バカと刀と召喚獣   作:レゾリューション

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□□の剣製

刀夜の召喚獣が、一歩、また一歩と前に出る。床を蹴るたび、黒い具足が低く軋み、間合いは確実に削られていった。木下姉の召喚獣は防戦一方だった。ランスを構え直すたび、刀が先に届く。

 

ガキィン――!

 

刃がランスの柄を打ち、弾き、押し込む。鎧越しに衝撃が伝わり、木下の召喚獣は半歩、体勢を崩した。

 

「……っ、まだ!」

 

木下の声に応じるように、ランスが振るわれる。しかし、その動きは重い。刀夜の召喚獣は、それを見逃さなかった。低い姿勢からの斬り上げが、ランスの穂先を弾き、さらに間合いへと潜り込む。

 

「そこだ!」

 

刀夜の判断は的確だった。刀は鎧の継ぎ目を狙い、左手の刀を振るう。逃げ場はない。誰の目にも、木下姉の召喚獣が追い詰められているように見えたが。

 

「……来たわね」

 

木下姉の声は、不思議なほど冷静だった。その瞬間、金の腕輪が淡く光る。

 

到達の門(ゲート・オブ・アライバル)

 

刹那、木下の召喚獣の背後に光点が現れる。

 

「――っ!?」

 

刀夜が思わず息を呑む。光点から射出されたのは、ランス。否、“投擲”などという生易しいものではない。放たれた瞬間には、すでにそこにある。そう錯覚するほどの速度だった。

 

ドンッ、ドンッ、ドンッ!

 

空気が破裂するような衝撃音とともに、ランスが床を穿つ。刀夜の召喚獣は反射的に跳び退くが、一歩遅い。肩口をかすめ、具足が弾ける。続く一本が刀を粉砕する。

 

「くっ……!」

 

刀が折れ、次の瞬間にはまた投影するが追いつかない。

 

「速い……!」

 

目で追えない。反応するより先に、衝撃が来る。刀夜の召喚獣は前進を止め、防御に回らざるを得なかった。刀を盾にし、弾き、折られ、また投影する。しかし、確実に点数が削られていく。一歩下がり、また一振り、床に突き刺さる。

 

さらに一歩――。

 

さっきまで追い詰めていたはずの距離が、みるみるうちに広がっていく。

 

「……っ!」

 

刀夜が歯噛みする。速さだけの攻撃で威力は致命的じゃない。だが、踏み込む隙が一切ない。まるで、見えない壁が張られたかのようだった。しかし刀夜の召喚獣の特性上、このランスの攻撃は1発でも致命的だ。攻めていたはずの剣士が、今度は槍の雨に、追い詰められていた。

 

そんな中、槍の雨が一瞬止む。その静寂の中で、木下姉ははっきりと言い放った。

 

 

「名刀を投影してるって噂だけど」

 

「案外、あなたも――その刀も、大したことないのね」

 

教室の空気が凍りついた。

 

「……っ」

 

刀夜の喉が、かすかに鳴る。それは、敗北を突きつけられたからではない。点数を削られているからでもない。

 

その言葉だけが、地雷だった。

 

「……今、なんて言った」

 

低く、抑えた声。それまで冷静だった刀夜の表情が、はっきりと歪む。木下姉は構わず続ける。

 

「折れるし壊れる。何本も投影しても、結局は消耗品。名刀を振り回してるだけで、剣士気取り……そんな印象しか受けないわね」

 

刀夜の中で、何かが“切れた”。視線が、まっすぐに木下を射抜く。感情が、はっきりと表にでる。鋭い怒りだ。明久達も刀夜の純粋な怒りを見たのは初めてかもしれない。

 

その瞬間、刀夜は胸の奥で疑問が引っかかった。槍に折られ、壊されるたびに次を投影する。折れてもいいし、壊れてもいい。どうせまた出せる。そう、心のどこかで思っていた。

 

その考えが、頭の中に浮かんだ瞬間、刀夜は、はっきりと気づいてしまった。

 

それが間違いだったと。

 

ランスが再び展開される気配があるにもかかわらず、刀夜の意識は、内側へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

創造の理念を鑑定し(どのような意図で) 

 

基本となる骨子を想定し(なにを目指し)

 

構成された材質を複製し(なにを使い)

 

製作に及ぶ技術を模倣し(なにを磨き)

 

成長に至る経験を共感し(なにを想い)

 

蓄積された年月を再現する(なにを重ねたか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刀夜は、静かに息を吐いた。

 

(折れない剣なんて、存在しない)

 

それは事実だ。

 

(だからって、“使い捨て”でいい理由にはならない)

 

名刀とは、消耗されるためにあるのではない。折れても、なお立ち上がるためにある。

 

「……そうだ」

 

刀夜の目が、再び戦場を捉える。

 

「俺が甘かった」

 

それは、敗北宣言ではなく原点回帰の宣言だった。刀夜の召喚獣が、ゆっくりと刀を構えようとする。今度は、ただ数を出すためじゃない。

折れる前提でもない。

 

一振りを、一振りとして“消耗品ではない剣”として、投影する。

 

槍の雨が、再び空間を歪め始める。だが、刀夜の表情には、もう迷いはなかった。木下の金の腕輪が脈動し、二対の紋様が展開される。次の瞬間、そこから解き放たれたのは、直線の暴力だった。純粋な攻撃力は低いが、速さがすべてを補って余りある。

 

 

「――っ!」

 

Fクラスが息を呑む間もなく、ランスが刀夜の召喚獣へと殺到する。避ける暇はない。それ以前に貫かれると、誰もがそう思った、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

「体は—————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つるぎ)で出来ている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギィィィィン――!!

 

信じがたい金属音が炸裂し、教室全体がびりりと震えた。射出されたランスが、正面から弾かれたのだ。

 

一瞬、何が起きたのか誰も理解できなかった。

 

刀夜の召喚獣の両手に、新たに二振りの刀が投影されている。だが、それはこれまでの村正の刀とは明らかに異質だった。

 

一振りは、黒。

 

刀身から鍔、柄に至るまで、すべてが漆黒に染まり、まるで夜そのものを切り出したかのようだ。光を一切反射せず、ただ重く、静かに存在感だけを主張している。

 

もう一振りは、白。

 

雪のように澄み切った白刃。月光を凝縮したかのような淡い輝きを放ち、黒とは対照的に、どこか儚さすら感じさせる。

 

形は同じ。だが、纏う気配は正反対。

 

黒と白、陽と陰。

 

「……二刀?」

 

誰かが、思わず呟いた後、右手の白刃が正面からランスを受け止め、左手の黒刃がその軌道をなぞるように流す。

 

弾かれた槍は、そのまま終わらない。反発した勢いのまま別の角度から襲いかかるが、それをさらにもう一振りが叩き落とした。二振りが、互いの動きを理解しているかのように噛み合っていた。

 

その刀の名は、干将・莫耶。

 

中国に伝わる名剣の伝承。夫が鍛えた雄剣・干将。妻が身を投じて完成させた雌剣・莫耶。陽と陰、対であり、決して離れず、互いを引き合う宿命の双剣。刀夜は、その名を心の中でなぞる。

 

村正の記憶から、引きずり出した剣。

 

正確には、本家の干将・莫耶ではない。これは、千子村正が生前、伝承を独自解釈し、自己流で鍛え上げた刀。言うなれば、日本製の干将・莫耶だった。

 

 

名工・千子村正の作品群の中でも、この二振りの格は決して高くない。歴史的価値も、呪いの逸話も、神秘性も、最高峰とは言い難い。だがコストだけを見れば、極めて優秀であり、投影時間も短く、消費点数も1点で済む。

 

 

 

黒と白の刃が、低く唸る。木下の腕輪の能力は、まだ止まらない。だがその猛攻は、確実に――この二振りの前で、削られ始めていた

 

刀夜の召喚獣は、干将・莫耶を構え直した。

 

二刀流だが、それはこれまで試召戦争で見られてきた“力任せの二刀”とは、明確に一線を画していた。左右の剣が競い合うことはない。一振りが攻め、もう一振りが支える。主と従、攻と流し。二つで一つの動き。

 

それはもはや「二刀」ではなく、一つの剣術体系だった。

 

「ハァ!」

 

鋭い踏み込みと同時に、黒刃――干将が先行する。踏み込みは低く、無駄がない。射出されたランスを正面から流すような一撃。

 

「っ!」

 

木下の召喚獣は思わず反射的にランスを構え直すほど剣筋が綺麗だった。

 

 

白刃――莫耶が、流れるように追撃に入った。

 

直線ではなく、円を描くような、逃げ道を塞ぐ軌道であり、干将が作った“隙の縁”を、莫耶がなぞる。二振りが競うのではなく互いに譲り合うのでもない、一つの攻撃を完成させている。

 

木下は、思わず舌を打った。その直後、

 

「投げろ!」

 

刀夜の短い指示が低く鋭く飛んだ。次の瞬間、刀夜の召喚獣は躊躇なく腕を振り抜き握っていた莫耶が全力で投擲された。

 

白い刃が回転しながら空気を切り裂く。唸りを上げ、一直線に彼女の召喚獣へと迫っていく。その光景を見つめながら、刀夜の脳裏には、先ほどから拭えない違和感があった。

 

(さっきのランス、ほんの一瞬遅れていた)

 

錯覚かもしれない。自分が投影を丁寧に行ったから、たまたま弾けただけかもしれない。

 

だが、それにしては不自然だった。あの馬鹿げた速度で正面から射出されていれば、無事で済むはずがなかった。それでも、弾けた。刀夜の視線が無意識のうちに“距離”を測っていた。白刃が木下の召喚獣に迫る中、刀夜は確信に近い推測を口にする。

 

「ある程度距離ねぇとランスは加速しきれねぇようだな!」

 

その瞬間。

 

「くっ――!」

 

能力の弱点を突いた事と二刀流の片割れを“捨てる”の二つの出来事に木下は思わず声を漏らす。だが、彼女は油断はしない。一瞬だけ目を見開き、即座に判断を切り替える。

 

手持ちのランスを振るい、白刃を弾いた。

 

ガギンッ――!

 

高い音が鳴り、莫耶は大きく軌道を逸らされる。一本になり二刀の連携は崩れたと木下は確信する。能力を発動させなくても行ける。そう思った直後、干将を持つ刀夜の召喚獣が前に出た。

 

「——っ!?」

 

木下が踏み込むより、わずかに早い。距離が、逆に詰められランスを最大限活かしきれない。ランスの突きを干将が正面から受け止める。薙ぎ払いを黒刃が火花を散らしながら受け流す。

 

一撃一撃が重く、木下の召喚獣の腕に、確かな負荷が蓄積していく。だが、干将もまた限界に近づいていた。

 

ガキィン!

 

耐久の限界を超え砕け散った。甲高い金属音が教室に反響し、黒い破片が宙を舞う。

 

「今よ!」

 

木下は理解していた。投影には、必ず僅かなタイムラグがある。その刹那を突こうとしたが、その瞬間、刀夜の召喚獣は少しだけ距離を取り詠唱する。

 

凍結、解除(フリーズ・アウト)!」

 

「――嘘っ!?」

 

砕けた干将の位置に、ほぼ同時に新たな黒刃が現れていた、あまりにも速く、投影というより、最初から存在していたかのような速度だったからだ。

 

凍結解除は、事前に設計図のみを脳内で完成させておくことで、ノータイムで投影する技だ。そして木下が距離を取り、再びランスを突き出そうとした、その時信じがたい光景が彼女を襲った。

 

弾き飛ばしたはずの莫耶がまるで見えない糸に引かれるように軌道を変え、すでに召喚獣の背後まで迫っていたのだ。

 

「…なんで!」

 

横に避ける余裕は無い。木下は即断し、召喚獣に破壊を命じる。白刃を当たる寸前で破壊した。それこそが、最悪の選択だった。

 

干将・莫耶

 

決して離れず、互いを引き合う双剣であり、磁石のように、存在そのものが“対”として成立している。

 

そう、後ろの莫耶を砕いた瞬間前が完全に空いたのだ。

 

「しまっ——!」

 

「ハァァァッ!」

 

刀夜の召喚獣が、全身を使って踏み込み、干将を振り下ろす。逃げ場はなければ防ぐ余裕もない。

 

確実に召喚獣に入り衝撃が走り、木下この召喚獣が大きく後方へ弾き飛ばされる。誰も声を出せなかった。静まり返った教室の中央で、干将の黒刃が低く唸りながら、なおも前を向いていた。

 

Aクラス 木下優子

472→ 439点

 

古典 VS

 

Fクラス 鍔守刀夜

505点

 

数値が更新された瞬間、教室の空気がざわめいた。

 

(……だいぶ削られたな)

 

刀夜は内心でそう呟く。正直なところ、ここまで点を削られる想定はしていなかった。干将・莫耶で流れを掴めたとはいえ、相手の制圧力は予想以上だ。

 

それに――

 

(召喚獣、ほぼ上裸なのはやっぱ問題だよな……)

 

具足が砕け、肩や脇腹をかすめるたびに点数が削られていく。防御力の低さは、この局面では致命的だった。

 

「流石に油断したわ……でも、これでおしまいよ」

 

木下は静かに、しかし確信を持って言い切った。事実だった。刀夜は木下の腕輪の能力の弱点を見抜き、干将・莫耶という“答え”で点数を削ることには成功した。だが、それは初見殺しに近い一手であり、二度も三度も通じるほど、相手は甘くない。

 

「刀夜!なんか切り札とかないの!?腕輪あるんならさ!」

 

明久の叫びが、張り詰めた空気を切り裂く。その声に、刀夜はわずかに口角を上げた。

 

「切り札?」

 

一拍置いて、吐き捨てるように言う。

 

「阿呆。あるに決まってるだろ」

 

刀夜の腕には、確かに金の腕輪が嵌められている。一定点数以上の者に与えられる“権限”。発動条件はぎりぎりだが――満たしていた。

 

「木下」

 

刀夜は正面から彼女を見据える。

 

「俺は、これから真髄を見せる」

 

「あら……そんな大っぴらに言って、大丈夫なの?」

 

余裕を崩さない木下の笑み。しかし、その視線は一瞬たりとも刀夜から離れなかった。

 

「大丈夫だから言ってんだよ」

 

そんな中、刀夜は島田に殴られて、あの世界で村正とした会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、さっきも言ったがな。お前さんの召喚獣には、(オレ)の魂が入り込んでる」

 

「へー」

 

「だから宝具……まぁ切り札も使えるはずだ」

 

その瞬間、刀夜の目がキラッキラに輝いた。

 

「え!?マジ!?どんな切り札!」

 

「うるせぇな。とりあえず――」

 

村正は一歩前に出て、親指で自分の胸を指した。

 

(オレ)の体に触ってみろ」

 

「えっ、セクハラ?」

 

「殴るぞ」

 

「すみませんでした」

 

言われた通り、刀夜が恐る恐る手を伸ばした瞬間――世界が反転した。燃え盛る荒野。見渡す限り、無数の刀が突き立つ荒野。

 

次の瞬間、それらすべてが、まるで雪の結晶のように、音もなく砕け散った。残ったのは、ただ一本。村正の手に握られた、無骨で、静かな刀。

 

「ま、こんなもんだ」

 

「じゃあ俺もこれ使えるってことだよな!?」

 

「いや、そりゃ無理だ」

 

即・否定。

 

「なんでだよ!?今の前振り完全に『使える流れ』だっただろ!?」

 

「理由は簡単だ」

 

村正は鼻で笑った。

 

「今見せたのは固有結界だ。使用者の心象風景を現実に侵食させる代物だ」

 

「ほうほう」

 

「継承はできる。だがな――」

 

村正は刀夜を指さした。

 

「お前とオレの心象風景が、同じなわけねぇだろ」

 

「……」

 

刀夜は黙った。またも、ぐうの音も出ない正論だった。人生観、価値観、生き方。全部違う人間が、同じ世界を描けるわけがない。

 

「ですよね……」

 

肩を落とす刀夜を見て、村正は少しだけ声を緩めた。

 

「心配すんな」

 

「?」

 

「お前さんには、お前さんの心象風景がちゃんとある」

 

村正はニヤリと笑う。

 

「じゃなきゃ、ここにすら来れねぇからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を思い出し、刀夜は手を前へ差し出す。刀夜は、今さらのように理解していた。同じ宝具など、使えるわけがない。村正の人生は、村正のもの。積み上げた時間も背負った業も、鍛え上げた覚悟も、すべてが、刀夜とは違う。

 

心象風景が違う。村正は“鍛え続けた者”だ。刀を打ち、打ち直し、なお究極の一を求めた男。

 

刀夜にそれがあるはずが無い。

 

しかし気づけばもう、別の風景があった。誰かの理想でも、完成形でもない。折れて、欠けて、それでも手放さなかった、刀夜だけの心象風景が。刀夜の口から、言葉が紡がれる。

 

 

「———I am the bone of my sword.(体は刀で出来ている)

 

初めは選び取った道ですらない。ただ、気づいた時には――そう在るしかなかった。

 

「———Steel is my body, and fire is my blood(血潮は砂鉄で心は鋼)

 

それは祝福でもない。ただ、生き方がそういう形をしていただけだ。

 

「———I have created over a thousand blades.(数多の戦場を借り物の刃で赴き)

 

自分のものではない剣を握り、折れれば捨て、また次を取る。剣を創っているのか、剣に使われているのか、その境界はとっくに曖昧だった。

 

「———Nor rightful bearer.(幾千の敗北を知らず)

 

敗北しなかったわけではない。ただ、“負けとして数える資格すら与えられなかった”。名を残すこともなく、讃えられることもなく、勝敗の外側で、ただ結果だけを積み上げてきた。

 

 

「———No gift to wield.(幾万の勝利を掴めず)

 

天賦の才はない。英雄の星も、選ばれし者の光も持たない。それでも、剣だけを振るっていた。

 

「———Yet, knowing pain still grasping the weapon.(けれど、彼の者は歩みを止めずに進み続ける)

 

痛みを知り、限界を知り、借り物の力でしか無いと何度も理解して。それでも――刃を捨てるという選択肢だけは、最後まで選ばなかった。折れると分かっていても、報われないと分かっていても。それが、彼の生き方だった。

 

 

「———Thus, this fate was left to be forged.(故に我が生涯の意味は決まらず)

 

誰かの完成品になれなかった人生だからこそ。刀夜は悟る。村正のようにはなれない。いや、なれなくていい。

 

 

 

 

もう既に、

 

 

 

 

この手には、

 

 

 

 

この身体には、

 

 

 

 

 

刀夜自身の“鍛えられた未完成”があるのだから。

 

 

「……これは……」

 

誰が息を飲んだ。言葉が、床に沈み、壁に染み、天井に刻まれていく。刀夜は静かに告げた。

 

 

「———My whole life was.(この体は)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———Unalloyed Blade Works.(一振りの刀で出来ていた)

 

 

 

 

 

 

世界が反転する。床の模様が崩れ、教室の輪郭が歪む。次の瞬間、視界いっぱいに広がったのは、暁の空の下と地平線の果てまで続く荒野とその荒野に突き刺さる無限にも見える刀だった。

 

 

 

これが刀夜の宝具、

 

 

 

 

 

 

無間の剣製(Unalloyed Blade Works)が映し出す心象風景だった。

 

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