エゴイストの成長を見届けたかった   作:miyata

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最近ブルーロックのコラボ増えてきて嬉しいですね。
スカイツリーのイベントも行きたい。
名作文学×ブルーロックがやっていますが、レ・ミゼラブルはまだ読んでませんが、カイザーは愛を知ろうとしていたのですかね。潔と凛は作品マッチしていると思いました。千切は…投獄中に読んだんですかね…前日譚は読んでないので何とも言えない。上手く解釈できない。



【ネオエゴイスト編:七・八】

【ネオエゴイスト編:七・八】

 

 

イタリアVSドイツの試合も無事終わり、俺達は再び10日間の練習となる。ただ、次回はスペインVSフランス、イングランドVSイタリアの試合が行われるので、ドイツはお休みだ。実質20日間の練習日がある。

今日はトレーニングはひと段落付き、ブルーロック組で休憩を取っていると、前回の試合の話になった。折角一緒にいるんだから、もっとドイツ組と交流してほしいところだけど。

今は年棒について話し合っている。フルで出場した雷市よりも年棒が高く付いた氷織だが、雷市も雷市で嬉しそう。俺も、一緒に練習した雷市のデュエルが評価されて嬉しい。氷織はパサーになると言っているが、より生き生きとしたサッカーになっているので、良いと思った。

 

 

「ストライカーとしては死んだな!」

 

 

「なんとでもどーぞ。まぁ潔くんの方がSNSではイジられてるけどなぁー」

 

 

「え、なんで?」

 

 

「”潔世一はバスタード・ミュンヘンの未来を担う選手であり、将来はミヒャエル・カイザーとの2トップが理想形だ。今はまだ連携するには精神的な未熟さが目立つ両選手だが、お互いを理解し尊重し合えば、世界最強のコンビになる可能性を大いに秘めている”」

 

 

「絶対!嫌!!ファックオフ!!」

 

 

「ダハハ!!」

 

 

「超仲良しだもんねー」

 

 

氷織が”大会ベストカップル♡”のコメントを読み上げたところから、俺も笑いを堪えられなくなった。潔以外みんな爆笑している。潔の否定の仕方が、マジで照れ隠しにしか見えなかった。アイツも潔のこと本当は大好きだから、両想いだよ。

今日はもう夜も遅いので、みんな部屋に戻り始めたので、俺も時間を潰すため他のトレーニングルームへ移動した。俺達が移動した後どうやら、イガグリと潔はその後もなにかやっていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、ちょっと心配になっただけだった。

別に俺がノアやネスのいるBMのみんなが宿泊している場所に行っても、できることなんて何もない。

することもない。

それでも、試合中に見たあの表情が、どうしても忘れられなかっただけで。もう寝ているだろう時間帯なのに、部屋の近くまで来てしまった。案の定、廊下にも誰もおらず、物音や会話も一切聞こえないので寝たのだろう。俺もこのまま風呂に行って寝ようと引き返した。

 

 

ゴホッ…

 

 

誰かが苦しそうに咳している音が聞こえる。音はモニタールームから聞こえてきた。こんな時間に、大丈夫か?部屋の前に移動し、自動ドアが開く。

 

 

 

 

扉の先では、ミヒャが首を抑えて蹲っていた。

 

 

『…!何やってんだ…!』

 

 

『…ァ…』

 

 

駆け寄り、首を絞めていた手を、無理矢理外す。とてもキツく絞めていたのだろう、首にはくっきりと手の跡が赤く残っていた。

 

 

『落ち着け、深呼吸して』

 

 

『…ッはぁ』

 

 

ミヒャは汗だくだった。傍らに寄り、床に滴り落ちる汗を見つつ、様子を見る。

どうして、そんなに自分を痛めつけてしまうんだ。頑張っているのは傍から見てもわかる、どうして自分を傷つけようとするんだ。

…あ、咄嗟にドイツ語で話していた。

 

 

「あー、医務室行くか?」

 

 

『…気にするな』

 

 

ミヒャは厳しい顔をして虚空を見つめながら、そう言う。そんなこと言われても、今の死にかけていた様子を見てからじゃ放っておけるわけがない。でも、前やっていた時は危ないラインの直前を見極めて自傷癖やっていたからな…。タイミングの良いところに、後ろのドアが開いて、ネスが入ってくる。ネスは目を見開いて驚いて駆け寄ってくる。

 

 

『カイザー!?どうしちゃったんですか…?!?!』

 

 

「…コイツまた自分で自分の首絞めてたんだけど。お前が医務室連れてってくれない?」

 

 

『な、なんで…そんなこと。って待て!』

 

 

『…』

 

 

無言で下を向いたまま動かないミヒャと、慌てふためくネスを背に、部屋を出る。ネスがいれば大丈夫だろう。首の絞頸痕も、直ぐに気が付くはずだ。先に医務室に行って、医者に伝えてこよう。

ミヒャの唯一無二の親友のネスがいれば、きっと大丈夫なはずだ。きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の衝撃的な場面を目撃してから、正直よく寝れなかった。

出会ったばかりのころは、その様な癖を見せてはいた。一種の防御反応なのかもしれない、と簡単に結論付けて、そんなことやめるように言ったらやらなくなったんだ。それなのになんで、今更。

考え事をしながらやっていたのが良くなかったのか、シュートを外した。しかもそれがイガグリに直撃した。

 

 

「イってェッ!!」

 

 

「あ、イガグリマジゴメン…!」

 

 

本当に申し訳ない。けど、イガグリは見た感じ元気そうだし、別に大丈夫か。イガグリは目標を見つけたのかわからないけど、これまでよりも一生懸命練習しているところだったろうにスマン。

けど、その後のトレーニングも思うような成績を残せず、またシュートがあらぬ方向に飛んで行ってしまった。俺も昨日彼の傍に居続けた方が良かったかな。ていうかなんか、頭がぼんやりする。

そういえば、あの部屋のモニターには潔ばかり映っていたな。もしや潔のことを本当に恋愛対象として見ていて失恋でもしたのか?…いや、何を考えているんだ俺は。ルーティンであるプレーを解析していたであろうに、失礼だ。

考え事をしながらやっていたら、潔が近寄ってくる。

 

 

「大丈夫か、江戸川。顔赤いし、熱あるんじゃないか」

 

 

「え…。そうかも」

 

 

潔に指摘された通り、熱があるっぽかった。またやっちゃったか。今はもう昼近くだが、朝から調子が悪くなっていったのは自覚していた。また、倒れてしまう前に離脱しよう。

心配してくれる潔達に大丈夫だよと言いつつ、トレーニングルームを後にした。指導者でもあるノアにも勿論報告したが、淡々と了承してくれた。これでも離脱は3回目か4回目だし。普段から表情の変化もないし、何かを諭してくることもないので、気が楽だった。

遠くにいたミヒャが、一瞬こちらを向いていた気もしなくもないが、俺はそのまま医務室へ向かった。

 

それからは十数時間寝たり起きたり、あまり働かない頭であの時のことや、過去の事を思い出していた。その後トイレに行くために移動をしたが、うっかり間違えて普段来ない通路へ行ってしまった。ここは管理者棟に向かう通路だったと思うが…奥にある部屋に、白衣姿の帝襟さんが入っていく。

なんだろう、と部屋を覗いてみると────。

 

 

「國神…?」

 

 

大量のモニターが並ぶ部屋に、SF染みた装置のあるベッドで、寝ている國神。

 

 

「あ、起きたんですね!」

 

 

「帝襟さん、ご迷惑をおかけしました。あと勝手に入ってすみません。…これは?」

 

 

「ああ、これはですね────」

 

 

人工的にノエル・ノアを作り出す実験。國神がノエル・ノアのコピー人間として改造させられたという話は、本人がそう話していたので知っていたが、まさかこんな人体実験染みたことをしているとは思わなかった。本人了承の上、勿論合法の範囲でやってるそう。…本当に大丈夫だよな、これ?

それと、絵心さんが、俺がカメラの前でぶっ倒れたり醜態を晒さないようにしていたことを褒めていたとかなんとか。

帝襟さんと色々と話していると、カプセルの中の國神が目を覚ました。國神は酸素マスクを外し、こちらを睨んでくる。

 

 

「人が寝ているのにごちゃごちゃとうるせぇ、江戸川」

 

 

「ゴメン」

 

 

カプセルの中では自由が効かない、とかそういったことはないんだな。ああ、良かった。國神は上裸だけど中は暖かいみたいだ。

 

 

「フン…見世物じゃねぇ、さっさと出て行け」

 

 

「あ、はい…」

 

 

國神に殺伐とした目を向けられたので、大人しく出て行くことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10日間の練習を終え、試合が行われる日になった。今回はドイツは試合はないので、モニターで観戦となる。

フランスVSスペインの試合をモニターで見たけど、凛が大活躍していた。フランスチームは途中で凛を下げて士道を入れる…ダブルスタンダードなチームか。正直、この青い監獄に士道と合う奴なんていないと思っていたけど、烏と斬鉄は彼にそれなりに合わせられるっぽい。NELでは無限に交代可能なので、ダブルスタンダードなんて方法を採れるが、これはこれで面白いな。これまで全勝している強敵だから、どうなるか楽しみだ。

フランスのあのMF上手いなぁ。シャルル・シュヴァリエって言うんだ。前にフランスに行った時にはいなかったと思うので、最近出てきた選手かな。見た目はとても幼く見える。

 

イングランドVSイタリアでは、1-3でイタリアが勝利したらしい。あの閃堂がゴールを決めていたのはびっくりした。あと、イングランドの凪と御影が不調になっているのがちょっと気になった。

 

フランスのロキって俺と違って、プレースタイルの言語化が上手だから、本当に指導者ポジション向いてるよな。セカンドキャリアにおいて監督に転身しても上手くやれそう。俺は誰かに教えるのは苦手だからすぐ「サッカーしようぜ」ってなって具体的なプレーを交えながらになっちゃうけど。ロキってば実は人生2回目なんじゃないの?て常々思ってたわ。

 

 

年棒は後で確認すれば良いとして、未だトレーニングフィールドにいるであろう面子の様子を見に行く。モニタールームにいないということは相手の対策に時間を割くよりかは、個々の特技を伸ばしてアピールすること狙っているんだろう。

 

トレーニングフィールドには、イガグリと清羅、それとフィールドの隅からそれを見つめるノアがいた。イガグリはわざと倒れてファールを貰いに行く練習を清羅としているようだった。マリーシア。清羅は優しいのかイガグリの練習相手をしてくれている。この前から思っていたけど、清羅、本当に神か?エゴイストってアレな奴が多いけど、清羅は聖人かもしれない。あんま話したことないけど、仲良くなってみたい。

で、ノアはその練習模様を真剣に見つめている…。どう思っているのだろう。ちょっと話しかけてみる。

 

 

「彼のこと気に入りましたか?」

 

 

『…使い様はあると思う。あのマリーシアを持つ選手はここには他にいない』

 

 

「確かに」

 

 

ノアに使えると判断されているので、彼の事かなり評価しているんだな。次の試合、ダブルスタンダードで勢いの非常に強いフランスチームなので、確かに良い駒になりそうだと思った。

 

 

『お前は人の事見ている余裕なんてないはずだ。今のままだと上位11人のスタメンに入れない』

 

 

「ごもっともです…」

 

 

ノアからの厳しいお言葉通り、休んだりなんやかんやあって、スタメンに入れるような成果を示せていない。相変わらず変化の無い表情で、淡々と告げていくノア。

 

 

『使えるものは何でも使え。お前はもっと貪欲に上を目指せ』

 

 

「はい」

 

 

『…腑抜けた雰囲気出しているのは、本当にアイツそっくりだな。次戦に向けて作戦会議だ、モニタールームへ集合しろ』

 

 

「…?」

 

 

誰の事を言っているのか、もしかしたら俺の事なんてあんま考えたくないけど。作戦会議ということで、ノアの後を追って、清羅とイガグリと共にモニタールームへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2位は記憶にも残らない。一位じゃなきゃ何も残せないのが世の常だ』

 

 

モニタールームでノアの作戦会議&指導を受けた後。

 

 

『どーぞ独裁者さま』

 

 

「うるせーうるせー」

 

 

絵心さんがやってきた。あれ、前に見た時よりも隈酷くなってるような。あとかなり細くなっている。今回の選考は絵心さんが直接指導する場面はこれまでなかったわけだが、運営で色々と忙しかったのかな?それか國神の実験に割と時間を割いていたりして…。わかんないけど大丈夫かな。

ノアはそのまま部屋を出て行き、入れ替わりで絵心さんが話し始める。そういえば、前にドイツでノアから絵心さんの話は少しだけ聞いたことがあったな。旧友なんだとか。

絵心さんは自己独創性について話している。

 

 

「自己創造性とは=『飢餓』だ」

 

 

何者になりたいか、その飢餓精神こそが、自己独創性であり、プロフェッショナルであると。

俺も確かなんだっけ…色々忘れちゃったけど。凄い欲望があってサッカーに打ち込んだが。

NELが始まって既に40日が経過した訳だが、ここまで選手の活躍を沢山見届けられて、本当に嬉しい気持ちだった。

 

 

(ミヒャ、俺はこの世界に俺という存在を証明したい、

そのためにU-20で(BLの)対戦相手として立ちはだかるんだ)

 

 

かつて、ドイツでそんな事を言ったような朧気な記憶を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終戦のVSフランス戦に向けての10日間は、これまでと変わらず練習ではあるが、ほぼ全員がここに来た当初よりも格段にレベルアップしていた。一方、俺は落ちるばかり。でも潔やブルーロック組の相手をするのは楽しいし、成長を見られて面白い。あまりバスタードミュンヘンの面子と直接やることがないのは残念だが。

ここに来て、凛とは連絡をよく取りあっているが、お互いの棟に行くことはなかった。対戦前に相手の棟を移動している人は見なかったので、俺も行かなかった。

でも、最終試合終わったらそのまま解散になってしまうので、今のうちにフランス棟に行って、凛と話してみたかった。

移動の申請はすんなり通ったので夜にフランス棟へ向かった。帝襟さんに士道に注意するようには言われたが…。

 

 

「よ、凛」

 

 

「ケ、あ!えっと…」

 

 

「元気にやってたかー」

 

 

誰かを殺しそうな目をしていた凛だが、こちらが話しかけると、年相応のふわふわした表情になった。今うっかり名前言いかけていなかったか。危ないぞ全く。

最近の事の他愛のない話から始まる。色々と凛も大変だったらしい。特に士道がちょっかいをかけてくるのが面倒くさかったとか。

 

 

「そういえばさ、凛もそろそろ冴と、じっくり話をしてみたら」

 

 

「は?」

 

 

「あいつ、MFに転向してから酷く悩んでいたし。特にお前との約束を果たせなくなることを。それでも、冴は凛に会いに来てくれたんでしょ」

 

 

「…クソ兄貴は、俺の事なんて…」

 

 

「それに…冴は、凛の味方だよ。一先ずは次の対戦、楽しみに見てるからな」

 

 

「…勿論出るよね?」

 

 

「あー…。色々休んでたりして多分スタメンに入れないんだよ。でも、凛の試合楽しみにしてる」

 

 

うるうるした顔から一転、しょぼんとした顔になった凛。コロコロ表情が変わって可愛い。せっかくフランス棟まで来たので、凛と1on1をすることにした。今回の選考を通して格段にレベルアップした凛を見て楽しくなってちょっと夢中でやってしまった。

 

 

「あ~、もう疲れた」

 

 

「…ここまでにしておくか」

 

 

体力が底をついたので、フィールドに寝転がった。とても汗をかいた。凛はまだ余裕そうだったのか、何てことのないのように立っている。満足させてあげられてなかったらごめん。

凛の手を借りて起きて、もう帰ろうとした時、フィールドに誰かが入ってくる音がした。こちらへ向かって全速力で走ってくる────。

 

 

「ミィツケタ♡」

 

 

「ひゃッ」

 

 

「オイクソ害虫!!こっち来んな、出て行け!!!」

 

 

士道がこちらめがけて猛ダッシュでやって来る。そして凛も、いつも通りの人を殺しそうな表情に戻った。凛は俺の前に立ってくれる。

 

 

「リンリンそんな冷たいこと言わないでぇ。俺とリンリンと江戸川で、#Pどうよ?」

 

 

「やらねぇ、クソ害虫、これ以上近づくな!!」

 

 

「凛、足止めありがと!!話せてよかった、またねー」

 

 

凛が士道のことを捕まえて足止めしてくれている隙に、俺は帰った。凛に迷惑ばかりかけて申し訳ないが、会えてよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついつい本気で夢中でやっちゃったわけだが、案の定その様子がBLTVに投稿されていた。俺が本気でやったの最初のちょっとだけだし、体力が尽きて最終的に負け越したし、情けない姿を晒しただけではあるが…。バレてないといいんだけど…。

SNSを漁ってみたが、俺のプレースタイルが有馬に似ているなんて投稿もチラホラあったが、それよりも凛を持ち上げる投稿の方が圧倒的に多かった。凛カッコイイなんて投稿もたくさんある。わかるよ、マジで。士道はセリフの大半がカットされているのかそれ程話題に上がっていない印象だ。

 

他には誰が話題になっているかというと、潔や凛、蜂楽、國神、千切とか。斬鉄の意味不明な言い回しもバズっていたり。乙夜や烏なんかも特に女子に人気だそう。

あと、凪と御影。彼らもこれまで頻繫にトレンド入りすることがあったのは知っていたが、ここ最近は誹謗中傷のような投稿がチラホラと見受けられた。世界一になりに来ているとはいえ、まだ高校生なんだし、NELが盛り上がっているとはいえ、このまま放っておくのは良くないと思った。

帝襟さんに確認しつつ、俺もそれとなく誹謗中傷はやめるように投稿した。でもこういうのってあんま意味ないんだよな。未来ある才能の原石たちがこんな事で潰れてほしくはない。彼らもこんな素人が書いた書き込みなんざ気にしないかもしれないけど。

 

今日もいつも通り練習だが、昨日はあまり寝れなかったこともあってか、疲れ切っていた。

いつも通り、夜遅い時間に風呂へ向かい体を洗い、そのまま出て医務室へ向かう。廊下にはいつも通り誰もいなかった。

 

 

「…?」

 

 

ふと、後ろから視線を感じ、振り向く。誰もいない。他人がいるような足音はしなかった。また士道か?と思ったが待てど接触してくる気配はない。

疲れていたし、気のせいだ。そう思って歩みを進める。

 

────後ろから体を思い切り引っ張られる。

 

 

「?!」

 

 

誰かのいたずらかと思い、後ろを振り返ると、知らない背丈のスタッフの装いの人が、俺の両手を後ろで掴んで関係者用通路へ押し込まれた。

 

 

「なにするん────」

 

 

そいつは手際よく腕を縛り、口に話せないようにガムテープを張ってきた。蹴ってそいつを引き剥がすことはできたが、俺は倒れ込んでしまった。そいつが近づいてくる。

 

 

「…ッ」

 

 

「んんー!!!(こっち来んなー!!!)」

 

 

帽子を深く被っていて、顔が見えない。ドッキリ?なわけがないよな。誰だ、選手指導者にこんな奴いたか────。

 

 

「やっと、いなくなってくれたと思ったのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side:・・・・】

 

 

その日は、偶然まで夜遅くまでフィールド上で練習している人影があった。

 

 

『クソッ!!!』

 

 

潔世一を喰うため、ミヒャエル・カイザーはフィールド上でひたすら新技の練習をしていた。

 

 

『カイザー、もう遅いですし寝ましょうよ…』

 

 

『…ッああ。わかった、お前は先に着替えて戻ってろ。俺もすぐ行く』

 

 

『はい…』

 

 

ネスがカイザーに今日は練習を終えて戻ろうと話したのは、既に3回目であったが、ようやく練習を終えて寝る気になったカイザーに、ネスはホッとした。トイレにも行きたかったので、言われた通り、先に戻ることにした。

 

 

『…』

 

 

シンとしたフィールド上で少し練習をし、明日に影響しそうな段階になる前に切り上げる。備え付けられたカメラの向こうには今も誰かが居て、この様もきっと編集され投稿されるのだろう。最初は自分を売り出す上でカメラを意識していたこともあったが、今となっては少し不快に感じる。

さっさとシャワーを浴びて寝ようと、カイザーはフィールドを後にした。

 

シャワーを浴び終え、ふと手元を見ると小さな傷があった。これくらい良くあることで、普段は絆創膏をちゃんと携帯しているカイザーだったが、切らしていたことを思い出した。

 

 

(取りに行くか…)

 

 

さっさと寝てしまいたいところではあったが、こういうのは早めに対処すべきだと、仕方なく医務室へ向かうことにした。

 

 

「────ン!!!」

 

 

『…?』

 

 

ガタンっと遠くで物音がしたと思ったら、くぐもった声だが誰かが叫んでいる。

この声に、カイザーは聞き覚えがあった。誰かは思い出せなかったが。

厄介事には不用意に近づかないのが大事なのはわかってはいたが、潔やブルーロック組をからかうネタができるかもしれないと思い、誰がいるのか様子を見に行った。奥の通路を曲がった先────。

 

 

『?誰もいねぇ…』

 

 

 

確かに声と物音は聞こえたはずなのに、そこには誰もいなかった。監視カメラの死角になっているそこは、近くにスタッフ用のドアがあるだけだった。

スタッフの誰かが騒いでいただけだと思い、ドアの前に立っていたカイザーは引き返すことにした。

 

 

「────あんたなんかいなければ良かった!!!!」

 

 

『?!』

 

 

ドアの向こうから物騒な叫び声が聞こえてきた。引き返そうとしていた足が止まる。聞き間違いかイヤホンの翻訳ミスかと思った。ドアの前で立ち止まって続きを聞く。

 

 

「ンー!!!」

 

 

「どうして私の前に現れ続けるの?!あの時きちんと殺せていればよかった!!!!」

 

 

ドタバタと暴れる音も聞こえ、只事ではない雰囲気だとカイザーは思った。これはもしかしたらドッキリという奴であり、このドアを開けるか開けないかを観察しているのかもしれない。

わざわざ用意してくれたのならば興に乗ってやろうと、ドアを開けようとした。

パスロック式の鍵がかかっていた。このタイプのものは、端末に付着した指紋汚れを見ればわかると、これまでの経験から判っていたので、解除してそのまま開けた。

 

 

「────さよなら、このまま闇に沈んいていってね」

 

 

その人物は手に持っていたナイフを、そのまま横たわる人物へ振り下ろす。

 

 

『ッあっぶねー…。随分、手の込んだ芝居だな』

 

 

「ッ!!」

 

 

振り下ろされる直前で、カイザーはそれを蹴り飛ばした。柄の部分を狙い、誰にも怪我を負わせることなく綺麗に収められたと、思っていた。

手にナイフを持っていた人物は、そのまま走り去っていってしまった。

そして、横たわる人物はどんな奴か、顔を見ようと近くまで寄った。

 

 

『────は…ッ』

 

 

江戸川というブルーロック側の人間だった。ただの端役、ブルーロック組の中では使える人間でもあり、直近のスタメンにも選ばれず、最近はちょくちょく練習を休んでいるようで、あまり印象には残っていない奴だった。かつて、自分をあのクソったれな場所から抜け出すきっかけを作った友人にどこか似ていたものを感じたこともあったが、特段気になるような奴ではなかった(世一のことで頭がいっぱい)。先日、自分の醜い場面を見られたこともあったが、その時にも例の友人を彷彿とさせたな、と思った。そんなことよりも。

口にガムテープを貼られ、手を縛られている江戸川。自力で解くことが難しそうだったので、丁寧に剝がして解いていく。

 

 

「──ッハァ…ゲホッ」

 

 

『一応聞くが、大丈夫か?』

 

 

「…ああ」

 

 

『そうか。………!』

 

 

カイザーは江戸川を正面から見ると、江戸川の首に絞痕があったのを見てしまった。

 

 

『おい、それは何だ』

 

 

「ん?」

 

 

『首の、それ。まさかさっきの奴に────』

 

 

「気にしなくていいよ。…でも、これで君とお揃いだね」

 

 

『…!!フザケタこと言うんじゃねぇよ…!!』

 

 

「俺、この後ちゃんと医務室行くから大丈夫。…あんま大事にしたくないし」

 

 

『ハァ?』

 

 

「でも、助かったよ、ありがとう」

 

 

相変わらず無表情の江戸川がそう告げる。芝居にしては手が込みすぎていた。これは本当に大丈夫なのか、再三にわたり江戸川に確認したカイザーだったが、問題ないと突っぱねられた。それに時刻も疾うに日付を超えてしまっていた。彼からもう早く寝たいと言われて、他人を気遣うなんて自分らしくないと思いつつ、カイザーは部屋へ戻った。

かつて、ドイツの夕暮れで見た彼の表情と、どこか江戸川が重なって見えたような気もした。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side:・・・・】

 

 

 

「あれ、今日も江戸川休みなのか…」

 

 

「みたいだね、大丈夫かな」

 

 

潔と雪宮がそう話し合う。練習が始まる前に、既に選手はチラホラとフィールド上に集結しつつある状況であるが、潔はこれまでの江戸川は朝はほぼ一番か、いつもかなり早く来ている印象があったので、時間ギリギリになっても現れない彼は今日もきっと休みなのだろうと思っていた。

第七、八試合も終わり、次のフランス戦へ向けて練習しているドイツ。最初の10日間は余裕そうにしていたバスタードミュンヘンのドイツ組ではあったが、今は皆真剣な表情で鍛錬を積んでいる。最後の10日間にして、ここにいる誰もが本気でスタメンを狙っている状況だった。そんな中で、体調不良で休むメンバーは、正直浮いている存在でもあった。

 

 

「確かに気になるけどさ、俺も他人の事気にしている余裕ないっていうか」

 

 

「そうだな、ていうかこの前見舞いに行ったら断られてさ」

 

 

「あ、雪宮も行ったんだ」

 

 

「うん」

 

 

二人が話している間に続々とフィールドに人が集まり始め、ノアが来たところで練習が開始された。練習が始まると、ここにいない人物のことなんて考えている暇もなく、集中して潔達は成果を示していく。

12時を過ぎて昼食を取り、その後潔は一足先にフィールドに戻って練習していた。

 

 

『オイ』

 

 

「…カイザー?ッなんだよ」

 

 

後ろからカイザーに話しかけられた潔は、警戒心を露にとげとげしく言う。何時ものようにウザったい煽りをしにきたと思ったが、相手が何時ものこちらを見下したような薄ら笑みを浮かべていたわけではなかったので、潔は不審に思った。

 

 

『アイツは今日はいないのか』

 

 

「アイツ…?」

 

 

『…江戸川とかいう奴』

 

 

「ああ、江戸川なら今日は体調不良で休みだってさ」

 

 

『そうか』

 

 

「…?」

 

 

お前らしくない、潔はそう言い返そうとした。いつもならもっと突っかかってきて”世一ぃ~”と言いながら上から目線で煽りまくるのに。何かあったのかと思ったが、あのカイザーが何かに悩んでいるということはあり得ないだろうという事で、突っ込まなかった。文句は全て、勝った後に言えばいい。

 

練習が再開されたが、それからは何時も通りに順調に進んでいった。

 

 

「國神」

 

 

「…んだよ潔」

 

 

「江戸川のこと何か知っているか?」

 

 

「知らねえし興味ねえよ他人の事なんざ」

 

 

「あ、うん。…ありがとう」

 

 

潔は國神に対して返答は期待してはいなかったが、一応聞いてみた。

ただ、國神も思うところがあったのか、少し悩んだ末に潔に話し始める。

 

 

「…恐らく江戸川は運営とグルだぞ」

 

 

「え…ハァ?!どういうこと」

 

 

「チームZの時からアイツの行動は節々不審な点があったが…気づいていないならまぁいい」

 

 

國神はチームZの頃から、皆が寝ている時間にも一人で鍛錬を行っていた。そこで江戸川と一緒に練習もしたこともあったが、トレーニングでもなく明らかに一人で何かコソコソやっているのには気が付いていた。

それに、自身をノエル・ノアのコピーへ改造するための部屋、あそこはブルーロック関係者しか入れないはずだった。その他にも、NELが始まって気になる点はいくつもあった。

正直國神にとってはどうでも良かったので、本当に何も知らなさそうな顔をしてどういうことだと聞いてくる潔を適当にあしらいつつ、國神はフィールドに戻った。

 

 

 

 

 

 

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