深淵より這い出した者 作:観測者A
「隊員が失踪した?」
フィールドワークチーム、その隊員の1人。
魔物を研究する、『ペルフェク研究室』とも連携をしているチームであり、その予算はかなりの金額だった。
フィールドワークチームは実地調査を主に担う部隊であり、ペルフェクの活動領域内のみだが民間軍事会社を経営しているため準軍事組織と言ってもいい規模だ。
しかし、その隊員は本格的練兵がされている護衛チームなどとは違い、調査チームの一員であった為に銃を持っていない。
民間軍事会社を現地で経営する許可が、フィールドワークチームに出されているのはバックについている『国家』によるものだ。国際的同意によって魔物研究所は進捗を共有する監査命令が相互に発信でき、お互いの研究成果を『共有』することとなる。
だからこそ、民間軍事会社を保有することで軍需品をそのまま流して国としても型落ち品を安全に管理できる所に落とせる上に、魔物研究という素晴らしい成果を齎すことができる。
PMC……民間軍事会社というものは、装備品が普通はかなりの劣化品になる。もしも国の軍需品をそのまま流すという、そんなことができるならば国境付近に民間軍事会社が動いただけで開戦準備かと思われるし、外交的な敗北を喫することになりかねない。
国家の主権が働くのはあくまでも国境線の内側であり、外側にたとえ1歩でも踏み出したのならばそのPMCは瞬間的に無許可での越境と判断され、射殺の憂い目に合ってしまうことだろう。
民間軍事会社の経営許可とはそれほどまでに問題点を量産するような極めて異例なことで、魔物に対する火力不足が従来の問題としてあることを把握した国家が用いる回答としては50点だ。
しかし、もしも新型の軍需品を流すとそれよりも大きな問題が発生するから"民間"の軍事会社に旧型の保管するだけ費用がかかる様な物を流すのだ。
もしも責任問題になったら……
民間軍事会社の経営許可を与えた魔物研究長官は更迭の末に国際的批判を一挙に浴びることとなる。
しかし、これは長官職1つが負えるような裁量ではないので実際には複数の長官が利害一致のために軍需品を流すことを承諾した。
外交的爆弾は、着火されていても爆発するまでは爆弾ではない。
しかし、もはや爆発するまでは脅威ではないという論は使えない。なぜなら、国の軍需品を旧型とはいえ多額の資金援助と共にフィールドワークチームに与え、PMCにも与えてしまったからだ。
民間軍事会社が勝手にやったこと……という言い訳は使えない。ならば、どうするかという回答は、力技ながらにシンプルなものだ。
『対魔物用の緊急的措置』 という名目が使われた。
宣戦布告を招きかねない、その驚くべき"横流し的な供与"はどう考えても明らかに国際的同意を崩壊させるようなものだ。
しかしこの名目を使えばどうか?
一時的なものであり、作戦後に武装は溶解されるとした上での武装の供与。
逆に言えば一時的という前提が根本にあり、その間に国際的組織化がどんどん進んでいるフィールドワークチームは国内法が通じる範囲から飛び出す。
それゆえ、今のうちにしかできない戦略である。
国際魔物連盟の永世加入国である国は権利が非常に大きい。それはつまり、活動領域を国内外に拡大できるということ。
通常兵装のみ、短期間、使ったら武装として使えない状態にする……このような制約を国は民間軍事会社に要求した。
魔物の研究というのは多数の利権が渦巻く。
それは、たった一人の救出という任務を遂行するのに、自国内であっても連盟の国々と調整を図らなければいけないほどに。
"エッグマシン"は世界の食糧危機を解決した。その中身は魔物による技術だが、一日に何百万もの卵を人工的に生産することができた。
世界のあらゆる国家はエッグマシンのような魔物が齎す『魔法』を求めている。
食糧安全保障を果たすための『相互自助活動』という名目は消え去り、食料輸入が細くなっていき……最終的には食料自給率が高い国ほど困ることとなった。
なぜなら鶏よりエッグマシンを使うほうがいいからだ。
肉の方に特化するにも卵を産む方向性にシフトしている鶏というのは悲しいほどに無力。
第2のエッグマシンとなりえる技術、その源となる魔物を探すために国際的同意が結ばれるほどだ。
資本主義経済の社会を席巻し、畜産業界という不動の地位なはずの1次産業が揺らいだことは人々の常識を大きく変えた。
ベラトリア共和国は東西に分裂し、社会主義経済のベラトリアと資本主義経済のベラトリアが発生した。
国民は東西に分断され、領土問題による内線に次ぐ内戦でベラトリアは他国の物資の引き入れ……国際的組織である『共和条約機構』に多額の資金を支払い、エッグマシンの発見国でありながら最も危機的な国家となった。
エッグマシンが齎す影響は極めて広範で、東西のベラトリア政府は共通してエッグマシンの権利を主張している。
このように、ベラトリアの例を見ても魔物技術は明らかに国際的管理が必要だ。
東西のベラトリアはお互いに膠着状態であり、極めて劣勢にも優勢にもならない。
原因としては戦力差の拮抗、そしてそもそもの参戦意欲に国内外の乖離が著しい。
厭戦気分で興和したがっているのにお互い、利権を手に入れたいから片方が有利な興和条件を探りに探る。
「そんな……508護衛チームは解雇だな。かわいそうに。」
「511護衛チームに配属が変えられるかな?」
「フィールドワークチームの安全性が確保されていなかったなんて、大問題じゃないか」
フィールドワークチームと言うのはとても大変だ。なぜなら基礎研究の元となるデータを持ち帰るのは彼らであり、全てのチームはフィールドワークチームの元から生まれていると言っても過言ではない。
無論、その調査はどのような生態なのかを解明したりする研究チーム、そしてその研究から関連性のある魔物をピックアップして生物相や食物連鎖を把握する分類チーム……
このように連なって有効活用されていく。
得意分野を活かすために分業されているものの、データの収集の時に現地で動くのは……護衛チームとフィールドワークチームの2つの大まかな種類。
あとは国際的組織に任せて現地民の合意を取ったり、大規模な輸送トラックの越境、そして食料に検疫やら何やらという措置を噛ませてようやく補給ができるようになる。
西ベラトリアの現地組織と、兼ね合いが悪くなって国外の内政干渉勢力とフィルターされたこともあって魔物研究は遅々として進まない。
フィールドワークチーム……イルフィンスキー共同魔物研究条約によりその活動領域は規定されており、西ベラトリアが最深部に立ち入り禁止を命令している以上は別の場所に行くしかない。
だが、西ベラトリアの地域に存在する『大縦穴』、グレートピッチウォールは素晴らしい。
魔物が多種多様に存在していて、最低到達地点こと暫定最深部の記録は未だに塗り替え続けられている。
だからこそ西ベラトリアでの活動を許可してもらうのに大量の金銭を支払い、魔物研究に各国が勤しむ。
しかし東ベラトリアとの国境線に存在する場所でもあるので激化している内戦で深部に設置した通路が壊れないかが心配だ。
たびたび内部で横穴が見つかり、そこからさらに深い縦穴が発見されるというのを繰り返しているこのグレートピッチウォールはどれほど異例の規模か。
ああ、できることならあと3日ほど失踪したままでいて欲しい。しかし水没領域もあるし、隊員が死ぬまであと7日ほどだろうか。
リシカー・エピリオスは現地の魔物研究組織から採用した現地隊員だし、ここで失うのは惜しいけれども仕方がない。
どうにか行方不明になっていて欲しいが、これで帰ってきたらとんでもなく厄介なことになるだろう。
PMC内部でも現地組織との癒着が問題になっているし、フィールドワークチームの監査が、より強くなるかもしれない。
『エッグマシン』
卵が定期的に出現する。実験により、妊婦や子供、そして乳幼児に摂取させた場合で顕著な差は存在しないが、高タンパク質なために出現した卵は1日の摂取量が定められている。
暫定広範脅威度 N/A
死亡者は存在しないため脅威判定はしない。
だが、社会的な脅威となると別になるというのは極めて自然なことであるので武力判定の欄がこうなることは許して欲しい。決して社会的脅威がないと言うことでは無いのだ。