「物語」が動き出すまで、あと二年。
十七歳になったシアン・ウォーカーは、オルクス大迷宮六十五層、巨大な石造りの橋の端に立っていた。
眼下に広がるのは、底の見えない深淵。二年後、南雲ハジメがクラスメイトの裏切りによって突き落とされる場所だ。
シアンは橋の端、闇に隠れた絶壁の岩盤に手を触れた。
(……ここを起点にする)
彼は**【精密錬成】**を発動し、岩盤の組成を組み替え、極限まで硬度を高めた巨大なアンカーを壁面へと深く打ち込んだ。そこに「昇華」を施した強靭な鋼糸を連結させる。
シアンの下降法は独特だった。
彼は鋼糸の先端に魔力を流し込み、足場となる強固な円盤をリアルタイムで錬成。その足場に乗ったまま、糸を自重と魔力操作で精密に送り出すことで、エレベーターのように垂直の壁を滑り降りていく。
下降の途中、シアンは壁面を錬成し、大人が一人横になれる程度の「横穴」を自ら掘り抜いては休憩を挟み、工程を繰り返した。そして奈落一層が視界に入る高度で、ハジメが放り出されるであろう水脈と横穴の位置を特定。さらにその周辺の岩盤を「鉱物系探査」で透視し、ハジメが後に掘り当てることになる「神結晶」の所在を完全に把握した。
その後、奈落一層の底部に降り立ったシアンは、魔力による熱や衝撃を抑えた隠密戦闘で二頭狼や蹴りうさぎを迅速に狩り、その肉を確保。さらに神結晶から溢れる「神水」を特製の水筒に満たし、再び絶壁の昇降を開始した。
「……ハァ、ハァ……。ここなら、見つからないか」
奈落一層から数百メートル上部。自ら錬成した、外部からは死角となる中継用の横穴。
シアンはそこで足を止めた。手元には、先ほど仕留めた魔物の生肉と、奇跡の液体「神水」。
本来、魔物の肉は人間にとって猛毒だ。だが、シアンは躊躇うことなく、その肉を口に運んだ。
「――っ!?」
内臓が焼け付くような劇痛が走る。魔力の衝突、細胞の崩壊。全身の毛穴から血が吹き出し、意識が白濁する。シアンは震える手で神水を無理やり口に流し込んだ。
壊死と再生。細胞レベルでの破壊と、神水による強引な超回復が幾度となく繰り返される。数時間に及ぶその地獄のような「儀式」の果てに、彼の肉体は変質し、魔物の能力を自身の技能として完全に取り込んだ。
(……成功だ。これで、俺は人間を辞めた)
凄まじい疲労感と共に、シアンは自身の身体に刻まれた新たな力――【纏雷】、【天歩】、そして魔物の肉を分解・吸収可能にする**【胃酸強化】**の感覚を確かに掴んでいた。
彼は残りの肉をすべて平らげて空腹を癒すと、変質した強靭な肉体を躍動させ、地上への帰還を開始した。
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シアン・ウォーカー 17歳 男 レベル:10
天職:錬成師
筋力:120
体力:100
耐性:100
敏捷:150
魔力:500
魔耐:300
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+抽出錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]]・魔力操作 [+魔力放射] [+魔力圧縮]・隠密・言語理解・纏雷・天歩[+空力] [+縮地]・胃酸強化
固有魔法:昇華
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