「騙されたぁぁぁぁっ!!」
Fクラスの教室に、魂の叫びが叩きつけられた。数分前まで「大使」という高尚な肩書きを背負っていた吉井明久は、今や“Dクラス産ボロ雑巾”として帰還していた。顔面には見事な青アザ。制服は袖から先が存在を放棄し、さらに顔面には油性マジックで小学生でももう少し遠慮するレベルの落書きが施されている。
芸術点:0
屈辱点:MAX
「刀夜!雄二!話が全然違うじゃないか!!」
叫ぶ明久。その声には怒りと悲しみと、若干の涙目が含まれていた。
「Dクラスの連中、僕を見るなり全力で掴みかかってきたんだけど!?宣戦布告どころか、即リンチだったんだけど!?」
「やはりそうきたか」
雄二は落ち着いていた。落ち着きすぎていた。予定通りですと言わんばかりである。
「明久、その傷……誰にやられた!」
刀夜が一応心配している“風”の声をかける。
「流石に僕でも怒るよ!?これは!」
「じゃあやってみろ。この場でお前を叩き潰す!」
「上等じゃぁ!!」
秒で喧嘩成立。
(友情?知らん)
今ここにあるのは理不尽と逆ギレだけだ。しかし、そこに天使が割って入る。
「吉井君、大丈夫ですか……?」
姫路だった。
「あ、うん。大丈夫だよ。ほとんどかすり傷だから」
なお、
・青アザ
・破れた制服
・顔面落書き
を総合すると、説得力はゼロである。
「吉井、本当に大丈夫?」
島田が腕を組んで覗き込む。
「平気平気。心配してくれてありがとう」
「そう……良かった……」
島田はにこりと微笑み――
「ウチが殴る余地はまだあるってことね……」
「ああっ!もうダメ!死ぬ!今度こそ死にそう!!」
「島田、追撃のチャンスだ!たたみかけろ!」
「なんて事を言うんだ貴様!!」
急に腕を押さえて転げ回っていた明久は、ガバッと起き上がり、刀夜を警戒する。そんな状況で雄二が話題を強引に切り替えた。
「そんなことはどうでもいい。今からミーティングを始めるぞ」
誰も同意していないが、強行である。そして明久は、床に伏せたまま何かを凝視している人物に声をかけた。
「ムッツリーニ。覗いてた時の畳の跡なら、もう消えてるよ?」
「…………!!(ブンブン)」
「いや、今さら否定されてもさ。ムッツリーニがHなのは、もう周知の事実だから」
「…………!!(ブンブン)」
「ここまでバレてて否定し続けるの、逆にすごいよ?」
「…………!!(ブンブン)」
そして明久は、絶対に聞いてはいけない質問を投げた。
「……何色だった?」
「みずいろ」
即答だった。
(流石はムッツリーニ。見るところはブレないな)
刀夜は心の中で、彼を尊敬した。
「ほら吉井。アンタも来るの」
島田がぐいっと明久の腕を引っ張る。
「あー、はいはい」
「俺も行くか」
刀夜も腰を上げる。
「返事は一回!」
「へーい」
「一度吉井には、Das Brechenが必要ね。ええと、日本語だと……」
「……調教」
ムッツリーニが即答。
「そう。調教が必要そうね」
「調教って...せめて教育とか指導って言ってくれない?」
「じゃあ中間を取って……Züchtigung——」
「……それは分からない」
「折檻」
またもムッツリーニが即答する。
「それ悪化してるから。というか何でムッツリーニはそんな『調教』とか『折檻』っていうドイツ語を知ってるの?」
「一般教養」
「お前の一般教養、末恐ろしいな……」
「なんて嫌な教養なんだ」
その瞬間だけ、刀夜と明久の意見は完璧に一致していた。Fクラスは今日も、学力以外が異常に高い集団として、順調に戦争への道を突き進んでいた。
そんなやり取りをしているうちに、先頭を歩いていた雄二が屋上への扉を乱暴に押し開けた。ギィ、と鈍い音を立てて開いた先には、遮るもののない青空と、無駄に眩しい太陽。Fクラス一同は普段は床と畳と埃しか見ていない目を細めながら屋上へと足を踏み出した。
「取り敢えずだ。この七人で作戦会議を行う」
雄二が腕を組み、堂々と宣言する。
「明久。宣戦布告はしてきたな?」
「一応ね。今日の午後に開戦予定って伝えてきたよ」
その言い方がやけに軽い。まるで「コンビニ行ってきた」くらいのノリである。
「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」
島田が当然のように言う。
「そうなるな。明久、今日の昼くらいはまともな物を食えよ?」
「そう思うならパンでも奢ってくれると嬉しいんだけど」
「えっ? 吉井君って、お昼食べない人なんですか?」
姫路が目を丸くして明久を見る。
(……こいつの普段の食生活、知らなかったのか)
「いや、一応食べてるよ?」
「…………あれは“食べてる”って言えるのか?」
雄二が胡乱な目を向ける。
「何が言いたいのさ」
「いや、お前の主食って水と塩だろ」
「失礼な! ちゃんと砂糖だって食べてるさ!」
「あの……吉井君。水と塩と砂糖は……食事とは言いませんよ……?」
「舐める、が正確な表現じゃろうな」
秀吉が冷静に補足する。その瞬間、屋上にいる全員が妙に優しい目で明久を見つめた。
「ま、飯代まで遊びに使い込むお前が悪いよな」
「し、仕送りが少ないんだよ!」
必死に抗議する明久だったが、刀夜がぼそりと呟く。
「……明久。今、仕送りをゲーム代に使ってるって認めたな?」
「あ……」
明久は両親が海外赴任中のため一人暮らしをしているが、その仕送りは見事に漫画とゲームへと変換され、最終的に塩分と糖分へと還元されている。そんな空気の中、姫路が少し遠慮がちに手を挙げた。
「……あの、吉井君。よかったら、私がお弁当作ってきましょうか?」
「ゑ?」
明久の口から、日本語とも悲鳴ともつかない音が漏れた。
「ほ、本当にいいの!?僕、塩と砂糖以外の物を食べるの久しぶりなんだけど!」
「はい。明日のお昼でよければ」
「よかったじゃないか明久。手作り弁当だぞ?」
「うん!!」
即答だった。信仰心すら感じる勢いである。しかし――その横で、面白くなさそうに腕を組む人物が一人。
「……ふーん。瑞希って、優しいのね。吉井“だけ”に作ってくるなんて」
言葉の端々に、棘と圧力と何か物騒な感情が含まれていた。
「あ、いえ!その……皆さんにも……」
「俺達にも? いいのか?」
雄二が確認する。
「はい。嫌じゃなかったら……」
「それは楽しみじゃのう」
「女子の手料理とか初めてだな」
「…………(コクコク)」
「……お手並み拝見ね」
それぞれが思い思いの反応を見せる中、刀夜も密かに胸の内で頷いた。
(女子の手料理か……)
ほんの少しだけ、テンションが上がる。
こうしてFクラスの屋上では、数時間後に戦争を控えた集団とは思えないほどのんびりとした昼休みと、明日の弁当を巡る微妙な空気が流れている。
「さて、話が盛大に逸れたな。試召戦争に戻るとしよう」
雄二が腕を組み、仕切り直すように言った。ついさっきまで弁当と栄養失調の話をしていた集団とは思えない切り替えである。
「雄二。前から気になっておったんじゃが」
秀吉が手を挙げる。
「どうしてDクラスなんじゃ?段階的にやるならEクラスじゃろうし、一気に勝負をかけるならAクラスが妥当じゃないか?」
「確かにそうですね」
姫路も素直に頷く。
「どうなんだ、雄二?」
刀夜も口を挟んだ。
「……まあな。当然、考えがあってのことだ」
雄二はニヤリと笑い、いかにも“策士”っぽい雰囲気を纏いながら説明を始める。
「理由はいくつかあるが、まずEクラスを攻めない理由は簡単だ」
一瞬、間を置いて――
「戦うまでもない相手だからだ」
ドン、と無言の自信が屋上に落ちた。
「けど俺達よりクラスは上だろ?個人的には認めたくないが……」
刀夜は疑問と、ほんのりとした私怨を滲ませながら言う。
「確かに、振り分け試験の時点ではそうかもしれないな。だが、実際の戦力は違う」
雄二は明久を指差した。
「明久。周りの面子をよく見てみろ」
「えーっと……」
明久は指を折りながら数え始める。
「美少女が2人、馬鹿が3人、ムッツリが1人いるね」
「誰が美少女だこの野郎!」
「誰がムッツリだ!あぁ!?」
「え!?なんで雄二と刀夜が反応するのさ!?どう考えても違うじゃないか!」
「……...(ポッ)」
「ムッツリーニまで!?どうしよう、僕一人じゃツッコミきれない!」
屋上は一瞬でカオスになった。
「話を戻すぞ」
雄二がコホンと咳払いをする。
「要するにだ。姫路が健康な今、正面からやり合ってもEクラスには勝てる。Aクラスを目標にする以上、Eクラスと戦う意味は薄い」
「なるほどな」
刀夜が納得したように頷く。
「正直、戦力のムラが酷すぎるからな。出来るなら無駄な戦いは避けるべきってのは納得する」
「じゃあDクラスとは正面からやると厳しいの?」
島田が恐る恐る聞く。
「ああ。確実に勝てるとは言えない」
雄二は即答した。
「でも雄二。それなら最初からAクラスに挑めばいいんじゃない?」
「初陣だからな」
雄二は明久の質問に答えた後、屋上のフェンス越しに校舎を見据えた。
「派手にやって、今後の景気づけにしたいだろ?それに、打倒Aクラスのために必要なプロセスだ」
一拍、間を置いて――
「そのためにも、まずはDクラスだ」
その言葉には、根拠らしい根拠は一切なかった。けれど、
「俺達なら勝てる」
雄二は断言する。
「いいか、お前ら。ウチのクラスは最強だ」
なぜか、妙に説得力があった。
(……これが人柄ってやつか)
刀夜は内心でそう思う。
「いいわね。面白そうじゃない!」
「そうじゃな。Aクラスの連中を引きずり落としてやるかの」
「…………(コクッ)」
「が、頑張りますっ」
「お高くとまったアイツらに、一泡吹かせてやるか」
それぞれが拳を握り、気勢を上げる。
「よし。じゃあ今から作戦を説明しよう」
こうして、最低クラス・Fクラスによる、無謀で無茶で無根拠な下剋上の第一歩が、この屋上で踏み出されたのだった。成功するかどうかは――正直、誰にも分からない。だが少なくとも、面白くなる予感だけは全員一致でしていた。
昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。それは本来、午後の授業開始を告げる音である。しかし――文月学園Fクラスにおいては違った。それはすなわち。Dクラスとの開戦の合図であった。
「吉井! 木下達がDクラスの連中と渡り廊下で交戦状態に入ったわよ!」
廊下を疾走しながらそう叫んだのは、ポニーテールを景気よく揺らす島田。その後ろには、同じく中堅部隊所属の明久――と、嫌な予感しかしない表情の刀夜が続いていた。
そう。ついに試召戦争が始まったのである。なお、この戦争における最大の脅威は敵でも作戦でもなく、味方の隊長が吉井明久であることだ。
「はぁ……はぁ……交戦中って……つまり――」
明久が息を整えながら、なぜか一点を見つめて呟いた。
「ああ、胸か」
次の瞬間。
「アンタの指を折るわ。小指から順に、全部綺麗に」
島田の拳が人類の倫理を超越した速度で明久に迫る。
「ちょ、待っ――!」
「明久、お前は何をどう思考したら“戦況報告=胸”になるんだ?」
刀夜の冷静なツッコミが、逆に場の異常性を際立たせていた。どうやら吉井明久は、踏み込んではいけない領域に三段跳びで突入したらしい。
「そ、それよりほら! 今は試召戦争に集中しないと!」
明久は必死の身振り手振りで話題を修正しようとするが、その動きがまるで捕獲直前のタコのようで、余計に信用度が下がる。そして明久は、よりにもよって中堅部隊の隊長である。
(……この時点で詰んでないか?)
刀夜は現実逃避を一瞬だけ試みたが、すぐに前線から聞こえてくる地獄の実況中継に耳を澄ませた。
『さぁ来い!この負け犬が!』
『て、鉄人!? 嫌だ! 補習室は嫌なんだっ!』
『黙れ! 捕虜は全員、この戦闘が終わるまで補習室で特別講義だ!』
『た、頼む! 見逃してくれ! あんな拷問、耐え切れる気がしない!』
『拷問? 何を言っている。これは教育だ』
『補習が終わる頃には、趣味は勉強、尊敬する人物は二宮金次郎――
理想的な生徒に仕立て上げてやろう』
『お、鬼だ! 誰か助け――イヤァァァァァ!!(バタン、ガチャ)』
(……鉄人、怖すぎだろ!!)
恐怖で胃がキリキリしながらも、刀夜は即座に判断した。これは戦況報告どころか、避難勧告案件だ。
「……明久」
「な、なに?」
「前線、鉄人」
その一言で、明久の顔色が白紙答案レベルに変わった。
「島田さん、中堅部隊全員に通達!」
「ん、なに? 作戦? 何て伝えんの?」
「総員退避と!」
「この意気地無し!」
その瞬間、島田の強烈すぎるチョキが、明久の視界に一直線で突き刺さった。
「目が、目がぁっ!!」
まるで、どこぞの大佐のような悲鳴が廊下に響く。
「この馬鹿! アンタは部隊長でしょう!? 臆病風に吹かれてどうするのよ!」
島田の説教は止まらない。
「それと鍔守! アンタも怖気づかない!」
「すいやせんでしたぁ!!」
刀夜は反射的に90度の美しいお辞儀を決めた。謝罪の完成度だけは、すでにAクラスである。
「いい? 吉井、鍔守。ウチらの目的は木下の前線部隊の援護でしょう?」
島田は腕を組み、教師顔負けの真剣さで続ける。
「アイツらが戦闘で消耗した点数を補給する間、ウチらが前線を維持する。その重要な役割を担ってるウチらが逃げ出したら、補給ができないでしょ!」
「……ごめん島田さん」
明久は珍しく殊勝な顔をした。
「僕が間違ってたよ。そうだよね! 今はこの戦争に勝つことだけを考えよう!」
「ああ! 怖気づいたら何も始まらないよな!」
「その意気よ、吉井、鍔守!」
その直後。
「島田! 吉井! 鍔守! 前線部隊が後退を開始したぞ!」
「総員退避よ」
即答だった。
「……あの、島田さん?」
刀夜が恐る恐る口を挟む。
「さっきと言ってること、全然違いません?」
だが、そのツッコミは虚空に消えた。
「よし、逃げよう。僕らには荷が重すぎた」
「そうね。ウチら、精一杯努力したわ」
説教からの全力手のひら返し。これぞFクラス流判断速度である。三人がくるりと方向転換すると、本陣に配置されているはずの横田が立っていた。
「代表より伝令があります」
「え、伝令?」
横田はメモを見ながら、やけにハキハキと告げる。
「『逃げたらコロス』」
「「「全員突撃しろぉぉぉーーっ!!!」」」
次の瞬間、三人は命の危機を感じた人間特有の全力疾走で戦場へ逆走していた。なお、これはFクラスの勝利のためであり、これは決して「殺されたくない」という感情ではない。
断じて違う。
全員突撃により秀吉率いる先行部隊と合流。点数をかなり消費したらしく、彼らは即座に後方へ撤退していった。出陣時より人数が減っているのは、恐らく鉄人に捕獲され補習室へ強制送還されたのだろう。
「吉井、鍔守、見て!」
島田が指を差す。
「五十嵐先生と布施先生よ! Dクラス、化学教師を連れてきたわね!」
渡り廊下には、二学年化学担当の五十嵐先生と布施先生。総合科目戦とはいえ、立会人が増えれば決着は一気につく。
(立会人を増やして短期決戦か……)
刀夜は冷静に分析する。
「島田さんに刀夜、化学に自信は?」
「全くなし。60点台常連よ」
「俺は70点代ってとこだ」
「よし、それなら近づかないよう注意しつつ、学年主任のところに行こう」
「高橋先生の所ね。了解」
三人は目立たないように渡り廊下の端を移動する――はずだった。
「あっ、そこにいるのはもしや、Fクラスの美波お姉さま!」
嫌な声が響いた。
「五十嵐先生! こっちに来てください!」
Dクラスの生徒に、あっさり見つかった。
「げっ!? 美春!」
島田の顔が一気に引きつる。
「マズイわよ、吉井、鍔守!」
「分かってる!」
明久は一瞬で決断した。
「島田さん、ここは君に任せて僕は先を急ぐ!」
「ちょっと!? そこは普通『ここは僕に任せて先を急げ』でしょ!?」
「そんな台詞はアニメや漫画だけだ! 現実じゃ通用しない!」
「お前のことは忘れない!島田!」
「よ、吉井! 鍔守! このゲス野郎共!」
「くっ……今はやるしかないようね……!」
島田は覚悟を決め、叫ぶ。
「試獣召喚(サモン)っ!」
幾何学模様の魔方陣が足元に展開し、システムが起動。現れたのは、身長80センチほど、軍服にサーベルを携えた――ミニ島田だった。
「もう! いい加減ウチのこと諦めてよ!」
「嫌です! お姉さまに捨てられて以来、この時をずっと待っていました!」
「来ないで! ウチは普通に男が好きなの!」
「嘘です! お姉さまは美春のことを愛しているはずです!」
「このわからずや!」
二人の召喚獣が接近する。
「はあぁぁっ!」
「やあぁぁっ!」
正面衝突。力比べが始まった。
「油断したな清水!島田! 加勢するぜ!」
ここで、逃亡するはずだった刀夜が戻ってきた。
(明久、甘いな……)
刀夜は内心で呟く。
(ここで島田を助けなければ、後で100%殴られる。なら今助けて罪を軽減する……!お前だけたっぷり殴られてろ!)
なお、「女子がピンチだから助ける」という純粋な動機は、一ミリも存在しない
「殺します……美春とお姉さまの邪魔をする人は、誰であろうと殺します……」
清水の召喚獣から発せられるその台詞は、もはや恋慕ではなく犯罪予告の域に達していた。刀夜は背中に嫌な汗を感じながら叫ぶ。
「いくぞ、
魔方陣が展開し、刀夜の召喚獣が姿を現す。
下半身を覆う黒い具足に、鍛え抜かれた細く逞しい肉体。左腕には深紅の射籠手、右手には白い羽織を背負っている。黒髪のその姿は――無駄に完成度が高かった。
なお、召喚主である刀夜本人は、多少鍛えているとはいえ「腹筋がうっすら割れている」程度であり、目の前のバキバキ細マッチョ召喚獣とはまるで別人である。
(……なんで召喚獣の方が完成度高いんだ?)
そんな哲学的疑問が浮かんだ瞬間。
「刀夜、加勢する!――
横から割り込んできた声と共に、須川亮の召喚獣が出現した。
Fクラス 須川亮 & 鍔守刀夜 & 島田美波 75点 & 77点 & 53点
化学
VS
Dクラス 清水美春 41点
刀夜の召喚獣の武器は――拳。つまりステゴロである。
刀夜は毎回このスタイルに違和感を覚えていた。召喚獣を扱うこと自体は高一でもやるのだが自分だけ武器無しだった。拳が主体なら何かしらの武器があると思っていたがそれも無い。が、これで意外と戦えているので深く考えないことにしていた。なお、召喚獣がため息混じりの呆れ顔をする理由は、未だに不明である。
そして召喚獣の戦いでは、3対1という構図だがそんなもの関係ない。須川の召喚獣が清水の剣を受け止め島田が隙をついて切りつけ、最後に、
「今だ!」
刀夜の召喚獣が、容赦なく顔面ストレートを叩き込んだ。清水の召喚獣は綺麗な放物線を描いて吹き飛び、清水の点数は0点になった。
「ありがとう、助かったわ須川、刀夜!」
島田は即座に切り替える。
「西村先生!早くこの危険人物を補習室へお願いします!」
「おお、清水か」
鉄人――西村先生は腕を鳴らす。
「たっぷりと勉強漬けにしてやるぞ。こっちに来い」
清水は抵抗する暇もなく、担がれて補習室へ直行。これが俗に言う「戦死」である。
「お、お姉さまぁぁ!!」
担がれながら、清水は叫ぶ。
「美春は諦めませんから!このまま無事に卒業できるなんて思わないでくださいねぇぇぇーーー!!」
あまりにも危険な捨て台詞を残し、彼女は廊下の向こうへ消えていった。
(あれが百合を突き詰めすぎた者の末路か……)
刀夜が遠い目をしていると、
「島田さん、お疲れ」
何事もなかったかのように、明久が声をかける。
「とりあえず一旦戻って、化学のテスト受けてくるといいよ」
なお、この男は数分前に本当に島田を見捨てて逃げた張本人である。
「吉井」
島田の声は、静かだった。
「須川君、刀夜、行こう。戦いはまだ始まったばかりだから」
「吉井ぃぃぃっ!!!」
「は、はいっ!?」
「……ウチを見捨てたわね?」
「……記憶にございません」
「「………………」」
沈黙。そして次の瞬間。
「死になさい、吉井明久!! 試験召――」
「誰か!! 島田さんが錯乱した!! 早く本陣に連行してくれ!!」
「島田! 落ち着け!」
須川が必死に止めに入る。
「吉井隊長を殴るのは別に構わないが、今は戦争中だ! 後にしてくれ!」
「違うわ!! コイツは敵!! ウチの最大の敵なの!!」
須川は明久に丸投げする気満々だった。刀夜も必死に宥めに入る。
「早く連れていって! その禍々しい視線だけで殺される!」
「こら! 離しなさい須川に鍔守!」
島田は暴れる。
「吉井!! 絶対に許さないからね!! 殺してやるんだからぁ!!」
「暴れるな島田! 明久なんていくらでも殴っ――ぐはっ!!」
乾いた音が廊下に響く。
「刀夜ぁぁぁぁ!?」
島田の拳が、完璧なフォームで刀夜の顔面に命中していた。視界が白くなり、明久の悲鳴が遠くなる。
(……あ、これ……俺、完全に巻き添え……)
そう思った瞬間、刀夜の意識はぷつりと途切れた。
次回からようやくfate要素が絡みます