ついでに青タイツも販売して欲しいです。あれ着て外で歩いたら通報されそうですが…。
【ネオエゴイスト編:第十試合】
日中の練習も終わり、夕食を終えトレーニングフィールドを見て回ると、ネスとミヒャが青タイツを着てトレーニングに勤しんでいた。何気に着ているところは初めて見た。汗だくになりながらも色々と試行錯誤をしているようだった。
先にネスが何処かへ行き、ミヒャは一人でずっと練習をしているようだった。あんなにひたむきに取り組んでいる様子は、かつてバスタードミュンヘンに入りたての頃を思い出した。タイミングを見計らって、少し話しかけてみる。
「皇帝衝撃波の新技か」
『…ああ』
凄まじい蹴りの速さと、回転のかかったボール。直撃したらタダでは済まなさそう。世界一にも通用する唯一無二の武器だ。
「世一は喰えそうなのか」
『…ッそうだ、この新兵器さえあれば俺は…!!!』
目がギラギラしている。本当に潔のことに執心しているようだった。いつもみたいに飄々とした雰囲気ではなく、何かを切り詰めたような雰囲気なので、邪魔しちゃ悪いか。
「青い薔薇が咲き誇るところ、見てみたいな」
『…?精々、首を洗って待ってろ』
何時にも増して真剣な表情で、こちらを指さしてそう言ってくる。潔を喰えると良いね。
☆
案の定といいますか、体調不良で練習数日休んで当然ランキングには入れなかったので、今回もベンチでした。ブルーロック組では、潔、國神、雷市、清羅、氷織、我牙丸が入っている。人数だけみればブルーロックがバスタードミュンヘンを乗っ取ったと言ってもいいだろう。
『この試合では状況に応じてメンバー変更を積極的に行う。このチームでできる極限まで戦い方を試したい』
最終戦はベンチメンバーもワンチャン出るかも、とのことだった。現状ドイツ組の人数が少ない状況にはなっているが、ここからどう傾くかな。
…正直、出てと言われても無理かも。めっちゃ頭痛いし。
試合開始時間間近になり、フィールドに移動する。対戦相手のフランスチームは、ブルーロック組では凛、士道、七星、斬鉄、時光、烏が出るそうだ。
凛もちょっと見ない間にすぐ色んなことできてるから、見るのが楽しみだ。この短期間でどんな技を身に着けたのかとても気になる。それと、未だに士道と同じチームなのがちょっと心配だ。これまでは凛と士道は同時に出ることはなかったので、今回滅茶苦茶になるのでは?
あ、ロキもいる。こっち見てウィンクしてきてる。軽く会釈しておく。
早速、士道はミヒャを煽りに行っている。顔色一つ変えないのカッコいいよなぁ。いや、少しイラついているか?
凛と潔も至近距離で何やら話し合っているし。いつの間にか仲良くなってる?
軽い罵り合いを経て、早速試合開始だ。
KICK OFF────
初っ端からバチバチ凄い戦いしているな~。各々が持っている武器を最大限に活用しつつ戦っている。
相手のMF、シャルルという子は状況をよく見つつ、凛と士道を上手く使っているな。凛の技術も凄まじいが、それに必死に喰らい付いていく七星も、この短期間で圧倒的に成長していることが伺える。
凛のシュートは氷織にブロックされた。凛の次元に付いてこれる選手が増えたよなー。
テンポの早い試合だが早速、シャルル×士道のゴールで1-0。互いに目視せず、最適化なポジション取りが出来た士道にシャルルのボールが回ってきた結果だった。
☆
【Side:・・・・】
士道がゴールを決める数分前。
『彼はスターティングメンバーではないのですね』
ベンチにいるロキは隣にいる男に話しかける。
『…お前が誰の事を言っているかは想像がつくが、彼は俺が設けた基準をクリアできなかった。それだけだ』
『そうですか。…楽しみにしていたのに』
ノアは淡々と、ロキは残念そうにそう言う。ロキはチラリとベンチに座る彼を見る。
…顔が真っ青なので体調が悪そうで心配になってくる。
『前と変わってあまりにも不健康そうな見た目になっていたので心配しました』
『…今のお前の言葉で確信を持てた。あいつの正体が』
『え?…チームメイトなのに知らされてなかったんですね』
ロキは心の中で謝罪した。チームメイトに正体は話していない様子なのは想定ついていたが、まさか指導者にまで秘密にしていたとは思わなかったからだった。あとで、本人にバレてしまったことを謝罪せねばと考える。
『あいつに何があった』
『僕も知らないです。でも、前回お会いした時は、心なしかここにいることを楽しんでいるようでしたよ』
『そうか』
☆
【Side:有馬】
先制点を取られてしまった訳だが、ノアの指示で士道には國神が付くことになった。相手のツートップの片方を潰せることで、勢いを削げるだろう。試合は再開したが、試合の細かい読み合いの部分でMFのシャルルに負けることはあっても、氷織×潔×國神で敵の防御陣を破壊していけているようだった。ゴール直前で凛と、ミヒャがまた飛び出してきたが、潔は新技でゴールを決める。凪の技を彷彿とさせるものだった。これで1-1。
…凛とミヒャめっちゃ叫んで唸ってる。
凛はわかるけど、ミヒャ。盗賊失敗じゃなくて。潔から奪うことじゃなくて、もっと良い奪取ポイントあったんじゃないのか。
潔主体でゴールが決まったことで、ノアから新たな方針が話される。
『ここで選手交代だ、バスタードミュンヘン。完全に機能し始めた潔世一中心の戦術を強固にするために、下がれグリム』
グリムが下げられ、代わりに黒名が入る。DFを除いて、とうとうドイツ組はミヒャとネスだけになっちゃった。
ミヒャは普段と比べたら滅茶苦茶怒ってる感じは伝わってくるけど、怒りを爆発させないように抑えつつ、何かを決意した表情をしている。
試合は再開されたが、途中でシャルルが交代したいと言い出し、周りがびっくりする中で、ミヒャとネスはDF陣を突破しつつ相手の懐まで行く。
シュートをするが、外れてしまった。カイザーインパクト?いや、これは────。
『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』
シュートを外して、苦しそうに叫ぶミヒャ。ああもう、そんな苦しそうにしないで欲しい。十分頑張っているのは知っている。潔のことに拘らなくても既に有用性は示せている。素晴らしいポテンシャルと良い武器を持っているのに、まだ突き進めるのか。
ミヒャはシュートが決まらず転んで、そこに潔が近づいてくる。
「俺に跪けよ クソピエロ」
あー!潔ー!お前言い方!!
俺の隣に座るイガグリもびっくりしている。潔めっちゃコワイ。純粋な双葉は消失してしまった。
『初心忘るべからず、だよ。頑張れミヒャ!!』
「おまえ、今日本語じゃない言語話した?!」
思わず、ドイツ語で叫んでしまった。隣にいるイガグリがびっくりしている。翻訳イヤホンではどういう風に聞こえたんだか。
潔に翻弄され、顔が曇るミヒャであったが、踏ん切りが付いたのかそこからミヒャの動きは変わった。
王座を守る戦いではなく、自分を進化させるための戦い。
試合の最適解を選択する行動へ変化させた。ブルーロック組へのパスも出すようになっていたし、それによりパスも貰える状況になった。ミヒャのこの変化に、ネスが明らかに狼狽えていた。
状況に即座に適用しつつ、進化した技を見せる。
ああ、すごい。俺の見たことのないあいつだ…。
皇帝衝撃波・迴。
空気を味方にマグヌス効果を利用した高速カーブシュート。
「凄まじいな…」
「すっげー!!!」
ドイツの2得点目だった。高度な技術のシュートに、圧倒されるフランスチーム。
薄っすらと”クソ超英雄”と潔が言っているのが聞こえた。
ネスは絶望顔しているし、またミヒャは潔と何かバチバチに話し合ってる。互いにとても目がギラついていて、もっと高みを目指しているんだなと感じさせるものがあった。
これに触発されたのか、凛はより凶暴的な動きを見せる。凛はベロ凛にフォームチェンジした。凶暴でファウルスレスレのプレーを続けるが、ゴール手前の絶対に決まるであろうシュートの直前、立ち止まってシャルルへパスを回した。
「一緒に死ねるヤツ集合」
…本当に大丈夫かあいつ。ある種の舐めプでもあるが、試合がぬりぃと感じたのかもしれない。結局そのまま凛が得点を決めた。鼻血が出ているようだけど大丈夫かな。
急にロキが凛の胸倉を掴み上げたと思ったら、凛のことを褒め倒している。
ロキは凛に触発されてやりたくなっちゃったらしい。ということで、指導者のロキ、ノアがINする。ついでにイガグリも。相手の勢いを削ぐマリーシアとして使うのだろう。
早速、ロキの神速でブチ抜かれて凛にウィークポイントにまで到達されるが、イガグリのマリーシアによって防がれる。
ノア自身もやる気満々のようで、自分を脅かす存在を作り、自分の進化のために使う。そのために、ミヒャを押し上げる。
何処までも自分の進化にしか興味のないノアであるが、ミヒャが魅力的な才能を持つ選手なのは滅茶苦茶同意だ。
時光のファウルにより得たバスタードミュンヘンのFKでは、皇帝衝撃波・廻が炸裂するが、神速のロキに防がれる。
「早いね~」
「ああ、どうやったらあの領域に辿り着けるか…」
イガグリが出て行ったことで、ベンチにはブルーロック組は俺と雪宮だけだった。イガグリがベンチで騒いでいないのが、なんというか新鮮だった。イガグリだが早速マリーシアを成功させていた。
ロキの瞬足に振り回されるこの状況だが、ノアやイガグリのマリーシアでなんとか持ちこたえてはいるが、マリーシアはそのうち相手も対策してきてしまうだろう。
『どこまでクソ不平等なんだよクソ神ぉッ!!!』
ミヒャが叫んでいる声がここまで聞こえてくる。潔はミヒャが勝利へ貢献する動きに変えたことで、自身も少し動きを変えたようだ。ミヒャへ同調するような立ち回りへ変えた。潔とミヒャの協力により、凛のシュートを阻止する。ここに来て協力プレーが見られて嬉しい。潔の変化の様子にミヒャも気が付いているようで、かつての冷静な表情に戻っていた。
ここで指導者ストライカーは3分経ったということで交代となる。ロキはちょっと残念そうな表情で煽ってきてはいたが、それに潔が食いつく。
「たまたま足早く生まれただけの傲慢野郎が」
「?!」
『その辺にしとけ潔世一』
潔、とんでもないこと言うな。この発言に流石にミヒャも驚いている。これが世界中に中継されていることもあってか、流石にノアが咎めるが、潔がそんなことで止まるはずもなく。今度はノアに向けて挑発を続ける。
「次のW杯は、俺のもんだ」
『ほぅ、楽しみにしているぞ。潔世一』
相変わらず感情の読めない顔で返すノアであった。
☆
【Side:・・・・】
『血迷ったか世一…俺は…お前が殺したい相手だろ?』
「関係ねぇよ、理解ってるんだろお前も?このままじゃ天才には勝てないってコト」
利害の一致。一点限りの悪魔の契約。秀才が天才を超えるために潔とカイザーは己をゴールへとつなげるマシーンと化す契約をする。
指導者が抜ける穴には、國神が入った。
潔とカイザーは動きを連動させ、相手の包囲陣を突破していく。ここに来てついにバスタードミュンヘンチーム全体が連動し始めた。
それでも、フランスチームも必死に防御していく。士道と凛も手を組み、相手も全体が連動した動きを見せてくる。
相手にマリーシアが適応され通用しなくなってしまったことで、指導者によってイガグリOUT雪宮INで試合は再開された。
互いに熱い攻防を繰り広げているが、雪宮が入ったことでより一層攻撃手になるドイツチーム。
全体に連動できないネスがボールを取りこぼす。ネスは、自分がサッカーをする理由は、カイザーを世界一にするためだけでしかないとカイザーに言う。
『俺と世一の革新に、思考停止の保守豚野郎はいらない』
カイザーの言葉によってネスの表情が曇るが、試合は再開される。ドイツチームの猛攻に、フランスチームも更に攻撃主体の動きに出る。凛がゴールへ迫ってくるが、そこへカイザーもやって来る。
『身体暴力なら ガキの頃から英才教育受けてんだわ』
これまで見せてこなかったフィジカルの強さを生かし、カイザーは凛のシュートを防ぐ。
(自分の嫌でしかなかったクソみたいな過去が、不思議と意味を持つ。肯定される────)
チーム全体が、覚醒していく。それでも、思考がリンクした潔とカイザーの領域に到達できる者はいなかった。
(さよなら…カイザーと世界一を信じていた僕よ)
カイザーの事を想うことで進化したネスによって出されたパス。しかし、ゴールの為の機械になりきれなかったカイザーはその場所に現れず、その場所に現れた潔がゴールを決める。
[GOOOOOOOAL!!!
バスタードミュンヘン完全優勝だぁぁあ!!!]
3-2でドイツ・バスタードミュンヘンの勝利となった。
(全部喰われた…)
崩れ落ちるカイザー。ネスの進化を見誤ったが故だった。潔への悪意を手放してしまった自分自身のせいでもあった。
(世一とのサッカーが、クソ楽しすぎた)
崩れ落ちたカイザーの元へ、潔が歩いて寄ってくる。潔は、最終的にカイザーは感情で動いてしまったことが敗因だと冷酷に告げる。そして、契約は完了されたと言った。
「クソお疲れ様 俺の最高道化」
潔によって差し出された手は、カイザーに弾かれる。
~~~~~
[これっをもちまして新英雄対戦、全試合終了となります!そして只今より、年棒ランキング最終発表を行います!!]
最終ランキングの発表が行われる。凛と潔が同率1位の2億4千万となった。今回でドイツチームやフランスチームはランキング上位に食い込む形となった。
────そして、凪の脱落。
海外勢のランキングも発表され、
カイザーにレ・アールから4億、ネスにバスタードミュンヘンから1億3千万の値が付いた。
喜びと悲しみが溢れる中で、脱落者は退場していく。
[お前がいなくなるのが、さみしいって思えるようになった。玲王、お前は面倒臭がりだった俺に、光をくれた。お前と出会ってからの全部…俺の一生の『宝物』だ]
凪と玲王の別れ。潔も彼にサッカーを辞めないようにと声をかける。
進化しない者は淘汰される。厳しい環境ではあるが、確かに化学反応はあった。才能の原石はより一層輝きを増してきた。そして、これから開催されるU-20W杯でも、更に想像を凌駕する進化を見せてくれるだろうと期待させるほどだった。
「…この先も見ていたい」
☆
【Side:・・・・】
全てが終わった夜。
カイザーはトレーニングフィールドでひたすら鍛錬を積んでいた。この場所には他に誰もいない。
潔に負けはしたが、そんなことでは立ち止まって居られないと思わされたからだ。
明日早朝には青い監獄から去り、そのままドイツへ帰国する流れだ。
(君はクソなんかじゃない 血の通った人間だ
僕は僕の意思で 壊れた君に魔法をかけたい)
何十回目かのシュートの練習を終えた後、今日のフランス戦後にネスに言われた言葉を思い出した。
(血の通った人間、か…)
また、今までの自分が肯定されたような気がした。
(ネスはお前にとってきっと役に立つから。
人の温もりというやつを覚えろ。
ネスのこと大事にしてね)
カイザーは、かつてあいつに言われた言葉を思い出した。
数か月前に突如消えた。日本で開催されたエキシビションマッチの試合の動画内に、彼はいた。
(何故、お前が世一といたのかわかる気がする)
何処に行ったんだろうか。
サッカーが嫌いになってしまったのだろうか。それともチームが嫌いだった?俺はお前に追い付こうとしたこともサッカーをする原点の一つなのに。
なんで、何も告げてくれないのか。
『ケイ…どこにいるんだよ』
涙を流すカイザーのメンタルはズタボロだった。練習を終え、部屋に戻るために廊下へ出た。
「よ、ちょっと話さない?」
江戸川新一がそこにいた。
『…なんだ、煽りに来たのか、てめぇは』
「いやいや、そんな酷いことしないって」
『…じゃあなんだよ』
醜態を晒し、気持ちが落ち着かない中で、更に嘲笑いに来たのかと、イラつきながら話すカイザー。
しかしながら、彼を見ているとケイを思い出さずにはいられない、とカイザーは感じていた。
「皇帝衝撃波・迴。ここへ来て進化するお前を見て、この先のフットボールがどんどん面白くなりそうな予感というか。新たな一面が見れて本当にうれしく思う。
その勢いで、世界に不可能を啓示する存在になってよ」
普段、全く表情が動かない江戸川はそう笑顔で話した。
あまりにもその笑顔の面影が、彼と瓜二つだったのだ。
『…ケイ…?』
『…うん、久しぶり、ミヒャ』
姿形は若干違えど、間違いなく有馬ケイだった。
『お前、ッどうして急にいなくなったりしたんだよ』
『ごめんね』
『…。謝るのはいい、それよりも、無事でよかった…』
『お前もな』
顔に手を当てて動揺を抑えるカイザー。久しぶりに、ちゃんと面と向かって話せたことで、多少混乱しつつも安心した気持ちがこみ上げてくる。
『ケイ、お前がここにいるということはW杯出るのか?それとも日本チームと契約を────』
『ッいや、俺はサッカーはもうできない』
『…は』
そう話すケイの表情は「無」だった。
『W杯になんて出ないし、リーグにも出ない。噂されてた移籍なんて以ての外』
『どうしてだよ!!!なんでッ…お前を満足させられなかった俺が悪かったからどうか────』
自分が停滞していたから、見限られたのではないか、そうカイザーは思った。
『いや、そういうわけじゃないんだ!…とりあえず、ミヒャ、
サッカーしない?』
~~~~~
『じゃあ3点先取の1on1ね。お互い本気でやろう』
『…これ終わったらさっきのことを詳しく話せ、絶対だ』
『勿論』
カイザーから開始したボールは、攻防の末、有馬が1点入れた。
『今のは見せたことない技だったね』
『ここに来てお前も進化したわけか。はッ、またお前に負けていられるかよッ!!』
次は有馬から開始のボールだった。
巧みなドリブル、テクニックを駆使し、ゴールへ向かう。
(何回やったと思っている…!
お前のスキは右後ろ、そこが死角で弱点だ!!)
カイザーは有馬からボールを奪い、そのままゴールを決めた。
『は!俺だってこの数か月何もしてなかったわけじゃないんだ』
『…流石』
その後も、カイザーは同じ弱点をついて、カイザーが1点決める。これで1-2だった。右後ろの弱点を狙うと、いつもはそれに反応して直ぐに体制を変えていたはずなのに。
有馬は肩で息をしている。こんなはずじゃない。もっと、いつもの巧みな技術で自分を抜かしてしまうんだろうと思っていた。
『どうした、このままじゃお前が負けることになるぞ!!!』
(何故、いつもみたいに笑わない?何故、本気を出さない?
本来のお前は何処へ行った…!!!)
そう考えながらも、カイザーは的確にゴールを決める。これで1-3でカイザーの勝利だった。
『ッし、俺の勝ちだ、ケイ』
『…そうだね』
『さっさと、洗いざらい話せ』
『言い訳でしかないんだけどさ────
俺の右目は…もう殆ど見えていない』
『…は?』
『音と嗅覚でそれとなくカバーして判断していたが、正直もう厳しい段階になっている』
『…なあおい、嘘だろ、冗談だろう。何でお前が、そんな』
『こんなところで嘘つかないよ』
狼狽えるカイザーだが、有馬は話を続ける。
有馬は指を、自身の頭に向ける。
『ここがもう駄目なんだってさ。何もしなければ死ぬ。』
『…嘘だろ。な、治すための休養だったのか』
『いや。ただ受け入れられなくて逃げていただけだったんだ。治療したとしてもサッカー生命は終わりだ。…俺は、もうフィールドに立つことはできないけれど、これからの未来を見たかった。お前を含む才能の原石達を見届けられて、本当に幸せだ』
『そんな…』
カイザーの顔が絶望に染まる。
有馬は自身の震える手を見つめる。
『サッカーがなくなったら、俺には何もなくなる。
みんなの傍に立つ資格もない。それは俺にとっては死と同義だった。
だから、このままサッカー続けて死んでいっても後悔はないと思った』
『そんなことはない…!お前には────』
『でも、お前がかつて「不可能の象徴となった俺を見届けろ」と言ったあの時。
俺ももう少し未来を見ていたいと思ったんだ。
ここに来たのも、俺が期待する面白いサッカーの未来が見れると思ったから。
まぁサッカーが鈍らないように、との思いもあったが。
俺は、お前のおかげで、未来を生きたいなって思えた。
だからありがとう、ミヒャ。俺は未来に向けて決断することができた』
『え…?』
『サッカーできなくなっちゃうけど、絶対死ぬわけじゃない。…多分。だから、これからも、面白いものを見せ続けて欲しいな』
『…ッ当たり前だ!!俺を誰だと思っている!!俺が、世界で一番クソ英雄なサッカーを見せてやるよ!!』
『…期待してる』
『お前がフィールド上で俺の隣に立っていなくとも、お前専用の特等席はずっと用意しているからな!!』
『…ありがとう、ミヒャ』
その後、有馬とカイザーはピッチの端に二人で座って、話し続けた。
初めて、カイザーと有馬は本音で話し合った。たった数か月いなかった間に何があったか、また昔話に花を咲かせた。潔のことについて話すと、カイザーは不機嫌を露にしたので、直ぐ別の話題になったが。時折笑い声もこぼれた。
『はぁ~、お前って奴は…』
『ネスのこと、もっと大切にしなよ。あんな純粋な親愛を示してくれる子なんて早々いないよ』
『親愛、か』
試合が終わってから、カイザーはネスに対しての認識を深く考えていた。親愛、その言葉が心の中で反芻していた。
その後も二人は、これまでの空白を埋めるように、語り尽くした。双方ともとても、幸せな気分だった。
「寝たか…」
暫く話した後、カイザーは疲れていたのか、話の途中で眠ってしまった。
有馬はカイザーを起こさないようにそっと立ち上がって、コート傍のドアに近寄る。
「其処にいるのはわかっているんだよ~、潔世一君」
「はッバレてた!ごめん江戸川、盗み聞きするつもりじゃ────」
「話が話だからね。良いよ。ていうかどこから聞いていた?」
「あー…、1on1しているところから、です」
「OK」
江戸川の正体が有馬だという話は潔に聞こえてしまっていた。潔は戸惑いながらも、申し訳なさそうに俯く。有馬は潔の元へ行き、話を続ける。
「本当にごめんなさい…。えと、有馬さん」
「今までと変わりない感じで良いよ、潔君」
「はい、えっと…」
「俺は潔達と出会えて良かったと思っている。君達の進化はどこまでも続く。
このサッカー界の未来がより一層面白くなると思わせられた」
「ありがとう…ございます」
「敬語使われると違和感ある…」
「す、すみません!じゃなくてごめん…」
「うん、俺は表舞台から降りるけどさ。これからももっと面白いのを見せてよ、エゴイスト」
「ああ、当たり前だ、俺を見てろよ!」
「…頼もしいな、ありがとう。あと、そこのカイザーを回収して寝室に運んでくれると助かる」
「ゲッ」
「俺は暴言反対派だからね。ミヒャに暴言吐いたのはちゃんと謝って仲直りとまではいかなくとも関係改善してほしいというか…。ミヒャが思い通りにプレーできなかったのは俺のせいもちょっとはあるし…あとイングランド戦で、スタミナ切れしたお前を運んだのはミヒャだから、さ?」
「えっ…アイツそんなことしていたのか。…うーん。えー…。マジか…」
「ミヒャの事嫌ってるのは知っているけど、頼む!この通り!」
「…わかった。うん…」
「良かった、ありがとう。…ここで潔と出会って、一緒にサッカーして成長を見届けられて楽しかった、改めてありがとう!
じゃ、潔!またね!」
「おう!俺もお前と会えて、自分が確実に成長したのもあるし、何よりも楽しかった!またな!それと、いつか一緒に遊びに行こうぜ!」
「おう!」
カイザーを担いだ潔がフィールドから去っていく。
潔が廊下の向こうに消えた頃、近くのスタッフ用ドアの隙間から除く陰があった。
『…で、盗み聞き2号さん』
『…こんなところで話しているお前が悪い』
そう言い、ノアは有馬の前に姿を現した。
『確かに』
『…まぁ何となく正体に気が付いていたが』
『あ、気が付いてらっしゃったんですね…』
『まぁその何だ、無事を確認できて嬉しい。で、お前は、どのぐらいの確率で戻ってこられるんだ』
『現状99%無理です。…奇跡中の奇跡でワンチャン復帰できるかもってところです』
『…そうか。俺は無責任で酷なことを言うが、お前は1%を掴んで戻ってくる男だと信じている』
『…まぁやれるだけのことはします。たとえ何年、何十年経ったとしても…』
『ああ。…お前ならやれる。再びこのサッカー界で脅威的な存在になり得ると確信している』
『結局は他者の才能に脅かされて進化したい自分のため…相変わらずですね。ノアがこれから先もどのチームだろうとしても、活躍していることを期待しています。…あ、でも無茶はしないでください』
『当然だ…待ってるぞ』
☆
管理者棟にて。
「まだ起きているとは思わなかった…」
「あ?俺の聖なる時間(カップ麺)を邪魔するとは────って有馬か」
絵心のいる管理棟へ有馬は出向いていた。絵心は深夜にも拘らずカップ麺を食べていた。
「あの、俺。決めたからには直ぐ行動しようかと思って。このまま直ぐに表舞台から姿を消します」
「そうか。…ま、さっきの盛大なネタバレは流石にJFUにストップかけたが。…大変だったケド」
「ありがとうございます。今はネオエゴイストの結果で盛り上がっているので…時期が空いたら流してもらう形にしていただけないかなと…」
「わかった。俺から伝えておこう」
「ありがとうございました。色々と手間かけさせてもらって。絵心さん、俺はここで色んな未来を見ることができた」
「面白かっただろう、才能の原石共はこれからも進化していく。…それに比べて、俺も引退した身だから言うが、この先暗い未来しか待っていないこともある」
「はい」
「ま、そういう時は周りに頼れってことだ。お前にとってはカイザーとかノア、潔がな」
「そうですね。俺の事結構思っていてくれて安心しました。…あと、俺は絵心さんにもまた会えたらなと思います」
「…ああ」
「俺はW杯優勝したBLメンバーに囲まれて祝福される絵心さんが見てみたいです。
お互い健康に気を付けられると良いですね」
「…お前ってやつは」
絵心はクスリと笑い飛ばしたが、確かに、その未来を見てみたいと思った。
有馬は絵心に背を向け、出口へ移動する。
「では、また。
青い監獄、ありがとうございました」
☆