バカと刀と召喚獣   作:レゾリューション

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バカテスト 国語
問 以下の意味を持つことわざを答えなさい。
『(1)得意なことでも失敗してしまうこと』
『(2)悪いことがあった上に更に悪いことが起きる喩え』


姫路瑞希の答え
『(1)弘法も筆の誤り』
『(2)泣きっ面に蜂』

教師のコメント
正解です。他にも(1)なら『河童の川流れ』や『猿も木から落ちる』、(2)なら『踏んだり蹴ったり』や『弱り目に祟り目』などがありますね。


鍔守刀夜の答え
『(1)上手の手から水が漏る』
『(2) 禍不単行』

教師のコメント

正解です。....どちらもマニアックですがきちんとした回答ですね。驚きすぎて別人かと思いました。



土屋康太の答え
『(1)弘法の川流れ』

教師のコメント
シュールな光景ですね

吉井明久の答え
『(2)泣きっ面蹴ったり』

教師のコメント
君は鬼ですか。


埃アレルギー持ちだったら確実に死ぬ教室

刀夜は、去年一度も足を踏み入れることのなかった3階に、恐る恐る――というより間違えて迷い込んだ人間の顔で足を踏み入れた。階段を上がった瞬間、空気が違う。清潔で静謐。少なくとも、いや、明らかにFクラスの香りではない。

 

そして、彼の目の前に現れたのは、通常の五倍はあろうかという広さの教室だった。

 

「……これがAクラス?」

 

思わず呟き、顔を上げる。そこには燦然と輝く2年A組と書かれたプレート。刀夜は確信した。ここはもう学校ではなく金持ちの別荘か、未来の宇宙船だ。

 

教室内に視線を戻すと、黒板があるはずの場所には、超大型のプラズマディスプレイ。天井は全面ガラス張りで、自然光が優雅に降り注いでいる。壁には観葉植物、絵画、なぜか抽象彫刻。

 

「あれ……学校にホテルってあったか?」

 

席を見れば、エアコン完備。小型冷蔵庫完備。ノートパソコン標準装備。椅子はリクライニング。もはや「座る」ではなく「くつろぐ」という概念だ。

 

(これが……教室?)

 

刀夜は理解を放棄した。これは教室ではない。ただの娯楽施設である。

 

(まぁ、Aクラスの連中は試験で点数取ったから、ここにいるんだよな……)

 

そして。

 

(俺は、受けてすらねぇけど……)

 

納得と、後悔と、現実という名の粗塩が、傷口にこれでもかと塗り込まれた。

 

 

問題は――Fクラスだった。

 

三階の端で空気が一気に変わる。

 

「……なんじゃこりゃ」

 

そこにあったのは、ほぼ割れかけの木製プレート。窓ガラスはヒビだらけなら、ドアもヒビだらけ。廊下から見える教室内は、埃でうっすら白い。これはもはや教室ではなく半分廃屋である。

 

(埃アレルギー持ちだったら確実に死ぬ教室だな……)

 

はぁ、と深いため息をつき、明らかに建て付けの悪そうな扉を開く。

 

ギィィ……と、嫌な音が鳴った。

 

「うーっす」

 

やる気ゼロの挨拶。

 

「お、来たか」

 

声をかけてきたのは、一人の男。身長180cm強で赤く短い、鬣のような髪。去年からの知り合いである坂本雄二である。凶暴なツラをしてるが幼馴染には勝てないという弱点がある。

 

「よう、お前もFクラスか、刀夜」

 

「ああ。行きたくもなかった教室に、わざわざ来てやったぞ雄二。だから帰らせろ!」

 

「俺に言うな。俺に」

 

即座に突っ込まれた。

 

「……もしかして」

 

刀夜は嫌な予感を覚えながら聞く。

 

「雄二がクラス代表なのか?」

 

「ああ、そうだ」

 

即答だった。文月学園では、振り分け試験の点数が最も高かった者がクラス代表になる。つまり――

 

「Fクラスの代表って言われてもなぁ」

 

実際、Fクラスはバカの集まりだ。しかしその頂点であるKOB(キング・オブ・バカ)の称号を持つ奴は別にいる。

 

「悪かったな。点数が低い中で一番マシだっただけだ」

 

「なるほど、このクラスで一番まともなバカってことか...」

 

周囲を見渡すと、すでに集まっている生徒たちは各々自由すぎる行動をしていた。机で寝ている者。床に座ってカードゲームをしている者。カメラをいじっている者。窓のヒビを数えている者。何故か天井を見つめて哲学している者など様々である。

 

そんな地獄のような教室に、希望の光は唐突に現れた。

 

ガラッ。

 

軋む音を立てて扉が開かれた瞬間、刀夜の視界に飛び込んできたのは、どう考えても場違いな存在だった。整った顔立ちに白い肌。中性的で、下手をすれば女子制服でも違和感ゼロの美貌。しかも立ち姿がやけに可憐だ。

 

(……え、天使......落ち着け、ここはFクラスだ。天使が来るはずがない。せいぜい堕天使止まりだ)

 

「秀吉か、秀吉もFクラスか?」

 

刀夜がそう声をかけると、美少年はにこりと微笑んだ。

 

「うむ。どうやら縁があったようじゃな刀夜。これから一年間、宜しく頼むぞい」

 

名前は木下秀吉。爺言葉で喋る稀代の美少女という噂が文月学園中を駆け巡る存在だが、驚くべきことに戸籍上の性別は男性である。もしこれが女性だったら、刀夜は今この場で告白していただろう。だが戸籍は非情だった。

 

「おう....よろしく!」

 

こうして刀夜は、オンボロ教室・卓袱台・座布団生活という地獄の環境の中で、かろうじて生きる希望を一つ見つけたのだった。

 

……が。

 

クラスがこのまま平和で終わるはずがない。

 

ガラッ!

 

再び扉が開く。今度は希望どころか、騒音源が入ってきた。

 

「すみません、ちょっと遅れちゃいましたっ♪」

 

場違いなほど明るい声。

 

「早く座れ、このウジ虫野郎」

 

「来たな。何故高校に受かったのか不思議な生徒の典型例」

 

「……なにやってんの、雄二?」

 

「先生が遅れているらしいから、代わりに教壇に立ってみた」

 

(どう見ても教師ではないだろ)

 

そしてくるり、と明久は視線を変え刀夜を見た。

 

「それと刀夜。今、遠回しにディスったよね?」

 

「別にいつものことだろ?」

 

「っく……否定できない自分が憎い!」

 

そんなやり取りをしながら入室してきたのは、文月学園におけるバカの象徴、吉井明久である。大事なことなのでもう一度言おう。

 

バカである。

 

「ちょっと!わざわざ二回も言わないでよ!」

 

「おい明久、メタいからやめろ」

 

刀夜に注意されると、今度は後ろから落ち着いた声が飛んできた。

 

「えーと、ちょっと通してもらえますか?それと皆さん、席についてください。ホームルームを始めますので」

 

振り向くと、そこに立っていたのは担任教師だった。疲れ切った社会人のオーラを全身から放っている。刀夜たちは言われるまま、席――という名のオンボロなちゃぶ台へと腰を下ろした。

 

ちゃぶ台である。机ですらない。

 

「えー、おはようございます。F組担任の福原慎です。よろしくお願いします」

 

そう言って、先生は黒板に名前を書こうとした――が。

 

止まった。チョークが無いのだ。

 

(もうそれ、授業以前の問題だろ)

 

福原先生は一瞬考えた末、何事もなかったかのように向き直った。

 

「皆さん、卓袱台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し出てください」

 

その瞬間、ダムが決壊した。

 

「せんせー!俺の座布団、綿ほとんど入ってないんですけどー!」

 

「あー、はい。我慢してください」

 

「先生!俺の卓袱台、脚が折れてます!」

 

「木工用ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください」

 

「センセ!窓割れてて風寒いんですけど!」

 

「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」

 

ここで刀夜も手を挙げる。

 

「せんせー。明久を神の生贄に捧げるので、設備を上げてください」

 

刀夜の真顔の提案が、Fクラスのオンボロ教室に厳かに響き渡った。そして一拍置いて、福原先生は淡々と答えた。

 

「神様が怒りで吉井君を粛清してしまうので諦めてください」

 

「ひどい!?」

 

吉井明久は両手を天に突き上げた。

 

「神にも先生にも見放された!?僕、生きる意味ある!?」

 

「あるわけないだろ」

 

「ないんだ!?」

 

即答だった。そんな明久の魂の叫びを、福原先生はまるで空調の異音でも聞いたかのように華麗にスルーする。

 

「では、自己紹介でも始めましょうか。廊下側の人からお願いします」

 

こうしてFクラス名物、人格紹介という名の事故報告会が始まった。最初に立ち上がったのは、場違いなほど可憐な存在。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

それだけで教室の空気が一段階明るくなる。もはや存在がチート。顔面が暴力的なまでに美しい。

 

(なんでFクラスにいるんだ、この天使)

 

刀夜は心の中で何度目かわからない疑問を抱いた。次に立ち上がったのは、やけに覇気のない男。

 

「………………土屋康太」

 

 

短い、余りも短すぎる。だが、この男を知る者は知っている。

 

特技は盗撮(本人は否定している)

得意科目は保健体育

通称――寡黙なる性職者(ムッツリーニ)

 

なお、刀夜は彼の成果物のヘビーユーザーである。ここでは詳しく語らない。というより語れない。

 

続いて、元気よく立ち上がったのは明るい褐色肌の少女。

 

「島田美波です。ドイツ育ちなので日本語は会話は出来るけど、読み書きが苦手です。趣味は……吉井明久を殴ることです☆」

 

「誰だッ!?そんな恐ろしくピンポイントかつ危険な趣味を持つ奴は!!」

 

叫ぶ明久に、島田は満面の笑みで手を振った。

 

「はろはろー。吉井、今年もよろしくね」

 

去年も同じクラスだったから、刀夜は知っている。島田美波はちょっと――いや、かなり暴力的だ。

 

主に明久に対して。

 

(まあ、大半は明久が失言っていう名の地雷を踏み抜いてるせいだけど)

 

自業自得という言葉が、これほど似合う男もいない。そして、ついに刀夜の番が来た。彼は立ち上がり、軽く周囲を見渡してから言った。

 

「鍔守刀夜だ。刀っぽい名前だけど、日本刀とかは全く扱ったことない。よろしく」

 

鍔守、そして刀夜

 

これ以上ないほど刀に関係ありそうな名前だが、本人は完全否定した。

 

(親戚連中に聞かせたら泣くな)

 

誰も知らないところで、鍔守一族が一人、風邪を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

そして――ついに来てしまった。

 

Fクラス最大の問題児、動く災厄、歩く成績破壊装置。吉井明久の番である。

 

「えーっと、吉井明久です」

 

ここまでは普通だった。

 

「気軽に『ダーリン』って呼んで下さいねっ♪」

 

次の瞬間。

 

 

『ダァァーーリィーーン!!!』 

 

 

野太い声の大合唱。最愛の男性を意味する言葉が、地獄のような低音で教室を満たした。

 

「失礼....忘れてください」

 

明久は引きつった作り笑いを浮かべながら、そそくさと席についた。こうしてFクラスの自己紹介は無事――いや、予定通り地獄絵図だった。刀夜は思う。

 

(……このクラス、一年持つのか?)

 

答えは誰にもわからない。だが一つだけ確かなことがあった。やはりFクラスの日常は、全力で間違っている。

 

 

その後も、Fクラスの地獄――もとい自己紹介は淡々と続いていた。教師は半ば惰性、生徒は半ば投げやり。そろそろ全員終わるか、という空気が教室を満たし始めた、その時だった。

 

ガラッ。

 

乾いた音と共に、教室の扉が勢いよく開く。

 

「あの、遅れて、すみま、せん……」

 

一瞬、教室の時間が止まった。

 

『え?』

 

クラス全員の視線が、息を切らして立っている一人の女子生徒へと集中する。綺麗なピンク色の髪。乱れた呼吸、少し赤い頬、そして――

 

(女子……だと……)

 

Fクラスという魔境に突如現れた、明らかに場違いな存在。その衝撃に、数名の男子が小さく息を呑んだ。

 

「丁度良かったです。今自己紹介をしている所なので、姫路さんもお願いします」

 

担任は何事もなかったかのように話を進める。空気を読まないのか、読めないのか。多分後者だ。

 

「は、はい!あの……」

 

彼女は一度深呼吸をし、ぺこりと頭を下げた。

 

「姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……」

 

その瞬間、教室のあちこちから小さなどよめきが起こった。

 

刀夜は何気なく彼女を見上げ――なぜか途中で視線が止まり、無意識のうちに下へと滑っていく。制服越しでも隠しきれない、二つの雄大な山。

 

「……素晴らしい、生きていて良かった……」

 

思わず漏れた小声は、幸いにも本人には届かなかった。しかし、思いがけない人物の登場により、Fクラスの治安は一瞬で崩壊する。

 

「はいっ!質問です!」

 

既に自己紹介を終えた男子生徒が、勢いよく右手を挙げた。その声に、姫路はびくりと肩を跳ねさせる。

 

「あ、は、はいっ。な、何ですか?」

 

「何でここにいるんですか?」

 

ストレートすぎる質問だった。言い方次第ではいじめと取られてもおかしくない。だが――

 

(まぁ、全員思ってるよな)

 

刀夜を含め、このクラス全員が同じ疑問を抱いていた。なにせ彼女は、一言で言えば頭脳明晰。本来はAクラスにいるべき人物であり、こんなバカ共の掃き溜めに混ざる理由がない。

 

「そ、その……実は、振り分け試験の最中に高熱を出してしまいまして……」

 

(俺と同じ境遇か……)

 

この学校は、試験途中で退席した時点で理由不問の0点。結果、彼女はFクラス送りになったらしい。

 

しかし彼の場合は「試験を受けていない」という姫路と根本的な違いがある。

 

『そういえば、俺も熱の問題が出たせいでFクラスに』

『ああ、化学だろ?アレは難しかったな』

『俺は弟が事故に遭ったって聞いて実力を出せなくて』

『黙れ一人っ子』

『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

弁解大会という名の傷の舐め合いが始まり、刀夜は心の中で確信した。

 

(想像以上にバカしかいねぇ……)

 

「で、ではっ!一年間よろしくお願いしますっ!」

 

姫路はそう言うと、逃げるように教室後方へ向かい、明久の隣――空いていたちゃぶ台に腰を下ろした。

 

「にしてもよ、姫路。もう体調は大丈夫なのか?」

 

「あ、それは僕も気になるな」

 

「ふぇっ!?よ、吉井君!?」

 

明久の顔を見た瞬間、姫路は目を丸くする。

 

「姫路。明久がブサイクですまん」

 

そこに即座に入る、坂本雄二の容赦ないフォロー。

 

「そ、そんな!目もぱっちりしてるし、顔のラインも細くて綺麗だし、全然ブサイクなんかじゃないですよ!その、むしろ……」

 

「だが、姫路の言うことも間違いじゃないかもしれないぞ」

 

刀夜が会話に割り込む。

 

「確かに明久は、見た目だけなら悪くない顔をしてる。見た目だけは。実際、明久に興味を持ってた奴がいた気がする」

 

その一言で、明久と姫路の目が同時に輝いた。

 

「え!?それ誰?」

 

「そ、それって誰なんですか!?」

 

「雄二、言っていいか?」

 

「いいだろ。別に隠すもんでもないしな」

 

「教えてください、鍔守君!」

 

期待に満ちた視線を向けられ、刀夜は頷いた。

 

「確か……久保」

 

「久保?どの久保さんだろ?」

 

「利光だ」

 

久保利光 → ♂(性別:オス)

 

「………………」

 

「おい明久。声殺して泣くな」

 

雄二が明久に声をかける。

 

「僕もう、お婿にいけない……」

 

「明久、なんか勘違いしてるようだが」

 

そんな、刀夜は冷静に言い放つ。

 

「お前を貰ってくれる“お嫁さん”なんて、最初からいないからな?」

 

それはフォローに見せかけた完璧な死体蹴りだった、明久はちゃぶ台に突っ伏し、静かに泣き続けていた。

 

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