バカと刀と召喚獣   作:レゾリューション

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ついに始まるAクラス戦!

Bクラスによる一方的かつ民意の暴走とも言える多数決が終わり、その後なんやかんやで点数補給用のテストを受け終え、さらに二日が経過した――朝。

 

いよいよ刀夜たちは、最後の砦にして最大の難敵――Aクラスとの戦争を残すのみとなった。

 

教室の空気は、これまでとは明らかに違っていた。浮かれた雰囲気はない。代わりにあるのは、張り詰めた緊張と、妙な高揚感。その空気を切り裂くように、雄二が教壇に上がる。

 

「まずは皆に礼を言いたい」

 

開口一番、予想外の言葉だった。

 

「周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらず、ここまで来れたのは他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」

 

……静寂。

 

「ゆ、雄二、どうしたのさ。らしくないよ?」

 

「偽物なのか?」

 

誰かがそう呟くのも無理はない。

 

「ああ。自分でもそう思う」

 

雄二は苦笑する。

 

「だが、これは偽らざる俺の気持ちだ」

 

事実、FクラスはDクラス、Bクラスを撃破してきた。奇跡と言っていい。いや、バカが奇跡を引き摺り下ろしていたと言うべきか。

 

「ここまで来た以上、絶対にAクラスにも勝ちたい……」

 

雄二の声に力がこもる。

 

「勉強が全てではないと、教師やAクラスの奴らに思い知らせてやるんだ!!」

 

『おおおおお——!!』

 

『そうだ——!!』

 

『勉強だけじゃねえんだ——!!』

 

教室が揺れるほどの雄叫び。Fクラス全員の鬱憤と誇りが、一斉に噴き出した。

 

(……熱いな)

 

刀夜は腕を組みながら、その光景を眺める。Aクラスの一部の、いかにも「選ばれし者」然とした態度。正直、鼻を明かしてやりたい気持ちは山ほどあった。

 

「皆ありがとう」

 

雄二は一呼吸置き、続ける。

 

「そして残るAクラス戦だが……これは一騎打ちで決着をつけたいと思う」

 

ざわっ、と空気が揺れた。

 

『どういうことだ?』

 

『誰と誰が一騎打ちすんの?』

 

『それで本当に勝てんのか?』

 

疑問と不安が、教室中から噴き出す。

 

「落ち着いてくれ」

 

雄二は机をバンッと叩き、強引に空気を引き締めた。

 

「やるのは当然、俺と翔子だ」

 

代表同士の一騎打ち、筋は通っている。問題は、相手が学年主席・霧島翔子だという点だけだった。

 

(いや、普通に無理じゃね?)

 

誰もがそう思った、その瞬間。

 

「バカの雄二が霧島さんに勝てるわけがなぁぁっ!?」

 

明久の叫びと同時に――

 

ヒュッ。

 

「ぎゃっ!?」

 

雄二の投げたカッターナイフが、明久の頬をギリギリでかすめた。

 

「……」

 

「……」

 

「い、いくら雄二でも友達を本気で殺そうなんて……」

 

明久が恐る恐る雄二を見ると、

 

「次は耳だ」

 

冷静な追撃宣言が飛んできた。

 

(あ、友達判定されてねぇ。てか俺も一回投げられたな、あれ)

 

刀夜は遠い目をした。

 

「確かに」

 

雄二は何事もなかったかのように話を戻す。

 

「明久の言う通り、翔子は強い。正面からまともにやり合っていては、勝ち目はないだろう」

 

潔すぎる自己分析だった。

 

「だがそれは、Dクラス戦もBクラス戦も同じだった」

 

その言葉に、皆が思い出す。奇策、暴走、無茶、そして勝利。

 

「まともにやり合えば、俺達に勝利はなかった」

 

しかし――結果は2戦2勝。

 

「今回だって同じだ」

 

雄二は断言する。

 

「俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺達の勝ちは揺るがない」

 

その目には、迷いがなかった。

 

「俺を信じてくれ。かつて『神童』とまで言われた力を、今皆に見せてやる」

 

教室が静まり返る。そして、誰からともなく頷きが広がっていった。信頼は、もう十分すぎるほど積み上がっていた。

 

「具体的なやり方だが」

 

雄二は続ける。

 

「一騎打ちでは、フィールドを限定する」

 

「フィールド?何の教科でやるつもりじゃ?」

 

秀吉が問う。

 

「日本史だ。ただし内容は限定する。レベルは小学生程度。百点満点の上限あり。召喚獣勝負じゃない、純粋な点数勝負だ」

 

完全に罠の匂いがした。

 

「俺がこの作戦を取った理由は一つ」

 

雄二はニヤリと笑う。

 

「『ある問題』が出れば、アイツは確実に間違える」

 

「あの霧島にそんな問題が?」

 

信じがたい、という空気。

 

「その問題は……」

 

雄二は一拍置いて、言った。

 

「『大化の改新』だ」

 

「あー確か、ちょっと調子乗った蘇我入鹿がやりたい放題したら、中大兄皇子と中臣鎌足に首スパーされて始まった政治改革だったか?」

 

刀夜のあまりにも雑な説明。しかも表現が物理的に痛い。

 

「……」

 

「……」

 

「お前、その説明でよくテスト受けられてるな」

 

雄二が心底呆れた声で言った。色々あったが、どうやら霧島翔子は、「大化の改新が何年に起きたか」という問題が出題された場合、確実に間違えるらしい。

 

「ちなみに大化の改新が起きたのは西暦645年だ。こんな問題は――」

 

「明久でも間違えない」

 

刀夜はちらりと、明久を見る。

 

「……」

 

(明久……)

 

雄二の言葉に、明久はスッと視線を逸らした。

その仕草は雄弁だった。

 

雄二は話を続ける。

 

「だが、翔子は確実に間違える。そうすれば俺達は晴れてシステムデスクを手に入れることができる」

 

その言葉に、Fクラスの空気が一気に現実へ戻る。

 

「あの……坂本くん」

 

ここで、控えめに姫路が手を挙げた。

 

「何だ、姫路?」

 

「坂本君と霧島さんって……どんな関係なんですか?」

 

教室が静まり返る。学年主席・霧島翔子。誰もが遠巻きに眺めるだけの存在。その彼女を、雄二は平然と「翔子」「アイツ」と呼んでいる。

 

(……まさか)

 

全員が息を呑む中、雄二はあっさりと言った。

 

「ああ。アイツとは――幼馴染みだ」

 

次の瞬間。

 

「総員狙えーーー!!!」

 

明久の絶叫と同時に、

 

『『『うおおおおおお!!!』』』

 

Fクラス男子生徒(※秀吉を除く)が一斉に上履きを構えた。もちろん刀夜も、迷いなくフォームに入っている。

 

「ちょっと待て!?俺が一体何をした!?」

 

さっきまで信頼の象徴だった雄二は、今やクラス公認の的になっていた。

 

「雄二」

 

刀夜が、やけに優しい声で言う。

 

「小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」

 

「物騒すぎだろ!!」

 

「待つんだ須川君」

 

刀夜は須川を制する。

 

「靴下はまだ早い。それは奴に洗い浚い吐かせてから、口の中に押し込むものだ」

 

「了解です、隊長!」

 

須川はビシッと敬礼した。完全に部隊が出来上がっている。

 

「あの、吉井君……」

 

「ん?何?姫路さん」

 

姫路の声で、明久はようやく正気を取り戻した。

 

「吉井君は……その……霧島さんみたいな人が好みなんですか?」

 

「え?」

 

明久は一瞬考え、

 

「そりゃまあ……美人だし……」

 

「「……」」

 

「え? 待って!?」

 

「何で姫路さんと美波は泣きながら武器を構えているの!?」

 

明久は全力で後ずさった。その混沌の中心で、雄二は頭を押さえながら叫ぶ。

 

「いい加減にしろお前ら!!」

 

そして強引に話をまとめにかかった。

 

「とにかくだ!俺と翔子は幼馴染みだ!小さい頃、間違えて嘘の年号を教えた!翔子は一度覚えたことは絶対に忘れない!」

 

「だから今、学年トップにいる!俺はそれを利用してアイツに勝つ!」

 

雄二は拳を握りしめ、叫ぶ。

 

「そうすれば、俺達の机は――!」

 

『『『システムデスクだ!!』』』

 

Fクラスの声が、教室に轟いた。内乱、嫉妬、暴力未遂を経てなお、彼らの目的は変わらない。Aクラス戦は、もはや知力と策略と感情と上履きが入り乱れる、最終決戦へと突入しようとしていた。

 

 

 

所変わって、Aクラスの教室。

 

そこには、Fクラスの首脳陣、雄二を筆頭に、明久、秀吉、姫路、島田、ムッツリーニ、そして刀夜が勢揃いしていた。

 

目的は一つ。Aクラスに戦争の交渉を持ちかけること。そしてまず全員が思った。

 

(……何ここ)

 

Aクラスの設備は、もはや「豪華」という言葉ですら生温い。Fクラスと比べると月とスッポン、いや、月と道端の石ころくらい差がある。明久と美波は、設備の一部であるお菓子コーナーを発見し、さも明久は当然の権利のようにお菓子を拝借していた。

 

なお、刀夜はというと、

 

「……みたらし団子、うま」

 

完全に和菓子ゾーンに陣取っていた。最近、刀夜が食べるお菓子に和菓子が混ざる頻度が増えている。理由は本人もよく分かっていないが、

「なんか落ち着く」という、年寄りじみた理由だった。

 

そして本題。

 

「一騎打ち?」

 

交渉に応じて出てきたAクラスの女子生徒が、怪訝な顔をした。その顔は、秀吉と瓜二つであり彼の双子の姉、木下優子だった。

 

「ああ」

 

雄二は即答する。

 

「Fクラスは、試召戦争としてAクラス代表に一騎打ちを申し込む」

 

「……いったい、何が狙いなの?」

 

警戒心を隠さない木下姉、当然だ。団体戦ならともかく、代表同士の一騎打ちでFクラスに勝ち目があるとは思えない。

 

「もちろん」

 

雄二は不敵に笑う。

 

「俺達Fクラスの勝利だ」

 

木下姉の警戒レベルが一段階上がった。

 

「……面倒な試召戦争を簡略化してくれるのは有難いけど、Aクラスがわざわざそんなリスクを冒す必要はないわね」

 

「賢明だな」

 

雄二は頷く。一騎打ちは早く終わる。だが、それは同時に油断すれば即死を意味する。

 

「ところで」

 

木下姉は話題を変えた。

 

「Cクラスとの試召戦争はどうだった?」

 

「Cクラス?」

 

「ああ、特に問題はなかったかな」

 

木下姉は涼しい顔で答える。

 

「Cクラスのほぼ全員が、敵意剥き出しだったこと以外は」

 

「それは災難だったな」

 

実際に敵視されていたのは、木下優子(偽)=秀吉だったのだが、本人がそれを知る由もない。

 

「話は変わるが」

 

雄二は間を置かず続けた。

 

「Bクラスとやり合う気はあるか?」

 

「Bクラスって……昨日来てた『あの』?」

 

(女装した根本www)

 

刀夜はみたらし団子を咀嚼しながら、内心で吹き出していた。どうやら相当トラウマだったらしい。木下姉の顔が、目に見えて青ざめる。

 

「ああ。アレが代表をやっているクラスだ」

 

「まだ宣戦布告はされていないようだが……さて、どうなることやら」

 

雄二がニヤリと笑う。その笑顔は、獲物を前にした蛇そのものだった。

 

「でも」

 

木下姉は食い下がる。

 

「BクラスはFクラスに負けたんでしょう?三ヶ月経たないと試召戦争は起こせないはずよね?」

 

試召戦争には、負けたクラスは三ヶ月の準備期間が必要というルールがある。泥沼化防止のためだ。

 

「いや」

 

雄二は首を振る。

 

「実際はどうあれ、Bクラスとは『和平交渉にて終結』している。規約に何の問題もない。当然、Bクラスだけでなく……Dクラスもな」

 

「……それって、脅迫じゃない?」

 

「人聞きの悪いことを言うな」

 

雄二は即座に否定した。

 

「これはただの『お願い』だ」

 

この場にいた全員が思った。

 

(雄二、根本より性格悪いな……)

 

もっとも、民主主義という名の多数決で根本を叩き潰した張本人である刀夜が、それを言えた立場ではなかったが。

 

「……代表が負けるなんて、あり得ないし」

 

木下姉はため息をつく。

 

「その提案、受けるわ」

 

「え? 本当?」

 

思わず声を上げる明久。

 

「ええ」

 

木下姉は腕を抱いて震えながら言った。

 

「だって……あんな格好をした代表がいるクラスと戦争するなんて嫌だもの」

 

どうやら相当な心的外傷を負っているらしい。

 

「ただし、こっちからも条件があるわ」

 

「代表同士の一騎打ちじゃなくて、互いに七人ずつ選ぶ」

 

「一騎打ちを七回やって、四回勝った方の勝ち」

 

「それなら受けてもいい」

 

「なるほど」

 

雄二は即座に理解した。

 

「姫路が出てくる可能性を警戒してるわけだな?」

 

「そうね」

 

「代表の調子が悪くて、姫路さんの調子が良かったら……ってことも考えないと」

 

「それに」

 

木下姉の視線が、一瞬だけ刀夜に向く。

 

「そっちには……ある意味、姫路さんより注意しないといけない人がいるし」

 

(……あ、俺だ)

 

交渉が早く終わらないかなー、と完全に傍観モードだった刀夜は、団子を食べる手を止めた。確かに彼の召喚獣の特性は、点数以前に理不尽である。Aクラスとの最終決戦は、こうして静かに、いや、不穏すぎる空気の中で動き出した。

 

「安心してくれ。うちからは俺が出る」

 

雄二が腕を組み、いつもの自信満々な顔で言い放つ。

 

「無理ね。その言葉を鵜呑みには出来ないわ。これは競争じゃなくて戦争だから」

 

その声音には、Aクラス代表補佐の矜持がにじんでいる。

 

 

「そうか」

 

「それなら、その条件を呑んでもいい」

 

「……え?」

 

「ただし、勝負する内容はこちらで決めさせてもらう。そのくらいのハンデはあってもいいはずだ」

 

一瞬、廊下の空気がピンと張りつめた。

 

(来たな……科目選択権……!)

 

Fクラス首脳陣の脳裏に、“日本史”“大化の改新”“645年”という単語が高速で明滅する。

 

 

「えー……うーん……」

 

木下姉は顎に手を当て、真剣に考え始めた。クラスを背負っての判断。この一言で、Aクラスの机が守られるか、Fクラスに奪われるかが決まる。

そんな逡巡を断ち切るように。

 

 

 

「……受けてもいい」

 

 

 

澄んだ声が、静かに響いた。

 

 

(この声は)

 

全員がそちらを向く。そこに立っていたのは、Aクラス代表つまり、学年首席である、霧島翔子。存在感だけで空気を制圧する、歩く成績表である。

 

 

「……雄二の提案を受けてもいい」

 

「あれ?代表、いいの?」

 

木下姉が慌てて振り返るが、霧島は気にも留めない。

 

「……その代わり、条件がある」

 

「条件?」

 

雄二が問い返す。

 

「……うん」

 

霧島は一度視線を逸らし――次の瞬間、隣に立っていた姫路を、上から下までじっくりと値踏みするように観察した。

 

(見られてる……)

 

Fクラスの誰もがそう思った、その直後。

 

 

 

「……負けた方は、何でも一つ言うことを聞く」

 

 

 

 

「…………(カチャカチャ)」

 

静寂を破ったのは、どこからともなく聞こえるシャッター音。

 

「ムッツリーニ!!」

 

明久の絶叫が響く。

 

「まだ撮影の準備は早いよ!?というか負ける気満々じゃないか!!」

 

「.....これは万が一の資料」

 

万が一が来る前提なのが問題だった。

 

 

「じゃ、こうしよう?」

 

霧島は淡々と続ける。

 

「勝負内容は七つ。そのうち四つはそっちに決めさせてあげる」

 

「……三つは?」

 

「うちで決める」

 

雄二は一瞬だけ考え――すぐに口角を上げた。

 

「交渉成立だな」

 

即断だった。

 

 

「ゆ、雄二!!」

 

明久が慌てて詰め寄る。

 

「何を勝手に!まだ姫路さんが了承してないじゃないか!」

 

「心配すんな」

 

雄二は親指で自分を指す。

 

「絶対に姫路に迷惑はかけない」

 

その言葉には、根拠のない自信と、謎の説得力があった。

 

(そこまで勝利を確信してるのか……)

 

と、刀夜は内心で呟きながら、みたらし団子の串をもう一本手に取っていた。

 

 

「……勝負はいつ?」

 

霧島が静かに尋ねる。

 

「そうだな。十時でどうだ?」

 

「……分かった」

 

霧島は短く頷いた。

 

その一動作だけで、Aクラス対Fクラス、最終決戦が確定する。

 

 

「よし。交渉成立だ」

 

雄二は踵を返す。

 

「一旦、教室に戻るぞ」

 

「帰るか」

 

刀夜もあっさり同意する。その背中を見送りながら、木下姉は一抹の不安を覚えていた。

 

(……なんでか分からないけど、あのクラス、姫路さんよりも厄介なのが混ざってる気がする……)

 

そしてその“厄介”は、廊下の角を曲がりながら団子を頬張り、次の一本をどれにするか真剣に悩んでいた。

 

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