

刀夜の日本刀を持った召喚獣と西洋剣持ちの召喚獣と激しくぶつかり合い、火花が散る。

 

その最中、吉井明久の召喚獣の「強み」が、ここにきて改めて明らかになる。そもそも、召喚獣の操作は難しい。異様に強い力、妙に長い手足、自分の身体とはまるで違うバランス。普通の生徒なら、せいぜい突撃か殴打くらいしかまともに操作できない。

 

だからこそ、試験召喚戦争は基本的に「点数=暴力」になりがちなのだ。

しかし明久は違う。彼は観察処分者であるため、召喚獣と感覚を共有できるため、他人よりも多少は細かい操作が可能だった。

 

 

だが、例外(イレギュラー)は、いつだって想定外の場所から現れる。

 

 

「……でも、吉井」

 

「ん?」

 

明久が自身の召喚獣なら特性を島田に話していたとき、彼女が、目を細めて戦場を指さす。

 

「鍔守の召喚獣、めっちゃすごい動きしてるわよ」

 

「え?」

 

明久が視線を向けた瞬間、思わず声を失った。刀夜の召喚獣は、ジャンプして斬りかかり、着地と同時にバックステップ。剣を振るだけでなく、間合いを読み、避け、攻める。

 

「え、なにあれ……操作、うますぎない?」

 

その疑問に答える者はいない。というか、Fクラスにそんなのがいる時点でおかしい。次の瞬間、日本刀と西洋剣が同時に振り下ろされ、乾いた音とともに刀夜の刀が砕け散った。

 

「――あっ」

 

島田が声を漏らす。だが、それで終わりではなかった。刀夜の召喚獣は、砕けた瞬間に右手で刀を逆手に持ち替え、そのまま一歩踏み込み、敵召喚獣の喉元に、残った刃を突き刺した。

 

「え、ちょっ……!」

 

驚愕する暇も与えず、刀夜の召喚獣はそのまま乱暴に切り裂いた。西洋剣持ちの召喚獣は、何が起きたのか理解する前に崩れ落ちた。

 

「……召喚獣ってあんな動き出来たんだ....」

 

明久の口から、魂の抜けたような一言が漏れた。誰も答えられなかった。ただ一つ確かなのは、Fクラスには、とんでもないイレギュラーが混ざっている、という事実だけだった。

 

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